ニュージーランド移住記録「西蘭花通信」

人生の折り返しで選んだ地はニュージーランドでした

不味くてもいいから

2002-08-14 | 移住まで
「多少不味くてもいいから、安全なものが食べたい。」
ここ数年はこんな思いが抗しきれないほど強くなってきています。特に子どもができてからは切実です。香港は飲料水から食品全般、口に入るもののほとんどを中国をはじめとする外国に頼っています。アメリカやオーストラリアといった主要農産国以外からも、タイのチキン、オランダのトマト、スウェーデンのししゃも、イスラエルのオレンジ、南アフリカの貝、台湾のえのきだけと、枚挙に暇がないほどありとあらゆる国からの食品がスーパーに並んでいます。

農業従事者がほとんどいない場所なので、NZの約2倍に当たる680万人の人口は食品を外部から調達しないと文字通り"食っていけない"のです。そのため世界中からいろいろな物が流入してくるのですが、事は食べ物。工業製品のように同じ物なら安ければ安いほどいい、という訳にはいきません。生鮮食料品を筆頭に「安くて新鮮で・・・」となると勢い中国産に頼ることになります。

ところが、中国からの食品は、残留農薬が強すぎて食べた人が痺れや嘔吐を訴えたり、果ては死亡したこともあるほど汚染された野菜や、ないに等しい工業排水規制の中、水銀等身体の中で分解されない鉱物を含んでいる魚介類が混じっていることなどが、繰り返し報道されています。肉はトリ風邪など、ニワトリをはじめとする家禽が感染するインフルエンザの発症元と見られ(実際の発症報告は香港に限られていますが)、数年前には香港で死者が出たこともあり社会問題化しています。

鳥インフルの感染経路を断ち切るために、1度に200万羽の生きたニワトリを処分したこともありました。あの時は胸が潰されるようでした。
「食用にならない。人に移る」
という人間の都合で200万もの命が失われたのです。しかし、それを決定した香港政府にもほとんど選択の余地がありませんでした。最近でも時々大量処分が行われており、笑い話のようですが、ニワトリに予防接種を受けさせるようにもなっています。

もちろん中国からの食品のすべてが汚染されているわけではないでしょうし、中国と日本が長葱で貿易摩擦を起したことも記憶に新しく、輸入審査が厳しいであろう日本市場にも中国野菜はかなり出回っています。なので色眼鏡で見ることは慎みたいと思いますが、いろいろな問題が次ぎ次ぎに報じられているのも事実なのです。こうした食べ物を毎日口にしなくてはいけない身には、これらの一つ一つが深刻な問題です。

そんな折に持ち上がっている、NZの遺伝子組み換えトウモロコシ問題。ライターのニッキー・ヘイガー氏が最近出版した「疑惑の種」の中で、2000年にアメリカから輸入された5.6トンのスイートコーンの種の中に遺伝子組み換えが行われたものが混じっていたと暴露したことから端を発した疑惑は、クラーク首相がこの事実を把握し、既に作付けが終わったトウモロコシをすべて引き抜かせようとしたにもかかわらず、業界団体の強いロビー活動でそれを断念したという経緯を詳述しています。農林省は既に、疑惑が持たれるトウモロコシ約30トンを見つけ出し、近く破棄することになっています。

ヘイガー氏が組み換え作物に一貫して反対している緑の党と深いつながりがあるため、これは政治問題として扱われかねませんが、農業国NZにとっては党是を超えた非常に重要な問題ではないでしょうか。世論でも言われているように、「組み換えフリー」の農作物というのは、「狂牛病フリー」の牛肉同様、NZ農産品への絶対の信頼となります。しかし、政府は限定的な組み換えの導入を検討しているようです。

遺伝子組み換え野菜や、抗生物質を投じた魚介類や肉類を前にして、消費者にはなす術がないのです。遺伝子操作はいったん受け入れてしまえば、種子を介してなし崩し的に広がってしまうことは素人でもわかることでしょう。組み換え食品は地球の食糧不足を解消する可能性を秘めていることになっていますが、現状ではアフリカの飢餓を解消する訳ではなく、企業のコスト削減の手段となり、「こんなに安いなら・・・」と既に食べ物が十分行き渡っている私たちの更なる飽食を煽っているだけではないでしょうか。

スーパーで鶏肉を買う時に、
「このトリは風邪を引いていないだろうか?こっちの解凍済みのブラジル産の鶏肉とどっちが安全なんだろう?」
と日々考えあぐねながら買い物をしなくてはいけない身には、NZの現状は羨ましい限りです。肉が硬かろうが安全性の高さは何にも変えられません。おまけに産地直送で鮮度も高い訳ですから、いくらでも美味しく食べることができるはずです。次世代を育む身にとって、自分たちを越えたもっと長期にわたる磐石な安全がどうしても必要です。失ってからでは遅すぎるのです。

香港で手に入るNZ産は何でもお試し



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編集後記「マヨネーズ」  
先日、家族で歌舞伎を見に行きました。夫以外はみんな初めて。ド素人でも「連獅子」、「藤娘」と言う名前くらいはわかったので、
「子どもを連れて行くにはいいかも。NZに行ったら見れないし。」
とちょっと奮発してチケットを買い、大雨にもめげずに出かけていきました。

ところが、次男は始まる直前から突然の爆睡!そんな~、夏休みになってからは10時くらいまで起きているのに、
「まだ7時半・・・(汗)」
長男も最初の「歌舞伎とは・・」という説明の時はかろうじて起きていたのに、獅子が真っ白な長いたてがみを振り乱して出てきた頃はZZZZZと夢の中。

夫は寝入っている2人を1人ずつ指差し、
「コレも、コレも160㌦(約2500円)」
とため息。しかし、次男は翌日の絵日記に“I saw Kabuki!”と書き、舞台の絵も堂々と・・・。世渡り上手なヤツになりそうです💦


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後日談「ふたこと、みこと」(2021年1月):
これを書いて香港に移住した後、香港の知り合いが肝臓ガンになりました。テニスボール大に育ったガンでした。その後、本人に香港で会い話を聞いた時、
「どうしてガンになんてなったのかしら?」
とふと口をついてしまうと、
「スーパーに行くたびに何を買ったらいいのか迷って、店の中でボーっと立ち止まってしまうことがよくあったのよ。」
と彼女が言いました。

意味がわからすに説明を待つと、
「家族に、子どもに、こんなものを食べさせていいんだろうか。これは安全だろうか、と食卓を預かる身としてずっと心配していたら、自分がガンになっちゃったみたい。」
という言葉が続きました。自分と同じように考えていた人が大病になったことは、身につまされるものでした。



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