水に浮かび物思う

カリフォルニアの海でカヤックに出会う。キャンプやハイキングの話も。

秋一番、下田を漕ぐ

2009年11月02日 | キャンプ

10月の最初の週末に、伊豆は下田を訪れた。伊豆は10月から5月末までキャンプをしてもよいことになっている。いやー、いい季節になったなあ。

横浜で朝一番の踊り子号に乗り込んだ。自由席の車内はすいている。ウィスパーのはいったザックを車両の後ろ端のスペースに置き、読みかけの分厚い本を持って座席についた。ひざの上に開いた本を、爽やかな朝の光がくすぐっていく。熱海のあたりから海を眺めると、穏やかな海がきらきらと光を反射させている。海を見ると嬉しくなった。今日はきっと漕ぎ日和だ。



下田駅から下田公園まで移動。そのへんでテキパキとフネを組み、キャンプ道具をロードし出艇準備完了。穏やかな下田港にフネを浮かべた。

釣り人と漁船の邪魔にならないように慎重に漕ぎ進め、港を出る。今日は爪木崎方面に行くつもりだ。港を出るとすぐ伊豆特有の複雑な形の海岸線が視界に開ける。このあたりはロックガーデンになっていて、シーカヤックで通り抜けるのが楽しい。ぼくはこういった狭いところに入っていくのが好きで、入って行ってはフネを傷つけることを繰り返してきた。今日はほどほどにしておいた。



須崎の灯台とこじんまりとした町を左手に眺めながら通り過ぎる。海辺の街といった趣がある。そこからさらに北上。爪木崎の灯台についた。灯台のすぐ横は広い公園になっており、家族連れがBBQやキャンプを楽しんでいた。このあたりは人里はなれた場所。穴場を知る人は多いものだと感心した。今日はここでキャンプしようと思っていたのだけれど、パスすることにした。今日はどこか、小さな浜で一人寝ることにしよう。



トイレ休憩の後、再び出艇。灯台から少し戻ったところにある、行きに見つけた小さな浜にフネをあげた。荷物を取り出し、テントを張る。アルファ米に水を入れた。こうしておくと一時間後には食べられるお米になる。森のなかに道が続いていたので、てくてくと散策して時間をつぶした。このあたりは生態系が強固というかなんというか、ちょっとした密林である。伊豆は海も陸も単調ではない。

浜に戻る。今夜のご飯はアルファ米の五目御飯、魚肉ソーセージ、野菜ジュースとトレイルミックスである。コッヘルやストーブ類は持たずにきた。むろん燃料もない。こうするとずいぶん身軽になる。フォールディングカヤックとキャンプ道具を運ぶ身としては、荷物は少しでもコンパクトにしたいのだ。

おそるおそるアルファ米を口に運んだ。水で戻したアルファ米を食べるのははじめてである。一口食べてみると、これがなかなかイケる。もともとぼくは冷やメシに沢庵(たくわん)が好きなので、冷たいご飯も問題なかった。次回は漬物でも用意しよう。

夜。月明かりが綺麗だ。秋の夜空はいい。ヘッドランプの明かりで本を開いた。春江一也著『プラハの春』。1960年代、プラハに起きた社会主義の運動の話である。それは、監視や検閲の廃止、市場の開放を求める民衆の運動であった。一方それは当時の社会主義国に内在する陰の部分を明るみに出す運動でもあり、既得権益に群がる連中との対決でもあった。そしてついにこの運動は、ソ連によって社会主義に対する「反革命」と位置づけられ、軍事介入という最悪な形で押しつぶされる。「プラハの春」によって芽吹いた花は夏を謳歌することなく、古く美しいプラハの石畳とともに情け容赦のないソ連の戦車によって切り刻まれたのである。

ぼくは本を閉じた。いつの間にか星がたくさん出ていた。寒くなったのでテントにもぐりこんだ。ペットボトルに入れてきた焼酎を呑む。ヘッドランプの電池が切れ、手探りで新しい電池に換えた。再び戻った明るさに目を慣らせ、ぼくは再び本を開いた。

シタージ(東ドイツの秘密警察)に拘束された主人公がこう言い放つ。

「ベルリンの壁や西独との国境で、幾百の人命が失われています。あなた方は、人民を、同胞を、不信と猜疑(さいぎ)でしか見ていない。体制に自信がないのです。私は、管理と監視そして抑圧のための官僚機構としての『シタージ』の存在を憎悪します」

