limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 29

2019年05月27日 12時31分16秒 | 日記
2学期のスタート、いよいよ高校生活も折り返し点を迎える。強い日差しの中、“大根坂”の中腹でヘバッて居ると「Y-、おはようー!」と下から駆け上って来る姿が見えた。堀ちゃんと雪枝と中島ちゃんの3人だ。さちは道子や竹ちゃんとゆっくり登って来る。「Y-、久しぶりー!」“巨大な園児達”にもみくちゃされていると、3人が追い付いて来た。「やれやれ、新学期早々から“保母さん”とは、Yも大変だね!」道子がお手上げのポーズを取る。堀ちゃんが右腕、雪枝が左腕、中島ちゃんは僕の鞄を持って胸元へ滑り込む。3人の体温のお陰で実に暑苦しい。「さあ、行くよ!」さちが僕の尻を叩いて僕等は坂を登る。「あーあ、先が思いやられるぜ!いい加減1人に絞れねぇのかよ?」竹ちゃんも呆れて言うが「ダメ!ダメ!Yは“共有財産”だから、あたし達の手から離すもんですか!」と堀ちゃんが反論する。でも、その横顔は心なしか余裕が見え隠れしていた。眼が合うと堀ちゃんはにっこりと笑う。“秘密のデート”をした事で、彼女は1歩リードしている事を確信している様だった。教室へ入るとみんなで急いで窓を開ける。ムッとする熱気を追い出さなくては暑くてたまらなかった。窓辺に陣取ると堀ちゃんが右横に並んだ。「Y、後で部室へ来て!話があるの」と小声で言う。「分かった。次はいつにする?」と言うと「それを決めたいのよ!」と言うと堀ちゃんは部室へ向かった。西岡が登校して来た。眼が合うと¨廊下へ¨と促される。僕は例の封筒を手に教室前の廊下へ出た。「おはよう、西岡これが例のヤツだ。言われた通り開封はしていない」僕は西岡に封筒を差し出した。「まずは何より。剃刀が仕込まれています!迂闊に開けたら血だらけになっていたでしょう!」彼女は慎重に封筒を横から開けた。「やはり、剃刀が2枚仕込まれているでしょう?中身はあたし達の手元に来たモノと同じ、呼び出し状ですね。ここの筆跡を見て下さい。この微妙なクセは¨悪魔に見入られた彼女¨のモノに間違いありません!」「うむ、確かにそうだ。しかし、今回の目的はなんだ?」「あたし達の掴んだ情報によれば、単なる¨撹乱¨ですね。亀裂を入れて、事を進ませない様に謀ったのです。彼女は、県外の高校を受け直して1年生からやり直している最中です。休み中に帰省した今回は¨矢を撃ち込んで反応を見た¨に過ぎません。既に本校の生徒ではありませんから、反応があれば¨儲けモノ¨と踏んでの単独行動ですよ。背後関係も確認出来ませんでした。ですから、慌てる必要はありません!無視する事が最善手なのです!」「ヤツに関する情報は?」「余り出ませんでした。ただ、全寮制で帰省にも制限がある事、相変わらず¨権力の掌握¨に余念が無い事、そして¨飛び級¨で2年生を狙っている事は掴んであります。可能性は低いですが、¨転入¨を視野に入れているのかも知れません!」「懲りないヤツだな。そんな事は時間の無駄だと言うのに」「ええ、本件は小規模で単発的な攻撃ですが、査問委員会には報告されますか?」「捨て置け!ただ、分析だけは進めてくれ。今後も同じように攻撃がある可能性はある。差し出した場所や文字の変遷などは記録を残してくれ。正月早々に気分を害されるのは御免だからな!」「分かりました。あたし達の方で処理して置きます!」「済まんが宜しく頼むよ!」僕は“手紙”の一件を西岡に依頼すると、堀ちゃんが待っている空き部室へ急いだ。決められた回数ドアをノックすると、堀ちゃんが僕を素早く中へ引きずり込む。直ぐに首に腕が巻き付いてキスをして来る。「Y-、今度は“誰にも邪魔されない部屋”へ行こうよ。あたしの全てをあげるからー」と言うと胸元に僕の手を押し付けて再び唇に吸い付いて来た。少し小ぶりだが柔らかい胸に触れると、理性が消し飛びそうになる。「いつにする?」「修学旅行が終わってから直ぐ。2人きりで過ごしたいの」堀ちゃんは僕の胸に顔を埋めると甘え始める。制服のブラウスのボタンを外すと、ブラを見せて「可愛いでしょ。Yのために新調したのよ」と言う。白い肌が僕を狂わせた。「分かったよ。また、遠くへ行こう」僕は完全にさちを忘れて堀ちゃんを抱いた。彼女は嬉しそうに笑ってから、また唇に吸い付いて来た。「誰にも渡さないから。あたしだけを見て」彼女は僕から離れようとしなかった。

