limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 24

2019年05月15日 14時57分31秒 | 日記
向かえた2日目、朝のミーティングで「昨夜の職員会議で3期生の“謹慎”を解く決定がなされた。不本意ではあるが、3期生も“向陽祭”に復帰する事になった。信頼度はイマイチだが、各部署承知してくれ!」総長が苦々しく言った。「特に、Yのところ“総合案内兼駐車場係”については、昨日に引き続き応援体制を組む!Y、どうだ?相変わらず苦しいとは思うが、乗り切れそうか?」総長が心配そうに聞いて来る。「天気予報に寄れば、昨日より気温が更に上昇する見込みです。厳しさは昨日の比ではありません!ハッキリ申し上げれば3期生が来たとしても“逃げ出す者”が続出する恐れがあります!引き続き応援体制を要請します!」僕はキッパリと言い切った。「うむ、お前のところが一番厳しいからな。“ヘタレ男子”なら逃げだしてもおかしくは無い!必要に応じて支援を要請して構わん!逃げたヤツは追うな。“使える者”を厳選して乗り切れ!動員を求める権限と使えない者を切り捨てる権限はお前に委ねる!特に今日は“町長”が視察に見えられる。失礼の無い様に頼むぞ!」総長達はそう言うと「“総合案内兼駐車場係”が最も危ういのは、昨日と同じだ。各部署で応援を速やかに出せる様に準備を怠るな!」と他部署に応援を要請し、各部署も了承した。「職員会議では、3期生に“自発的参加と役割の厳守”を申し渡す事に決まったが、蓋を開けて見ないと分からない事も多々ある。昨日、自主的に参加してくれた3期生は問題無いと思うが、油を売っていた者がどうなるか?は分からない。期待はせずに昨日同様、1期生と2期生中心で乗り切ろう!」生徒会長が呼びかけた。「よし、みんな!先輩の意地を見せるぞ!」総長が気合を入れると「おう!」と出席者全員が答えた。会議終了後、僕は総長から「Y、無理はするなよ。お前は責任者なんだから、自ら陣頭に立つ必要はないぞ!特に今日は責任者席を離れるな。駒が足りなければ、我々が駒を出してやる。3期生は“使えない”と見たら切り捨てて構わん!」と言われた。「はい、無茶はしませんよ。賓客に礼を欠く様な真似は出来ませんから、今日は班長に任せて全体の統括に専念します」と返すと「そう言いつつも、お前は自ら陣頭に立って戦うタイプだ。“他力本願”が大嫌いなのは分かるが、今日は“動かざる事、山の如し”で居るんだぞ!」と早々に釘を刺される。「総長、お気遣い感謝します!」と言い僕は頭を下げて会議室を辞した。廊下に出ると生徒会長が網を張っていた。「Y、応援体制は万全にしてある。突っ走るのもいいが、人に任せるのも責任者の仕事だ。我々に上下関係は無い。1期生でも手足の代わりに使うがいい。お前が“犠牲”になると校長が煩くて敵わん!“指揮官”としてどっしりと構えろ!」と会長も釘を刺しに来る。「はい、本日は大人しく統括に専念します」と答えると「総長も言っていたが、陣頭指揮は“ご法度”だぞ!校長に吊るされるのはごめん被る!」とため息交じりに言われる。「大丈夫です。今日は無茶をしている暇はありません。賓客に失礼の無い様に努めますよ」と返すと「そうしてくれ。厳しいのは百も承知。必要に応じて連絡を寄越せ!」と肩を叩いて会長は本部へ向かった。僕は昇降口の本部に向かった。

