沈黙の春

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陰りゆく日本の電子関連企業

2012-08-21 08:51:49 | 金融、経済

【東京】駅前の一角を占領する大きな8階建ての家電量販店ビックカメラの1階は日本の電子機器業界にとって“グラウンドゼロ”だ。

 ほとんどが日本ブランドの薄型テレビはフロアの北端まで長い売り場を占める。

そこは最も売れ筋の商品が陳列される場所だ。

だが最近、販売の低迷を背景に、テレビの列は2階の狭苦しい売り場へ追いやられてしまった。

数百にも及ぶ高機能携帯電話(スマートフォン=スマホ)のアクセサリー類に場所を明け渡すためだ。

そのスマホというのはつまり、日本製ではない米アップルAAPL+2.01%のiPhone(アイフォーン)だ。

 ビックカメラの決断は日本のテクノロジー産業に何が起こったのかを示している。

かつては強大な力を持っていた電子関連コングロマリットは今、カヤの外から中を覗いている。

どの企業もテレビに命運をかけ、スマホの波をみすみす取り逃がしてしまったからだ。

 スマホは今や民生向け電子機器部門のセンターステージにいる。デジタルカメラや携帯ゲーム機、その他の日本の牙城だった電子機器類の売り上げの伸びを揺さぶるだけでなく、これらの電子機器の売り上げ自体を食っている。

 今日、アップルと韓国のサムスン電子KR:005930-0.93%は過去最高水準の業績を上げ、調査会社のストラテジー・アナリティクスによると、両社合計で第1四半期の世界のスマホ出荷数の実に54%を占めるに至っている。

 一方、ソニーJP:6758+2.16%、パナソニックJP:6752+3.14%、シャープJP:6753-0.57%、富士通JP:6702+1.25%ほか日本のメーカーを合計した占有率は8%だ。

 追い上げを図るため、日本企業はそれぞれ野心の度合いの違いこそあれ、スマホ攻勢にこれまで以上の力を入れている。

 スウェーデンの通信機器大手エリクソンとの合弁がうまくいかず、過去10年の間、市場占有率を上げることができなかったソニーは日本ブランドのなかで最も積極的に動いている。エリクソンとの合弁を解消したソニーの平井一夫最高経営責任者(CEO)はスマホを事業の柱にすえることを宣言した。

 パナソニック、富士通、シャープ――国内の電話機メーカー大手3社――は「フィーチャー・フォン」と呼ばれていた初期の段階でスマホ事業から後退していたため、控えめな再参入を図ろうとしている。

 だが本格的な世界進出は容易ではない。絶え間ないイノベーションが要求される競争の激しい産業であればなおさらだ。

 パナソニックの河井英明常務は、スマホについて「国内・海外ともに苦戦している」と話す。

 業界の外からはスマホという新しいトレンドを見逃した多くの要因を指摘する声が聞かれる。例えば、国内市場に焦点を絞りすぎた、大きな状況の変化を受け入れる融通さに欠けしかも遅い、消費者の好みを読み違えた、ハードウエアの優位にあぐらをかきすぎた、といった声だ。

 1990年代から出回り始めた日本の携帯電話はハードウエア面の技術革新が詰まった技術の奇跡だった。2000年にシャープが携帯電話にカメラをつけたのは世界初のことだった。

 アップルがiPhoneを打ち出す1年前の2006年までに、日本の消費者は携帯電話でテレビ放送を見ることができるようになった。

 しかしこれらすべての優位性にもかかわらず、日本のメーカーはフィンランドのノキアFI:NOK1V+0.09%および米モトローラと海外市場で渡り合うことに苦しんだ。日本企業は90年代後半から2000年代前半にかけて、日本でのみ有効な通信システムのもとに大量の携帯電話を国内市場に繰り出したからだ。海外市場で携帯電話を売るためには、海外の通信システムで使えるものに変える必要があった。

 市場に出遅れた日本メーカーは海外の通信会社と組んだ足場固めに苦しんだ。一方、韓国のサムスンは世界中のネットワーク・オペレーターと関係を構築し、海外市場に合致した製品を素早く提供した。日本のメーカーは保護された国内市場で利益を得ていたため、海外への事業拡大はリスキーだと見られていたのだ。

 この国内重視の企業精神により、日本の携帯電話は「ガラパゴス」と呼ばれるに至った。チャールズ・ダーウィンが「進化論」の着想を得たガラパゴス諸島の地名にちなんだものだ。ガラパゴス諸島には他では見られない独自に進化した種が生息しているのだ。

 日本で最も人気のあるフィーチャー・フォンはたいてい長くて薄い折りたたみ式のものだ。それらは日本市場独特の機能を持っている。例えば、電子マネーや定期券、赤外線通信といった機能だ。

