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課所館長連絡会議 挨拶

2016年01月13日 | だいこん県教委 2015
 課所館長連絡会議での奥井の挨拶原稿です。
 奥井にも危機感があるんですね。危機感を抱いているなんて、あまり感じませんが、何しろ「愉快」を追い求めている男ですから。でも、それなりに苦労もあるんでしょう。少しはね。
 
 
 
 はじめに 2つの危機
 
  課所館長の皆さん、あけましておめでとうございます。
 
  私は今、強い危機感を持っています。私が抱いている危機は2つあります。1つは、教員の質の低下という危機です。もう1つは、教育内容の変化に遅れるという危機です。
 
  教員の質の低下は、厳密に言えば、教員の質の多様化です。
  教員という職業は、以前ほど魅力のあるものではなくなっています。教特法の効果も薄れ、給与は一般公務員と変わらなくなっていますし、教員を長く務めれば奨学金の返済が免除された制度もなくなりました。教員への尊敬も失われ、教員や学校を見る目も厳しくなっています。また、昔は女性が一生働ける仕事は教員くらいしかありませんでしたから、優秀な者が学校に集まる傾向がありましたが、これからは教員の質は多様化していくでしょう。
 
  教育内容の変化には、全く違った2つの流れがあると感じています。
  榊原英資さんによりますと、現代というのは、拡大・膨張路線が終焉する時代、マーケットからも新たなフロンティアがなくなる時代です。これまでの膨張が続いていた近代という時代には、「より速く、より遠くに、より合理的に」ということが、行動原理でした。しかし膨張がストップしたこれからは、「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」という行動原理が重要になります。行動原理の転換が起こる、価値観のせめぎ合いが起こるような時代にいると榊原英資さんは言います。
  現在は、「より速く、より遠くに、より合理的に」ということがより強く求められる時代であり、かつ、「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」という行動原理もまた求められるという、まさに「多面的、多角的にものを見、考え、行動する教育」かつ「主体的に協働して学ぶ教育」に取り組まなければならない時代になりました。したがって、教育内容や教育方法がこれまでとは大きく変わることになります。
  これらの危機は、学校教育で成功体験をしてきた日本にとって受け入れがたいものです。ですから、これらの危機を見ないことにする人が多いでしょう。「人は見たくない現実は見ようとしない」生き物のようですから。
  それだけに、私は強い危機感を持っているのです。
 
 
1 激動する世界と教育 
 
  私たちが生きているこの世界は、大変な時代に突入しました。
  過激派組織ISIL、いわゆる「イスラム国」が、世界の安全保障を脅かしています。シリア国内のISIL支配地域への空爆は続き、その報復として、ロシアの航空機が撃墜されたり、パリでは大きなテロがあったりしました。
  日本も、標的のひとつとして名指しされています。東京オリンピック・パラリンピックも近づいている中、危機管理上、決して人ごとではありません。人の集まる学校がテロに狙われるかもしれません。
  中東では、イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアは、シーア派の大国イランと外交関係を断絶しました。これに追随して、バーレーンやスーダンもイランと外交関係を断絶する事態となり、中東での混乱が拡大しています
  ヨーロッパでは、シリアから大量の難民が怒濤のごとく押し寄せ、大きな国際問題となっています。人道的な見地からも、人類が知恵を結集して立ち向かわなければならない事態になっています。
  アジアでは、中国が南シナ海を不法に占拠・埋め立てし、軍事拠点を築いてベトナムなど近隣諸国と摩擦を引き起こしています。
  21世紀の世界は不穏な状況にあると言わざるを得ません。
 
  こうした時代背景を考えたとき、OECDがPISAという国際テストを開発・実施していることには、深い意図があると考えるべきではないでしょうか。深い意図とは、未来を担う人類の子供たちが、普遍的な考え方を共有し、平和で、持続的な発展が可能な世界を作るために教育を活用しよう、という意図ではないかと考えています。一言で言うと「教育で民主主義を広めること」ではないかと想像しています。
  PISAは、各国の学力の比較という面が強調されて報道されていましたが、単なるランキングに主眼があるわけではないでしょう。当初、PISAは、単なる知識の習得ではなく、知識の活用を打ち出して注目を浴びました。現在は、さらにICT活用能力などと併せて、「クリティカル・シンキング」つまり「批判的思考力」や、「非認知能力」つまり「あるべき意欲や態度」の育成をどう導入するか、に重大な関心を持ち、研究していると聞きます。健全な批判的思考力などを持つ将来の民主主義の担い手を、全世界で育てようとしているわけです。
  私は日本も、OECDのこうした意図を理解し、それに協力するだけでなく、ルールを作る側に参画していく意志を持つべきだと考えています。キリスト教文化圏ではない日本が参画することに、世界的にはとても意義があると思っています。
 