「Y、会議はどうだったの?」責任者席に滑り込むと、さちが直ぐに聞いて来る。「今日から3期生も参加する事になったよ。まあ、期待はしていないがね。応援体制は総長と会長から“万全を期す”と言われてるが、今日もギリギリなのは間違い無いよ」「うーん、3期生の“ヘタレ男子”が逃げ出すね。今日も綱渡りになりそう!」さちもため息を付く。「確実に見通しが立つのは、A班の連中と山本、脇坂、女子軍団ぐらいだから、今日も必然的に“総力戦”にならざるを得ない。陣頭指揮は“ご法度”だって止められたから、今日は昨日よりも各自に厳しい要求をしなきゃならない。さち、非情な要求をしても付いて来てくれるか?」「うん、Yの命令なら従うよ!」さちは明るく答えてくれた。「参謀長、おはようございます!」山本と脇坂が揃って現れた。「おう、今日も宜しく頼むよ。お前達は両輪だ。片方が居なくなれば走れない。必要最低限の戦力で事を進めなくてはならないのは、昨日と同じだ。女の子軍団は来てくれるのか?」2人に誰何すると「今、増援を率いて乗り込んで来ますよ!」「昨日の倍、16名が参戦します!」2人が言うと直ぐに賑やかな声が聞こえて来た。「参謀長、増援を連れて出頭しました。今日も宜しくお願いします!」16名が一斉に頭を下げる。「こちらこそ、宜しく頼むよ。今日は“町長”が視察に来られる予定だ。みんなに出迎えをお願いする事になる。粗相の無い様に心してお迎えしてくれ!上田、君がリーダーだ。みんなに改めて仕事の内容について説明をして置いてくれ」僕は彼女に15名の統率を任せる事にした。「了解です。みんな、今日の仕事内容について説明するね!」女子16名のミーティングが始まると同時にA班が集合してくれた。「Y、3期生達はまだか?」「ああ、時間まで後15分ある。さしたる期待は最初からしていないよ。途中で¨逃げ出される¨よりは被害が少なくて済むからな。脇坂、15分経過したら、総長に応援要請を伝えてくれ。今日は、まず僕と¨お嬢さん¨達からだ!」「Y、総長から言われてるだろう!最初から破るつもりか?!」「そうだ!責任者が陣頭指揮を取って何が悪い?3期生の¨ヘタレ野郎¨達に僕達のスピリッツを見せ付ける!¨男ならやってみろ!¨って説教を垂れるには、責任者が模範とならなくてはダメだ!」「だが、ここの指揮は誰が執るんだ?」「山本、脇坂に幸子がいる。3人揃えば文珠の知恵だろう?何も心配はいらない。上田、8名を選抜しなさい。今日の¨ハナ¨は女子軍が切る!」「はい!あたし達が出向きましょう!参謀長、何処までもお供します!」「上田、午前9時から任務開始だ。化粧を急げ!」「はい!」「Y、俺達は2陣か?3陣か?理由は何だ?」「朝の涼しい内なら女の子軍団でも耐えられが、正念場は午前11時以降になる。無論、1期生の応援隊に頑張ってもらうしか無いが、2陣はA班に託したい。賓客の出迎えに無様はさらせないからさ!」「そうか、¨町長¨が来るんだよな!それで俺達を?」「そうさ、一番信頼が置ける2期生で固める!礼を欠く事の無い様に頼むよ!」「Y、それなら¨ハナ¨から俺に指揮を執らせろ!ここの責任者はお前さんじゃないか!¨責任者不在¨はやはりマズイぜ!」A班の班長が言う。「それは分かっているよ。だが、3期生が¨使い物にならない¨以上、僕が出る場面は回避不可能だ。A班の後は、応援隊を挟んで再び女子軍を送り込むしか無い。あまり1期生の先輩達に頼る訳にもいかんし、自らで回せる内は踏ん張りを見せ付ける必要がある。特に女子軍は¨志願者¨だけに細心の注意を払わないとマズイ!陣頭指揮を執らなくては、示しが付かないだろう?」「¨非情な命令¨に付き合うのか?お前さんらしい決断だが、それはダメだ!指揮官として¨部下¨を信じろよ!ここに集まった連中は、全員お前さんの¨部下¨なんだ。年齢の上下や性別は関係無い!今日、総長からも言われただろう?¨部下を信じろ¨とな。いいか、お前は指揮官だ。¨部下¨の手際を信じろ!¨ハナ¨から指揮は俺が執る!譲るつもりは無いぞ!」A班の班長は頑なに言った。「分かったよ、指揮を任せる。厳しいが宜しく頼むよ!」僕は彼の気迫に押し切られて同意した。「参謀長、5分前になりました。総員整列!」山本が言った。「3期生の要員は?」僕が言うと「やはり来ていません!何をやってるんだ?あの馬鹿どもは?」と脇坂が悔しそうに言う。「みんな、おはよう。今日は昨日にも増して気温が上昇するし、厳しい事を要求しなくてはならない。人手はご覧の通り全く足りないが、応援要請を随時かけて繋いで行く。