limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 23

2019年05月13日 16時53分11秒 | 日記
連日¨向陽祭¨の打ち合わせと準備は夜まで続いた。僕とさちはキスを交わしてから帰宅する事が“恒例”になっていた。「いよいよ、迫って来たね。上手く行くよね?」さちが聞いた。「3期生に不安はあるけど、何とかなるだろう。後は蓋を開けるまで分からないけど、責任者である以上は2人で協力して乗り切ろう!」「うん!」夕闇が迫る中、僕等は駅を目指して手を繋いで歩いた。¨向陽祭¨まで後3日だった。

向かえた¨向陽祭¨当日の朝、昇降口に整列した¨総合案内兼駐車場係¨の点呼を取ると、3期生がまったく集まっていなかった。「うぬ、時間になっても来ないとは、どう言うつもりだ?山本!脇坂!、各クラスの委員長を呼び出せ!¨欠員は許さぬ!¨と申し渡せ!首に縄を付けてでも引きずり出させろ!」僕は頭から湯気を立てて言い放った。「はい!」2人は脱兎の如く走って行く。「Y、朝から湯気を立てるなよ。取り敢えず俺達が2直の間を勤めるから、その間に何とか手を回せ!」3組のヤツがなだめに入る。「済まんが頼む!欠員は必ず出させるから、踏ん張ってくれ!」やむ無く僕は頭を下げて、配置に向かわせた。「参謀長、各クラスの委員長を集結させました!」脇坂が言う方向には、6名が揃っていた。「お前達の各クラスの担当者の全員が行方不明だ!欠席している者は誰だ?」僕はバインダーに挟んだメンバー表を叩き詰め寄った。「欠席している者はおりません!」石川が言うと5名も頷いた。「ならば、何処で油を売ってるんだ!見つからなければ、補欠要員を出せ!ただでさえギリギリで回す計画なんだ!欠員は厳罰に処すぞ!!」「はっ!直ちに探し出して出頭させます!」6名の顔に緊張感が漂う。¨鬼の参謀長¨が激怒すれば吊るされるだけで無く、どんな断罪を受けるか?彼らも¨集金事件¨の際の出来事を知っているだけに、蒼白になりながらも僕の命を聞くと、書き消す様に走り去った。「¨鬼の参謀長¨のお怒りだ。直ぐにも現れるさ」1期生の先輩が笑って聞いていた。「どうでしょか?3期生の弛み方は眼に余るものがありますから」僕は頭を下げながら返した。「まあ、遅れて来てもあまり追い詰めるなよ。ともかく無理を承知でやってるのは仕方ない。本当に必要な部署に人手を回さない総長の考えが間違いなんだ!ヤバくなったら直ぐに連絡をよこせ!総長に掛け合って人手を回させるから。現状でもヤバそうだから人手を回させる様に釘を刺して置くよ」先輩はそう言って本部へ足早に戻って行った。「Y、何とかなる。まずは落ち着け!」さちが頭を撫でて感情を鎮めてくれる。「参謀長、遅れてる連中は、クラス展示の準備に手間取ってるだけです!後、15分だけ待って下さい!」山本と脇坂が報告に来た。「うぬー、やむを得ないか。今はまだいいが、これからが正念場になる。15分だけは待つが、それでも来なければ¨プランB¨を発動する!欠員は各クラスの委員長自らが負って、¨強制動員¨をかける!各委員長にはインカムで申し渡せ!」「了解です。各クラスの委員長に告げる。15分以内に必要な要員を出せ!さもなくば¨プランB¨を発動する!」脇坂が無線で一斉に方針を伝えた。3期生の各クラスの委員長にはインカムを持たせてある。僕ら2期生と3期生で回す以上、¨連絡に必要だから¨と言って用意させたものだ。全体会議で反対意見が無かった訳では無いが¨3期生の規律弛緩には眼に余るモノがあり、最悪の場合機能停止に陥りかねない¨と僕達が強硬に主張したのが通り、3期生の各クラスの委員長にインカムが渡されたのだ。