シュラフにもぐりこみ、ヘッドランプを切った。プラハで起きた民衆の運動について思いを馳せるまもなく、ぼくは眠りに落ちた。


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翌朝。

久しぶりのキャンプツーリングで体が疲れていたからか、実にたくさん寝た。朝日でテントが熱くなり、ようやく起きた。カロリーメイトとトレイルミックスを食べた。急ぐ予定などない。のんびりとすごし、十分にテントと寝袋を乾かしてパッキングし、カヤックのなかにしまった。

フネを出した。爪木の先へ向かうことにする。風は強くないが、波がだんだんざわついてきた。それも少し複雑な波だ。ひとつ大きな波がザブンとぼくとぼくのフネを洗って行ったのを機に、引き返すことを決意。

下田まで引き返し、港を通り過ぎ、海中水族館の裏の静かなスロープをお借りしてフネを挙げた。帰りは気持ちのよい水上散歩であった。途中、鯖のような魚が何匹も何匹も空中に跳ねる所にでくわした。時々跳ねる魚を見ることはあるが、あれほど多くの魚が長い時間にわたって跳ね続けているのは初めて見た。あれはなんだったんだろう。

カヤックを乾かして畳んだ。さあ、今度は陸上の散歩だ。海中水族館の前にあるアオウミガメの水槽を子供たちと一緒に眺める。カメの甲羅は肋骨が成長してできたものであるという。進化とは不思議なものである



風情のあるペリーロードをテクテク歩く。これは、ペリーと日米下田条約を締結した了仙寺まで通じる道だという。



時刻は12時前。近くのお寿司屋に入った。大きなキンメダイのお寿司をいただいた。このあたりの魚料理の店は安くてうまくて大満足なのである。伊豆でカヤックといえば西伊豆が有名だけれれど、下田のあたりだとこういう楽しみがあって、また電車でも移動できるというあたりが、ぼくにとってはうれしい。

下田駅で踊り呼号の自由席に乗った。ザックを車両の後ろに入れた。座席に座って、海を眺めながらおかしをポリポリ、ビールをプシュッとやった。陽で温まった電車の中で飲むビールはまたよかった。なるほど、電車で行けばこういう楽しみもあるのだなと思い、再び分厚い本をひざの上で開いた。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
伊豆! (カヤッカー)
2009-11-04 19:02:50
こんにちは。 ご無沙汰してます!
伊豆、キャンプシーズン開幕ですか。 これから海も空気も澄んで、人も少なくなり、好いシーズンですね。
キンメダイの寿司。 さすがに瀬戸内では食べられません。
伊豆では『マンボウ』の刺身や内蔵も食べたことがありますが、シーカヤックツーリングで楽しむ太平洋の魚料理は、関東ならではの楽しみですねえ。

これからも楽しみにしております。
Unknown (サスケ)
2009-11-05 21:12:42
こんばんは。 お久しぶりです。

マドカ浜~爪木崎は私の好きなコースです。

灯台下の島には気持ちいいプライベートビーチが有ったんですが、この前の台風で浜の砂が大量に流されてしまいました。

ちなみに私は、今は仕事で岩手県にいます。

帰るのは2月です。

カサラノは年末に納品予定です。
Re: 伊豆! (さとう)
2009-11-06 19:04:42
こんにちは!コメントありがとうございます。

うまい魚料理はシーカヤックの旅との相性がいいですね。
もともとあまり一人でレストランに行くたちではないのですが、旅先だと一人でもふらっとすし屋に入れるのだから、不思議です。

徐々に寒くなっていきますが、これからがいいシーズンですね。
場所は違えどこれからもお互いいい旅をしましょう!
Re: Unknown (さとう)
2009-11-06 19:11:59
サスケさん、こんばんは~。

ほんと、いいコースですよね。海岸線よし、アクセスよしで。
灯台下の島ですか!
「キャンプできるかな?」とチョットよぎったのですが、スルーしてしまいました。
台風で砂がなくなっちゃったんですね。残念です。
ぼくが寝た浜は逆にいろんなものが打ちあがってました・・。

岩手ですか!行ったことはありませんが、なんとなくカヤックしたらよさそうですね。
カサラノの進水式は岩手かな??