炎天下での仕事は想像を絶するだろうが“向陽祭”の成功のために力を貸して欲しい。では、先陣を切って女子軍に出発を命令する。指揮官はA班の班長だ。引き続きにはなるが、宜しく頼む!では、準備にかかってくれ!」「はい!女子軍準備完了しています!無線機のチェックに入ります!」上田が指揮を執って出発の準備は整いつつあった。「山本、脇坂、今日はチャンネル17を使用する。切り換えをして、確認作業に入れ」「はい、各自チャンネルを17へ。切り換えた者よりコールしてくれ」山本と脇坂が無線機のチェックをしている最中、僕はA班の班長に「過酷なのは百も承知だ。済まんが2直の間を宜しく頼む!」と頭を下げに行った。「こら!責任者がペコペコ頭を下げるな!デンと構えてりゃいいんだ!まずは、彼女達を安全に任務に就かせる。任せとけ!」と言って胸を叩いた。「上田、私は今日は一緒には出られないが、立派に任務を果たして来てくれ。君の手腕に期待する!」「はい!ご期待は裏切りません。男子以上に働いて来ます!」彼女は少し微笑むと表情を引き締めて「参謀長、女子軍出発します!」と言った。僕は頷くと彼女達の出発を見送った。長い戦いの幕開けだった。

彼女達を見送った直後、「参謀長、総長からです!」と脇坂が受話器を差し出した。「総長、如何されましたか?」と聞くと「Y、良かった。そこに居るな?女子軍に帯同して外に出たんじゃないかと気が気では無かったよ。3期生はまだ来ないのか?」「はい、予想通りですよ。“逃げ出される”よりはマシですが、午前11時以降の人員が確保できません。総長、申し訳ありませんが支援を要請します!」「ちょっと待て」と言うと総長は何やら相談を始めた。「Y、1期生を大挙して送り込んでやる!好きなように使え!もう一度聞くが3期生の要員は来ていないのだな?」「はい、それは確かです!」「どうやらお前のところだけ“逃亡”に及んだらしい。他の部署では3期生は出て来ているんだ。今、塩川に会長が噛みついている真っ最中だが、学年としては“役目を果たしに行け!”と通知したと言っている。寝ぼけた話だが、他部署の動向を見ると確かに3期生は働きに来ているんだ。副会長は教頭に抗議に出向いた。だが、この分だとお前の元には3期生は来ない確率が高い!これでは誰がやっても回らないのは明らかだ。手の空いた1期生は、順次そちらに送り込むから手足として存分に使うがいい。それと、もう直ぐ校長が行くはずだ。賓客の出迎えを宜しく頼むぞ!」「了解しました!これから“予行演習”に入ります。礼を欠く事無くお迎えに当たりますよ」「うむ、俺と会長はこれから3期生の各クラスに“特攻”を仕掛けて来る!罪人共を引きずり出してやる!Y、安心して賓客の歓迎に当たれ!“取り締まり”は本部で引き受ける。お前は送り込んだ駒を使って任務に当たればいい。いいな!絶対にそこを動くな!」「はい!」内線は切れた。「遠藤、待機している女の子達を集めてくれ。これから賓客を迎える手順を説明する。もう直ぐ校長も来るはずだ。急げ!」「はい!」遠藤は散っている女の子達を呼び集めに走った。「山本、レッドカーペットを敷くから手を貸してくれ!脇坂は外の連中の点呼を開始しろ!さち、女の子達の化粧を手伝ってやってくれ!」僕は立て続けに指示を出した。丸めてあるレッドカーペットを山本と昇降口の中央入り口付近へ広げると、シワを伸ばして形を整える。遠藤が呼んで来た女の子達は、さちの指示でメイクを始めた。「参謀長、人員配置は?」山本が聞くので「ドアの外に八の字に片側4名づつ、女の子を配置。内部には今、現場に出ている8名を立たせる。車が横付けされたら、お前と脇坂が車両の前後に付け。僕とさちは階段下に左右に分かれて立哨する。ご挨拶はこれから練習だ!」「分かりました。お帰りは正面からですよね?」「ああ、靴を持って行く要員も決めねばならない。内履きは学校側で用意して来るだろう。そろそろ校長が来る頃だ。子細は校長の意向も聞いてから修正する」僕はカーペットを直しつつ本部席へ座った。