  また、視点をずらして、もっと身近な教育を取り巻く状況を見ても、大きな潮流が動き始めていることがわかります。ICT企業と教育産業が手を組み、教育コンテンツの開発競争が世界的に始まっています。日本でも、ベネッセやリクルート、クイッパー社などが教育コンテンツで教育界に挑戦しようとしていますし、家庭教師のトライがスマホを振って授業の映像コンテンツをPRしているテレビCMは、既に中高生にも身近なものになっています。
  教育産業は、自動車産業やスポーツ産業を超える大きな産業になっていくでしょう。PISAの普及により、世界的に統一した基準で教育を評価できるようになりました。さらに、スマホの普及により、ICTコンテンツを一人一人の子供たちに直接送ることができるようになりました。しかも、発展途上国では若者が増えていますので、市場は豊富です。したがって、教育は、今後、最も有望な産業でしょう。
  こうした状況に私たちはいるのです。
 
 
2 2つの危機への対応 
 
  2つの危機への対応について、少しお話しします。
 
  1つ目は、「教員の質の低下」という危機への対応です。対応策は大きく2つあります。
  1つは、優秀な者が教員を目指すように工夫することです。子供と関わることの楽しさや喜びを多くの人に味わってもらうとよいでしょう。学校だけではなく、元気プラザや博物館、図書館等でも工夫できることだと思います。
  優秀な者が管理職を目指すよう工夫することも、対応の1つです。優秀な女性教員に管理職を目指してもらうためには、管理職の働き方が変わるような環境の整備が必要です。長時間勤務をしなくてもすむよう、あらゆる方面から発想の転換をして工夫することが必要です。管理職の楽しみ方も知ってもらう必要もあります。
  私も時事通信社の「内外教育」に「管理職は愉快です」という連載を、無理をして続けています。皆さんも様々な工夫をお願いします。
 
  もう1つは、教員の質が低下することを前提に、優れた教材や指導法を共有し、教育力を向上させるという対応です。研究授業で実践した優れた指導案を学校として分類して保管し、全員で活用する文化を築くことです。新人や力量の劣る教員でも、優れた教材や教具、指導案を使って授業を行えば、よい授業ができ、子供たち伸ばすことができます。そうしてよい指導を実践しているうちに実力も上がります。日本の学校には、優れた取組が沢山眠っています。埋もれた財産が山のようにあるのです。そうした財産を教員が学び合い、成長する学校文化を築くことで、学校全体の教育力を向上させていけば、日本の教育の未来は明るくなります。
  優れた実践を学び合い、積み上げ合うという文化は、学校だけが築くのではなく、教育事務所や他の課所館でも築いていってほしいと思います。教育局のあらゆる課所館で、優れた実践を学び合い、積み上げ合うという文化を意識して築こうとしなければ、文化は浸透していきません。よろしくお願いします。
 
  2つ目の危機は、教育内容の変化に遅れるという危機でした。この対応においては、2つの姿勢が必要となります。
  1つは、積極的に変化しようとする姿勢です。教育の世界では「不易と流行」という言葉が人口に膾炙し、「不易」を言い訳にして何も変えない思考停止に陥る傾向があります。成功体験があるだけに、ゆでガエルになる可能性が高いのです。
  そこで、課所館長さんにお願いです。変化しようとする意欲のない部下や管理職、市町村教育委員会には冷たくしてください。変化しようとする意欲のある部下や管理職、市町村教育委員会は、意図的に支援してください。全員が主体的に動こうとしない、全員が公助頼みになってしまったら、公助で助けることはできません。できるだけ主体的に変化してもらわなければなりません。最初は冷たくしますが、最終的には、自助・共助だけでは変化できない少数の部下や管理職、市町村教育委員会を公助で助けます。冷たくするのは、自立しなさいという愛情です。決して見捨てはしません。
 
  もう1つは、「WHY?なぜそうするのか?」と本質を見据える姿勢です。なぜ、教育内容を変化させなければならないのかと問い続けなければ、何を変え、何を変えないかの判断がつきません。
  「多面的、多角的にものを見、考え、行動する教育」や「主体的かつ協働して学ぶこと」がなぜ必要なのかがわかれば、「WHAT?何を」「HOW?どうするか」は生み出すことができます。
  学校教育に直接関係のない課所館長さんも、「なぜ教育内容を変えるのか」という問いをご自身で問い続けていただきたいと思います。
 
 
3 勝負の年、チャレンジの年 
 
  次に、新年にあたって、今年一年間を見据えた動きについて、少し具体的にお話をさせていただきたいと思います。私は、今年は、「勝負の年」だと思っています。今までやってきた様々な取組が、今年、大きな勝負の時を迎えます。ここでは、大きく2点お話ししたいと思います。
 