不運にも¨危惧¨は当たりと出て、スタートから人員不足の状態でフライング発進するしか無かったのである。「参謀長、あたし達が志願します!何でも言い付けて下さい!」8名の女の子達が名乗りでた。¨集金事件¨で処分された4名とそのサポーターの子達だった。「まず、言って置くが顔と両腕にUVケアをして来なさい。炎天下に出て行かなくてはならないのだ!最低限の化粧はしてから来るんだ。猫の手も借りたいのは見ての通りだが、女の子に日焼けをさせる程、愚か者では無いつもりだ。15分待っている。支度を整えて来なさい」僕は静かに言って彼女達に化粧を命じた。「分かりました。少しお時間を頂戴します!」8名は一旦戻って行った。「参謀長、やりますね!彼女達は¨恩を返すつもり¨ですが、UVケアを命じる男性はまず居ませんよ!」西岡がタッパーを持ってやって来ていた。「試作品の味見だろう?どれ、いただくとしましょうか」僕は焼き上がったばかりのクッキーを1つ摘まんだ。「西岡、彼女達に何を言って聞かせた?ここの仕事は男子でもキツイぞ!それを¨志願¨するとは、どういう訳だ?」僕はクッキーを味わいながらも聞いた。「別に何もしてませんよ。ただ、彼女達を暖かく迎える様に指示した事と、処分を軽くする様に掛け合ってくれたのが参謀長だと言ったまでですよ!」西岡が微笑みながら返した。「余計な事をしてくれたな。黙っている約束だろう?陰は目立ってはいかんのだ!これ、結構旨いな!さすが女子の力作だ」「うん、絶妙な甘さ加減!誰の作品なの?」さちも眼を丸くして驚いていた。「ブレンダーは道子と堀ちゃん。焼き上げは千里よ。流れ作業で量産してるの。でも、知りたがったのはさっきの子達よ。¨助けてくれたのは誰?¨って詰め寄られれば答えない訳にはいかないでしょう?¨鬼の参謀長¨が実は¨仏の参謀長¨だったって知って4人全員が泣いたわ。¨あんな事したのに助けてくれるなんて¨って言ってワンワンの大泣き!そしたら¨この恩は絶対に返す¨って誓い合ってくれたのよ。参謀長、彼女達の意気込みを見てあげて!」「西岡、それだけじゃ無いだろう?サポーターの4人は、只者ではあるまい。一見地味に見えるが4人の¨適性を考慮して最強のブレインを付けた¨のだろう?これから先、3期生の女子のみならず、学年全体を牽引して行くのは、あの8名だと読んだな?そうじゃないか?」「貴方の心眼、いや神の眼差し¨神眼¨には恐れ入ります。一度底に落ちた人間はクサるか?上を向くか?の2択しかありません。彼女達には上を向いて欲しかったし、真の友達を作って欲しかったのです。幸い、彼女達は真の友達を得て生まれ変わりました。私達にしても、彼女達は重要なパートナーであり、可愛い後輩達です。我らより後を託すに足る人に育て上げたつもりです。どうか、真価の程を見極めて下さい!」「西岡、ありがとう。そして、御苦労様!彼女達の眼を見れば一目瞭然。見極める必要は無い。これからは、彼女達があらゆる場面で舵を取って行くだろう。3期生は、女子に有望な人材が多い。彼女達の活躍が男子を刺激すれば、我々以上の成果を挙げるだろう。男子達の奮起を期待しよう!」僕と西岡が語り合いをしていると8名の化粧が整った。「さち、西岡、化粧を見てやってくれ!最初が肝心だ!」僕は8名の化粧具合を調べさせた。さちと西岡はファンデの塗り具合から眉や口元まで、細かくチェックを入れて修正をした。「OKよ!」と西岡が言うと、8名は姿勢を正して整列した。「まず、クッキーを食べて楽にしなさい。