沈黙の春

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米MIT原子力科学・工学学部長に聞く「国民の自信回復なしに再稼働すべきではない」

2012-06-23 15:54:19 | 原発関連

http://jp.wsj.com/Japan/node_465590?mod=Right_Column

日本時間6月8日、関西電力大飯原子力発電所3号機と4号機(福井県おおい町)の再稼働に反対し、永田町の総理大臣官邸前で何千人もの市民がデモを行うなど、反原発の声もいまだに強いなか、16日、野田佳彦首相は、「国民の生活を守る」ため、大飯原発の再稼働を正式に決めた。その前日には、3000人とも1万人とも言われる人たちが官邸前に再稼働反対を訴えて集まったと、ネット上で報じられている。

 決定を伝える欧米メディアの報道も多く、野田首相が根強い反対の声を押し切って再稼働を決断したことで、今後、支持率にさらなる影響が出かねないといった慎重な論調も目立つ。ツイッターなどの反響を見ても、米国の世論が、日本の原発再稼働の行方に大きな関心を持っているのが分かる。

 はたして米国の識者は、再稼働問題をどう見ているのか。また、廃炉に向けて作業が進められている東京電力福島第1原子力発電所の現況については、どのような認識を持っているのか。再稼働の正式決定直前に米東海岸のマサチューセッツ工科大学(MIT)を訪ね、化石燃料による気候変動の観点などから原発の利点を唱えるMIT原子力科学・工学部長のリチャード・レスター教授に話を聞いた。

――近々辞任する予定のヤツコ米原子力規制委員会(NRC)委員長は6月12日、米国内での講演で日本の原発再稼働について触れ、国民の信頼と有用な規制制度が必要だと示唆した。日本国内での再稼働反対派の声も、依然として根強い。

MIT原子力科学・工学部のリチャード・K・レスター学部長

レスター教授 (再稼働について)考慮すべきことは2つある。まず1つ目は、原子炉が、地震など、一定のリスクに耐えられるかどうかという技術的な側面だ。そして2つ目は、規制当局が原子炉の安全性について正当で独立した判断を下せるという自信を国民が持てるかどうか、つまり、制度上の問題である。ヤツコ委員長の考えは、技術的な面よりも制度的な観点を重視しているように思われる。日本の人々にとって、制度上の論点は明らかに合理的なものだ。

 規制当局は、制度的に有用で、独立し、信頼に足る判断を下すことができるのか――。大飯原発について言えば、技術的な耐久性よりも、そうした点のほうがより大きく、複雑な問題に思える。

――その点をクリアするまでは再稼働すべきでないと?

レスター教授 すべきではないと思う。日本国民、特に原発周辺に住む地元の人たちが、規制当局の効果的な機能性について何がしかの自信を持つことが、再稼働の必要条件だ。すべての問題が解決されることが再稼働の前提とは思わない。とはいえ、規制当局が安全性について独立した判断に達することができる、という自信を日本の人たちが持つことは必須だ。発電業者(である東電)や首相に頼ることなどできない。首相は原子力エンジニアではないし、(原発について)何も分かっていない。頼るべきは、判断を下す能力がある組織だ。国民を十分に納得させることができるような、安全性に関する独立した評価が不可欠な条件である。

――第1原発の現況についてはどうか。4号機の使用済み核燃料プールの脆弱性を指摘する声が大きくなるなか、先月、細野豪志原発事故担当相は4号機の原子炉建屋内を視察し、建屋は東日本大震災と同規模の地震にも耐えられると言明した。

レスター教授 第1原発は、安定はしているものの、依然として重大なリスクを伴っている。何号機が最もリスクが高いかは言えないが、安定しているからといって、リスクがないわけではない。

 (4号機の)使用済み核燃料プールが余震に耐えられるかどうか、独立機関による調査を行うことは非常に重要だ。調査が済んだら、あとは、どれだけ早く燃料プールを空にし、取り出した燃料棒をドライキャスク(大型容器)に移すかどうかだが、答えは、独立機関によるプールの強度の評価や調査結果しだいだ。現時点で東電が安全だと請け負っても、十分とは思えない。

