水に浮かび物思う

カリフォルニアの海でカヤックに出会う。キャンプやハイキングの話も。

キャンパーバンで巡るニュージーランド南島の旅 その6 ~ クック船長の足跡 ~

2010年05月16日 | ニュージーランド南島

ニュージーランド南島の旅5日目。

ぼくとEは海辺の町、ピクトン(Picton)にいた。ここは南島の北東にあたり、クック海峡を挟んで北島に相対している。このあたりはクイーンシャーロットサウンドと言って、くねくねとした海岸線と多くの島からなる複雑な地形を形成している(ちなみにクイーンシャーロットサウンドはカナダにもあるけれど、もちろんここでゆってるのはニュージーランドのクイーンシャーロットサウンドである)

ぼくとEはホリデイパークで得たインフォメーションをたよりに港へ向かった。クック船長も訪れたという海を見てみようということで、Beachcomberという名前のクルーズに乗ることに。

午前9:30。ぼくらはBeachcomberのカタマラン(双胴船)に乗り込んだ。サイズは小さなフェリーといったところだ。

ぼくらを乗せたカタマランは軽快に水の上を走り出した。両岸の景色が見る見る後ろへ流れてゆく。このあたりの景色は、日本でいうなら五島列島や三重の志摩のあたりに似ているかもしれない(五島列島には行ったことないけど)。海の色はやはりどこか翡翠の色に似ていて、すこし緑がかっている。岸は森がびっしりと生い茂り、心の和む景色が続いた。

「このあたりにはたくさんの well-hidden cove(隠れた入り江)があります。そういうところには holiday home が建っています。この船はそういう閉ざされた場所に住む人のために郵便を届けることを兼ねています」

運転手の声が船内のスピーカーから聞こえてくる。ぼくらはそれを船の二階のテラスで海風を体で受けながら聞いていた。カモメが水面スレスレを滑るように飛んでいる。波はなく、日の光はまるでフルートの音色のように気持ちいい。

「ここは18世紀後半、キャプテン・ジェイムズ・クックが船でやってきて調査をしたことで有名です。南島と北島の間の海峡はクック海峡と呼ばれています。クック船長はここに100日以上も滞在しました。Ship Coveと呼ばれる場所です。我々は今そこに向かっています」

ぼくはアナウンスを聞きながらあることに気がついた。クック船長を語るとき、ニュージーランドの人たちはどこかちょっと誇らしげだ。もちろんニュージーランドの地形の調査という実質的な仕事に対する尊敬はあるだろうが、なにかそれ以上のものを感じる。思うに、その頃の大型船舶の船長というのは、一人何役もこなすある種超人的な人物だったのではないか。いうなれば優れた航海士であることはもとより、探検家であり調査長であり頼れるリーダーであったのであろう。全人格的に優れていた人物だろうと想像する。ニュージーランドの人たちの冒険好きの根っこは、もしかしたらこういう人物の冒険譚にあるのかもしれない。

船内を見ると、「いかにも!」という感じのアウトドア野郎が何人か乗っている。後で知ったのだけれど、ここには有名なトレッキングコース「Queen Charlotte Track」があり、その先端まではこうして船で向かうそうである。彼らはこれから何日かかけてコースを歩ききるのだろう。すごいなあ。

その後、船は Ship Cove という名の浜にたどり着き、そこでぼくらを下ろした。ぼくたちは、そのクック船長が100日以上滞在したという浜を散策した。人の手があまり入っていない、穏やかで本当に美しい浜である。海は穏やかで、青々と茂る森に囲まれている。正午まで間もない陽の光が気持ちいい。森は「ジャングル」といっても通じそうなくらい多種多様な植物に満ちている。こんなところで何日か一人で過ごしてみたいものである。

再び船に乗った。帰り道では所々にある小さな波止場に船を止め、運転手が「郵便」を届けた。郵便といってもほとんどはバッグや箱に入った大きな荷物である。面白かったのが、船が波止場に近づくとどこからともなく大人や子供がわらわらと集まってくることであった(犬まで集まってきた)。ほのぼのだなあ。

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かわいらしいピクトンのダウンタウンでムール貝とサーモンの昼食をし、ぼくらはこの町を後にした。昨日のワイナリーめぐり、今日のクルーズと、本当に楽しむことが出来た。ここからぼくらは西のタズマン海へ向かう。さあ行こう、ネルソンへ!