西岡、彼女達にも配ってくれ」クッキーを2個づつ受け取ると、彼女達の表情が自然と和んだ。「これから、貴方達を炎天下に送り出さねばならないのは、一重に私の責任だ。故に私はこの¨退学届¨を総長に差し出すつもりだ。具合が悪くなったりした場合は、遠慮無く引き上げて構わない。貴方達と共に私も戦う覚悟を示す!脇坂、総長を呼んでくれ。山本、保健室の丸山先生に事情を話して¨日射病¨の処置を依頼しろ!」「はい!」脇坂は内線で本部を呼び出し、山本は保健室へ走った。「A班、応答してくれ!」僕は無線で外に居る仲間を呼んだ。「こちらA班、感度良好。どうぞ」「これから、交代要員を送るが、全員3期生の女の子だ!引き継ぎ時に丁寧な応対を宜しく!それと日傘の使用を徹底されたし!どうぞ」「A班了解。まだ、1時間は粘れるがいいのか?どうぞ」「これから更に状況は悪くなる。早目に引き上げさせるなら、今がベストだ!やむを得ない。どうぞ」「了解!A班は各持ち場で待機する。交信終了」僕がA班と交信している間に正副総長が飛んで来ていた。「Y、本気で行かせるのか?」「総長、やむを得ない状況です。一応¨これ¨をお渡して置きます」僕は¨退学届¨を総長に差し出した。「お前の危惧していた事が現実になるとは、俺達の見通しが甘かったか!副総長、非番の警備要員と1期生を動員しよう。何名集められる?」「10名居るかどうか?しかし、差し迫った事態ですから、とにかくやりましょう!」副総長は内線で放送室を呼んだ。「Y、お前だけの責任にする訳にはいかないぞ!俺達は一心同体だ。俺達も¨これ¨を出すよ」総長も¨退学届¨を並べ、副総長も続いた。「¨これ¨は本部で預かって置く。8名の勇気ある者達、責任は我々も取る!しばらく持ちこたえてくれ!」総長が言うと「はい!力の限り頑張ります!」と8名が合唱した。「では、出発!」僕の号令一下、8名は炎天下へと飛び出して行った。

「参謀長、タイムアップですが、¨プランBは発動しますか?」山本が聞いて来た。「遅れている要員は来たか?」僕が問うと「残念ですが、誰も来て居ません!」脇坂が悔しそうに言う。「Y、1期生10名をかき集めたわ!間もなく来るはずよ!」と副総長が言う。「山本、脇坂、やる気のあるヤツだけで切り抜ける!もう、3期生には何も通知するな!こうなる事は予測済みだろう?こうなれば、Xプランを発動する!最早、上下は関係無い。私が外を統括する。ここの指揮は、さちに任せるし、サブはお前達が担え!何かあればインカムで知らせてくれ。じゃあ頼んだぞ!」僕は外へ出る支度にかかった。「Y、後でボトルを届けるから、無理はしないでよ!」さちが傘を差し出した。「ああ、さち後は任せるよ。じゃあ行って来る」僕は炎天下へ飛び出した。思った以上に日差しが強い。外の指揮ポイントは正面玄関口の前だ。A班の班長が女の子に説明をしていた。「遅れて済まない。以後の指揮は僕が取る。講堂での発表まで1時間しか無いだろう?上がってくれ!」と言うと「責任者自らが出て来るとは、3期生のヤツら何を考えてやがる?Y、総長達は知ってるのか?」A班の班長は色めき立った。「総長達は知ってるよ。1期生をかき集めてくれてる。だから、こうして出て来たのさ」「それならいいが、女の子達は30分が限度だ!後はどうするつもりだ?」「その都度判断するさ。女子軍、聞いてくれ!30分経過したら君達は引き上げてくれ!後は私が引き受ける。交代要員が来なくても構わない。時間になったら水分補給と休憩を取るんだ!いいな!」「了解です!」各所から応答が返って来た。「Y、無茶だ!日射病で倒れるぞ!」総長が割り込んで来る。「総長、やむを得ません。責任は取らせて下さい。