「Y、どうやって回るつもりなのよ?」有賀が“自由行動”の工程表と地図を見て聞いて来る。「3つのパターンを考えて検討したんだが、どうやら時計回りに西南部のここへ移動してから、戻って来るのが最も効率が良い事が分かった。迷う要素は元々少ないから、最初にコケなければ時間の余裕も充分に見込めそうだ」僕は、出発点から地図上を時計回りになぞって、ゴールまでを示した。「最初に大移動して、後は寄り道しながらか。妥当な線だね!」さちも頷きながら地図を眺める。「何しろ人数が半端なく多いから、赤坂にも目配りを厳重にしてもらわなくてはならない。乗り過ごしたりしたら速アウト!1時間のロスが致命的になりかねない。隊列を組んで組織的に行動したり、互いにフォローし合ったりしないと、予定の地点を全て回るのは骨が折れる作業になる」「最大勢力を2人で仕切るんだから、Yと赤坂君は大変だね。あたしがサブに立候補するよ!」堀ちゃんが、待ってましたとばかりに手を挙げる。「有賀もサブに付いてくれ。赤坂の“お守り”も兼てな!」僕が言うと「OK、事前の打ち合わせには時刻表なんかも用意してよ」と注文を付けるのを忘れなかった。「もう1人のサブは誰にするのよ?」中島ちゃんが聞いて来る。「その役は真理子さんにお願いしよう。各グループのトップが努めれば平等になる。細かい話は前日の夜に詰めるが、大枠は今週中に決めて置こう!」「了解!」4人が合唱した。「次は西岡だな。何かあったのか?」「上田と遠藤から報告が入りました。各クラスで過半数を確保出来るところまで漕ぎ着けたそうです!引き続き切り崩し作戦を展開しています」「よし、来月に入れば改選だ。主導権を握れる様に引き続き作戦の展開から眼を離すな!ところで、男子達はどうしている?」「上田達に協力する者が出る一方で、生徒会から“追放”された者達は完全に戦意を喪失して、各クラスの“お荷物”になっています。彼らの“復権”はどうなりますか?」「直ぐには“復権”とは行かないだろう。原田とて1期生を意識せざるを得ない。しばらくは“復権”は実現できないが、3学期になればチャンスはある。それまでの間に妙な事をしなければいいが・・・。原田も選挙公約に“復権”は盛り込むだろうし、実際問題“復権”は不可欠だ。異常事態の解消はヤツも懸念している事。時間は必要だが、いずれは解決への道は開ける。上田達も大変だろうが、“お荷物”だからと言って切り捨てる事の無い様に言って置け!」「はい、承知しました。逆に彼らを懐柔して取り込めないか?やらせて見ます!」「うむ、手は広い方がいい。やらせて見ろ!案外、転がって来るかも知れないし、数の論理からしても優勢になるだろう。じっくりと腰を据えて“話合え”と命じてみろ。なびいてくれれば儲けものだし、1人落とせば雪崩を打って来る可能性もある」「分かりました。では、指示を伝えて置きます」西岡は一礼すると指示書を書くために机に向かった。こうして、2学期はスタートした。内も外も問題が山積してはいたが、表立っての大問題は見えなかった。堀ちゃんと3期生をどうするか?は、時間をかけて立ち向かうつもりだった。まずは、来月のクラス役員の改選と修学旅行を成功させる事、次は“大統領選挙”を含む生徒会の引継ぎが待っていた。「1歩1歩だ。確実に成功させるしかない!」僕は自らに言い聞かせると、授業に会議に明け暮れたのである。

