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スピルバーグと映画大好き人間、この指とまれ!

カフェには、映画が抜群に良く似合います。
大好きなスピルバーグとカフェ、アメリカ映画中心の映画エッセイ、
身辺雑記。

スピルバーグが影響を受けた人達

2008-01-30 05:35:05 | 連載コラム~スピルバーグ~

 黒澤 明

 最近、クロサワ作品が日本においてリメイクされている。うれしいことだ。テレビでは、「生きる」「天国と地獄」をやったり、映画では、昨年の12月に織田裕二主演で「椿三十郎」、そして、今年は阿部 寛主演で「隠し砦の三悪人」が公開される。やはり、世界の監督たちから尊敬されるだけはある。もちろん、わが愛すべき監督であるスピルバーグも敬愛してやまない。

 スピルバーグが、尊敬し影響を受けている最たるものは、もちろん技術的な面もあるが、それよりも映画作りに向かう精神的な面、映画哲学とでも呼ぶべきものだ。

 スピルバーグは、クロサワ監督について『黒澤映画の美術』(1985年学習研究社発行)の中で、「私が最初に出会ったクロサワの映画は『蜘蛛巣城』だった。私に言わせれば、あの映画の素晴らしさは作品全体に漂う気品と、美しいイメージの連鎖にあった。彼の作品を貫いているのは人間賛歌―英雄であれ悪人であれ―である。黒澤作品のベスト・スリーをと言われれば、私は『隠し砦の三悪人』『蜘蛛巣城』『生きる』の3つを挙げる。私が彼の作品に期待するもの、それは美、苦悩、生命への愛、死、再生、教訓、裏切り、視覚的メタファー、アクション、流れ、勇壮さ、広大さ、微妙なニュアンス、夢、悪夢、子ども、知恵、運命、そして、希望だ。」と語っているように幅広い側面に対して尊敬している。

 黒澤は、1910年3月23日に東京の現在の品川で生まれる。学生時代は、絵描きになることを夢見て勉強に励み二科展に入選したこともあった。しかし、絵では食っていけないことを知った。 そこで、以前から好きだった映画鑑賞と第1期映画黄金時代を迎えていた映画界へ入った。P・C・L映画製作所(現・東宝)に入社。エノケン映画で有名な山本嘉次郎監督の下で助監督を務めその傍ら脚本も書いた。そして、1943年に「姿三四郎」で監督デビューする。以後、娯楽作や社会派ドラマなど数多くの名作を監督する。主な作品として、三船敏郎の黒澤映画デビュー作「酔いどれ天使」(1948年)「野良犬」(1949年)「羅生門」(1950年)「生きる」(1952年)「七人の侍」(1954年)「蜘蛛巣城」(1957年)「どん底」(1957年)「隠し砦の三悪人」(1958年)「用心棒」(1961年)「椿三十郎」(1962年)「天国と地獄」(1963年)「どですかでん」(1970年)「影武者」(1980年)「乱」(1985年)「夢」(1990年)そして、遺作となった「まあだだよ」(1993年)などがある。海外での受賞歴も数多く、主なものでも「羅生門」がヴェネチア国際映画祭金獅子賞とアカデミー特別賞、「生きる」がベルリン国際映画祭銀熊賞、「七人の侍」がヴェネチア国際映画祭銀獅子賞、「隠し砦の三悪人」がベルリン国際映画祭監督・国際映画批評価賞を獲得している。彼が、尊敬していた監督は、西部劇の神様であるジョン・フォードである。ハリウッドに行ってジョン・フォード本人に会ってアクション演出、とりわけ馬が疾走する迫力ある演出方法を学でいる。これによって、黒澤は「時代劇の神様」となった。

 絵描きになろうとしていたところから彼は、スピルバーグ同様に映像派の監督である。しかし、スピルバーグと大きく違うところは、脚本をほとんどの作品で手がけており、しかも、それを映像化する際に重要な絵コンテを自らラフスケッチではなく画家のような腕前で精巧に書く力がある。 

 彼の特徴を挙げればきりがないが、私は、「巨匠の映画に学ぶビデオ撮影術」(1994年)の著者である西村雄一郎氏が指摘している点に尽きると思う。まず、「男性的でわかりやすいこと。はっきりしていること。自然を使った演出。雨ならどしゃぶり、風なら突風、太陽ならぎらぎらと照りつける。季節感のある演出。特に夏と冬。ストーリーは、簡単でディーテールには凝る。ダイナミズム。その頂点は、「七人の侍」であり、そのほかには「用心棒」「隠し砦の三悪人」「野良犬」「天国と地獄」などがある。ダイナミズムを作り出すには、①全域にピントのあったパン・フォーカスの使用②縦の構図を駆使する③重厚感を表現するのに超望遠レンズを使用し、密閉感や人を多く見せる④マルチ・カメラ方式を使い緊張感を生み出す。⑤移動のカメラワークとして疾走するシーンのパン撮影で、スピード感を出すためにコマ落としをする。編集に重点を置く」。

