limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 21

2019年05月09日 12時54分30秒 | 日記
「喋れ!!このハゲタカ女共!」千秋の大声が教室に響く。「おい、やり過ぎじゃねぇか?」竹ちゃんが心配して小声で聞く。「なーに、千秋の真骨頂はこれからだよ。もう少し好きにやらせてやろうじゃないか!」僕は同じく小声で返すと、千秋に“思う様にやれ!”とサインを出した。「千秋のヤツ絶好調だな!ストレス解消には打って付けの舞台だ!」長官も満足そうに小声で言う。西岡達に連行されて来て15分、4人は全く事態を飲み込めていない。「これは、どう言う意味だ?!あたしらに¨脅迫状¨を送り付けるとはどう言う魂胆なんだよ!!しかもご丁寧に¨カミソリ¨まで4枚同封するとは、何処までナメてるんだよ!!」中島ちゃん宛に送り付けた手紙を机に叩き付け¨カミソリ¨を4枚並べて千秋は尚も追及を続ける。¨カミソリ¨の刃は、セロテープでガードがされているが、当人達には見えていない様だ。徐々に血の気が引いている。トップの女子の首筋に¨カミソリ¨をペタペタと当てながら「血を見る前にゲロしねぇと、一生消えない傷が残るぜ!」他の3人にも同じように¨カミソリ¨が当てられる。千秋のセリフはマジに近いし表情は険しい。そこへ、西岡達がトランプのカードの様に写真を並べる。「アンタらの¨豪遊¨ぶりは見事だね!¨集金¨したカネで派手に遊びやがって!証拠は上がってるんだよ!さて、カネの流れを記した手帳は誰が持ってるんだよ?!」西岡は2人の女の子の顔を伺う。離反策で空中分解に持ち込むつもりだ。「てっ、手帳ならアイツがもっ、持ってます」表情をひきつらせて1人がトップの女子の鞄を指差す。「ガセじゅねぇだろうな?!」千秋が凄むと「まっ、間違いありません!水色のヤツです!」もう1人もトップの女子の鞄を指差す。「御用改めだ!西岡!ぶちまけちまいな!」トップの女子の鞄がひっくり返しにされようとすると「何の権利があるんだよ!」とトップの女子が反抗を口にする。「一応、文句は言えるのかよ!わりぃけど¨強制代執行¨させてもらうぜ!西岡、構わねぇからやっちまいな!」千秋は情け容赦なく西岡へ鞄の中身を引っ張り出す様に命じた。「止めろよ!てめぇらに・・・」とトップの女子が言おうとした瞬間、竹刀が目の前に突き付けられる。「上級生に対して“てめぇら”呼ばわりは許さねぇ!口の利き方に気を付けな!」今井が今にも竹刀を振るおうとするかの様に脅す。同時に千秋がビニール紐でトップの女子の両手を後ろ手に縛り上げた。縦には楽に裂けるが、引きちぎるには男子が全力を出しても難しいモノだ。しかも、三つ編みに編まれているので“手錠”と変わりない。口にはガムテープが貼られた。「あったぜ!これだ!」西岡が水色の手帳を引っ張り出すと千秋に手渡す。千秋は素早くページをめくると「ほー、荒稼ぎしやがって!てめぇが一番の高給取りかよ!二番目はおめぇだな?!どれだけ使い込んだか吐きな!」No2の女子の目の前に竹刀が突き付けられる。「とっとと吐け!このアマが!」今井も凄む。「あっあたしは・・・、トップのはっ・・・半分だけです」No2の女子が消え入りそうな声で答える。「嘘を付くな!こらぁ!手帳の記載によれば、ほぼ同額を使い込んでるじゃねぇか!正しく申告しな!」すかさず千秋のチェックが入る。「まっ・・・毎回じゃ・・・あっありません」相変わらず消え入りそうな声で反論するが千秋が見逃すはずが無い。「トータルで見れば額は変わらねぇじゃねーか!ネタはバレてるんだよ!四の五の言わずに正直に吐け!!」No2の女子は隙を見て席を立とうとするが、出入口のドアには久保田達が貼り付いて封鎖している。手には竹刀を持っているので突破は不可能だった。「おら!おら!おら!逃げようとしても無駄だよ!この極悪女子!」西岡が力づくで座らせると両手を後ろ手に縛り上げ口をガムテープで塞いだ。「極悪女子はこの2人か!お前ら2人は何者何だよ!」千秋が誰何した。