オフラインに切り替えます。各員へ、チャンネルを19に切り替えてコールしてくれ!」「了解です!切り替え完了!」各所からの応答を聞いてから、僕はA班に引き上げを指示した。「Y、済まない。発表が終わったら¨援軍¨を連れて必ず戻って来る!それまで頼んだぞ!」A班の班長は肩を叩くと引き上げて行った。「参謀長、あたしは何処までもお供します。¨停学中¨の苦しさに比べれば何ともありません!」かつてのリーダーの子が真顔で言った。「済まないな。頼りにさせてもらうよ。昼までが勝負の分かれ目になるだろう。午後イチには、先程のA班の連中が来てくれるはずだ。玄関口に陣取ろう!少しは日差しを避けられる。まず、点呼を取るんだ!そして、必ず複数で見える位置へ移動させて」「はい、みんな、聞いて!」彼女は早速、僕の指示を伝え始めた。僕はチャンネルを切り替えると脇坂を呼んだ。「参謀長、大丈夫ですか?」「ああ、今のところは何とも無い。総長とA班は引き上げたか?」「はい、と言うか、総長とA班全員が3期生のところへ¨殴り込み¨をかけに行きましたよ!全員が烈火の如く怒ってます!」「1期生の応援部隊は?」「20名が来てくれました!参謀長の指示を待ってます!」「よし、2班に分けてくれ。それぞれB班C班とする。B班は15分後に女の子軍団と交代させるから、準備を急がせろ。C班は午前11時から昼までを担当をしてもらう。班を編成するに当たっては、先輩達の都合を優先しろ。人数が偏っても構わん。引き上げた女の子軍団は、休憩させてから¨コンシェルジュ¨として案内役に就かせろ!外の本部は正面玄関口だ。俺は昼までここを動かない。そっちは、さちの指示で動けばいい。3期生が来たら正面玄関口へ寄越せ!まあ、余り期待はしてないがな。こっちはチャンネル19で交信している。総長には言うなよ!」「はい、お任せ下さい。では15分後にB班を派遣します!交信終了します」僕が脇坂と交信している間に女の子軍団の点呼も完了した。「参謀長、指示は伝達しました。みんな、1分でも長く頑張ります!」「よし、車が3台来るな。校庭へ誘導しよう!」「はい!」炎天下での奮闘が始まった。

臨時に結成されたB班とC班の1期生の先輩達と車両の誘導、整理に当たる事約3時間。炎天下での交通整理は、やはり過酷だった。B班と入れ替わった3期生の女の子軍団から定期的に水分補給は受けていたが、消耗は激しかった。「Y、俺達先輩の意地と根性を見せ付けてやろうぜ!後、少しだ。頑張れ!」1期生の先輩達が励ましてくれるので、僕も必死に答え様と踏みとどまる。無様な姿は見せられなかった。午前11時45分を過ぎた頃、3期生の学年主任と総長が正面玄関口へ姿を見せた。「Yー、ちょっといいか?」総長が僕を呼んだ。「済まんが校長が呼んでいる。同行してくれ!」「はい、しかし責任者が抜ける訳にはいきませんよ!」と言うと「青木!責任者を代わってくれ!Yを校長室へ連れて行かなきゃならない」と総長が言う。「了解だ!Y、後は任せとけ!」と二つ返事で引き受けてくれる。僕達は校長室へ入った。「Y君ご苦労様。丸山先生、彼のケアをしてやりなさい」いつの間にか保健室の丸山先生が待機していて、ソファーをベッド代わりにして体を冷してくれた。「塩川先生、3期生の役員が集まらずに、上級生が苦労を強いられるのは何故だね?」校長は静かに言ったが、追及は厳しかった。「申し訳ありません。至急係の者を集めて・・・」「自覚が足りないのは君達担任の責任でもある。まずは、総長とY君に謝りたまえ!今以て3期生が手を貸さないのは無礼ではないかね?」校長は言葉を遮るとピシリと言い放った。