――教授は、使用済み核燃料や低レベル放射性廃棄物などの管理に関する授業も担当されている。日本では、米国で何十年も前に使われていた金属キャスクが今も用いられており、(使用済み燃料棒などの保管用に)米国で使われている割安なコンクリートキャスクは使用されていないと聞く。

レスター教授 金属は、肝心の放射性物質を遮へいする十分な機能を持っていないはずだが……。東電のウェブサイトに載っている写真を見ると、第1原発では、確かにコンクリートは使われておらず、ホウ素入り樹脂で覆われた金属キャスクが使われているようだ。樹脂には、(原子核を形づくる素粒子の)中性子線を遮へいする機能がある。金属キャスク外面の線量率を許容レベルにまで下げるのが目的だろう。

――コンクリートでなくても、十分に遮へいされるものなのか。

レスター教授 少なくとも米国では、使用済み燃料を入れる固定収納容器としてはコンクリートキャスクが使われ、原発敷地内に保管されている。だが、日本では、明らかに事情が違うようだ。原則的には、異なる素材を使って遮へいすることは可能だが、中性子やガンマ線、エックス線をどれだけ吸収できるかで、効果的な遮へい素材かどうかが決まる。

 最終的に、使用済み燃料はどこかに埋めることになるが、(それまでの間)コンクリートキャスクには、数十年以上、使用済み燃料を安全に保管できる能力がある。使用済み燃料は長期にわたって保管されることになり、それにはコンクリート製ドライキャスクがより適しているということに、大半の人たちは同意すると思う。

――東京都などは、可燃ガレキなどの受け入れを決め、一定のベクレル以下のガレキを焼却するという。だが、放射性物質が空中に放出されることなどへの懸念から、反対する市民も多い。

レスター教授 そもそも可燃ガレキ自体がそれほどあるとは思えないが。不燃性の低レベル廃棄物は、地中に埋設して封じ込める。ドラム缶やコンクリート・トレンチ(立て抗)なら、放射性核種が地表水や飲料水に浸出するのを防ぐための十分な防御効果を有している。

 だが、第1原発で多いと思われる高レベル放射性廃棄物は、基本的に最終貯蔵所を造って、そこに入れることになるだろう。放射性廃棄物の処理方法は、汚染度によってまちまちであり、汚染レベルは非常に幅広いため、これという決まったメソッドはない。非常に複雑で時間がかかるプロセスだ。

――教授は、第1原発に関する本紙への寄稿(2011年4月6日付)で、「スリーマイルやチェルノブイリの事故の後、最も優れた原子核科学者・技術者たちがこの分野を後にした」と書いている。東日本大震災後、同じことが起こっているか。

レスター教授 そうであってほしくない。優秀な技術者や科学者に対する最先端の原子力技術開発のニーズは、非常に大きい。そうした有能な若手専門家が研究を続け、将来、より安全で経済的な形で電力が供給できればいいと願っている。MITについて言えば、今も原子力の勉強を希望する学生は大勢いる。人数は、以前とほとんど変わらない。フクシマは、原子力に対する米国民の見方にネガティブな影響を及ぼしたが、工学者や科学者たちは、世論には必ずしも影響されないものだ。

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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト  東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などにエディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・トリノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。現在、『週刊エコノミスト』 『週刊東洋経済』 『プレジデント』『ニューズウィーク日本版』などに寄稿。『週刊新潮』、NHKなどの取材、ラジオの時事番組への出演、日本語の著書(ルポ)や英文記事の 執筆、経済関連書籍の翻訳にも携わるかたわら、日米での講演も行う。翻訳書に『私たちは“99%”だ――ドキュメント、ウォール街を占拠せよ』、共訳書に 『プレニテュード――新しい<豊かさ>の経済学』『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』(いずれも岩波書店刊)など。マンハッタン在住。 http://www.misakohida.com



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