
スピルバーグ映画の楽しみの1つに恐怖を題材にした映画を見ることがあげられる。彼の映画は、童心に帰らせてくれるSFファンタジーの監督というイメージが強いが、私は、恐怖演出が数多くちりばめられている映画で彼の大ファンになったので、ここでは「激突!」に代表されるように恐怖演出の数々を作品を例に具体的に述べていきたいと思う。
よく言われることだが、映画監督の初期の作品には、その監督の特徴が色濃くでている。スピルバーグにしてもそうだ。彼の「激突!」や「ジョーズ」は、恐怖を題材にした映画である。ということは、恐怖に大きな関心があるのだ。では、なぜなのか?それは、彼の生い立ちと関係がある。これは、以前にも触れたことだが、少年時代のスピルバーグは、父と母が頻繁に夫婦喧嘩をしたり、特に父は、ワーカーホリックであったので父と触れ合う時間も少なかったため常に不安な気持ちであった。そのため、家の中で惨事が起きるという空想が育った。彼自身、語っている。「木や雲や風、そして、暗闇が怖かった。でも怖がるのが好きだった。ぞくぞくするからね。」また、妹たちを恐がらせようと緑色のトイレットペーパーを濡らして顔に巻き付け、不気味なマスクにしておどかしたり、妹アンの部屋の窓の外に隠れて「月だぞ」と叫んだりしたそうだ。
さて、スピルバーグは、強大な物体に人間が追いかけられる恐怖を描くのが好きな監督だ。「激突!」のタンクローリーのトラック、「ジョーズ」のホオジロザメ、「未知との遭遇」のUFO、「レイダース/失われたアーク」の巨大な石、「ジュラシック・パーク」のティラノサウルス、「宇宙戦争」のトライポッドなど。そして、スピルバーグの恐怖演出方法は、彼の尊敬するヒッチコック監督を手本にして自分流にアレンジしている。その恐怖を表現するテクニックは、天下一品であると思う。このことをあらためて感じたのは、以前に読んだ書物、『西村雄一郎著 巨匠の映画に学ぶビデオ撮影術 学習研究社』を読んだときである。一つ一ついちいちうなずける事ばかりなので挙げておきたい。「①加害者の姿を小出しに見せてゆく②扇情的音楽を入れて観客をあおる③あおりのカメラ・アングル④望遠と広角のレンズの使い分け⑤怪物に人間臭いキャラを加える⑥恐怖と同時に日常ののどかさを描く⑦適度にユーモアを入れる⑧観客のうそをついてショックを与える⑨カット・ズームで極度の緊張を表現⑩往来ワイパーでサスペンスの変化⑪めまいカットで強度のショック表現⑫ズーム・アウトで意外性強調⑬ズーム・インで強固な意志を盛り上げる⑭子供ぽさを秘めた男のロマンとして描く」である。
これらの要素を作品にをおきかえてみると、加害者の姿を小出しに見せてゆく演出は、「ジョーズ」のサメや「宇宙戦争」のトライポッド、扇情的音楽を入れて観客をあおるのは、「激突!」やジョン・ウィリアムズ作曲による「ジョーズ」、「未知との遭遇」、「宇宙戦争」で、あおりのカメラアングルは、「ジョーズ」、「ジュラシック・パーク」、「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」、「マイノリティ・リポート」「宇宙戦争」で、望遠と広角レンズの使用は、「激突!」や「ジョーズ」で見られ特に広角レンズはスピード感や恐怖を生み出す。怪物に人間臭いキャラを加えている作品は、「激突!」、「ジョーズ」、「ジュラシック・パーク」、「マイノリティ・リポート」、「宇宙戦争」。適度にユーモアを恐怖の中にブレンドしているのは、「激突!」、「ジョーズ」、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」、「ジュラシック・パーク」、「マイノリティ・リポート」。恐怖と同時に日常ののどかさを描いているのは、「激突!」、「ジョーズ」、「未知との遭遇」。⑧から⑫までは、「ジョーズ」に、そして、ズーム・インを使って、主人公が恐怖の物体に勇気を持って立ち向かうのは「激突!」、「ジョーズ」であり、最後の要素である子供ぽっさを秘めた男のロマンとして描いている作品は「激突!」、「ジョーズ」、「未知との遭遇」、「レイダース/失われたアーク」、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」、「ジュラシック・パーク」「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」である。
今、挙げた西村雄一郎氏が指摘していた要素に加えて、私がスピルバーグの作品を観てきて感じた恐怖の演出の要素を挙げると、まず、主人公はヒッチコックの作品のようにごく平凡な人間であること。また、恐怖を演出するアイデアが素晴らしい。車のサイドミラーやバックミラーをつかって恐怖の対象になっている物体を映す。例えば、「激突!」のトラック、「ジュラシック・パーク」のティラノサウルス、「宇宙戦争」のトライポッド。そして、「ジュラシック・パーク」のティラノサウルスが出現する前兆として飲料水のコップ、水溜り、ラプトルが登場するシーンでは子供たちが手に持って食べようとしたゼリーを使って振動の映像をみせる。「ロストワールド/ジュラシック・パーク」のジャングルの森を俯瞰で撮って、樹の動きでティラノサウルスの出現を予感させる。次にカメラワークの素晴らしさである。まず、カメラポジション。「ジョーズ」では、アイ・レベル。「ジュラシック・パーク」は、ティラノサウルスの襲撃シーンは、ハイ・ポジションでラプトルはロー・ポジションで撮っている。クレーン撮影を多用。特に「ジュラシック・パーク」が印象的で、クレーン.アップでティラノサウルスを、クレーン.ダウンでラプトルが人間を襲うシーンだ。そして、これは最近の傾向であるが手持ちカメラ、薄いブルーを基調にした色調の使用だ。「シンドラーのリスト」で手持ちカメラのステディカムを使ってナチのユダヤ人大量虐殺の狂気の恐ろしさを描く。薄いブルーの映像は、「マイノリティ・リポート」や「宇宙戦争」にみられる。
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