limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊲

2018年08月26日 16時34分28秒 | 日記
DBの到着を確認した後、Pホテル5階の「司令部」に6名の男達が集結していた。ミスターJが派遣した追跡部隊と、横浜本社から派遣された秘書課長以下2名の混成部隊である。KとDBの会話は、明瞭に聞こえており同時に録音が行われていた。「“耳”の威力は凄いですね。まるでその場に立ち会っているように感じます」秘書課長が唸った。「正直、私もここまでクリアな音声が録れるとは思っていなかった。電器屋の腕は相当なものだ」リーダーの男も唸った。「しばらくウォッチしていてくれ。俺は秘書課長さんと打ち合わせがある。課長さんこちらへ」男はベッドの方へ秘書課長を引っ張っていくと、小声で話し始めた。「課長さん、いよいよ本番です。これからの展開によってですが、部隊を2手に分けたいと思います」「そのこころは?」「追跡部隊と、もう一つは潜入部隊にです」男はさらりと言った。秘書課長は肝を潰した。「まさか、Kの部屋に潜り込むと言うのか!」「そうです!時間的に見ても、これから清掃作業に入る頃合いです。ヤツらは昼を食いながら話してますから、当然、片付けをしなくてはなりません。そこに隙があります」茫然としている秘書課長。「Kの所持品について、事前に把握して置く必要があります。KとDBが出掛けた隙を上手く利用しない手はありません。恐らく最初で最後の機会になるでしょう」男は“スパイ大作戦”をやろうと言っている。秘書課長は一瞬怯んだが「分かった。今やらねば、機会を逃すと言うのならやるしかない。」と言った。「それでは、人員割はどうする?」男に聞いて見た。「今、こうして分かれている通りにしましょう。私達が潜入部隊、彼らが追跡部隊。どうです?」「分かった。そうしよう。Y副社長にも通報する義務があるしな。それで、部屋の鍵はどうする?」「先程、部屋へ案内してくれた、客室係の彼女に手配してもらってますよ。ご心配なく。さて、部屋へ持ち込む道具をそろえなくは。課長さん、手伝いをお願いしてもいいですか?」「勿論だよ」「では、ゴソゴソと始めましょう」7階の724号室からの会話は順調に録音されていた。よもやKも階下に「司令部」があるとは思いもしないだろう。Kは「出し抜いた」つもりだが、Y副社長は更に裏を取った。情報戦でもリードしている。舞台上では、既に優劣が見え始めていた。踊らされているのは、KとDB。秘書課長は「観客」として傍観している様に感じ始めていた。その時だった。「KとDBがZ病院について話し始めました!」「何!最初のターゲットはそこか?!」全員がKとDBの会話に耳を澄ませた。どうやら、Z病院に「偵察」に行く気配である。「Z病院は何処です?!」リーダーの男が地図を広げて言った。「ここだ。市内の北側、私達の本社がここ。そこから西へ車で10分走った郊外のここだ!」秘書課長が地図上をなぞって説明する。「このホテルから移動するとなると、最短のコースは?」「市内は慢性的な渋滞が発生している。車だとKとDBに確実に置いて行かれる。だから、地下鉄とバスを乗り継いで行くのが、最も早い!」秘書課長が頭を巡らせながら答えた。DBも同じ様に分析をしている。「よし、早速行動開始だ!お前たちはZ病院へ先回りするんだ」リーダーの男が2名に命じた。秘書課長は他の2名に「最短、最速ルートを探せ!どうしてもヤツらより先にZ病院へ着いていなければならない。道案内は任せたぞ」と命じた。「君達4人は、今すぐにホテルを出発した方がいい。KとDBに見られたら全てが台無しだ。追加の指示は携帯にかける。さあ、急いでくれ!」4名の男達は慌ただしく支度を済ませると部屋から出て行った。リーダーの男は、窓際から外を伺い、4名が無事にホテル外へ出たことを確認してから、KとDBの会話に耳を澄ませた。秘書課長は携帯を取り出し、Y副社長を呼び出した。「KとDBが動き出します。行先はZ病院です!」Y副社長は「了解した。誰か先回りさせているのか?」と言った。「はい、追跡部隊は既にホテルを出ました。KとDBはまだ客室に居ます。恐らく10分以内にはヤツらも動き出すでしょう」「よし、貴重な時間を上手く稼いだな。“耳”から録ったテープは忘れずに持ち帰ってくれ。それと、追跡部隊に追加情報だ。直ぐに伝達しろ!Z病院には、ミスターJの同志が待機している。彼女とコンタクトを取って共同でKとDBの動きを探らせろ!パスワードは“カリフォルニアドリーム”だ。精神科病棟で彼女は待機している。分かったか?」Y副社長はゆっくりと話をしてメモを取りやすく配慮した。「分かりました。情報は書き取りましたので、直ぐに伝達します!」