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その日の夜。ぼくとEはネルソンのとあるホテルにいた。

さっそく日本から持ってきたネットブックを無線LANに接続してニュースをチェックした。フィギュアスケートの浅田真央選手と高橋大輔選手が全日本で優勝したというニュースがトップに出ていた。二人ともオリンピックへ出場できるということだ。海外にいると日本のニュースに飢えるのである。いいニュースで大変よかった。どうでもよいけど、ぼくは真央ちゃんと出身校が同じである。ぼくはスポーツをあまり熱心に観戦するほうではないのだが、彼女のことは心の底で応援しているのである。

このホテルは、今回の旅において最初(で最後)のホテルである。Eはホテルの部屋に入るなり、タオルもある~テレビもある~ベッドもふかふか~などと言い、まるで午後の紅茶を飲んだ蒼井優のようにはしゃいでいる。そんな彼女の姿を見ていると、この旅ではキャンパーバンでニュージーランドのホリデイパークを巡るということに、ぼくは少しこだわりすぎたかもしれないと思った。

この夜ぼくらはネルソンのちょっといいレストランに入った。今日はもうこれ以上運転する必要がないので二人でお酒を飲んだ。ぼくもEもラムを食べた。ラムは火の通りが絶妙で、脂肪は少ないのに大変柔らかい。

大航海時代、船の中には何頭もの生きた家畜が乗せられた。これが航海中のタンパク源である(ちなみに野菜はすべて酢漬けであった)。ヒツジはもともとニュージーランドにはいない。クック船長が持ってきたものである。ニュージーランドの人たちがクック船長を愛する理由が今日ちょっと分かった気がした。


キャンパーバンで巡るニュージーランド南島の旅 その5 ~ワイナリー探訪~

2010年05月02日 | ニュージーランド南島
キャンパーバンで巡るニュージーランド南島の旅 その5 ~ワイナリー探訪~

ニュージーランド南島の旅4日目。

夜中に何度か目を覚ました。目を覚ますたび、ああ、ここは車の中か・・・、ここはニュージーランドか・・・と記憶をひとつひとつ巻き戻した。いつ目を覚ましても、車の窓の外はしとしとと雨が降っていた。




西海岸は今日も雨

昨日は氷河トレッキングを終えたあと、フランツジョセフから180kmほどの位置にあるグレイマウス(Greymouth)という町までスペースシップを運転した。今はグレイマウスにあるホリデイパークにいるのだ。昨日の夜はホリデイパークのコインランドリーで洗濯して、スペースシップの中でちょびっとワインを飲んだら、電池が切れるように眠ってしまった。氷河トレッキングと運転の疲れのせいだろう。

ぼくもEも狭い車の中でヨロヨロと起き上がった。外は陰鬱な天気である。朝だというのに、窓の外はまるで吸血鬼が支配するような世界だ。雨は昨日の夕方に降り出してから、ずっと今まで降り続けているようだ。地面はぬかるみがひどく、歯を磨きに行くのもおっくうである。

「おはよう。雨だね」というEのおでこには、『私はホテルに泊まりたかった』という文字が書いてあった。ぼくはそれを見て見ぬふりをして、「おはよう。雨だね。西海岸は雨が多いっていうのは本当だね。氷河も出来るわけだ」とやりすごした。

こーんな感じで、我々はヨロヨロと起き上がり、ウダウダと仕度をし、ボチボチなどとゆって車のエンジンを回した。我々はここから北東を目指す。

海岸の道をゆく。車を出したはいいものの、雨足が強いため運転は慎重だ。窓から見える海の様子は怒り狂ったように荒々しい。こんな海に漕ぎ出すカヤッカーがいたとしたら、それは大天才か大馬鹿のどちらかである。こうして鼻歌を歌いながら運転しているぼくはどうやら天才でも馬鹿でもなさそうである。

世界的に有名な観光ガイドブック「ロンリープラネット(Lonely Planet)」によれば、今我々が運転しているグレイマウスからウエストポート(Westport)の道は "one of the planet's 10 best road trips" であるという。地上で10本の指に入るほどの美しい道だというのに、この日の天気は雨。ぼくもEもこの道のドライブを楽しみにしていたのだけれど、まあ、自然は人間の目の保養のためにあるわけではないのだから、文句を言うわけにはいかない。

話はそれるけど、キャンプをしていると雨が降ることがある。降り始めはありゃーと思う。けど少し経つと、雨の中にいることに慣れてくる。そしてもう少し経つと雨の雰囲気がだんだん好きになってくる。雨には雨の良さというものが、きっとあるのである。

思うに、人の想像力とは「見えないもの」にこそ発揮されるのではないだろうか。晴れ、すなわち全てが明るみにある世界というのは、誰の目にも明らかな秩序のある世界であって、唯物的、あるいは主観の存在しにくい世界であるとも言える。一方、雨や霧の世界というのは、本来の姿が隠されてしまっている世界のことであって、そこには人の想像に限界を設定するものはなにもない。暗い世界は想像力を育てるのだ。

たとえば海に船が浮かんでいるとして、晴れていればそれが船であることに疑いの余地はない。しかし雨の世界ではそれは島であり、灯台であり、月であり、未知なる巨大なカメとなるのである。モネ、オイラー、ベートーベンなど、視力や聴力に障害を持った天才と呼ばれる人が存在するけれど、雨や霧の世界の中で偉業を成し遂げた人というのは、「想像力」を「創造力」にまで昇華させた人にほかならない。その「力」の凄さにこそ、我々は感動し圧倒されるのである。