 ところが2007年のiPhoneの登場がすべてを変えた。

 世界中がiPhoneを正しく――世の中を変える商品として――理解したが、日本メーカーの幹部らは自分たちの携帯電話はすでに十分「スマート」だとして取り合わなかった。

 ソフトバンクJP:9984-2.33%がiPhoneを発売し始めた数週間後の2008年7月、KDDIJP:9433+0.89%の小野寺正代表取締役会長は「iPhoneだけで日本の顧客は満足するかといえばそうではない」と発言した。その3年後、KDDIは新しい経営陣のもとでiPhoneを売り出し、今では同社の稼ぎ頭になっている。

 東京本拠のコンサルティング会社ローランド・バーガーのパートナー、大野隆司氏は日本企業の出遅れを「消費者のニーズを読み違った」ためと分析したうえで、「一番根本には(日本企業は)世界を見ていなかった」と話す。

 東京本拠の市場調査会社MMリサーチ・インスティテュートによると、日本で新たに出荷される携帯電話の56.6%をスマホが占めている。アップルとサムスンの携帯電話による昨年度の日本市場占有率は20%を超えた。わずか5年前、日本で販売される外国ブランドの携帯電話はほとんどなかった。

 アップルは昨年度、日本で最も売れたスマホメーカーだ。サムスンは日本の国内市場で上位5位内に食い込んだ。

 日本のメーカーがこの新しいトレンドにやっと乗じ始めたころ――グーグルGOOG-0.14%のアンドロイドを搭載した日本のスマホが初めて国内市場に登場したのは2010年だった――サムスンはすでに欧米市場で最上級モデルのギャラクシーSを含む幅広いモデルを投入していた。

 自国の市場で隅に追いやられることになったメーカーは他社と事業を統合し、改めて海外市場へ参入する以外、選択肢はなかった。

 NECと日立製作所、カシオ計算機は2010年、携帯電話分野で事業統合し合弁事業として運営することで合意した。事業の大部分はNECが所有する。また同年、東芝は富士通に携帯電話事業を譲渡した。また今年2月、ソニーはソニー・エリクソンを完全子会社化し、業績不振に陥っているスマホ事業を吸収した。

 しかし苦しい状況は続く。直近の四半期で富士通、NEC、シャープ、ソニー、そしてパナソニックはすべて携帯電話部門で赤字を計上した。

 さらに言えば、ソニー、パナソニック、シャープの3社はすでに悪化しているバランスシートを抱えた状態では新たな競争に耐えられず、テレビ事業から後退している。

 テレビはかつて電子関連企業の業績にとって非常に重要であったため、「リビングルームの王様」といわれていた。

 パナソニックの中村邦夫前会長は先月、日本経済新聞とのインタビューで「テレビの黄金期はもう終わって、もはやテレビは家電の王様になることはない」と述べた。

 パナソニックは最近、防水タイプの新しいスマホ「ELUGA(エルーガ)」をイタリアとドイツの両市場に投入した。今年度、欧州市場で150万台の出荷を見込んでいる。

 衝撃に強い「G’zOne(ジーズワン)」を米国の携帯電話事業者ベライゾンワイヤレス向けに販売しているNECカシオは今年度、海外で約200万台を出荷する計画だ。これは合計目標500万台の約40%にあたる。

 シャープは中国市場に焦点を絞っている。同社の出荷目標は全体で770万台だが、このうちの何台が海外へ出荷される予定かについては言及していない。一方、富士通は年内にも海外の通信事業者と契約したい意向だ。

 ソニーは海外でまとまった台数の携帯電話を販売した。今年度は新モデルを投入する予定でもあり、同社は世界中で3400万台のスマホの出荷を目指している。これはソニーに続く日本のライバル4社を合計した目標台数を超えている。ソニーはビデオゲームといったエンターテイメント部門での優位性を活かしたユニークな新モデルを投入する計画だ。

 NTTドコモの加藤薫社長は同社の方針転換を示すかのように、サムスン製ギャラクシーのスマホを手に先月、記者の前に現れた。

 日本最大の通信業者でNTTの携帯部門を率いる社長が韓国製のスマホを手に現れるなど、3年前なら考えられないことだった。

 加藤氏は「結果的にサムスンのギャラクシーはよく売れている。それだけの魅力がある」と話す。

 加藤氏は、ギャラクシーを使う理由として、ドコモの第4世代移動通信(4G)に対応する今夏モデルの最初の携帯であることを挙げる。最終的には富士通やソニーのモデルへ変える可能性もあると加藤氏は言う。

 「急にサムスンの宣伝マンになったわけではないが、画面が大きくEL(有機EL)できれいだ」としたうえで、加藤氏は「非常に改善されてきている」と述べた。

 
 


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