そして9月の半ば、6台のバスを連ねて僕達は¨修学旅行¨へ旅立った。早朝5時の集合。みんな眠い眼をこすって集まった。これから名古屋までバスで移動して、新幹線に乗り換えて一路広島を目指す。クラス毎の点呼が終わると、順次座席に座るのだが、グループ単位で場所は決まっているものの、誰が何処へ座るか?までは決まっていない。4人が“椅子取りゲーム”を繰り広げたのは必然性があった。「今日は、バスと新幹線の配席を決めるよ!」雪枝の音頭でじゃんけんが始まる。普段、クジ運が悪いはずの堀ちゃんが1番を引き当てて僕の横を勝ち取った。通路を挟んだ反対側に、さちが座り窓側は雪枝が勝ち取った。中島ちゃんは、真理子さんと僕の後ろに収まった。窓側を引き当てた堀ちゃんは、そっと僕と手を繋ぐ。左手が封印されると、バスはゆっくりと高速のインターを目指して走り出した。それぞれが朝食や寝不足を補うために車内は静かだった。まだ、先は長いのだ。堀ちゃんも軽食を摂ると僕の肩に寄りかかって眠りこけた。「Y、堀ちゃんが転げ落ちない様に注意しな!」さちがサンドイッチをかじりながら言う。「分かってるよ。さち、何故負けた?わざとらしいぞ!」「ふふん!バレたか。堀ちゃんが横を取れるのは今だけよ!後は全部いただきだから安心してよ。そう簡単には離さないからね!」さちは勝ち誇って言った。でも、堀ちゃんとは¨絶対に言えない秘密¨を持ってしまっている。さちの顔を見ると心が痛かった。「Y、ちょっとごめんね」さちが周囲を伺うと僕の頬にキスをして来る。「あたし決めたから。Yに付いて行く!だから、あたしを置いてきぼりにしないで!」さちは真っ直ぐに眼を見て言う。さちか?堀ちゃんか?僕の心は揺れた。「分かってるさ。置いてきぼりなんかにしない。ちゃんと付いて来いよ!」僕が小声で返すと、さちは黙して頷いた。やはり、さちを忘れる事は出来ない。堀ちゃんも可愛いが、やはり僕はさちが好きだと改めて思った。“堀ちゃんには悪いが、さちへの思いを断ち切る事は無理だ。堀ちゃんとは距離を置こう。これ以上、心を偽るのは信念に反するな”僕は堀ちゃんの寝顔を見つつ思った。駒ヶ岳SAへバスが滑り込む。小休止の時間だ。寝ていたみんなも目を覚まし、バスから降りてトイレや体を動かして睡魔を追い払いにかかる。「Y、すっかり寝ちゃったよー!」堀ちゃんが僕にまとわり付いて来る。「おう!眠り姫のお目覚めか?」と言っていると「Y-、ちょっと助けてー!」と有賀がバスのドア付近から呼んだ。「悪い、ちょっとレスキューに行って来る。赤坂のヤツ早くもダウンらしい」と言ってバスに戻る。堀ちゃんはトイレに急いだ様だった。「Y、名古屋で新幹線を遅延させたらどうなる?」赤坂は青ざめて震えていた。「心配するな!3~4分の遅延なんて走行中に取り返せる!名古屋を出たら次は京都まで停まらない。ちょいと急げばどうって事無いさ!」僕は赤坂の肩を叩いて正気に戻そうとした。「荷物を抱えて乗り込むんだぞ。1分の停車時間では到底・・・」「無理があるのは計算済さ!国鉄だって考えている!逆に荷物を忘れたりしない様に注意した方がいいな!お前さんは先頭を切って率いて行けばいい!後は有賀に任せろ!」心神喪失寸前の赤坂には半分も聞こえてはいないだろうが、コイツが正気を取り戻さなくては、先が思いやられる。「有賀、“物凄く効くヤツ”をお見舞いしてやれ!出入口は封鎖してやるから!」「OK、赤坂クーン!」有賀はキスをお見舞いした。ディープキスだから他人に見つかるとヤバイ!「Y、もういいわよ!」3分後に有賀の声で振り向くと赤坂の顔に微かに血の気が戻っていた。「有賀、ちょっと」と言ってバスの外へ連れ出すと「新幹線の中でも時々お見舞いして置け!委員長があの状態じゃあ全体の士気に関わる!」と言うと「勿論よ!あたしの愛の力で目覚めさて見せるから!」とやる気満々で答えた。「さっきの話だが、忘れ物のチェックは有賀に任せる。僕は赤坂のサポートに付くから、最後は任せるぞ!どうやら、あの調子だとまた心神喪失になるのは時間の問題だ!」と言うと「分かってるわ。Y、手がかかるけど何とか広島まで持たせてよ!」