その後もぼくはCCKのクラスを取り続けた。早くカヤッキングを覚えたかったし、それに舟を持っていなかったぼくはCCKに参加するよりほかにカヤックを漕ぐ手立てがなかったのだ。ぼくはサーフゾーン、ロール、オープンコースト、そして "Tides, Currents & Rough Water"というクラスを取った。
サーフゾーンのクラスはスープゾーンやブレイクゾーンで舟を横にしたり前にしたり後ろにしたりして、ボートコントロールを学習した。クラスのおしまいにはサーフィンをやって波にもまれた。ぼくはこのクラスを二度取ったのだけど、このクラスにおけるインストラクターの熱意と緊張感はすさまじいものがあった。やはり参加者の安全に最大限の注意を払っていたのだろう。CCKのインストラクターの層は厚く、一体何人くらいいるのかちゃんと把握していないのだけれど、定期的にミーティングを開いてクラスの進め方や安全について研究しているという話だ。そしてサーフゾーンのクラスではインストラクター一人につき生徒二人という比率であった。プロの態度にこちらまで身が引き締まる思いがしたものだ。
続くオープンコーストでは、ぼくたちは沖に出て、さらにダイナミックなうねりに挑んだ。インストラクターはジョン・ラル。ツナミレンジャーとして有名な人物で、レジェンドクラスといっても過言ではないだろう。少なくともカリフォルニアのシーカヤッカーで彼の名前を知らないものはいない。彼のDVDを持っているのだけれど、はっきりいって彼のスタイルは衝撃的である。ぐちゃぐちゃの波にもまれながら岩場の間を漕いだり、レスキューしたり、舟の上を舟が通ったりと、命知らずなカヤッカー達の姿が映し出されている。唖然とする光景である。海というものはあの様に荒れ、またその中を漕ぐシーカヤッカーがいるのか!と、ぼくの体にある袋という袋が縮まる思いだった。
ジョン・ラルは、白い長髪を後ろで結び、黒の擦り切れた革ジャンをはおって我々の前に現われた。町であったら絶対に声をかけたくないタイプである。ぜったいハーレーとか乗ってそう。しかし余裕を見せつつも、彼のクラスに対する態度は真剣そのものであった。ぼくらはそのクラスで、波の頂点にあわせて岩の上を通ったり、ブレイクポイントで頭上から波をかぶったりした。とにかく何回パドルやカヤックを岩にぶつけたかわからない。とてもじゃないけど今そんなことをしたいとは思わないけれど、不思議とそのクラスを受けているときは恐怖感がなかった。また、ノースカリフォルニアの荒々しい海岸の、海から見る美しさを知ったのもこの日だったと思う。
ぼくが漕いでいる姿を見て、ジョンが「ブレントにフォワードストロークを習っただろう?」と訊いてきたのにはぼくはびっくりした。タダ者ではないと思った。さらにタダ者ではないと思ったのが、彼のカヤックだ。4m無いくらいのずんぐりしたかわいいカヤックを彼は漕いでいた。不思議な形だなあと思って話を振ってみると、カヤックの構造についていろいろ教えてくれた。短いけどキールがはっきりしていることで、トラッキングをよくしている。傾けやすく、曲がりやすい。最大幅が大きく、安定がいい。ロックガーデンでの遊びには最適である、と。彼は見事なリーンをかけ、少ないストロークでくるくるとよく曲がった。マリナーカヤックスのコースターというモデルだと教えてくれた。
ぼくがCCKで最後に取ったクラスは"Tides, Currents & Rough Water"というクラスだった。これはタイダルカレントのメカニクスとボートコントロールを学ぶクラスである。カレントが強くなる日を選んでクラスが決まるため、いつも開催しているわけではない。ラッキーにもそのクラスにもぐりこむことができた。ぼくたちはサンフランシスコからゴールデンゲートブリッジを渡ったあたりで出艇し、エンジェル・アイランドまで漕ぎ、そこからイエロー・ブラフというサーフポイントまで漕ぎ進め、そこでクレイジーなタイダルウェーブにもまれた。
タイダルカレントは強く、盛り上がった水の上でサーフィンをすることが出来た。少しでも気を抜いたら即沈である。ぼくはいまでもそのときの光景をありありと思い出すことができる。果敢に波に挑戦する人、エディーからなかなか出れない人、沈をしてあれよあれよという間に遠くへ流されていく人。ジャスティンの"This is the sea"にも出ているけど、タイダルカレントでシーカヤックサーフィンをするのって、見た目よりもかなりクレイジーである。ぼくはなんどもサーフィンに挑戦したけれど、正直にいってタイダルサーフィンはぼくの手に負えないとその時思った。一日でへとへとになった。しかしインストラクターに守られながら自分の力量が分かったのはありがたい経験だった。
ロールのクラスは2、3回取ったと思う。プールでリバーカヤックを使った。リバーカヤックでしか練習したことがなかったので、初めてシーカヤックでロールをしたときは反動がつきすぎて、二回転してしまった。けど正直ゆってぼくは上手ではないと思う。ロールの上達って、水にどれほど慣れているかが重要な気がする。水の中にいることを気持ちよいと思える人はロールが上手じゃないだろうか。ぼくは基本的には水を怖いと思っているのかもしれない。まあ、でもそんなことをゆっても始まらないので、ロールの練習はちゃんとしたいのである。
これがぼくのCCKの思い出である。CCKを通して知り合えた人たちについても思い出深いものが大きいが、記憶の中にとどめておくことにしよう。シーカヤックがどんなアクティビティなのか、どんなスキルや知識がいるのかを教えてくれたのがCCKだった。クラスは一つ一つ目的がはっきりしていて、その道のプロフェッショナルが楽しく真摯にインストラクションをしてくれた。ぼくのパドリングやレスキューやナビゲーションのレベルはまだまだ低いけれど、CCKがなかったら今頃ぼくはカヤックをやめていたか、あるいは今よりも「危険」なカヤッカーになっていた可能性もある。その意味で、彼らに対する感謝はぼくの中でたいへん大きいのである。