「はい、申し訳無い!過度の負担を強いたのは、我々の責任です。申し訳無い!」学年主任の塩川先生は僕と総長に頭を下げた。すると、校長は3通の封筒を手に「これは、正副総長とY君の物だが、この様な物を出すのは、塩川先生達3期生の担任であるべきだ。彼等が一身に背負って片付く事ではない!」と言うと校長は僕達の¨退学届¨3通を破り捨てた。「校長、それでは責任の所在が明らかに出来ません!」と総長が抗議すると「責任は3期生の¨日より見主義¨にある。そうした事を容認した学年全体が責任を負うべきだ。塩川先生、分かっているな!」校長は鋭い視線を向けた。「申し訳ありません!3期生のクラス展示は中止させ、即刻役員活動に専念させます!」「それだけではあるまい。正副総長とY君達2期生のリーダー達へきちんと¨謝罪¨させなさい!そうでなくては、道理が通らないし義理を欠くだけではないか!弛緩は目に余る物がある!君達担任こそ¨進退伺¨を出すべきではないか?」校長の追及は予想外に厳しかった。「総長、今しばらく待ってくれ!3期生は必ず動員をかけて送り込む。Y君、明日、町長が視察に来る事が決まった。生徒昇降口から入場される予定だ。出迎えに抜かりが無い様に手配を頼む!」校長は僕達には静かに語りかけた。「はい、万全の体制でお出迎えを致します!」「分かりました。1期生・2期生の底力をご覧に入れます!」僕と総長はそれぞれに返して、眼で合図を送り合った。僕はインカムで青木先輩を呼び出した。「Y、安心しろ!A班の連中が応援を連れて駆け付けてくれた!¨2直は踏ん張り続ける¨そうだ。みんな、3期生に¨先輩の意地を見せ付ける!¨って張り切ってる。お前は本部へ戻って総指揮を執ればいい。俺達も午後にまた手伝いに来る!1期生と2期生のスピリッツを見せ付けるぞ!」「青木、出来るだけ応援をかき集めてくれ!俺達の意地と名誉が関わっている。3期生なんぞに負けるなよ!」総長が僕のインカムから要請を出す。「了解だ!Yはゆっくり休ませてやってくれ!後、2日あるんだ。責任者が不在じゃあカッコが付かないからな!」「ああ、そのつもりだ。A班に頑張る様に伝えてくれ。俺達も¨召集¨をかけて人員を回すし、3期生抜きでも切り抜ける様に指示する。じゃあ、引き上げてくれ」総長は交信を終えた。担架が用意され、僕は保健室へ搬送される事になった。¨自力で歩く¨とは言ったが、校長が「いかん!大事を取れ!」と厳命を下したので、やむ無く担架で運ばれた。「Y、分かっているとは思うが、3期生は信用しなくていい。やる気のあるヤツだけを使え。後の始末はこっちで引き受ける。俺達を愚弄した罪は必ず償わせるから、思う様にやっていい!」総長は湯気を立てて怒り狂っていた。塩川先生は、保健室まで終始気まずい顔をしていた。保健室へ担ぎ込まれると「Y、大丈夫か?!」さちが飛んで来る。「参謀長、大事ありませんか?」8名の女の子達もしかりだった。「さあ、ベッドに横になりなさい。体を冷やして置かないと動けなくなるわよ!」と言いつつ丸山先生が氷枕やら氷嚢を僕の体の周囲に置いて行く。「参謀長、お食事はどうされます?」リーダーだった子が聞いて来る。「まだ水分だけでいい。みんなはキチント食べて置きなさい。午後も忙しくなる。休める時にしっかりと休むのも責任の内だ」「Yの言う通り、貴方達は食事休憩に入りなさい!Yはこれを少しづつ飲んで!」さちは冷えたボトルを差し出し、氷嚢を移動させて体を冷やしてくれた。「参謀長、何故こんな無茶をしたのですか?」女の子軍団から質問が飛んでくる。「責任者として先頭に立つのは当然の事だろう?