「なっ、何でもお話します」「先輩、どっどうかお許しを」西岡が懐柔した2人は、床に正座すると頭を擦り付けて必死に許しを請うた。僕は千秋に「残らず吐かせろ!ただし、手荒な真似はするな!」と命じた。「参謀長が、ああ仰っておられる!大人しく質問に答えな!」と千秋は言うと2人を座らせ、鋭く質問を浴びせ始めた。グループの成り立ちから“集金”の仕方や配分、カネの使い道について千秋が詳細に聞き取りを行った。トップの女子とNo2の女子が抵抗を見せたが、今井達の竹刀で脅されて封じ込められ、椅子と床には“失禁”の跡が出来た。2人の証言は、赤坂と有賀が書き取りを行い“上申書”を作成して行った。一通りの証言が集まったところで、中島ちゃんが書面を持って進み出て「これに間違いがなけりゃサインしな!」と言ってボールペンを差し出した。西岡が懐柔した2人は震えながらも“上申書”に署名した。2人がボールペンを置いたところで「パン!パン!」と2度音がした。中島ちゃんが“失禁”した2人に“ビンタ”をお見舞いしたのだ。「屑の分際でナメた真似しやがって!お漏らしするのが関の山だよ!」といって復讐を終えた。署名した2人には「アンタ達は“執行猶予”にするけど、これにコリたら大人しくしな!」と言い放って僕の膝に乗った。「お前達!いずれ鉄槌が下されるだろうが、あたし達上級生をナメるな!悪事は必ず暴いてやる!次は無いと思え!参謀長、宜しいですか?」千秋が聞いて来る。「そうだな、今日はこれくらいにしてやろう。我々を愚弄し同級生からカネを巻き上げた罪は必ず償わせる。次は“失禁”くらいでは済ませんぞ!」中島ちゃんを膝に乗せたままで僕は舞台の終了を告げた。「おめぇら!今日はこれくらいで勘弁してやる!椅子と床を拭け!」千秋が雑巾を顔面に投げた。西岡はビニール紐を切って拘束を解いた。4人はバケツに雑巾を浸して絞り、必死に掃除を始めた。今井は消毒用アルコールを撒き散らして除菌に余念がない。トップの女子は鞄の中身を拾い集めると急いでしまう。「行きな!」千秋が解放を告げると、4人は脱兎の如く教室を飛び出して行った。「あーあーあーあー!」廊下に悲鳴が響いた。「カット!OK!」長官が言うと全員が歓声を上げた。「伊東、千秋に“特別ボーナス”を支給しろよ!」竹ちゃんが言うと「名演技に完敗だ。さて、何にするかな?」と伊東が悩みだす。「みんな、ありがとう!悪魔は撃退された!」僕は全員とハイタッチを交わした。クラス全員が盛り上げた舞台はこうして幕を閉じた。

翌日、僕は事の顛末を中島先生に報告に出向いた。“カミソリ入り脅迫状”に端を発した今回の一件について、先生は腕を組み眼を閉じて聞き入っていた。「と言う訳で、証拠品並びに“上申書”をお持ちした次第です」僕が報告を終えると「Y、また派手にやったな!策を考えたのはお前だろうが、クラス全員を“乗せた”とはどう言う事だ?」「いえ、“乗せた”のではなく“自主的に乗った”のです。クラス全員が“自らの喉元に剣先を突き付けられた”と言う認識を持ち自らの意思で動いたのです。頼んだり、強制したりはしておりません!」僕は認識の違いを主張した。「まあ、いいだろう。クラスの結束力を存分に発揮しての事だ。多くは言わん。実は、3期生の“集金”行為に関する証拠は我々も追ってはいたが、ここまでの明確な証拠は手にして居なかったのだ。正に“喉から手が出る程欲しかった”代物なのだ!それが、労せずして手に入るとなれば“渡りに船”だ!これを手に入れるために用いた策については不問にして置くし、2名の“造反者”の処分の軽減についても口添えはしよう。ただ、4人の処分は免れんぞ!如何に“初犯”と言えども無罪放免には出来ん!それは承知しておるだろうな?」「はい、やった事の重大性を考慮すればやむを得ないと思います。むしろ、処分後のケアをしっかりとやらないと大事に至ります」「それだ!3年間を後ろ暗い思いで過ごすか?否か?どうやらお前には既に腹案がある様だな?」先生は眼を見開いて言う。「はい、西岡達が中心になって導いて行く方向で検討しております」「うむ、いい選択だな。