 スピルバーグの受けた技術的側面の影響は、彼が視覚的メタファーと呼んでいるもの、たとえば、映画の象徴的シーンに雨のシーンを使うこととアクションシーンの演出だ。視覚的メタファーとしては、「未知との遭遇」の冒頭の真っ暗な画面からいきなり砂嵐で始まるシーン、「ジュラシック・パーク」で最初にティラノサウルスがハリケーンの中登場するシーン、「シンドラーのリスト」で全編モノクロ撮影のなか小さい女の子が歩くシーンでその子の姿のみ赤色で色を着けて撮影している。また、「宇宙戦争」でトライポットが現れる前兆となるシーンに嵐や雷の稲光を使っている。

 一方のアクションシーンだが、これはインディジョーンズシリーズを始めとする移動カメラ撮影やクレーン撮影を使用している。

 私が黒澤 明監督作品で好きなものは、「野良犬」「七人の侍」「用心棒」「天国と地獄」「どですかでん」「夢」である。

 「野良犬」は、刑事ドラマの原点とも呼ぶ傑作だ。黒澤のサスペンスタッチの演出と設定が魅力である。私がこれまた好きな「太陽にほえろ!」もこの作品に多大な影響を受けている。最高の刑事ドラマであり、コンビ刑事映画である。拳銃を盗まれた若い新米刑事が、先輩と一緒にその拳銃が犯罪に使われる前に犯人を逮捕する話。特に素晴らしいのは、拳銃で殺人を繰り返す犯罪者を夏の炎天下の中、新米刑事の三船敏郎と先輩刑事の志村 喬が粘り強く捜査を展開しては犯人を突き止めようとする姿である。まさに刑事魂とはこれだ。また、この2人のキャラクターも見ごたえがある。若い新米刑事を中心にストーリーが展開されるのもいい。

 「七人の侍」は、戦国時代、貧しい百姓たちが雇った七人の侍が野盗化した野武士たちの襲撃から村を守る話。アクション大作、時代劇の大作の風格を持った作品。あの西部劇の名作「荒野の七人」ののもとになった作品として知られている。七人の侍の個性的なキャラクターと大雨の中の合戦シーンがいい。特にこの大雨のシーンは、雪解けの泥水が地面にたまる環境の下で黒澤監督は、大雨を降らす機材を使って演出した。また、早坂文雄の作曲した侍のテーマ曲もヒロイズムと悲愴感漂う侍たちの描写に多大なる影響を与えていて印象に残る。

 「用心棒」は、宿場町を牛耳る2組のやくざを桑畑三十郎の浪人が知恵と剣術を武器に相打ちさせる痛快娯楽活劇大作。桑畑三十郎の型破りなキャラクターとそれを演じる三船敏郎の存在感のある演技が印象に残っている。迫力とスピード感にコミカルなテイストがブレンドされた私の一番好きな作品である。特に宿敵やくざを演じる仲代達矢と三船敏郎の決闘シーンは、忘れられない。仲代達矢は、首にマフラーを巻きつけ懐にピストルといういでたち、一方の三船敏郎は、手裏剣や刀を使って立ち向かう。また、佐藤 勝の音楽も印象に残る。

 「天国と地獄」は、社会派ドラマ・サスペンス映画の傑作である。子どもの誘拐事件を題材にしてトリックや謎解きが楽しめるディテールにこだわった作品。また、なぜ犯人が犯行に及んだかが興味を惹き人間ドラマとしても充分に堪能できる。

 

 「どですかでん」は、初のカラー作品であり、架空の街に生きる貧しい人々を優しく見つめたオムニバス的作品。それぞれのエピソードが魅力的でそれが積み重なって哀しくもあるがかすかな希望があるところが素晴らしい。また、特に印象的なのは、オープンニングの小学生が描いた電車の絵のクローズアップで映画が始まりそのバックに流れる武満 徹のファンタジックな音楽である。

 「夢」は、『こんな夢を見た』で始まる8つの幻想的なエピソードのオムニバス作品で、黒澤監督の自伝的要素が濃い素敵な作品。演ずるは、寺尾 聡。そして、製作の援助をしているのはスピルバーグである。どれも魅力的な作品だが、特に気に入っているのは、第3話「雪あらし」第5話「鴉」第8話「水車のある村」の3本である。「雪あらし」は、雪山登山隊の隊長となったわたしが猛吹雪の中で雪女の妖怪と出会うもので、黒澤作品の中で一番怖い作品。スピルバーグの「ジョーズ」や「エクソシスト」「エイリアン」に匹敵する恐怖が味わえる。特に音響効果とメイクアップと衣装が素晴らしい。「鴉」は、画家志望のわたしが、ゴッホの絵の中に入りゴッホに麦畑で出会う話。

ゴッホ役にはマーチン・スコセッシ監督が扮している。彼も黒澤監督を尊敬する一人である「水車のある村」は、わたしが自然の中で穏やかに暮らす村人たちの姿を追う中で自然の大切さを知る作品。特に最後の祭りで村人らが、朗らかに踊るシーンが印象に残る。

 

 

 

 

 



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