と有賀から懇願して来た。「まあ、こうなるのは予測してたからな。よし、“プランA”を発動しよう!伊東と千秋に言って置け!引率は2人に手伝ってもらおう!」「了解!以外に早かったけど、仕方ないか。Yも宜しくね!」「事前の打ち合わせ通りだ。伊東と僕が“代行者”として、みんなを導く」出発時刻が迫っていた。赤坂に換わって伊東が点呼を取り、人数を把握して居残っている者が居ない事を確認した。バスが走り出すと「赤坂の調子が悪いので、俺と参謀長が職務を代行する」と伊東が告げた。みんなは黙して頷いた。慌てる者は誰も居ない。それもそのはず、こうなる事は予定の行動で事前に取り決めてあったからだ。「早かったね、赤坂君大丈夫かな?Yも大変になっちゃったね」堀ちゃんが言う。「遅かれ早かれこうなる事は予定の範疇だよ。新幹線に乗れば赤坂も落ち着くだろうよ」僕は肩を竦めて返した。実際、名古屋駅から新幹線に乗り換えると、赤坂は息を吹き返した。“以前に経験があれば”ヤツのパニックは治まるのだ。広島駅に着く頃には、先頭を切ってみんなを導き出した。「やれやれ、ここからがまた問題だ!」伊東と僕が危惧すると、予定通りに赤坂の表情が変わった。厳島へ渡り神社へ拝観して、原爆資料館へ移動する間に赤坂はまたダウンを余儀なくされた。“知らない街へ行くとパニックに陥る”ヤツの欠点はこれだけなのだ。他は文句の付けようのない人材なのだが、唯一の“弱点”がこれだった。伊東と僕がみんなを牽引して、再び新幹線へ戻ると赤坂は復活した。「済まん!どうしてもダメだ!」赤坂はうな垂れるが「俺達が居るだろう?心配するな!今日は奈良に泊まるから“前”はあるだろう?」と伊東が言うと「ああ、奈良・京都だったら少しは落ち着いて指揮が執れる」と本人が申告する。「サポート体制は万全だ!不安なら僕等に仕事を割り振ってくれればいい!」と僕が言うと「悪い、無理だったら直ぐに言うから手を貸してくれ」と赤坂は返して来た。「小松と久保田にも手を貸してもらおう!今日は早めに休ませるしかあるまい!」僕が言うと伊東は頷いて小松と久保田にも協力を依頼した。京都駅からバスに乗り換えて一路奈良市内へ南下する途中、4人で軽く打ち合わせてその日は何とか乗り切った。

翌日は奈良市内の春日大社や東大寺、興福寺、薬師寺と巡り、斑鳩の里、法隆寺へ。赤坂も過去に訪れた場所なら¨パニック¨にならない。ただ、鹿に囲まれて往生しただけだった。「今日は、安心だな。ヤツも落ち着きが見られる。有賀、¨物凄く効くヤツ¨はお見舞いしてあるんだろうな?」僕が尋ねると「朝一番にちゃんとやってあるわよ!」と笑いながら返して来る。「ねえ、¨物凄く効くヤツ¨ってなによ?」堀ちゃんが僕の右側から聞いて来る。左側にはさちが並んで歩いている。「分かるだろ?赤坂が抵抗不可能な¨あれ¨だよ!」僕は唇に指を当てる。「かなり¨強烈¨なのね。成る程、あの2人いつの間に?」さちが意味合いを察して言う。「有賀が押しきったのが、確か5月ぐらいだから4ヶ月になるかな?今では¨必須科目¨と化してるよ!」僕がお手上げのポーズを取ると、さちと堀ちゃんが目の前に立ちはだかった。「Yー、覚悟はいい?」2人の眼が悪戯っぽく光る。右側から堀ちゃんが、左側からはさちが僕の頬へ同時にキスをして来る。サッと風が吹き抜けると記憶が弾けた。¨絵里!¨3年前に時間が戻った。ここで僕と絵里はキスをしている。季節はもう少し遅いが、場所は全く同じだ。¨確か、あれは見学の最後、西院伽藍へ戻る時だ¨「Y、どうしたのよ?」絵里が僕の顔を覗き込んでいた。セーラー服にスカート姿の絵里は、小首を傾げている。「ああ、何だか惜しいな。まだ、見たりない気持ちがあるのに、切り上げとはね」僕は悔しそうに言った。「また、来ればいいじゃん!ほら、早くしないと置いてかれるよ!」絵里は、僕の手を取ると周囲を見回して素早く前に立つと唇を重ねて来た。「約束だよ!あたし達は、またここでキスをするの!絶対だよ!」絵里は笑って言った。