はがきのおくりもの

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卒業式式辞(全)

2013年03月17日 | 卯の花高校物語 2012


 2年前の3月11日、日本は東日本大震災に見舞われました。大地震と大津波という自然災害に加え、フクシマ原発という人間が作り上げたものによる大災害は、人間中心主義や科学万能主義への懐疑をもたらしました。こうした価値観の大転換期には、リーダーの役目が大変重要です。そこで、昔話「桃太郎」を材料にしてリーダーシップについて考えたいと思います。


 皆さんが知っている「桃太郎」は、おおよそこんな話ではないでしょうか。
 昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいて、おばあさんが川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきた。その桃を拾って帰ったおばあさんが、おじいさんと桃を切ってみると、中から元気のいい男の赤ちゃん。子どものいなかったおじいさんとおばあさんは大喜びで、男の子を桃太郎と名付けて育てた。桃太郎はスクスク育って、強い男の子になる。
 ある日、桃太郎は鬼退治に行くと言いだし、おばあさんにきび団子を作ってもらって、鬼ヶ島へ出かけた。途中で出会ったイヌは鬼退治のお供をするというので、きび団子をあげ、次に出会ったサルやキジも鬼退治のお供をするというので、きび団子をあげ、仲間になった。
 鬼ヶ島では、鬼たちは酒盛りの真っ最中。そこへ桃太郎たちは攻め込み、イヌはかみつき、サルはひっかき、キジはくちばしで鬼の目をつつき、桃太郎も刀をふり回して大あばれ。奮闘した桃太郎たちは何とか鬼を退治して、おじいさんやおばあさんの住む村に帰っていった。
という話です。

 この「桃太郎」の話から、皆さんはどんな問いを立て、どんな答えを出し、何を学びますか。大学受験では、問題は与えられますし、答えも一つだけ存在します。しかし、皆さんがいずれ活躍する社会においては、問題は与えられません。答えは複数存在することもありますし、ないこともあります。そういう複雑な世界をどう切り抜けるかが問われます。
 「桃太郎」の話の中から、問いをたくさん立ててみましょう。その中で学んだことを皆さんへのはなむけの言葉とします。
 ということで、最初のはなむけの言葉は「辛くとも自分の頭で考え、自分で問いを立てる人であれ」とします。

 

 さて、桃太郎はイヌ、サル、キジを率いて鬼退治をしたのですから、リーダーであったと言えます。では、桃太郎はいつリーダーになったのでしょうか。
 桃太郎が鬼退治に行こうと村を出た時には一人ですから、桃太郎はリーダーではありません。イヌ、サル、キジがお供、つまりフォロアーになったとき、桃太郎はリーダーの卵になったと考えられます。
 ここでのポイントは、フォロアーが先でリーダーは後、つまり、フォロアーがリーダーを作るということです。
 では、イヌ、サル、キジはなぜ桃太郎のフォロアーになったのでしょうか。
 イヌもサルもキジも、桃太郎が鬼退治に行くというのでお供になりました。桃太郎の志、ビジョンに共鳴したのが、フォロアーになった理由です。きび団子をもらったから家来になったという説もありますが、きび団子くらいでは誰も命がけの戦いに加わらないでしょう。
 ところで、桃太郎がイヌやサルやキジにどんなふうに鬼退治のビジョンを話したか、気になりませんか。何としても鬼退治をやり遂げるんだという熱い思いを桃太郎は語ったことでしょう。でも、それだけではないと思います。鬼退治のビジョンを語った上で、鬼退治をやり遂げることは非常に難しいことだとイヌやサルやキジに伝えたと、私は見ています。無理難題だといわれると何くそと奮い立つでしょう。卯高のやり方です。これを用いたと、にらんでいます。皆さんと同様、イヌもサルもキジも限界に挑戦する喜びに引きずり込まれていったのです。
 ということで、第二のはなむけの言葉を「自分のビジョンをもち、そのビジョンを周囲に語ろう」としましょう。

 