踏ん反り返っているだけでは、誰も付いて来ないし足元を見られるだけだ。責任者に指名された以上は、その職責を全うしなくてはならない。人手が足りなければ自らが出て行くしかあるまい?人を動かすには、自らも率先して動かなければ “心を動かす” 事は出来ないのだ。貴方達は、総長を始め1期生や校長まで動かしてくれた。“真を以て事に当たる”とは大したものだよ。これからは男子の尻を叩いてクラスを改革していけ!3期生の舵取りは貴方達8名の肩にかかっている。私は頼もしい後輩に救われた。ありがとう」僕は偽りなく静かに言った。「地に墜ちた私達に手を差し伸べてくれた上に、お礼をいただけるとは思っても居ませんでした。後2日、全力でお手伝いします!」涙目になりながらも4人はしっかりと言い切った。「頼りにしている。さあ、休憩しなさい」8名は礼をすると保健室から出て行った。それを見届けると、さちがキスをして来る。しばらく唇を重ねて「無茶しおってからに、この程度済んで良かったと思いなよ!」と言って僕の額に氷嚢を置く。「さち、冷たいよ!もうそろそろ起き上がるからさ」と言うと「あたしが決めるから動かないで!炎天下に3時間なんて無茶苦茶よ!もう、心配させないでよ・・・」さちが涙目になって訴える。そこへドヤドヤと押し掛けて来る一団が居た。3期生の担任の先生達だ。「何のつもりですか?彼は重症です!静かにさせてやって下さい!」丸山先生が必死になって制止をしてくれている。「さち、ここもどうやら安全ではないらしいな!」「そうね、早く逃げ出そうか?」僕とさちは強行突破を図った。それでも煩い先生達はタカって来る。責任者席へ座ると先生達が「Y、悪かった!生徒達を使ってくれ!」と口々に訴えて来る。「ひとつ、言って置きますが、僕は“信の置ける者”しか使いませんよ!3期生は我々の信頼を失った。いくら頭を下げられても無駄です!」「生徒会の見解も同じです!3期生は“向陽祭”から追放します!」生徒会長と“向陽祭”総長が揃って応援部隊を率いてやって来た。「おい、“追放”は無いだろう!反省させて手伝わせる!」塩川先生が色を成すが「1期生と2期生の各委員長達が合意しました。3期生は基本的に謹慎処分とします。ただし、今現在必死になって手伝ってくれている者達は対象から外します。我々上級生を愚弄した罪は重大です!責任は取ってもらいます!」2人はピシリと言い放ち怒りの眼を向ける。先生達も微かに怯んだ。「Y、応援部隊を連れて来た。そろそろA班の交代時間だろう?コイツらを使ってくれ」「はい、脇坂!A班に引継ぎ準備を連絡しろ!」「はい!」脇坂が無線でA班と連絡を取り始める。「参謀長、同期が出頭して来てますがどうしますか?」山本が困惑気味に言う。「捨て置け。人員は何とかなる。“信の置ける者”以外は使わない。ここは甘えが通じるところじゃないんだ!」「はい、では引き揚げさせます」山本は集まって来た3期生に引き上げを命じた。「Y、頼む!」塩川先生は尚も粘ろうとするが「校長先生の言っていた事をお忘れですか?生徒会長と“向陽祭”総長と1期生・2期生の各クラスの委員長の同意を取り付けてから出直して下さい!」僕は先生達を突き放した。バツの悪い先生達はスゴスゴと引き上げて行った。「山本、脇坂、休憩に行って来い!午後もだが明日も忙しくなる。休む事も大事だ」「はい、では休ませていただきます」「チャンネルは19のままです。3期生の各委員長には通知していません」2人が報告を上げた。「よし、後は引き受ける。戻るときにボトルを30本仕入れて来い!」と言って僕は現金を渡した。2人は西校舎の売店方向に走って行った。