水に浮かび物思う

カリフォルニアの海でカヤックに出会う。キャンプやハイキングの話も。

11月の西伊豆キャンプ その2

2008年12月16日 | キャンプ

夜。だれもいない浜でぼくはアルコールストーブで簡素な夕食を作り、それを食べた。波がやさしく浜を洗う音、遠くの町のあかり、一人だけの濃密な時間。それを味わいたくてぼくはキャンプをするのだろう。

翌朝。今日は松崎方面に出向いてみることにしよう。



うわあ、海食洞窟がたくさんあるなあ。



なにやらおくが深そうな穴があったので、入ってみることにした。ドキドキ。しずかに入っていくと、穴の奥にかすかな光が見える。どこか別の穴に繋がっているようだ。



しばし、奥まで行こうかどうしようか悩んだ。行きたい。行きたいけど、暗いからコワイ。しばらくそうしてると、穴の奥からコウモリ(だと思う)が飛んできて、ぼくの頭上をかすめるように外の世界に飛び去っていった。コウモリのせいですっかり気の小さくなってしまったぼくは、それ以上穴の奥に進むことをあきらめ、外の世界に漕ぎだしたのだった。



穴を出て少し漕ぐと、朝日を背後にした松崎の町が見えてきた。ぼくはその朝もやに薄く隠れた町を少し散策してみたくなった。

松崎の海水浴場の南に漕ぎ入っていくと、町の奥に続く川あるいは水路に出る。水面は静まり返っており、ぼくとカモだけが細かい皺を残していった。



途中、橋の上から声をかけられた。朝から少女のように元気なおしゃべりをしている中年の女性たちだった。「まあ、珍しい。お一人ですかー?」とぼくに声をかけてくれた。そうです、一人です、と答えると、「楽しそうですねー」と別の女性が声をかけてくれた。ぼくからみたら彼女たちのほうがよほど楽しそうに朝から散歩をしているように見えたのだけれど、「気持ちがいいですよー」と答えた。いや正確には、言ったか言い終わらないかのうちにぼくが橋の下に隠れてしまった。橋を過ぎて振り返ってみると、彼女たちはまたおしゃべりと散歩の世界に戻ったようで、闖入者(ちんにゅうしゃ)のぼくを振り返ることはなかったけれど、エクササイズペースで歩いていく彼女達の姿は颯爽としていてこの町の朝の風景によく合うと思った。

ぼくはその後もゆっくりと水面を進んでいった。朝のこの時間帯は気分がいい。山々の紅葉が昨日より幾分進んでいるような気さえする。水深が浅くなってパドルが地面を刺すようになったので、ぼくはターンをし海へ戻ることにした。帰りは片方漕ぎの練習をしながら進んでいった。これは、例えば右だけを漕いでまっすぐ進んでいく練習法で、時々やっている。実践で役立つとは思えないし、役に立ってもらう状況になってもそれはそれで大変こまるのだけど、漕ぎのよい研究になるような気がする。適度に速くまっすぐに進めるようになると、少しの満足感が得られる。しかし役に立つかどうかはやっぱり不明である。

松崎を出たのち、ぼくは岩地へ帰った。フネを浜につけて、うーんと背中をそらす。二日間たっぷり漕げたことへの満足感が体を通過する。岩地の不思議な地形は、ぼくに昔の海賊の物語を想像させた。

ぼくの納艇を見守ってるグループがいた。シーカヤックのレッスンだろうか、ツアーだろうか、どこかのアウトフィッターが出艇の準備をし、参加者になにやら説明をしている。ぼくはそのグループを眺めながらゆっくりとフネが乾くのを待ち、そしてフネを畳んだ。荷物をすべてパッキングして車にしまった。バタン。



それからぼくは岩地の町の小さな路地を散策した。このあたりの岩は軽く加工がしやすいようで、昔から石垣などを作るのに使われていたらしい。きっとこれがこの町の名の由来なのだろう。ありがとう、岩地。いつまでもこの素晴らしい海を残してくれ。

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今回も天候に恵まれ、いいツーリングができた。本当にありがたいことである。最後に、今回使ったウエアを。



上はモンベルのセミドライ、下は昨今話題のレイヴンパンツ。このあいだ神保町のアウトドアショップで買い求めたのである。そこの店員さんはレイヴンパンツの愛用者で、それを履いて知床を一周したそうで、何をおいてもこのレイヴンパンツは素晴らしいの一言だとゆっていた。お兄さんと下半身のウエアリングについて意見交換をしあった結果、ぼくはお兄さんとレイヴンパンツを信頼し、購入したのだった(もちろん買ったのはレイヴンパンツの方です)

このレイヴンパンツはソックスとパンツが一体となっていて、もちろんすべて防水透湿である。生地はゴツくてタフな作りである。岩場、砂浜、海水、日光と、厳しい条件の遊び場において耐久性を発揮してくれるだろう、たのもしい作りになっている。なんといっても大瀬さんも製作に携わったとのことだから、この点に関しては信頼度大なのである。