秘書課長はメモを見ながら言った。「Z病院での情報は、どう言う形でもいいから子細に調べ上げろ!KとDBが何を確認したか?それが重要だ。そして、テープと一緒に持ち帰ってくれ。遅くなっても構わん。私は部屋で待っている。では、宜しく頼む」Y副社長に報告を済ませると、今度は部下の番だ。Z病院での件とパスワードを伝える。部下は「分かりました。必死でやりますよ。事が済んだらホテルへ引き上げますか?」と聞いて来た。「そうだな、一旦戻ってくれ。報告書を作成しなくはならない。それと、くれぐれも気取られるな!4人で協力して上手くやるんだ」と念を押した。部下はどうやら先回りに成功しそうだった。「今、KとDBが出発するようです。“耳”を聴いて下さい!」リーダーの男が言った。「よっしゃ、いざ出陣だ!DB、案内してくれ」「後ろに気を付けよう。付けられていないかラウンジで確認だな」KとDBは部屋から出た。ドアの閉まる音を最後に“耳”からは何も聞こえなくなった。「KとDBがホテルから離れたら、直ぐにヤツらの部屋へ潜り込みましょう!」リーダーの男が言った。「ああ、何が出るかな?」秘書課長が問い返すと「妙なモノのオンパレードですよ。多分」リーダーの男は肩をすくめて言った。「持ち物から得られる手がかりで、ヤツらの今後の手口が掴めますよ。こちらは、更に手が広く厚く打てる様になります」「決死の捜索ですよ、私にしてみれば。こんな事やるなんて聞いてもいないんですから」秘書課長も肩をすくめていた。窓際で様子を伺った2名は、KとDBが連れ立って出発するのを確認してから、7階の724号室へ急いだ。

2人が7階の724号室へ向かうと、客室係とルーム係のカートが並んでドアの脇にあり、部屋の内部では、片付けと清掃が行われていた。ドアは開け放たれていた。「どうぞ、お入りになって下さい」背後から客室係の彼女の声が飛んできた。2人はびくっとして振返った。「あまり、時間はありません。他の係の者に見られると事です。捜索は手短にお願いします。それからこれを手にはめて下さい」彼女は薄手の青い手袋を差し出した。「手術用の手袋です。指紋を残さずに探りを入れられます。でも、中身を検分する際は細心のご注意を。疑われると事が厄介になりまから」急いで手袋をはめた2人は、早速Kの手荷物の検分に入った。彼女は清掃をしながら外を監視している様だった。デジカメで片っ端から写真を撮り、衣類の枚数を数えた。「1週間分の衣類がある様だ。Kはこの間に事を起こすと言う訳か?」秘書課長が呟いた。「その様ですね。宿泊予定日は、ここに書いてあります。書類のコピーを録るか」そう言うとリーダーの男は、スキャナーを取り出した。「えっ、パソコンは?スキャンしても記録は録れないんじゃないか?」課長が危惧すると「心配はいりません。コイツは中身を改造してあるんですよ。本体に大容量のメモリーを追加してあって、文書なら百科事典が一冊丸ごと入ります」リーダーの男は片っ端からスキャンをして文書を記録していった。課長は荷物を丹念に洗っていたが、妙なものを発見して首をひねりだした。「ちょっといいか?これを見てくれ!モデルガンにハンマー2本、1本は車の窓ガラスを割るヤツだ。大型犬用の首輪とリード、ロープが2本、強力ガムテープにこの瓶はエーテルだな。微かに匂う。何のための道具なんだろう?」リーダーの男が「証拠物件ですよ」と言った。「1点毎に、写真を撮りましょう。これを見つけるのが目的の一つだったんです。ヤツらは、やはりある人物を捕えて監禁するつもりです!ミスターJの予想は、やはり当たっていた」「誘拐と監禁か?!誰を?」課長が尋ねると「貴方が知らなくてもいい事ですよ。さて、大体の捜索は終わりましたね。足が付く前に引き上げましょう。大分時間を食ってしまいました。危険になる前に司令部に戻らなくては」リーダーの男は素早く道具を片付けると、廊下を伺った。客室係の彼女はすぐ隣の部屋の前で仕事をしていた。「引き上げだ。大丈夫か?」彼女は振り向くと、周囲を伺ってから頷いた。OKのサインだ。2人は足音を忍ばせつつ、彼女の横を通り脱出を開始した。エレベーターホールまでの間、誰ともすれ違わずに済んだ。潜入は成功したのだ。2人は一端2階へ降りてから、もう一度エレベーターに乗り5階へ戻った。後を付けられている気配はない。「司令部」となっている部屋の鍵を開けようとした時、リーダーの男が身を固くした。「中に誰かいる!」課長はドアから離れ「Kの仲間か?!」と言った。「とにかく、逃げられる様に身構えていて下さい!私が囮になって中にいるヤツをひきつけます。じゃあ行きますよ!」と言った瞬間リーダーの男は、床に転がっていた。中に居た人物がドアを開けたのだ!「何をやっておる?