 しかし、ビジョンをもてといわれても、何をしたいかよくわからないという人もいるでしょう。私もそうでした。高校時代にはどの道に進むかを決められず、大学でも夢中になれるものを見つけられず、教師になって初めて夢中になることができた人間でした。ビジョンが見えないという人のために考えてみましょう。
 桃太郎はなぜ鬼退治というビジョンをもつに至ったのでしょうか。
 桃太郎はドンブラコと川を流れてきた孤児でしたし、育ててくれた人が歳を取ったおじいさんとおばあさんでしたから、桃太郎は子育てが見返りを求めない贈与であることにいち早く気づきました。そこで、おじいさんやおばあさんに返すことのできない贈与、贈与の代わりに恩といってもいいですが、与えていただいた恩を村の人々にお返ししようと鬼退治に行ったのです。
 人は皆、一人で生まれ、縁あって親子となり、育ててもらいます。桃太郎と同じです。いただいたものは誰かに返さないと、生き物の世界は回っていきません。そこで、第三のはなむけの言葉を「してもらったことを、後からくる誰かに返していこう」としたいと思います。

 

 ここで、心から大切に思える人がいない、愛せる人がいない、という人のために一言。自分の心の主人公は、自分自身です。心からこの人を大切にしよう、一生愛し続けようと決心し、実行することです。自分の心は自分で動かすもので、他人に動かしてもらうものではありません。ですから、自分の機嫌くらいは、自分で直しましょう。

 脱線してしまいました。ビジョンを持てないという人のために、二つだけアドバイスをしましょう。
 一つは、「心を動かすには体を動かすといい」という法則の応用です。具体的にいいます。フクシマに身を置いてみなさい。海外に出てみなさい。そこで、自分の体が何を感じるか、何をしたいと思うか、試してみなさい。大学へ行ったら、これはと思う教授につきまとってみなさい。いろんなものに首を突っ込んでみなさい。そこで、この人は本物だ、これは面白そうだと感じたら、飛び込んでみるか、あるいは引きずり込まれてみるかするといいでしょう。
 もう一つは、目をしっかり見開いて世界や日本を見ることです。無理難題が山のようにあります。フクシマ原発事故対応、大地震や大津波からの復興、エネルギー問題、環境問題、財政危機、年金問題、医療崩壊、金融危機、外交問題など、いくらでも危機や難題はありますから、ビジョンづくりの材料には事欠きません。

 リーダーは最悪の状況を想定して対策を考えます。一つの試みとして、日本が滅亡する事態を想定してみましょう。あり得ないと思いますか。しかし、歴史上、滅亡した国や民族は数限りなくあります。日本が滅亡しないという保証はどこにもありません。
 例えば、カルタゴです。強国ローマと戦争をして、紀元前一四六年に滅亡しました。日本も中国と全面戦争すれば滅亡するかもしれません。ですから、中国と戦争をせずにすむ方策をしたたかに考えなければなりません。
 一四〇〇年代のグリーンランドのノース人は、隣人のイヌイット族と交流せず、周囲の海から魚を捕ることもしなかったので全員が餓死しました。日本も世界の国々と貿易できなければ、食糧やエネルギーを輸入できず、多くの人が餓死するでしょう。ですから、世界の国々と貿易できる関係を維持する努力を、誠実に積み上げなければなりません。
 一六〇〇年代のイースター島では森林伐採のために民族が消えてしまいました。少子化を本気で止めなければ、人口減により日本は消滅してしまいます。
 課題の多さが国を滅亡へと追いやるのではありません。課題を本気で解決しようとしない国、ビジョンを持とうとしない国が滅亡へと転がり落ちていくのです。ビジョンを持てないと悩んでいる場合ではなさそうです。そこで、第四のはなむけの言葉は「自分のビジョンと出会うために、冒険の旅に出よう」にします。
 人はやったことよりもやらなかったことを後悔する生き物です。しかもやらないでいるとあっという間に時は過ぎていきます。皆さんは若いのですから、じっとしていないで、体を動かしさない。目をしっかと開いて、世界を感じてきなさい。