今回このレイヴンパンツを履き、その上にネオプレンのソックスとサンダル、内側にウールソックスを履いて過ごした。結果は、大変満足でした。まず、濡れないのは大変気持ちがよい。とくに足が濡れていない状態でキャンプを開始するのは、快適なことこの上ない。今回とくによかったのが、ネオプレンのソックスを使ったことだった。こいつのおかげでレイヴンパンツが砂で擦れることを防ぐことができた。またフネの中ではスリッパは脱いで、ネオプレンのソックスの状態でフットブレイスに足を当てていた。これだと保温性もあるし、レイヴンパンツのソックスを磨耗でいためることもない。この手のネオプレンソックスはホームセンターなどで簡単に手に入る。サンダルは濡れてもすぐ乾くタイプのやつで、タオルでさっと拭いてキャンプ中も使用することが出来た。軽くて丈夫で水に浮くので、大変重宝した。

どちらかとゆうとヒョロナガ系の体つきであるぼくは、市販されているウェットスーツでは体とウエアに隙間が出来てしまうため、ドライのほうがよいだろうなぁとずっと思っていた。かといってドライスーツとなるとぼくの遊びにはオーバースペックだろうし、その点レイヴンパンツはまさに待ち望んでいた類のウエアといってよいと思う。いい買い物が出来たのである。またこれを着てキャンプツーリングに出かけたいな!


11月の西伊豆キャンプ その1

2008年12月14日 | キャンプ

11月15,16と、西伊豆にキャンプツーリングに出かけた。ツーリングの前の一週間はいつもにもまして天気予報が気になった。ずっと行きたい行きたいと思っていた場所である。それに久しぶりのソロツーリングとなれば、なお気持ちが入ってしまうというものである。当日の朝、家の近くのレンタカーやさんでトヨタのコンパクトカーを借りた。テントやら寝袋やらをぎゅうぎゅうに押し込まれて、まるでフィッシャーマンズ・ワーフで昼寝をしているアザラシみたいにまるまるとしたウィスパーのザックを、荷台にゴロンと転がしてバタンとドアを下ろす。カーナビの目的地を西伊豆の岩地に設定する。準備完了。さあて、出かけますか!



正午を少し回ったところで目的地に到着。わあ、綺麗なところだなあ。岸壁にはさまれたそれほど広くない空間に真っ白な砂浜が弧を描いている。わくわく。ぼくはそのへんでテキパキとフネを組み、キャンプ道具をフネに入れ、西伊豆の海に漕ぎ出した。

「西伊豆ー!こんにちはー!」とこころのなかで叫ぶ。すべての海は繋がっているけれど、初めての海域を漕ぐときはいつもそんな気分になる。

今日は北東から東よりの風ということで、西伊豆のコンディションはバッチリだった。天気予報文に「○○の風やや強く」の、「やや強く」が出てると出てないのでは大きく違うと思う。出てない時の海況は大抵よい。出ている時は要注意で、「○○の風強く」の時は海に出ても危険だし、楽しくない。その日の風は弱く、曇りで肌寒かったけれど、シーカヤッカーとしては御の字の天気であった。



ぼくは岩地を出て南へ向かった。すぐに複雑な海岸線が視界に広がる。岸壁にはまだ崩れて間もないと思われる石の塊が積み重なっている。溶岩の固まったような色をしている。伊豆半島というのは火山活動が活発なのだろう。温泉もよく出るわけである。



このあたりの海岸線はなんと変化に富んでいることだろう。荒々しく突起した土地が海面上昇で沈んで今のような造形になったのだと思われる。南に向かって進めば進むほど人里からみるみる遠ざかって行くようだった。

それにしても今日の海は漕ぎやすい。穏やかな海に浮かんで見上げる伊豆の景色は壮大であった。自然とはなんとエネルギーに満ちた場所だろうと思う。それに比べて、吹けば飛ぶような小舟に乗っている自分はなんと小さな存在だろうと思う。舟を漕いだ日は、自分がわずかに自然の大きさに近づけたような気持ちがする。

波勝(はかち)崎の少し手前、そのあたりで唯一上陸ができるという小さな入り江に入り、ゴロタ浜に着岸した。いいところである。いいところだなあと思ったそのときである、忘れ物に気がついたのは。どうやら車にテントポールを忘れてきてしまったらしい。あぁ、テントポール!テントポールなんてなくてもどーとでもなるといえばなるのだけれど、つまりぼくはここで選択を迫られたことになる。

1.テントポールはない、そしていい浜があるとも限らない、けど先に進む。

2.テントポールを取りに帰り、行きにめぼしをつけておいた浜ですこやかに寝る。

なんとゆうかこの、男の尺度を測られているかのような選択問題にぼくは悩み、しゃがみこんで地面に数式などを書き連ねた結果、ぼくは少しアゴを上げてクールに言い放った。「戻ろう」

ぼくは来た方向にバウを向けた。来た道を戻るのはしんどかったけれど、その日の夜、冒険を手放したぼくは安眠を手に入れることが出来たのだった。人間、なかなか大きくなれないものである。