「参謀長、塩川先生からですが」脇坂が受話器を差し出そうとするが「捨て置け。言い訳は聞きたくないから叩き切れ!」とわざと聞こえる様に言って受話器を置かせた。しばらくすると校長が内履きを抱えてやって来た。「Y君、準備に余念が無い様だね。人員配置は決まっているかね?」僕は図上に配置を書いて校長に説明を行った。校長は内部を4名に削り、外へ4名を出す様に希望した。出迎えの生徒が女の子中心である事には満足した様だった。「参謀長、また、塩川先生からですが」脇坂が言う。「話す必要を感じないし、時間の無駄だ!今は校長先生の指示を仰いでいる真っ最中だ。そのまま叩き切れ!」青筋を立てて言い放つと「3期生の要員が来ないのかね?」校長が聞いた。「はい、しかし1期生の先輩方が応援してくれます。任務に支障はありません」と言うと「自主的に来ている3期生はどのくらいだね?」と更に聞いて来る。「18名です。昨日より8名増えました。頼もしい援軍です」と言うと「塩川先生達、3期生の担任には私から一言口添えをして置く。彼らの仕事ぶりは納得には程遠い。まあ、任せなさい。尻に火を点けてくれよう!では、挨拶の練習だが、レディ達の用意はいいかな?」「さち、メイクは?」「今、終わったとこ。練習するんだよね?」「ああ、全員整列してくれ!」山本と脇坂も出て実際に配置に着いてから“挨拶”の練習が繰り返された。校長からは細かく注文が入るが、決して無理は言わない。姿勢や立ち姿や位置や礼の角度といった細かな修正が繰り返して行われた。練習の最中に先陣を切った8名も戻り、練習に加わった。「よし、それでいい。もう直ぐ本番だ。しっかりと頼んだよ!」校長は満足げに言って本部席に陣取った。教頭もやって来て、後は賓客の到着を待つばかりとなった。「参謀長、塩川からですが、どうしますか?」脇坂が呆れて聞いて来る。「捨て置け。今はそれどころじゃないんだ!」と言うと「私に貸しなさい」と校長が出た。猛烈な声での叱責が始まった。聞いているこちらも縮み上がる勢いだ。受話器を叩きつけると校長はケロリとして静かになった。「凄い!」女の子達が青ざめていた。

「いらっしゃいませ!ようこそ向陽祭へ!」16名の女の子を中心とした出迎えに“町長”御一行は終始ニコニコしてくれた。「お忙しい中、恐縮でございます」校長と教頭も深々と頭を下げた。「開校以来初の一般公開、楽しみにして来ましたよ!みなさんありがとう!」“町長”御一行は教頭の案内で応接室へ向かった。「Y君、良くやった!完璧だよ!」校長もご機嫌で僕に握手を求めて来た。「大変だろうが、頑張りなさい。私は“頑張っている者”を決して見捨てない。先生方の方は任せて置け!」と言うと教頭の後を追いかけて行った。校長の姿が見えなくなると、生徒会長と総長が3期生を率いて現れた。「Y、大成功だな!」「良くやった!」2人が握手を求めて来る。「ここに連れて来たのは“罪人”共だ。さて、どうする?」総長が僕に尋ねた。「3期生の諸君、どこで油を売っていたか答えろ!!」僕はありったけの大声で怒鳴った。「“鬼の参謀長”のお尋ねよ!」「さっさと答えな!」上田と遠藤が1人づつ頭を殴り付けにかかる。答える者はいなかった。下を向いてうな垂れている。「総長、これでは“使い物”になりませんよ。烏合の衆では足手まといになるだけです!放免してやって下さい。これからは“卑怯者”として蔑まれればいい!私達もそう認識しました」「そうだな、隅でコソコソと生きて行けばいい。責任感も自覚も無いヤツらに“名誉回復”の機会は無用だな。さあ、解散していいぞ!」総長は解散を命じた。「君達は生徒会から“除名”する。今後の活動にも参加する必要は無い!」生徒会長も厳しく突き放した。「待ってくれ!“名誉回復”の機会を奪わないでくれ!」塩川先生が駆け込んで来た。先生は土下座をすると「会長、総長、Y、頼む!」と必死に頭を床に擦り付けた。僕は先生の顔を上げさせると「先生、勘違いしないで下さい。彼らは自発的に“志願”する機会は残されています。