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高等学校等校長研究協議会での挨拶

2016年01月17日 | だいこん県教委 2015
 
 県立学校長への奥井の挨拶原稿です。年頭所感とか、1年の初めにはいろいろと考えを披露しなければならないので、トップは大変ですね。
 というか、奥井のようなトップについていく人たちは大変ですね。どんな世界に連れて行かれるか、わかりませんから。
 
 
 
 校長先生方、あけましておめでとうございます。
 健やかに新春をお迎えになられたことと、心からお慶びを申し上げます。
 今年度3回目の校長会議にあたり、本日は、大きく2点、お話させていただきます。
 
1 年頭にあたっての所感
  まず、「年頭にあたっての所感」についてお話します。
 年末年始に読んだ本に、中谷内一也著「信頼学の教室」(講談社現代新書)と榊原英資・水野和夫共著「資本主義の終焉、その先の世界」(詩想社新書)があります。
 
 「信頼学の教室」では、信頼について、とても勉強になりました。
 信頼できるかは、相手の「能力面についての評価」、「動機づけ面(努力、公正さ、誠実さ)での評価」、「価値を共有していることについての評価」の3つの要素が重要であるということです。信頼を低下させるような不祥事などが起きたときには、能力などを改善することよりも、同じ価値を共有するという観点のほうが重要となります。信頼が低下しているときには、能力や成果を宣伝しても信用してもらえないので、相手に寄り添いながら共感できる点を探していくことが大事だということです。
 価値を共有する方法ですが、ストーリー、物語の共有がよいようです。このことについては、楠木建著「ストーリーとしての競争戦略」(東洋経済新報社)が参考になります。
 
 「資本主義の終焉、その先の世界」では、行動原理が変化しつつあることを教えられました。
 膨張が続いていた近代という時代には、「より速く、より遠くに、より合理的に」ということが行動原理でした。しかし、現代は、拡大・膨張路線が終焉しつつある時代で、マーケットからも新たなフロンティアがなくなっていく時代だそうです。膨張がストップしたこれからは、「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」という行動原理が重要になります。現在は、行動原理の転換が起こる、価値観のせめぎ合いが起こるような時代にいると榊原英資さんは言うのです。
 こんな本を読みながら、今年のキーワードは「信頼」と「変化」になるのではないかと考えました。
 
(1) 信頼について
 学校が信頼を得るには、価値の共有が最も大切だというのはわかる気がします。「能力面」や「動機づけ面(努力、公正さ、誠実さ)」は学校から生徒・保護者などへの一方向ですが、「価値の共有」は双方向です。価値の共有から価値の共鳴へと持っていくことができれば、相互信頼は高まっていくでしょう。
 では、どうやって学校の価値の共有を図ればよいでしょうか。「学校の価値」とは「生徒の成長」です。生徒が3年間あるいは4年間でどう成長していくか。そのために、授業や行事、部活動などにどんな仕掛けが凝らされているか。
 基本的生活習慣の確立から始まって、アクティブ・ラーニングを取り入れた授業、クラス経営、体育祭などの学校行事、部活動、進路指導を含めたキャリア教育にいたるまで、生徒たちを成長させるための工夫が沢山仕掛けられていると、生徒や保護者が感じ、教職員が意識できたら、価値の共有や共鳴が起こってくるのではないでしょうか。
 そうした点から、各学校ではその学校なりの「子供たちの成長物語」を整理して、生徒や保護者たちに語っていってほしいと思っています。
 
 学校が信頼を得るには、「価値の共有」だけでなく、「能力面での評価」も高めていく必要があります。成果を生む実力、学校の教育力を地道に高めて行かなければ、「価値の共有」も色あせていきます。
 学校の教育力を高めるには、水平、垂直、斜めの3方向から教育力をつなげていかなければならないと思っています。
 
 国が進めている「チーム力」は水平の力の結集です。個々の教職員がバラバラに頑張るのではなく、学校目標を目指して、各分掌や学年団、教科会などが組織的に取り組むことで教育力を上げるのが水平方向からの教育力向上です。
 
 垂直方向は、過去からの積み上げです。各学校には引き継がれてきたよさがあります。そのよさを再確認することです。また、学校内には様々な教職員が様々な工夫を凝らした授業や実践を行っています。それらを真似し、学び、共有することで、学校全体の財産として後から来る者たちのために積み上げていくのです。この積み上げを学校文化にしていけば、垂直方向からも教育力は高まります。
 