話は飛んだけど、そういったわけで(まんざらでもないな)などと思いながら車を運転した。

この日は合計で8時間ほど運転しただろうか。クリスマスが終わってにわかに人出が多くなったようだ。西海岸を離れ北東に向かうと、次第に晴れ間が広がってきた。天気の移り変わる様子は圧巻であった。木々の間からあふれ出たもやが、天に伸びる無数の手のように森の全体から上空へ延びている。また、雲と雲の隙間をぬって届いた光が森に深い陰影を与えている。大地の息吹に満ち満ちた光景である。映画 "Load of the Rings" の中にいるみたいだった(この映画はニュージーランド南島で撮影された)。ためしにEに "precious" とゆってみると、"preeeecious" という返事が返ってきた。通じたようだ(映画観てない人、すみません)

次第にヒツジが目立つようになってきた。Eがこんなことをゆう。

みんなさ、子羊を食べるじゃない?あれってザンコクだと思うんだよね。

「そうかもしれなけど・・・」とぼくは口ごもった。大人の羊を食べるのも十分ザンコクではないだろうか。けどまあ、生殖活動もしていないうちに殺してしまうのはやっぱりかなり残酷かもしれない。「けどさ、Eもさ、このあいだ披露宴で出たフォアグラおいしそうに食べてたじゃん。あれもかなりザンコクだよ」と、ぼくはつついてみた。すると、

わたしフォアグラ食べないもん。あれって鴨を狭い箱にいれて太らせるんだよね。かわいそうだよね?披露宴の時は出されちゃったから仕方ないけど、自分からは頼まない。

という。きっともしEがえらくなったら、フォアグラはどんどん小さくなり、羊のお肉はどんどん大きくなるのだろう。ぼくはそういう世界を少し考えてみた。ザンコクじゃない世界のほうがいいかもしれない。けどやっぱり子羊ってうまいから困る。


ワインの町へ

だいぶ土地が乾いてきた。ここはニュージーランド南島の北部のマルボロ地方(Marlborough Region)だ。ニュージーランド最大のワインの産地である。ここに来るのを楽しみにしていたのだ。ロンリープラネットにはたくさんのワイナリーがリストされている。ぼくらはその中から4つのワイナリーを訪れた。



どのワイナリーも立派なテイスティングルームを持っていて、気分はなかなかリッチである。ぼくの訪れたワイナリーのテイスティングはどこもフリーだった。それぞれのワイナリーで4~5種類のワインのテイスティングをさせてもらう。知らなかったのだけれど、ニュージーランドではSauvignon Blancがおいしく、ぼくの見た限りではChadonnayよりもはるかに人気である。カリフォルニアにいた頃はまったくといっていいほどSauvignon Blancを買わなかったのだが、ここでは迷わずSauvignon Blancを購入。ジュースのように爽やかで、本当においしい。



他に気に入ったのはSirah, Rieslingなどである。これまでワインといえばChardonnayやCabernet Sauvignon、Pinot Noirなどがうまいもんだと思い込んでいただけに、新鮮な体験が出来た。

いやーテイスティングって大好き。こうやってちょびっと味見をして、なおかつその酒の講釈などをフムフムと聞いちゃったりして、「お口に合えば買ってくださいね」なーんてゆうのは、酒飲みにとって小さな天国である。しかも値段も安い。ぜーんぶ買ってしまいたいところであるが、そこはその、酒を飲まない(正確にいうと運転のために我慢してくれている)Eが座敷童子のように横目でジーっとぼくを見ているからあまり羽目をはずせないけれど、それでも気に入った一本をゲットするのは嬉しい。

ちなみにニュージーランドのワインは、ほとんどがコルクではなくスクリューキャップを使用している。コルクとスクリューキャップ。人によって好みはあると思うけれど、ぼくはスクリューキャップが合理的であるように思う。なぜならまず第一にブジョネ(コルク臭のついたもの。コルクに住む菌が原因)がない。第二にコルクを開ける時の失敗がない。第三に再び栓をしやすい。第四に十得ナイフが少しスリムになる(どうでもよい)。というわけで、もともとブドウとコルクが両方取れる土地ならいざしらず、わざわざ輸入してまでコルクを使わなければならない理由は挙げにくいと思うのである。潔くスクリューキャップを使い、安く上質なワインを作っているニュージーランドのワイナリーには好感を覚えるのである。

我々はその夜、たどり着いたピクトン(Picton)という町のホリデイパークで、買ったばかりの白ワインを「クルクル」と開け、キャンプ用の金属のカップでEと二人で仲良く乾杯したのであった。自分で選んだのだから、味は間違いない。ブジョネもない。保障付きのワインなのであった。