ただ、現状の無気力状態で外へ放り出したら、間違いなく命に関わる大事に至ります。名誉よりも大切なのは命です。彼らに“死んで来い”とは命じられないし、そんな非情な事は言えません。性根を叩き直してから出直して下さい。ここは、甘えが通じる世界ではないのです!」僕はそう言って先生を立たせた。「Yの言う通りですよ。炎天下に行くには、それ相応の覚悟無くてはなりません。残念ですが、彼らには覚悟も気概も感じられない。だとすれば、命だけは助けるのが筋。だから解散を命じたのです!」「生徒会としても命は守る義務があります。“除名”する事で命は保証します。無理を強いるつもりはありません!」総長と会長も僕の意見を支持した。「来い!」塩川先生は連行されて来た3期生を率いて東校舎へ消えた。「聞いた話では、アイツらは“外れクジ”を引いたらしい。自主性も責任感も無くて当たり前なんだ。3期生はどうかしているぜ!」総長が吐き捨てる様に言う。「Yの言う通り“命あってのモノ種”だ。強制したらそれこそ“事故”を起こすだろう。応援の件は出来るだけ出すから、それで乗り切ってくれ!」会長もやり切れないと言った表情だった。3期生の要員の参戦はこうして絶たれた。

「あれは無いよね。責任感も使命感も無いなんて“人形”以下じゃない!」さちがブチ切れて言う。「育ち方の問題だろうな。1年違うと親の年齢構成もだいぶ変わる。受けた教育は同じだろうが、親が誤った指導をすればああなっても仕方ないさ。今日を乗り切るメドは立ってる。後は、本人の自覚の問題さ!」僕は敢えてバッサリと切り捨てた。3期生は“志願者”以外は使えないのだ。1期生と2期生で乗り切るしか無かった。「あーあ、先が思いやられるわ!アイツら尻を叩いて動かすなんてどうしろって言うのよ!」上田もウンザリしていた。「きっかけを与えればいい。目的があれば彼らとて動かざるを得なくなる。多少、不純な動機でも、きっかけさえあれば眼の色を変えて動き出すものだ」と上田をなだめると「しっ・・・失礼しました。多少、不純でもいいと言われましたが、恋愛とかでもいいのですか?」「それが一番効くヤツだよ。彼らの尻に火を点けるには、相手をよく見てからにすればいい。気を引こうとすれば全てが変わる。男は意外と単純だからな。上田の手の内で上手く転がせば、有望な戦力になるだろう」「はあ、でも、あたしにそんな才能はありませんよ!」上田がため息を付く。「相棒に相談してみなさい。策は彼女の方が得意だろう?」「確かに。だからあたし達を組ませたのですか?」「西岡に感謝して置きなさい。上田の弱点を補強するための配慮だ。ペアで当たれば乗り越えられない事は無いはずだ」彼女は小さく頷いた。そして何かを考え始めた。「Y、彼女は何を考えてるのかな?」さちが小声で聞く。「ひょっとすると“一発逆転”の秘策を練っているのかもな。彼女の発想に期待しよう。さち、そろそろ戻ろう。脇坂と交代しなきゃ!」「うん!午後も頑張って行こう!」僕等は本部席へ戻った。来場者は途切れることなく盛況を博していた。「脇坂、交代しよう。外の方はどうだ?「はい、依然として車列が途切れる様子はありません。警備部門も大変でしょうね。校庭の3分の1は埋まっているそうです。出入りも多く外は苦戦気味です!」「よし、最終クールは増員をかけよう!出られる者は全員を投入する!クローズに持ち込むだけでも一苦労ありそうだ!」僕は内線で総長を呼び出した。「総長、来場者が昨日の倍に膨れ上がりました。クローズするのに相当手間取りそうです。最終クールに可能な限りの増援を要請します!」「うむ、生徒会長自らが出るそうだ。勿論、大規模な増援を引き連れて行く!校内巡視も徹底してくれ!警備部門もやるが、手が足りない!合同でかかれ!」「了解です。午後3時を以て準備にかかります!」「頼んだぞ!」受話器を置くと「さち、校内巡視班を半分に抑えて、出られる者は外へ積極的に投入する。女の子達を率いて巡視に行くプランを立ててくれ!」