彼女達なら気持ちが通じる部分があるだろう。その方向で調整を進めろ!処分の件はワシからも一言言って置く!今の内に更生させられるなら、早いに越したことは無い。後は我々の領域だ。悪い様にはせん!お前達なりに動ける範囲で策を講じて置け!」「承知しました。後の事はお任せします!」僕は先生に後を託して生物準備室を出た。教室へ戻ると「参謀長、担任は何と?」長官が飛んでくる。「大枠で合意しました。学校側としては“何も掴めなかった”様ですから垂涎モノになりました。処分は当然ですが、それ程重くなく済みそうですよ。我々としては、西岡の策を進めて事を大事にしない様に終息させるだけです」「うむ、予定通りか。では、処分の発表を待って西岡達に動いてもらうか?」「ええ、それが最善手でしょう。早期に叩き潰せたのが大きいですね」僕も安堵のため息を漏らした。「原田もやっと落ち着いて“組織構築”にかかれるだろう。ワシ達も独自のネットワークの構築を急ごう!」長官と僕は早速動き出した。西岡達を呼んで“処分後のケア計画”の立案を依頼すると共に、石川に声をかけて“差別の禁止”を3期生の各クラスに呼びかけさせた。学校側の処分は、“始末書”の提出と“集金の全額弁済”を条件にトップの女子とNo2の女子に“1ヶ月の停学”。離反して証言をした2人に“3週間の自宅謹慎”が申し渡されて決着を見た。

5月の連休が明けると学校全体がようやく落ち着きを取り戻した。3期生達も落ち着いて勉学に励む様になり、僕等2期生もやっと平静を取り戻した。気持ちの良い朝日を浴びて、“大根坂”の自転車での登頂に挑むが今一つ調子が戻らない。坂の中腹でヘバッていると「Y-、おはよー!」と中島ちゃんの声が聞こえ、6人が集団で登って来る。いつもの光景だが実に久しぶりに感じるのは、石川が居ないせいだろう。彼は、中島ちゃんの返事を受けて登校時間を変えた。そうでなくとも“クラス委員長”として多忙な日々を送っていたし、自己の成長無くしては“付き合い”の許可が降りないと知ったからだ。石川なりの“けじめ”を付けたと言えよう。「Y、ポカリだよー!」堀ちゃんがボトルを差し出す。一口飲んで立ち上がると、僕は堀ちゃんの鞄を自転車に乗せて押し始める。「Yは“セイラ派”?“ミライ派”?どっちなの?」堀ちゃんがいつになく真剣に聞いて来る。「どちらかと言えば“セイラ派”だろうな。“ミライさん”も捨てがたい面はあるけどね」僕は、機動戦士ガンダムの各コマを思い出しながら言う。「“セイラさん”の方がエロいシーンが多いからでしょ!」中島ちゃんが言い出す。確かにそうだったが。「“セイラさん”の髪型の方がカッコイイからだよ。あれでロングなら完璧だけどね」と返すと「あたしは合格だよね?」と堀ちゃんが自信を見せる。4人の中で唯一のロングヘアだからだ。「Yの“女の子選考基準”は厳しいからな。あたし達は当然クリアしているだろうが、他の女の子には眼もくれないのは評価しなきゃ。コイツは最後に心を見る。外面が良くても心が真っ直ぐでないと、“女の子選考基準”からは外されるし、それが分からなければ声もかけてもらえない。3期生に付け入る隙など無い!」さちが自信タップリに言う。「そうそう、先月末にYの靴箱に入っていた手紙、一応読んで返事したけど、一蹴だったものね!」雪枝が言い出す。その手紙の中身は4人が読んで全て知っているし、返事もしかりだ。「Yは、“手に余る子”は増やさないし、あたし達が“最優先”だもの!逃がさないわよー!」堀ちゃんが背中から抱き付いて来る。「次はあたし!Y、“おんぶ”してよー!」雪枝も甘えだす。「ちょっと待て!チャリを置いてからにしろ!どっちにしてもスカートで“おんぶ”は無理だろうが!」僕は必死に逃げる。「あー、また始まりやがった!」竹ちゃんがボヤくと「毎度の事ながら、Yをおもちゃにする余裕があるのはいいんじゃない?」と道子は平然と言う。「4月は、何だかんだと色々あったし、Yも全精力を注いで対応に追われたし、今月からは4人を相手にゆっくりとして欲しい。戦う姿はアイツの本分では無いし、陰でじっくりと策を巡らせるのが性に合っていると思う。