「絵里、僕でいいのか?」「Yしか考えられない。あたしYと同じ高校に行くもん!そして、将来お嫁さんになる!」絵里は屈託の無い笑顔で言った。「さあ、行こう!みんなが待ってるから」僕達は足早に西院伽藍へ向かった。また、風が吹き抜けると僕は現実の世界へ戻っていた。さちと堀ちゃんが怪訝そうな顔で覗き込んでいた。「Y、どうしたのよ?」「ああ、何だかタイムスリップしてたらしい。時間は何時かな?」「なーに寝ぼけてるの?1分も経って無いよ!どうしたのよ?早くも疲れた訳?」さちが左手を振り回す。「天下の参謀長が、ダウンしたらあたし達はどうすればいいのよ?」堀ちゃんも右手を振り回す。「ひょっとしたら、絵里の事でも思い出してたかな?」有賀が言う。「¨当たらずとも遠からず¨あの頃、わざとらしい¨工作¨を仕掛けてた本人が何を言う。W有賀を筆頭にあれこれとやってたのを知らないとでも言うと思うか?」僕が返すと「あーら、知ってたの?」とあっけらかんとして言う有賀。「そもそも、僕の隣の席に1年通しで座り続けるには、余程の理由か¨恣意的意図¨が無ければ無理だったはず。僕が出てる間の非常事態に備えて、先生が¨使える女子¨を据えるのが暗黙の了解だったんだからな!それを操作出来るのは、クラスの女子達の協力が無ければあり得ない。僕の背後を取り続けるのとは訳が違う!阿部や千洋達と謀ったのは、有賀!お前さんだろう?」僕が核心を持って言うと「まあ、時効だし正直に言うとね、あの頃¨Yと絵里をくっ付ける会¨と¨敏恵とモッちゃんをくっ付ける会¨の2つがあったのよ!前者の代表があたし、後者は千洋。確かにW有賀であれこれやってたの!結構いい線までは行ったけど、絵里がS実に進学して敢えなく失敗。それでも、あたしが同じクラスになったから¨継続¨しようとしたら、Yが6人のグループを立ち上げて、またまた失敗!でも、Yの心の片隅にまだ絵里は居たのね。それが唯一の救いかな?」有賀が遠い眼をして言う。「成る程、W有賀の掌で見られてた訳か。何かあるのは察してたけど、クラスの女子全部が関わっていたとはな。そこまでは読んで無かった!」僕が悔しそうに言うと「Y―、過去にここで何があったのよ!」「素直に白状しなさい!」と堀ちゃんとさちが眼を吊り上げて迫って来る。「あの時もそうだが、有賀達は何処まで知ってるんだ?」と僕は2人を差し置いて有賀に聞いた。「9割は知ってるよ!でも、ここで何をしたか?は知らないのよ!Y!時効だから教えてよ!」と有賀も迫って来る。「ここでキスされたのは事実だ。今になって思い出すとは、み仏のお導きだろう。¨忘れるでない¨と言っているのだろうな。有賀、絵里の消息は不明のままか?」「うん、あれこれと調べたけど不明のままよ。何があったのか?五里霧中ってとこ」有賀の表情が曇った。「行方不明の子か」「Y、絵里の事はまだ忘れて無いの?」堀ちゃんとさちも勢いを緩めて聞いて来る。「ここで思い出したって事は偶然じゃ無い。彼女との事は¨今もちゃんと残っている¨様だ。人は忘れる事で前に進めるが、簡単には消せない記憶は折に触れてよみがえるのかもな。特に鮮烈なヤツは尚更かも知れない」僕はゆっくりと歩き出した。この先は東院伽藍だ。あの時から3年、時間は過ぎ去り絵里は行方不明となったが、彼女は確実にここに居たし2人の記憶は、時空間を超えてよみがえった。斑鳩の里には不思議な力がある様だ。「Yー、絵里はあたしとさちのどっちに似てる?」堀ちゃんが突っ込んで来る。「どちらでもない。絵里は絵里だよ。堀ちゃんとさちもしかり。性格もタイプも全然違うよ。そうだよな有賀!」「ええ、全く。変わらないのは、あたしとYだけ。そのあたし達も別々の道を歩んでる。この空の下、絵里も別の道を歩いてるんじゃないかな?」「そうだな、僕達も何れはそれぞれの道を歩んで行く。でも、空はこの星の何処までも続いてる。だから、たまに空を見た時は、お互いに折に触れて思い出せる存在でいたいな!」僕は真っ青な空を見て言った。「うん!」みんなが頷いた。