  1点目は、県の学力学習状況調査です。
  県学調2年目の今年は、いよいよ、児童生徒ひとりひとりの学力等について、1年目との比較ができ、経年変化が目に見えるようになります。これにより、県学調が本格稼働に入ります。そこで、県学調の目的と目的実現に向けた物語、ストーリーを確認しておきたいと思います。
  県学調の目的は、児童生徒一人一人のよさを伸ばし、学力を中心とした生きる力を身につけさせることにあります。履修主義の欠点を補い、一人一人に応じた速度で習得してもらうことです。
  県学調の物語ですが、次のような物語です。
  県学調は、IRT(項目反応理論)やパネルデータに特徴があります。IRTによる試験なので、児童生徒の学力を相対評価ではなく、絶対評価で測ることができます。絶対評価ですから、一人一人の児童生徒の学力の経年変化がわかります。学力の伸びと指導などとの関係を調べることにより、どんな指導やどんな環境がどういう児童生徒に効果があるかどうかがわかります。エビデンスベース、つまり科学的根拠を明らかにして、教育効果を証明できるのです。この点に、文科省も財務省もOECDも注目しているのです。
  こうして効果があると科学的に証明された「すぐれた取組」を各市町村教委や学校から集め、公表します。次に、各市町村教委や学校は自分のところのよさや課題を確認し、「すぐれた取組」の中からまねたり、改善して活用したりします。これを繰り返すことにより、「すぐれた取組」を沢山積み上げ、一人一人に応じた教育力をだいこん県全体であげていきます。そうすることで、児童生徒一人一人がよさを伸ばし、生きる力を確実に身につけるようになります。
 
  こうした県学調の物語を広めていく上で、大きな課題が2つあります。
  課題の1つ目は、各学校や市町村教委が県学調を用いて「すぐれた取組」を発掘しようと努めてくれるかという課題です。児童生徒に対して、各学校や教員が指導を工夫して実践した上で、県学調に取り組んでいただけないと、「すぐれた取組」を発掘できません。
  課題の2つ目は、各学校や教員が他校や他の教員の「すぐれた取組」を取り入れようとしてくれるかという課題です。「すぐれた取組」があっても、まねたり、改善して活用したりしなければ、宝の持ち腐れです。まねる文化、活用する文化を広めなければ、「すぐれた取組」は広まりません。
  そこで、お願いです。「すぐれた取組」を発掘しようと努めてくれた市町村教委や「すぐれた取組」を取り入れようとしてくれた市町村教委を支援してください。頑張っている市町村教委に対して様々な面からバックアップして、他の教委も頑張ろうという気にさせてほしいのです。よろしくお願いいたします。
 
  2点目は、アクティブ・ラーニングの一層の推進です。
  御存知のとおり、東大CoREFと連携して協調学習を推進してきた結果、だいこん県の取組が次期学習指導要領にも影響を与え、アクティブ・ラーニングの先進県となりました。
  今や、本県の県立高校の教員が、請われて、高知県や鳥取県の学校まで、旅費は先方負担で、モデル授業をしに行って、助言をしています。また、総合教育センターには、高知県から教員が1名、一年間派遣されて研修しています。今週末の土曜日にはトナカイ市文化会館で「未来を拓く学びプロジェクト」の報告会が開催されますが、昨年は27都道府県から600名の参加がありました。他県が学ぼうとするだいこん県の協調学習は、だいこん県教育の強みです。新年度にはCoREFが全国の自治体と取り組む「新しい学びプロジェクト」の主査県として、義務教育も含めてCoREFと全国の自治体のネットワークのハブとなり、一層の広がりを期待しているところです。
  また、義務教育指導課が進めてきた「考え、話し合い、学び合う学習」推進事業でも、28年度は成果の活用、そして全ての学校で「学び合う学習」を実践する段階に向かいます。
  文科省や研究者からも、「アクティブ・ラーニングの実践といえば、だいこん県」という声を聞きます。
 
  しかし、「なぜアクティブ・ラーニングを推進する必要があるのか」を考えない教員がまだまだ沢山います。児童生徒が活動的な授業だから、グループ学習をしているからアクティブ・ラーニングだと勘違いして、今までとあまり変わらない授業をしている教員が沢山います。
  「なぜアクティブ・ラーニングを推進する必要があるのか」をすべての教員に考えてもらい、全ての学校種でアクティブ・ラーニングを一層進めることで、「学びの改革」を深めていきたいと考えています。
 
 
 おわりに 

  勝負の時、チャレンジの年として、2点を挙げましたが、各課所館それぞれに、勝負所、つまりこれまでの教育実践の守るべきよいところと、改善すべき課題があると思います。
  私も4年目を迎える今年は、これまでの集大成の年と考えて全力で取り組んでいきたいと思います。各課所館長さんにおかれては、積極的に変化しようとする姿勢と「WHY?なぜそうするのか?」と本質を見据える姿勢とで、未来を切り開いていっていただきたいと思います。
 
  今年も、愉快、爽快、痛快にやっていきましょう。よろしくお願いします。

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