 斜めの方向は、他校教員との学び合い、学校間の学び合いです。今年度から、学校を越えた学び合いを進めるための「学校間ピアレビュー」を始めました。同じような課題をもつ学校が、優れた教育実践を共有し、学習する学校へと質的な転換を図るためにも、「ネットワーク会議」によって進められる学校間の学び合いをしっかり定着させていきたいと考えています。
 
 この水平、垂直、斜めの3方向から学校の教育力を高めていくことが、日本の教育の信頼を高め、日本の未来を創ると思っています。
 
(2) 変化について
 次に、日本の学校教育を取り巻く変化についてお話しします。3つの変化を取り上げてみます。
 1つ目は、財政難がより厳しくなるという変化です。教員定数を巡る財務省と文科省の戦いが繰り広げられていますが、この影響で、学校現場にもエビデンス、つまり科学的根拠が求められようとしています。また、国や県の公助に頼っていてはジリ貧になりますので、自助・共助で自立した学校経営を行う気概も求められるようになります。
 県では、教育環境基金を立ち上げましたが、その活用とともに地域や企業、大学等との連携も拡大し、各学校で主体的に学校運営に努めていく必要があると考えています。
 
 2つ目は、先ほどお話ししましたが、「より速く、より遠くに、より合理的に」という行動原理と、「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」という行動原理のせめぎ合いです。教育は、最後尾を行く営みであると同時に、最先端を行く営みです。現在のグローバル化の進展した競争社会に対応する行動原理「より速く、より遠くに、より合理的に」を身につけさせる教育と、人類初の人口減を迎えるまでに共生社会の行動原理「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」を身につけさる教育も行わなければなりません。
 どちらの行動原理を身につけさせるためにも、知識技能の習得だけではなく、その活用力、自助・共助で学び続ける姿勢や学び方、思考力・判断力・表現力、主体性・協働性・多様性を大切にしていかなければなりません。つまり、「学びの改革」を進める必要があります。
 具体的には、今後、協調学習をアクティブ・ラーニングという大きな枠の中でとらえ直すことで、新たな可能性や有効性について研究し、さらに、教材のデータベース化や協調学習マイスターの活用等を図ることで、教員が主体的に学び合える環境を整えていきたいと考えています。
 校長先生方には、だいこん県発のこうした取組により、「日本の教育を変えるんだ!」という気概を持って学校経営にあたっていただきたいと思います。
 
 3つ目は、OECDや教育産業の変化です。
 OECDがPISAという国際テストを開発・実施していることには、深い意図があると考えています。深い意図とは、未来を担う人類の子供たちが普遍的な考え方を共有し、平和で持続的な発展が可能な世界を作るために、教育を活用しようという意図ではないでしょうか。一言で言うと「教育で民主主義を広めること」です。
 PISAは、各国の学力の比較という面が強調されて報道されていましたが、ランキングに主眼があるわけではありません。当初、PISAは、単なる知識の習得ではなく、知識の活用を打ち出して注目を浴びました。現在は、さらにICT活用能力などと併せて、「クリティカル・シンキング」つまり「批判的思考力」や、「非認知能力」つまり「意欲や態度」の育成をどう導入するかに重大な関心を持ち、研究していると聞きます。健全な批判的思考力などを持つ将来の民主主義の担い手を、全世界で育てようとしているわけです。
 日本は、OECDのこうした意図を理解し、それに協力するだけでなく、ルールを作る側に参画していく意志を持つべきだと考えています。キリスト教文化圏ではない日本が参画することに、世界的にはとても意義があると思っています。
 
 また、身近な教育を取り巻く状況を見ても、大きな潮流が動き始めていることがわかります。ICT企業と教育産業が手を組み、教育コンテンツの開発競争が世界的に始まっています。日本でも、リクルート、クイッパー社、公文などが教育コンテンツで世界に挑戦しようとしていますし、家庭教師のトライがスマホを振って授業の映像コンテンツをPRしているテレビCMは、既に中高生にも身近なものになっています。
   