バスは一路、京都を目指して北上を続ける。車内では、さちがずっと僕の右手を封印し続けている。「さち、痛いよ!」「あっ!ごめん!」さちの爪が右手に食い込んでいた。「思い出に焼きもちか?」「そう!猛烈なヤツ!それと、堀ちゃんに対しても!」さちはすっかりムクレていた。「3年前の話だよ?しかも、相手は行方不明。蒸し返そうとしても、どうにもならない。さち、なーに怒ってるの?」「絵里はともかく、堀ちゃんは目前に居るのよ!むざむざ渡す様な¨トンビに油揚げ¨は絶対にさせないんだから!」さちは僕の右腕を離すまいと必死になった。「堀ちゃんもマジでYの¨独占¨を狙ってるのは、見てれば分かるの!彼女にだけは負けたく無い!Yは優し過ぎるから誰でも受け入れちゃう。だから、こうして離さないで居ないと¨拐われる¨危険性が高いの!あたしは、それが何よりも嫌なの!」さちが珍しく感情を表に出して言う。「さち、堀ちゃんが怖いのかい?」「うん、一番怖い!Yの争奪戦は、堀ちゃんとの勝負だもの。是が非でも負けられないの!こうなったら、あたしも手を選んでは居られないわ!」さちは僕の右手を自らの胸元へ押し付けた。制服の上からも柔らかな弾力が感じられる程、さちの胸は大きく暖かい。「どう?堀ちゃんのとは違うでしょ!」さちが真面目に聞いて来る。「さち、反則だよ!」「もう、手段は選ばないから。Yはあたしだけのモノだもん!堀ちゃんには手出しさせないから!」さちは意地になった。そこへ松田が来た。「参謀長、堀川をモデルに作品を撮りたいんだが、いいかな?」松田は写真部に在籍するカメラマンである。「本人が受け入れるなら異存は無いが、何でこっちへ話を持って来るんだ?」松田に問いただすと「竹内に¨許可を取れ¨って釘を刺されてさ。¨保護者の許可は得て置く¨のは当然だろう?」「誰が決めたんだよ?暗黙の了解か?」僕が呆れて返すと「そうらしいが、堀川がOKすればいいよな?」「お前さんの腕を存分に振るえばいい。作品の公開を楽しみに待ってるよ!」僕は松田に許可を出した。松田は早速、堀ちゃんと交渉を始めた。「Y、堀ちゃんの撮影許可を出して、どうするつもり?」さちが小声で聞いて来る。「少しでも目先を逸らすため!“脱走”するには、それなりの手は打って置かないと騒がれたらオシマイだろう?松田は堀ちゃんと中学で同じクラスだったはずだから、警戒される心配も低いしアイツなら堀ちゃんを“釘付け”にするには、うってつけの人材だからさ!」僕も小声で返した。松田の作品は秀逸で、彼に撮って欲しいと思っている女子は多かった。案の定、堀ちゃんは松田の誘いに乗った。作品の中で“気に入ったモノ”はパネルにして贈呈する事も決まった様だった。「はい、よし、よし、よし!これで危険度は半分に下がった!後は今晩にするか?明日にするか?の2択になったよ。さち、どっちにするんだ?」僕はさちの耳元で囁く。「宿泊先の偵察の結果を待たないと無理でしょ?」さちは言うが「今回の宿泊先は、僕にとっては3年前と同じなんだよ!多少のセキュリティの強化はあるだろうが、全く知らない訳じゃ無い!抜け出すとしたら、経路と時間を決めさえすれば、後は決行あるのみさ!」と笑って返した。「Y、それじゃあ、今晩決行しようよ!早めに仕掛けるのは筋じゃない?」さちはたちまち笑顔を取り戻した。「了解だ!明日の“自由行動”の打ち合わせが終わったら出よう!さち、遅れるなよ!」「うん!」さちは僕の右腕をしっかりと抱え込んで答えた。3年前は“緊急事態”に対処するために策を巡らせて先生を連れ戻したが、今回は僕等のために策を巡らせるのだ。夜道を歩くのは危険もあるが、それ以上に得られるものは大きいはずだ。“やはり、さちが居てくれなくてはダメだ!”僕の心はさちに傾いた。さて、今晩はどうなるのか?2~3確認する項目はあるが、大体のメドは付けてある。けれど、実際に決行しようとした際、僕等は思わぬ事態に遭遇する事になる。“想定外の事態”は襲って来たのである。