ニュージーランド南島の旅5日目。
ぼくとEは海辺の町、ピクトン(Picton)にいた。ここは南島の北東にあたり、クック海峡を挟んで北島に相対している。このあたりはクイーンシャーロットサウンドと言って、くねくねとした海岸線と多くの島からなる複雑な地形を形成している(ちなみにクイーンシャーロットサウンドはカナダにもあるけれど、もちろんここでゆってるのはニュージーランドのクイーンシャーロットサウンドである)。
ぼくとEはホリデイパークで得たインフォメーションをたよりに港へ向かった。クック船長も訪れたという海を見てみようということで、Beachcomberという名前のクルーズに乗ることに。
午前9:30。ぼくらはBeachcomberのカタマラン(双胴船)に乗り込んだ。サイズは小さなフェリーといったところだ。
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ぼくらを乗せたカタマランは軽快に水の上を走り出した。両岸の景色が見る見る後ろへ流れてゆく。このあたりの景色は、日本でいうなら五島列島や三重の志摩のあたりに似ているかもしれない(五島列島には行ったことないけど)。海の色はやはりどこか翡翠の色に似ていて、すこし緑がかっている。岸は森がびっしりと生い茂り、心の和む景色が続いた。
「このあたりにはたくさんの well-hidden cove(隠れた入り江)があります。そういうところには holiday home が建っています。この船はそういう閉ざされた場所に住む人のために郵便を届けることを兼ねています」
運転手の声が船内のスピーカーから聞こえてくる。ぼくらはそれを船の二階のテラスで海風を体で受けながら聞いていた。カモメが水面スレスレを滑るように飛んでいる。波はなく、日の光はまるでフルートの音色のように気持ちいい。
「ここは18世紀後半、キャプテン・ジェイムズ・クックが船でやってきて調査をしたことで有名です。南島と北島の間の海峡はクック海峡と呼ばれています。クック船長はここに100日以上も滞在しました。Ship Coveと呼ばれる場所です。我々は今そこに向かっています」
ぼくはアナウンスを聞きながらあることに気がついた。クック船長を語るとき、ニュージーランドの人たちはどこかちょっと誇らしげだ。もちろんニュージーランドの地形の調査という実質的な仕事に対する尊敬はあるだろうが、なにかそれ以上のものを感じる。思うに、その頃の大型船舶の船長というのは、一人何役もこなすある種超人的な人物だったのではないか。いうなれば優れた航海士であることはもとより、探検家であり調査長であり頼れるリーダーであったのであろう。全人格的に優れていた人物だろうと想像する。ニュージーランドの人たちの冒険好きの根っこは、もしかしたらこういう人物の冒険譚にあるのかもしれない。
船内を見ると、「いかにも!」という感じのアウトドア野郎が何人か乗っている。後で知ったのだけれど、ここには有名なトレッキングコース「Queen Charlotte Track」があり、その先端まではこうして船で向かうそうである。彼らはこれから何日かかけてコースを歩ききるのだろう。すごいなあ。
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その後、船は Ship Cove という名の浜にたどり着き、そこでぼくらを下ろした。ぼくたちは、そのクック船長が100日以上滞在したという浜を散策した。人の手があまり入っていない、穏やかで本当に美しい浜である。海は穏やかで、青々と茂る森に囲まれている。正午まで間もない陽の光が気持ちいい。森は「ジャングル」といっても通じそうなくらい多種多様な植物に満ちている。こんなところで何日か一人で過ごしてみたいものである。
再び船に乗った。帰り道では所々にある小さな波止場に船を止め、運転手が「郵便」を届けた。郵便といってもほとんどはバッグや箱に入った大きな荷物である。面白かったのが、船が波止場に近づくとどこからともなく大人や子供がわらわらと集まってくることであった(犬まで集まってきた)。ほのぼのだなあ。
かわいらしいピクトンのダウンタウンでムール貝とサーモンの昼食をし、ぼくらはこの町を後にした。昨日のワイナリーめぐり、今日のクルーズと、本当に楽しむことが出来た。ここからぼくらは西のタズマン海へ向かう。さあ行こう、ネルソンへ!
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その日の夜。ぼくとEはネルソンのとあるホテルにいた。
さっそく日本から持ってきたネットブックを無線LANに接続してニュースをチェックした。フィギュアスケートの浅田真央選手と高橋大輔選手が全日本で優勝したというニュースがトップに出ていた。二人ともオリンピックへ出場できるということだ。海外にいると日本のニュースに飢えるのである。いいニュースで大変よかった。どうでもよいけど、ぼくは真央ちゃんと出身校が同じである。ぼくはスポーツをあまり熱心に観戦するほうではないのだが、彼女のことは心の底で応援しているのである。
このホテルは、今回の旅において最初(で最後)のホテルである。Eはホテルの部屋に入るなり、タオルもある~テレビもある~ベッドもふかふか~などと言い、まるで午後の紅茶を飲んだ蒼井優のようにはしゃいでいる。そんな彼女の姿を見ていると、この旅ではキャンパーバンでニュージーランドのホリデイパークを巡るということに、ぼくは少しこだわりすぎたかもしれないと思った。
この夜ぼくらはネルソンのちょっといいレストランに入った。今日はもうこれ以上運転する必要がないので二人でお酒を飲んだ。ぼくもEもラムを食べた。ラムは火の通りが絶妙で、脂肪は少ないのに大変柔らかい。
大航海時代、船の中には何頭もの生きた家畜が乗せられた。これが航海中のタンパク源である(ちなみに野菜はすべて酢漬けであった)。ヒツジはもともとニュージーランドにはいない。クック船長が持ってきたものである。ニュージーランドの人たちがクック船長を愛する理由が今日ちょっと分かった気がした。