水に浮かび物思う

カリフォルニアの海でカヤックに出会う。キャンプやハイキングの話も。

CCKの思い出 その2

2008年03月24日 | カヤック

どういうわけか、シーカヤックに乗ってみたい!と思い立ち、ネットで調べて自宅から一番近いアウトフィッターにぼくは駆け込んだ。それがCCKだった。



最初に Kayak Basics という、まあイントロダクションみたいなクラスを取った。初めてのカヤック。4mくらいの安定のよいリクリエーションカヤック。パドルを水に差込んだ瞬間、ああこれはこの先ずっとぼくの趣味になると感じた。

カヤックの楽しさを知ったぼくはすぐに次のクラスを取った。Beginning Sea Kayak のクラスで、5mのシーカヤックに乗り、ストロークの仕方、レスキューの仕方を学んだ。続く Sea Kayak II のクラスでリーンとエッジングを新たに学び、ストロークとレスキューをおさらいした。

Sea Kayak II を取るころにはぼくはフォワードストロークに夢中になっていた。また、CCKが安く提供してくれている週一回の Social Paddle と呼ばれる、まあみんなで漕ぎましょうという会に参加するようになっていて、ずいぶんスムーズに漕ぐことが出来るようになっていた。ぼくがフォワードストロークに夢中になったのには、CCKのインストラクターの面々の素晴らしい影響も大きいけれど、曲がりなりにも昔自分がボートのレースに出ていた経験も濃く影響していると思う。別にカヤックのレースに出ようと思ったわけではない。よりよいフォームで漕ぐ楽しさというのは、ボートもカヤックも一緒だと思った。楽に漕いで速く、長く水面を滑る。それ自体がカヤッキングの楽しさの一つだとぼくは思うようになっていた。

もう一つ決定的な出会いがあった。CCKのインストラクターの一人からあるDVDを紹介された。それは Brent Reitz という人が作ったフォワードストローククリニックのDVDだった。彼はアメリカのレーシングとワイルドウォーターの元チャンピオンで、長年アメリカのオリンピックチームのコーチを務めた人物だ。彼のDVDには彼のフォワードストロークの理論があますところなく紹介されていた。ぼくはそのDVDを繰り返し見ては、週一回の Social Paddle を楽しみにしていた。

そしてついに彼がCCKにやってくる日が来たのである!ぼくは満を喫して彼のクリニックに参加した。彼は頭に白いものが混じった中年だったけど、筋骨隆々で、非科学的な言い方を許してもらえれば、オーラのある人物だった。明るく誠実で、面倒見がよかった。もし大きな船で1年くらいの航海に出ることになったら、彼のような人物にキャプテンを務めてもらいたいものだ。彼は自分のアスリートとしてのこれまでの経歴と、そしてこうしてリクリエーションパドラーへのクリニックを開くようになった経緯を説明した。そして、自分自身が間違ったフォームで手首を故障したことを語り、正しいフォームは舟を速く進ませるだけでなく、パドリングによる怪我を防いでくれると説明した。

クリニックを受けたのはもっとも経験の浅い自分を含めて8人ほどで、10年選手からなんとアラスカをカヤックで冒険してまわる夫婦までいた。クリニックを受ける前のそのアラスカ夫婦のパドリングは素人のぼくが見ても随分ひどいものだった。ガッチリとパドルを握りしめいかにも力任せという感じで水を引っ掻き回していた。これじゃあいくらからだが屈強でもいつか肉離れや関節の痛みに襲われるのではないかと想像された。しかしクリニックを通して、その夫婦のパドリングの改善には目覚しいものがあった。いや、目覚しい改善が見られたのは彼らだけではなかった。全員一日で見違えるほどのフォームを手に入れたのだ。

ぼく自身のフォームも随分改善された。自分では十分にトルソー(腕、足、首を除いた胴体部分)の回転を意識していたつもりだったけれど、それは充分ではなくどこかで力が逃げていることが分かった。上体をロックすることによって水を引く力をダイレクトにフットブレイスへと伝達させることが出来る。そしてフィニッシュした上体は舟に対して最大の角度がついていて、体は自然と元の状態に戻ろうとする。その復元力といったらいいか、"unwinding"しようとする力を次のストロークに生かすのだ。肩甲骨、肘、手首等の動きは結局のところ、そのトルソーの力を殺さないようにあくまで補助的な動きをするに過ぎない。しかしその「細部」の動きがまずいために起きる怪我が多いという。力を抜く部分は力を抜き、リラックスする。細部の力が抜けていると全身の力もほどよく抜ける。全身の力が抜けると舟の動きに抵抗しなくなるので、突発的な舟の揺れにも柔軟に対応できる。フォワードストロークの効率を求めると、体の故障を未然に防ぎ、結局はそれが有機的にすべてのボートコントロールに繋がってくる。それがブレントのメッセージだった。

そのクリニックの中で「ああ、そうか!」とひざを打ってしまいたくなる場面がいくつもあった。それなりにスムーズに漕げていると思い込んでいたぼくは、いくつかの勘違いを指摘され、新たに留意すべき点を教えてもらった。客観が入ると人間は変わるのだ。自分が出来ていると思っていたものは、想像で脚色されていた。ぼくのカヤックに対する何らかの態度は、たしかにこの日を持って変わったと思う。うまくなったとか、そういうものじゃない。ストロークにおける物事の優先順位のようなものを教えてもらえたことが、ぼくを成長させてくれたのだと思う。大げさに言えば。体を動かすのってほんとうに楽しいと思った。

つづく。


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2 コメント

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なるほど (カヤッカー)
2008-03-25 19:35:48
こんばんは。
やはり米国では、システマティックな教育システムが素晴らしいですね。
一部を除いて、日本のカヤックショップやアウトフィッターでは、なかなかそこまでのプログラムってないですよねえ。

私自身、15年前にカヤックに出会った頃は、数少ないムック本とリアルなフィールドでの実践あるのみでした。 当時の写真を見ると、信じられないような服装で、冬の海を漕いでいて、自分でも驚きます。

良いステップを踏まれていますね。 ぜひ、フォワードストロークの基本から教えてください!
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Re: なるほど (サトウ)
2008-03-25 21:14:32
こんばんはー。今週から仕事がはじまり少々アガりぎみのサトウです。

>一部を除いて、日本のカヤックショップやアウトフィッターでは、なかなかそこまでのプログラムってないですよねえ。

やはりこのへんはシーカヤック人口の違いなのでしょうか。もしくは、日本のショップではなるべくお客の要望を聞いて、クラスをカスタマイズする傾向にあるのかもしれませんね。どちらが良いかはぼくには分かりませんが、習得すべきスキルや知識をあらかじめ提示した上で、ステップアップのサポートをしてもらえたのはぼくにとってためになりました。とにかく信頼できるショップを最初に見つけることが出来ればそれが一番ですね。

>ぜひ、フォワードストロークの基本から教えてください!

いえいえ、ぼくが教えるなんてとんでもありません!まだフォームが固まってないくらいですから。まだまだ駆け出しです。
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