 

 イヌ、サル、キジが桃太郎のフォロアーになった理由は、桃太郎のビジョンでしたが、それだけでしょうか。桃太郎には、ビジョンの他にもイヌ、サル、キジを引きつける魅力があったのではないでしょうか。
 皆さんはどんなリーダーについていきたいと思いますか。何でもできる完璧なリーダーはどうですか。リーダーが何でも完璧にできたらフォロアーはやることがありませんね。
 桃太郎は何でもできるリーダーではなかったと思います。噛みついたら絶対に離さない、粘り強く最後までやり抜く意志力は、イヌの方が上でした。臨機応変に対応し、問題の行き詰まりを打開する行動力は、サルのほうが上でした。全体を俯瞰し、欠点や良さを見抜く洞察力ではキジのほうが上でした。桃太郎はそうした能力を認め、活かしてくれました。だから、イヌもサルもキジも桃太郎についていったのです。
 私たちは「できることがいいことだ」という価値観に固執しがちです。しかし、リーダーにとっては何でもできることは必ずしも大事なことではないのです。そこで、第五のはなむけの言葉を「完璧にできることがいいことだという価値観を超えよう」としておきます。

 

 では、リーダーとしての桃太郎の魅力は何だったのでしょうか。
 第一の魅力は、桃太郎の太陽のような「パワー」です。エネルギー、生命力と言ってもいいでしょう。桃太郎の側にいるだけで元気をもらえますし、一緒にいて楽しいリーダーでした。
 第二の魅力は、心から信じ合える「信頼」です。桃太郎は上から命令するだけのリーダーではありませんでした。イヌ、サル、キジの得意分野については彼らに任せていました。しかも鬼退治というビジョンを語るだけでなく、きび団子という報酬にも気を配っています。桃太郎は懐が深く、思いやりのあるリーダーでした。
 将来リーダーとなる皆さんには桃太郎のようになってもらいたいものです。そこで、第六のはなむけの言葉を「太陽のようなパワーを持ち、信頼されるリーダーとなろう」としたいと思います。

 ところで、日本の大学に勤めている中国籍のある大学教授に「中国や韓国の人は、自国の文化に誇りを持たない人を尊敬はしない」と言われたことがあります。意見や立場が異なっても、しっかりとした自分の意見やアイデンティティをもっている人は尊敬され、信頼されるようです。

 

 「桃太郎」の話から、まだまだ問いを立てることができそうですが、この辺りで最後の問いにしましょう。
 桃太郎の最初のお供はイヌでした。なぜイヌが最初だったのでしょうか。それは、粘り強く最後までやり抜く意志力がもっとも重要だからです。第十三代米国大統領のカルビン・クーリッジがこんな言葉を残しています。

 

 この世に、粘り強さに代わるものはない。
 能力でもダメだ。すばらしい能力を持ちながら、成功できなかった人間など山ほどいる。
 天才でもダメだ。「不運の天才」は、今や決まり文句と言ってよい。
 教育でもダメだ。世界は教養ある落伍者であふれているではないか。
 粘り強さと決意、それだけがすべてに打ち勝つ。

 

そこで、最後のはなむけの言葉です。「粘り強さだけはお前にはかなわない、といわれるような男になろう」。

 

 最後に、はなむけの言葉を整理しておきましょう。七つありました。

一、辛くとも自分の頭で考え、自分で問いを立てる人であれ
二、自分のビジョンをもち、そのビジョンを周囲に語ろう
三、してもらったことを、後からくる誰かに返していこう
四、自分のビジョンと出会うために、冒険の旅に出よう
五、完璧にできることがいいことだという価値観を超えよう
六、太陽のようなパワーを持ち、信頼されるリーダーとなろう
七、粘り強さだけはお前にはかなわない、といわれるような男になろう

 

 改めて、皆さん、卒業、おめでとうございます。皆さんが卯高生でいてくれたことに感謝します。とても楽しい3年間でした。ありがとうございました。


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