やっとアイツらしさが戻って来たってとこかな?」「そうでなきゃ困るぜ!クラスの頭脳戦は、参謀長の担当だ!4月は働き過ぎだったから、今月からは楽にさせてやらなきゃ俺達の面目丸潰れじゃねぇか?」竹ちゃんが答える。「そうね、優雅なお昼のお茶会の回数を増やしてやらないとYが倒れそう!」道子も同意見だった。「おーい、5人共教室に入ってからやれ!怪我しても知らねぇからな!」竹ちゃんが大声で叫ぶ。「そう言う事!ちゃんとリクエストには答えるから、教室へ行ってからにしよう!」4人を引きずりながら僕は昇降口へどうにか辿り着いた。

教室へ入ると、窓辺に陣取り4人のリクエストに答えてやりながら、“セイラ派”か?“ミライ派”か?の議論を続けていると、竹ちゃんと道子が掲示板に¨修学旅行の班¨の一覧表を張り出した。僕は4人と一緒の班になっていた。「竹ちゃん!これはどういう訳だよ?」僕が聞くと「¨公平なるアミダくじ¨で決まったのよ!偶然よ、偶然!」道子が笑っている。これは、明らかに¨意図的な要素¨が絡んでいるではないか!よくよく見れば、男子ばかりの班もあるし赤坂に至っては、有賀達と真理子さんと西岡との組み合わせになっている。伊東は千秋とペアになっているから明らかに¨作為的な人選¨なのがバレバレだ。「委員長の特権だよ!わりぃけど4人を引き離したら、それこそ吊るされちまう!みんなの意向を反映したら、こうなっただけさ!」竹ちゃんが涼しい顔で答える。「道子、ありがとーねぇ!これでYと京都の街を楽しく巡れるよ!」堀ちゃんと雪枝が眼をうるうるさせて喜んでいる。「Y、何処へ繰り出す?自由行動の時!」中島ちゃんが笑って聞いて来る。「あまり¨俗化¨されてない静かな場所がいいな。特に京都市内の西側当たりが狙い目だろう」僕は漠然と言った。「南西方向ならおあつらえ向きじゃない?」堀ちゃんが地図を指して言った。「そうだな、行き先は任せる!場所を決めてくれれば、交通手段は追っかけで検討するよ」「移動手段はYに決めてもらうとして、何処へ行こうか?」さちを中心に4人は調査を始めた。その時、肩を叩くヤツがいた。「参謀長、班行動を合同にしないか?」赤坂が蒼白な顔で言う。「何故だい?」「女子4人を引率する自信が無い!地図と時刻表だけでどうしろと言うんだ?」「時計と地図と時刻表さえあれば、こんなの簡単じゃあないか!地図のスケールから距離を割り出して、電車とバスの乗り継ぎを調べれば移動自体に支障は出ない。後は、集合時間に間に合う様に組み立てればいい。それがどうした?」僕は軽く言うが赤坂は「見ず知らずの街だぞ!ヘマは出来ない!男1人で女子4人を相手に出来るのか?参謀長は慣れているだろうが、俺は不安でたまらん!」と泣き付いて来る。「有賀達の意向は?」僕が誰何すると「¨俺に一任する¨って言うんだよ。頼む!助けてくれ!俺が“方向音痴”なのは知ってるだろう?」赤坂の唯一の弱点、それが“方向音痴”だった。1人で見ず知らずの街を歩かせるのは危険だったし、同行する女子4人の手前弱みは見せたくないのだろう。「分かった。まずは、ウチのレディ達に了解を取らなきゃならないが、面子を見る限り異論は出ないだろうよ。どーやら、真理子さん達からも申し入れがありそうな雰囲気だぜ!」僕は指を指して教室の片隅を見る様に赤坂に促す。堀ちゃんと中島ちゃんが真理子さんと有賀達と話し合っている。「時間の問題だな。赤坂、宜しく頼むよ。8人の引率ともなれば、僕1人じゃあ無理だ!手を貸してくれ!」僕が言うと「助かったー!行先は女子達に任せて、交通機関や移動手段は参謀長が担ってくれるなら、俺としても大いに助かる!悪いが宜しくな!」赤坂の顔にやっと精気が戻った。「Y-、真理ちゃん達から“班行動を合同に”って依頼が来てるんだけど、どうする?」堀ちゃんが聞きに来る。「みんなに異論はあるのかい?」「特に無いよ。あたし達はYと遊べればいいし、その辺は干渉しないって約束だし」中島ちゃんが答える。「実は、リーダーの赤坂からも“合同に”って依頼があったばかりさ。