早く入れ!少し早く着いたので、コーヒーを淹れて待って居った」「ミスターJ!驚かせないでください!」リーダーの男が起き上がりながら抗議した。「すまん、すまん、とにかく貴方も早くお入りなさい」と秘書課長を手招きした。「ミスターJ・・・?!」今回の計画の中心人物にして、Y副社長も動かす司令官。秘書課長は、もっと切れそうなカミソリのような風貌の男を想像していた。だか、そこに居たのは初老の物静かそうな男だった。とても「Y副社長も一目置く大物」には見えなかった。部屋にはコーヒーカップが3つ用意され、コーヒーが湯気を立てていた。「KとDBは、Z病院か?」ミスターJは静かに聞いた。「はい、出発してから丁度40分になります。今頃、着いたでしょう」リーダーの男が言った。そして秘書課長に「座って下さい。コーヒーを飲みながら話しましょう」と言った。目の前にすると「おとなしそうな先輩」にしか見えない。「秘書課長さん、やり慣れない仕事をさせてしまって申し訳ない。だが、もう安心です。実働部隊の配置は完了しました。この携帯で指示すれば、即座に動き情報を送って来ます。では、2人が必死になってかき集めてくれたKの情報から見せて下さい。Z病院の方は、まだ暫く経たないと情報も入ってこないでしょう」「ミスターJ、準備が出来ました」リーダーの男が言った。「まず、写真からだ」部屋のTVをモニター画面にして写真が次々と映し出された。「ほう、やっぱり思った通りだ!」ミスターJは画面を食い入るように凝視していた。

バスを降りたKとDBは、Z病院の正面玄関をくぐった。「デカイな!病棟は西側のあのビルの様なヤツか?」KはDBに聞いた。「そうだ。救急救命センターの奥の、高いビル全体が病棟になっている」DBは、フロアを巧みに歩いて「入院係」の窓口へと向かった。傍のラックにお目当ての「Z病院フロアガイド」を見つけた。「ほら、これがZ病院の全体像だよ」DBは2部を掴んで、Kに1部を渡すと2人は近くのベンチに座り込んだ。ページをめくり、病棟のフロアを確認していく。暫く2人は無言だった。「6階だな。精神科病棟は。だが、妙だぞこれは。6階全体が閉鎖空間に見えるのは俺だけか?」Kが言うと「そうだな。ここだけフロア構造が他の階と違う!しかも病室内部の間取りが書かれていない!出入口も2か所だけで、その内の一つは職員専用だ!」DBも異変に気付いた様だった。「出入口の構造も妙だ。三重の扉で区切られている。しかも、2番目の扉の脇にある接見室とは何だ!面会者を病室に入れない仕組みの様だ」Kは指をつついている。「エレベーターホールに出ても階段は使えないかも知れない。ここだけ扉がある様だ」DBの表情も苦り切っている。「ともかく6階へ昇って見るか?」「それしかあるまい。この図面だけでは分からない事が多過ぎる」KとDBは立ち上がり、病棟へ向かった。エレベーターに乗り、6階へと降りる。すると、一面のガラス張りのパーテーションに阻まれた。中央にはインターホンがあるだけだった。そこから奥を覗くと更なる壁があり、右側にナースステションが見えた。左側は4つの扉の付いた小部屋で「接見室」の文字が見えた。エレベーターの右奥には階段があるはずだが、鉄の扉で閉ざされしかも鍵がかかっている。反対側はトイレになっていた。「閉鎖病棟だ。コイツは恐れ入った。Yのヤツがここを選んだのは、万が一にも簡単に突破出来ない事も折り込んでの事だったのか!」Kは憎らしそうに言った。「でも、突破するんだろう?」DBはKに向かって言った。「そうだ!こんな壁如きで諦める俺ではない!必ずコジ開けるんだ!」Kは語気を荒めて言い放った。「方法などいくらでもある。まずは、大人しく2つの壁をどうやって突破するかを考える。それと脱出経路だ!階段が使えない訳じゃない。コジ開ければいいんだ。2階層ほど昇って見よう」KとDBは8階へ向かった。するとエレベーターの右奥には階段がある。「降りてみよう」DBが先に立ち階段を6階まで降りた。すると6階部分は扉で閉ざされていた。ドアノブの下にはテンキーが付いている。「暗証番号式だ」DBが適当な数字を打ち込んでもドアは開かなかった。「表側は鍵式だったな」Kが思い出していた。「ああ、そうだった。それがどうした?」DBが聞く。「鍵を手にすれば、逃走経路になるって事だよ!」Kが言った。「とにかく、ここを出よう。人目に付くとマズイ。1階層下れば出口があるはずだ」案の定5階には出入口があり、エレベーターホールに通じていた。「まず、外来棟へ戻ろう。そこで今の結果を踏まえて、策を練り直しだ!」KとDBはエレベーターに乗った。その直後、追跡部隊の4人が現れ、小声で何やら話した後、2組に分かれて散っていった。Z病院内でも駆け引きは続いていたのだ。