「参謀長、あたし達は何をすれば宜しいですか?」女の子軍団が休憩を終えて戻って来た。「引き続き¨コンシェルジュ¨として案内役に就いてもらう。前の椅子に座って案内を頼む。そろそろA班が引き上げて来るはすだ。冷水とボトルの用意も忘れるな!」「はい!お任せ下さい!」女の子達は生き生きと働いてくれた。「Y、最高の援軍だね!」さちがボトルを頬に引っ付けて言う。「ああ、最高の仲間達だよ」僕はボトルを開けて一口飲むとシフト表に眼を落とす。本来ならば3期生を使って一番キツイ時間を乗り切る計画だったが3期生は使えない。「今の援軍の後は1期生の先輩達で凌ぐとして、最終グループは、やはり僕が出るしか無いか・・・」バインダーを団扇代わりにして考えを巡らせる。その時内線が鳴った。「参謀長、総長からです!」「総長、何かありましたか?」「Y、一般公開を1時間繰り上げて終了させる。これから校内放送で周知するが、最終グループは1期生が大挙して応援に出る。お前は入場者の整理に当たれ!外には出るなよ!」「はい、承知しました。繰り上げの放送は繰り返してもらえますよね?」「ああ、やむを得ないが誘導を優先しろ!明日の事はこれから会長と協議して校長と交渉するが、3期生の“復帰”は未知数だ。苦しくはなるが宜しく頼むぞ!」「了解しました。明日はまた考えましょう。ともかく誘導を優先します。では」僕は内線を切ると「一般公開を1時間繰り上げて終了させる。午後2時半以降は校内巡視に重点を置く。さち、現有の戦力で巡視班を結成してくれ。僕は車両の入場制限を通知する」「了解、少し時間を頂戴」「本部より駐車場班へ、一般公開を1時間繰り上げて終了する。校門にバリケードを設置して入場制限を開始せよ!」「駐車場班、了解。門を半分閉ざして入場制限を開始する」交信を交わしている間に校内放送で“公開終了時刻の変更”の案内が流れ始めた。「Y、応援に来たぞ!」赤坂や今井達がクラスの仲間達を引き連れて来てくれた。「済まん!午後2時半から来場者の誘導を始めなきゃならない。手を貸してくれ!」僕が言うと「任せときな!どうやって回る?」と校内地図を見て考え始める。「東校舎から講堂、西校舎からここへ2班でくまなくカバーしなきゃならない。2手に別れてそこのお嬢さん達と回ってくれ。僕とさちはここに残って最終案内をしなきゃならない」僕が図上で経路を辿ると「よし、赤坂を中心にして東、俺を中心に西で行こう!午後3時には完全閉鎖だろう?」今井が素早く割り振りを決める。「ああ、それで行こう。外は1期生の先輩達がやってくれる。中はこっちで完璧に仕上げるぞ!」僕は一同を見渡した。「ついでだから言って置くが、黒字が出たぜ!久保田のヤツ意外に商才がありやがる!」赤坂が言うと自然と笑いが起こった。今日初めての笑いだった。午後3時、昇降口から最後の来場者が校外へ出た。30分後には最後の車両が校内から出て1日目の一般公開が終わった。「何とか乗り切ったね。でも、3期生の問題はどうなるのかな?」さちが心配する。「そっちは生徒会長と総長と職員会議にお任せだ!明日はまた考えて乗り切ればいい」僕は敢えて楽観した。深刻に考えれば悪い方にしか行かない。物陰にさちを引き寄せるとキスをした。「明日は明日の風に乗ればいい」「うん!」僕とさちは教室へ向かった。意外にも僕とさちの分のクッキーとコーヒーが用意されていた。「久保田の指示でな、今日の労いだよ」長官が笑って言う。ともかく初日から大変な1日だったが、どうにか乗り切る事が出来た。3期生の問題も未解決のままだが、明日は別の世界での戦いが待っている気がした。残り2日。祭りは始まったばかりだった。