大所帯にはなるが、赤坂と僕となら何とかなるだろう。OKしてもいいよ!」と僕が言うと「じゃあ返事して来るね!行先については真理ちゃんや有賀さん達とも相談して決めるから」と堀ちゃんが真理子さんに駆け寄って行く。「8名の大所帯か。赤坂にも頑張ってもらわないと無理がありそうだ」僕が小声で言うと「あたしは、Yと2人だけで歩きたいな。折角の京都なんだし2人きりでの時間が欲しいよ」さちがポツリと言う。「さち、夜があるだろう?脱走して夜の街を2人で歩くのも悪くないだろう?」と返すと「そうだね、この際だからやっちゃおうか?」と乗り気になる。「内緒だぞ!2人だけで行くんだからな!」と念を押すと「分かってる。腕を組んで引っ付いて行こう!」と言うと悪戯ぽく笑う。「そうこなくっちゃ。お愉しみは別にしとかなきゃな」と言って、さちの頬を突く。個人行動が許可されるなら、僕は迷わずにさちを選んだろう。でも、4人を同じ班にしてくれた竹ちゃんと道子の気遣いに素直に感謝したのは事実だった。修学旅行は9月の半ばだが、班行動の計画立案は1学期中が締め切りだ。女子達は行先の検討を重ね、僕は移動手段の検討に没頭する事となった。

修学旅行と並行して計画が進みだしたのは“向陽祭”だった。昨年までは全学年が揃っていなかったため、地味に生徒と教職員のみで開催されていたが、今年からは一般公開もする事になり、規模も大きく変貌する事になった。正副委員長の竹ちゃんと道子は、連日打ち合わせに追われていた。ポスター、パンフレットの作成や各クラスの出し物・部活の発表など課題は山積していた。査問委員会でも“何をやるのか?”について連日議論が交わされた。「模擬店をやるとしてだな、どんなメニューにする?」伊東が言うと「制服姿じゃ様にならないから、衣装も思い切って作りたいね」と千里が言い出す。「各部の発表はいいが、他のクラスとバッティングしない様に設定しないと赤字になるぞ!」と久保田が珍しく真面目に言う。「1期生と3期生が何をやるかについては調査中だが、2期生で模擬店を予定しているのはウチだけだ。バッティングは回避出来るんじゃないかな?」と僕が言うと「それならいいけど、中身としてはどこまで“拘るか”だよね。みんなになるべく負担を強いないでやらなきゃ意味は無いよ」千秋が冷静に考える。「使えるのはこの教室と生物室・準備室の3部屋を確保したわ。生物室をメイン会場、準備室を控室とすると、ここは厨房兼更衣室になるわね。そんな配置でどうかな?」道子が提案すると大筋で了承された。「場所は限られるが、知恵は無限大だ。全員で考えりゃ何か浮かぶだろう?」竹ちゃんは楽観的だった。そうしないと議論は進まないし、いい知恵も浮かびそうになかった。「各員の配置だが、役員で4分の1は取られてしまう。もっとも厄介なのは“総合案内兼駐車場係”だ。参謀長、クラス代表で引き受けてはくれぬか?」長官が僕を指名した。「はい、余人を持って充てられる訳ではありますまい。私が出ましょう!」「うむ、臨機応変に事を片付けられるのはお前さんしかおらん!悪いが宜しく頼む。山本と脇坂を付ける様に手を回してある。彼らと共に当たってくれ」長官が頭を下げた。「店長は、久保田お前の役割だ!給仕役のリーダーは千里。全体の統括は伊東と千秋に引き受けてもらう。写真撮影は滝さんの役目。ワシと竹内と長田は本部に詰め切りになる予定だ。残りの人員を上手く使って切り抜けてくれ!」長官が割り振りを決めた。「用意する物品だけでもかなりの量になるわね。各人が持ち寄れるそうなモノはリストアップしとく。委員長からも協力依頼を出してよ!」と千里から注文が入った。「了解だ!査問委員会のメンバーだけでは無理だ!全員の協力を仰ぐぜ!」竹ちゃんが答える。「明日のクラス会で協力依頼は出しましょう。メニューや服装もみんなの意見を聞いてから決める。そんなとこでどう?」道子が言うと全員が頷いた。基礎となる骨格はこうして決定を見たのだった。