「了解、ここには誰が残るの?」「僕と山本と脇坂の3人だ。女の子を全員巡視に回して構わない。最終案内はこっちで引き受ける」「分かったわ。この人出じゃあクローズに持ち込む事だけでも大変よ!」「午後3時を一応のメドとする。それまでに手を考えてくれ!」僕は逆算を開始した。午後5時でクローズとするには、午後3時にバリケードを設置しなくては間に合わない。全ての来場者を誘導して退出させるのに2時間。「ギリギリだな。+30分を見て置くか」時計は午後2時を指していた。「くそ!3期生が使えればもっと早く手が回るのに!」歯噛みをしても戦力は限られている。駒が足りなければ応援を要請するしか無いが、現状では駒も不足気味だ。先輩達もギリギリまで粘ってくれているので、これ以上の上積みは期待できない。3期生の手があれば・・・、「いや、現有戦力で切り抜けるしか無い!」僕は幻影を振り払うと手を考え直し始めた。「参謀長、宜しいでしょうか?」顔を上げると、上田と遠藤が3期生の男子4名を連れて立っていた。「どうした?」「¨志願者¨4名を連れて来ました。どうか任務をお命じ下さい!」2人は深々と頭を下げた。「彼等は元々の要員なのか?」僕が誰何すると「いえ、別の係の担当です。本日の任務は終えています。臨時の要員として参加させて下さい!」「君達は何を担当して来たのかね?」「はい、クラス展示の説明と案内をやっておりました。参謀長、是非手伝わせて下さい!」彼等は礼儀正しく、眼光も鋭く光っていた。どうやら¨只者¨では無さそうだ。「さち、ちょっと来てくれ!」「はーい、Y、この子達どうしたの?」「¨志願者¨だよ。一緒に話を聞いてくれ。さて、今から50分後にバリケードを展開して入場を止める手筈になっている。だが、校庭の約半分は車両で埋め尽くされている。グローズ作業の指揮官は、生徒会長自らが当たる予定だ。一旦外へ出れば、終わるまでは帰れないだけで無く休憩も無い。日は西に傾いたとは言っても、炎天下での過酷でハードな任務になる。君達に耐え抜く覚悟はあるのか?」「参謀長、僕達は¨ヘタレ¨ではありません!3期生としての雪辱を果たさせて下さい!」代表が進み出てキッパリと言う。「参謀長、彼等はあたし達の話を真剣に聞いてくれて、¨志願¨してくれました。4人しか集められませんでしたが、この状況であれば¨猫の手¨も借りたいはず。どうかご許可をお願いします!」上田も真剣に訴えて来る。「さち、どう思う?率直に言ってくれ!」「眼を見れば分かるでしょう?彼等は全うしてくれる。あたしは信じるよ!」「よし、記章を持って来て。君達4人に正規の係員を命ずる!まずは、バリケードの設置からだ!45分後に開始する。この記章を左胸に付けてから、上田と遠藤から仕事内容の説明を聞きいて置け。いいか?想像以上に過酷な現実が待っている。覚悟して臨んでくれ!遠藤、説明会を開け。時間が無い。要点を絞って効率良くまとめなさい。上田、こっちへ!」僕は上田を奥へ連れ込むと「何を餌にして釣り上げて来た?」と聞くと「バレンタインに¨チョコを渡す¨事で折り合いました。不純な動機ですが、来てくれました!」と白状した。「一番効くヤツを使ったか!もし、もらえないともなれば、男のメンツに関わる大事だ。折れないヤツはどうかしてるな!」と2人して笑い合う。「上田、ありがとう!貴重な“戦力”だよ。4人が加わってくれる事で他のメンバーが余計な気を使わずに済む。クローズに持ち込むだけでも、相当に手間取るはずだが、余裕が生まれたよ。みんなで助け合う事で大事も軽くなる。“人を動かすには、心を動かす事”が大切だ。今日、その身をもって体感したな。今の気持ちを忘れるな!」「はい!」上田は素直に答えて笑った。「さあ、いよいよクローズ作業に向かうぞ!全力で付いて来い!」「了解です!」上田は過去を振り払って、自らの足で立ち上がった。遠藤も他の2人も同じだろう。彼女達は間違いなく3期生の核となる存在となるだろう。結局、クローズに要した時間は3時間に及んだ。