水に浮かび物思う

カリフォルニアの海でカヤックに出会う。キャンプやハイキングの話も。

Big Basinでキャンプ その2

2007年03月15日 | キャンプ

翌朝。ぼくは6時半にシュラフを出た。寒さで何度か起きたような、あまり寝てないよーな気もするのだけれど、まーいーや。雨でフライが濡れているたけれど、テントの中は大丈夫だった。新しいテントは水をはじいていいなぁ。雨上がりの早朝は美しい。青い鳥が2羽やってきてぼくを楽しませてくれた。

荷物を少しずつ片付けながら、朝食を食べる。昨日たいたご飯の残りとたくあん。ご飯は冷たくなってしまっているけれど、イヤこれがたくあんと合うんだなあ。今日はこれからたくさん歩くつもりだ。朝食はしっかり摂ろう。食後にチョコレートビスケットとコーヒー。ゆっくりと森が明るくなってくる。針葉樹林で迎える朝は最高に気持ちがいい。雨上がりの湿気を含んだ冷気のなかで飲むコーヒーはまたよかった(インスタントだけど)。ぼくは二杯目のコーヒーをいれ、それを静かに飲んだ。

テントが濡れてしまっているので、しばし考えた後、泥を払って車の中に広げておくことにした。こうすればハイキングをしている間に乾いてくれるだろう。

全ての準備を終えたぼくは、車をレンジャーステーション脇の駐車場に止めてトレイルを歩き出した。目指すはここから一番近い滝。往復で1時間半の距離である。こんな早朝である。だれもいない。昨夜の雨に濡れてきらきら光るひっそりとした森をぼくは歩いた。レッドウッドの巨木が美しい。

しばらく歩いて目的の滝に到着。はじけとんだ水滴で滝には虹ができていた。写真を撮って一休み。

ここ北部カリフォルニアでは冬は雨期になっていて、森や湖はその間に水をたくわえる。春、夏、秋はとんと雨がなくなり、湿度もぐんと下がり、いわゆるカリフォルニアらしい陽気が続く。一年の半分は枯れている川や湖も多い。逆に言えば、春先は一年でももっとも瑞々しく美しい季節である。あと、この時期だとまだまだ人が少ないのもいい。3月から5月にかけてのカリフォルニアはほんとにいい。

ぼくはトレイルを引き返し、車を止めておいたレンジャーステーションまで戻ってきた。ステーションはオープンしたところで、ぼくは中へ入ってパークの地図を買った。ちゃんとしたトポロジカルマップで3ドルだった。安い。地図を持たないで歩く人も中にはいるけれど、ぼくはいつも地図を持ってトレイルに入る。そのほうが安全だし楽しい。レンジャーステーションには広いラウンジがあって、暖炉の中では薪がぱちぱちと燃えていた。ぼくは暖炉の前のソファに座って、マップを眺め、よさそうなループを探した。なんといってもこのパークは広い。トレイルのトータルの距離は80マイルもあるという。ステイトパークにしてはめずらしくバックパッキングもできるとある。

ぼくは目測おおよそ6時間程度のループを歩くことにした。食料と水と上着を車から出し、デイパックにつめてしゅっぱーつ!

レッドウッドの森が美しい。巨木に囲まれていると自分が小人のように錯覚してしまいそうだ。

レッドウッドは別名セコイアと呼ばれている。「セコイア」というのはインディアンの名前からきているのだとか。この木は常緑樹で天を目指すかのように垂直に真っ直ぐ伸びる。生殖地はカリフォルニアをはじめとしたアメリカ西海岸。現在世界で知られているもっとも背の高い木というのがこのレッドウッド。その記録を持つ木はカリフォルニアのRedwood National Parkにあるというが、イタズラを防ぐため公園中のどの木かは公表されていない。レッドウッドは天敵となる種(たとえばユーカリパスの木)が周りになければ、2000年も生きるといわれている。しかし実際には寿命をまっとうする前に強風や雷などによって倒されてしまうことの方がずっと多いように思える。そのくらい高く伸びる。古いレッドウッドの森というのはあちらこちらに根元から折れてしまった巨木がごろごろとしている。現在最も高いと認定されている木の樹高は115mで最大幅は7m。ちなみにその木は去年測定された。そこまでいかなくても60mを越す木はざらであるといわれている。90mを越す木を見つけるのも難しくはない。ニューヨークの自由の女神の身長(プラスアイスクリーム)が50m足らずということを考えれば、レッドウッドがいかに高いかが分かりやすい。ハイカーはまさにその森にあって小人である。

ここBig Basin Redwood State Parkにあるレッドウッドはコースタル・レッドウッドと呼ばれる種類。海岸近くに生殖し、海からやってくる湿気を含んだ空気の中で育つことからそういった名前になっている。レッドウッドはごく限られた標高の幅でしか育たない。あまり標高があると水を木のてっぺんまで運ぶのが大変になるからだろう、とぼくは想像する(ちがうかもしれないけど)

歴史的にはぼくが住んでいるカリフォルニアのバークレーなんかもレッドウッドの大地だったそうである。それが人によって切られて、もしくは外来種によって滅ぼされ、レッドウッドが生きられる土地がうんと減ってしまい、これではいけないと保護運動が始まったのが前世紀初頭のことだと聞く。ステイト/ナショナルパークは市民の憩いの場であるだけでなく、レッドウッドをはじめとした自然を守るガードとなっている。ぼくはこうしたレンジャーやサイエンティストやボランティアによる、人目につきにくい努力を高く評価している一人だ。もちろんこういった直接的な経済効果の望めない活動に従事してくれた政治家の人たちも本当にえらいと思う。入園料やキャンプ料金が高いと批判する向きもなかにはあるけど、ぼくはその料金が正しいことに使われるのが分かっているのでちっとも高いとは思わない。もっと高くしたっていいかもしれない。ちなみにぼくが今歩いているBig Basinはカリフォルニアで最初につくられたステイトパークである。1902年のことである。

歩き出してすぐの頃はいろいろ考え事をしたりしていたけれど、ループも後半になってくるとだんだん無心に近づいてきた。機械的に体が動いていく感じが、ぼくにボート部時代を思い出させてくれた。周囲に誰もいない場所でぼくは森と一体感を感じながら歩いた。ロングハイクが楽しいと思うようになったのはいつごろからだったろう。いや、楽しいと表現するのは、あるいは正確ではないかもしれない。幸せ感がじんわりと体中の細胞に広がっていく感じだ。

ぼくは怪我もなく無事にループを歩き終えた。今日一日で7時間半歩いた。もって行った水は全て飲んでしまった。もう少し暖かい季節だったら、今回のループはちょっと無謀だったかもしれない。体は疲れていたけれど心は軽かった。この素晴らしい世界にぼくは心から感謝した。帰りの車の中でもぼくの体に残ったレッドウッドの森の粒子が、ぼくに幸せ感を与え続けてくれた。テントについたしずくはもうすっかり乾いていた。


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