そして翌日のクラス会、女子は“大正風カフェの女給さん”としてしゃれ込む事になり、今井達は“コーラスグループ”を結成してライブを行う案が通り、クラスとしての模擬店の形は決定された。同時に役員の補助選抜も行われたが、“総合案内兼駐車場係”のサブとして、さちが立候補して承認された。その日の帰り道、竹ちゃんと道子抜きの5人で“大根坂”を下って行くと「さち、何で役員になっちゃうのよ!折角可愛く着飾れるのにー!」と雪枝が言うと「あたしは裏方の方が性に合ってるから。3人の着飾った姿は拝みに行くからさ」とさりげなく返していた。さちの本当の目的は“僕と一緒に居る”ことだろう。役員ともなれば、食事の暇もないくらい忙しくなる。それを承知した上で、さちは選択をしたのだ。「Yも大変な役を背負わされて可哀そう。“総合案内兼駐車場係”なんて見て回る暇も無いんでしょう?」堀ちゃんが心配そうに言う。「だからこそ、僕がやらなきゃならない。みんなは模擬店を成功させるために頑張りなよ!」「うん、でもお昼は届けてあげるからさ!さちの分も含めて」中島ちゃんが気遣いをしてくれる。「しかし、慌ただしいな。“向陽祭”に修学旅行と連チャンだからな。一気に駆け抜けるしか無いが、何か愉しい策をどこかで仕掛けるか?」と僕は言って思慮に沈む。「“向陽祭”なら扮装、修学旅行ならサプライズが妥当か?」と僕が言うと「何かしら考えて見てよ!Yなら奇想天外な発想は得意じゃん!」と堀ちゃんが言う。風になびくロングヘアが眩しい。さちは僕の左側で黙して歩いている。駅に付くと下りの電車が5分後に着く時刻だった。「じゃあね!また明日!」堀ちゃんと中島ちゃんがホームへと駆け出す。雪枝は電話ボックスでお喋りの最中だ。「さち、狙ってサブに立候補したな!」僕が言うと「当然!一緒の時間を過ごすためだもの!」と舌をだしてケロリと言う。「でも、立候補してくれて嬉しかったよ。指名するのは、さすがにはばかられるからな。これで2日間は離れずに居られるな」と言うと「そうだよ!逃がすもんですか!」と笑って言う。「さち、僕等はいつも共に居る」と言ってネクタイを裏返す。さちのネクタイは僕の首に、僕のネクタイはさちの首に巻かれている。「うん、何があっても一緒に居るんだよね」僕等は改めて確認をした。どんなに仲が良くても3人とさちは別だった。“宣言”をしても良かったが、さちは頑なに拒んだ。「秘密の付き合いがいいの!」さちはそう言って“宣言”をさせなかった。「さち、京都では2人きりで“デート”だぞ!」「うん、愉しみにしてるから、必ず連れて行ってよ!」「ああ、必ずな」僕とさちは2人で顔を見合わせると、悪戯っぽく笑った。

それから1週間後、朝突如として長官が査問委員を緊急に招集した。生物室に集められたメンバーの誰一人として子細を知らされていなかった。「朝っぱらから何なんだ?」竹ちゃんがあくび交じりに言う。伊東は居なかった。やがて、長官が顔面蒼白で現れた。只事では無い事態である事は直ぐに察しが付いた。「みんな、大変な事が進行している!Kが“復学”に向けて動き出したとの情報が昨夜遅くに小佐野から入った!」その場にいた全員が瞬時に凍り付いた。「そんな馬鹿な!アイツが“復学”する道は絶たれているはず!長官、誤報じゃあありませんか?!」久保田が驚愕して言う。「いや、誤報じゃない!原田のところにも情報は入っている!長官、マズイ事になりますよ!」伊東が息を切らせて駆け込んで来て言った。「アイツ、どんな手を繰り出したんだ?」僕が言うと「県議を動かして県教委に圧力をかけたらしい。詳細は小佐野も追ってくれているがまだ掴めんのだ!」長官の拳が震えている。「今、戻られたらアウトじゃない!阻止できないの?」千里が言うが「我々の手の内に事は無い!学校側がどうするか?に委ねるしかあるまい」長官が力なく言う。「ちょっとごめんなさい。Y君、中島先生が呼んでるんだけど、いいかな?」明美先生が僕を呼びに来た。「参謀長、恐らく本件の耳打ちだろう。学校側の事情を聞いて来てくれ!我々も情報を集めて検討を開始する!」長官が言う。「はい、話を聞きだして来ますよ」僕は準備室へ向かった。順風満帆だった日常に、またしても嵐が押し寄せようとしていた。