 教育産業は、自動車産業やスポーツ産業を超える大きな産業になっていくでしょう。PISAの普及により、世界的に統一した基準で教育を評価できるようになりました。さらに、スマホの普及により、ICTコンテンツを一人一人の子供たちに直接送ることができるようになりました。しかも、発展途上国では若者が増えていますので、市場は豊富です。したがって、教育産業が学校教育を大きく変えていく可能性があります。
 
 3つの変化を取り上げました。これらの変化に受け身のままでいると、日本の学校は取り残されていきますし、子供たちや保護者たちが混乱します。こちらから変化をリードするつもりで変化に挑戦していきたいと思っています。例えば、ICTの教育コンテンツを民間企業と共同開発し、世界へ打って出ることも考えて行こうと思います。
 できない理由を探すのではなく、できる理由を見つける姿勢で、変化に主体的に対応していくつもりです。
 
 さて、今年は丙(ひのえ)丙(ひのえ)申(さる)申(さる)年(どし)年(どし)、干支のうんちく学で言えば、物事が明らかになって、横に伸びていく年だそうです。だいこん県教育が、ますます伸びていくことの象徴とも言える今年の丙(ひのえ)丙(ひのえ)申年(さるどし)申年(さるどし)、校長先生方には、児童・生徒の成長のため、引き続き御尽力いただきたいと思います。
 なお、蛇足ですが、12年前の年賀状の切手部分の猿は一人で温泉につかっていましたが、今年の年賀状では、子猿と一緒につかっています。切手にもストーリーがあって愉快です。ストーリーに気づくと、何やら心が温かくなってきませんか。
 丙(ひのえ)丙(ひのえ)申年(さるどし)申年(さるどし)が、校長先生方にとって良い年となることを願っています。
 
2 4つのお願い
 続いて、具体的なお願いを4つ申し上げます。
 
(1) だいこん県教育の振興に関する大綱について
 最初に、「だいこん県教育の振興に関する大綱」についてです。
 昨年4月の「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の一部改正を受け、知事が主宰するだいこん県総合教育会議において、知事と教育委員会が広くだいこん県教育について協議を行った上で、知事により、「だいこん県教育の振興に関する大綱」が策定されました。
 県教育委員会といたしましては、この「大綱」を踏まえ、教育行政の推進に努めてまいりますので、校長先生方には、必ず、御一読いただくようお願いします。
 
(2) 障害者雇用の促進について
 次に、「障害者雇用の促進」についてです。
 現在、都道府県教育委員会に義務付けられている法定雇用率は2.2%ですが、平成27年度のだいこん県教育委員会の障害者雇用率は1.97%で、全国44位となっています。
 不足数59人は全国ワースト1位という大変厳しい状況にあることから、先月2日(水)、私がだいこん県労働局に呼ばれ、だいこん県労働局長から直接、早期に法定雇用率を達成するよう要請を受けたところです。
 校長先生方には、今後、障害のある非常勤職員の配置などをお願いすることもあろうかと存じますが、その際は、是非、御協力をお願いします。
 
(3) 主権者教育について
 次に、「主権者教育」についてです。
 今年は、高校生が国政選挙に参加する年となり、夏に実施予定の参議院議員選挙では、高校3年生の一部の生徒が、初めて投票権を行使することから、政治的教養を育む教育を進めることは、今年の大きな課題であると捉えています。
 そのためには、現実の具体的な政治的事象を取り扱い、生徒が有権者として自らの判断で権利を行使することができるよう指導することが大切ですが、大前提として、政治的中立性を確保することが必要です。
 各学校に送付した副教材の教師用資料の巻末には、政治的中立の確保に係る留意点が細かく記載されています。
 校長先生方には、昨年10月に出された文部科学省の通知とともにしっかり目を通していただき、その上で、創意工夫を凝らした政治的教養を育む教育に取り組んでいただきたいと思います。
 
(4) 障害者差別解消法の施行について
 次に、「障害者差別解消法の施行」についてです。
 既に御案内のとおり、今年4月1日に、「障害を理由とする差別の解消に関する法律」、いわゆる「障害者差別解消法」が施行されます。
 この法律は、地方公共団体に対し、「障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」を義務付けています。
 校長先生方には、全ての教職員に、この法律の趣旨を十分に理解させ、障害者に対して、より丁寧に対応できる教職員を育成していただきたいと思います。
 
 それでは、本年も愉快に頑張ってまいりましょう。

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