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黙って泳いでいるやつだけ助けろと命じた雪風駆逐艦長・・・映画「雪風YUKIKAZE]と実際のちがい

2025年08月16日 07時05分16秒 | 記録しておきたいヒト・モノ・本・映画
映画「シン・ゴジラ」で活躍した駆逐艦「雪風」の映画が公開されたそうだが、予告編を観るかぎりは「永遠のゼロ」のように「史実に基づき」としながらも、現代的な解釈の饒舌なセリフで埋め尽くされた娯楽映画の印象だ。
予告編での雪風駆逐艦長は部下に対し、「今、我々の任務は一人でも多くを助けることです」と丁寧語をつかっているが、実際の寺内正道駆逐艦長は、嫌いな上官を酒席でぶん殴る暴れん坊で、その反面、部下に対しては豪放磊落にふるまう親分肌で、「俺が乗っとるうちは雪風は絶対に沈まんから安心しろ。なぜ沈まんかというと俺が乗っとるうちは沈まんことになっとるんだ!」と訓示するようなバンカラ気質の軍人であり、抜群の操艦技術と天性の戦術眼をもっていた生っ粋の駆逐艦乗りだった。
雪風駆逐艦長の寺内少佐は柔道の高段位の猛者で、軍服の胸ボタンがはちきれそうな偉丈夫。
 
そして沖縄水上特攻(天一号作戦)の「坊ノ岬沖海戦」で沈没した大和の乗員を救助する際は、映画のように「生きて帰り、多くの命を救う」とはずいぶんと違った。
「黙って泳いでるヤツだけ助けろ!自分から助けを求めるようなヤツを助けても役にたたん!」と命じたので、部下たちは聞こえないフリをして救助にあたっていたそうだ。
 
非情なようでも、作戦目的は沖縄の海岸に艦船を座礁させて砲台として戦う生還を期さない「水上特攻」であり、旗艦の大和が沈没しても生き残った艦艇は沖縄を目指し、砲弾が尽きたら上陸して玉砕するまで陸戦をする申合せだったから、寺内駆逐艦長には沖縄までたどり着いて戦う任務遂行の職責があったのだ。
だから狭い駆逐艦に戦力とならない弱った将兵を収容するより、戦力になる元気な将兵を優先しろと、表向きは命じた訳。
 
しかし無情にも連合艦隊司令部は大和沈没後に申合せを反故にして、作戦の中止と帰港を発令。
雪風の艦首に仁王立ちになった寺内少佐は、「ちが~う!沖縄はそっちじゃない!逆だ!返せ!返せ!」と、顔を真っ赤にして地団駄をふんでいたそうだ。
 
そもそも沖縄水上特攻は、「大和に死に場所を与えて1億玉砕の魁とする」といった、連合艦隊参謀の神少将の個人的な美意識により強引に決定された経緯がある。
こんな権威主義の参謀がいると現場の将兵は迷惑極まりないが、「神がかり神さん」とか「海軍の辻正信」と呼ばれた、自信過剰気味で狂信的な軍人であったらしい。
 
知らない人のために補足すると、辻正信とはノモンハン事件などで無謀な戦争を主導していた陸軍参謀。作戦の失敗は現地部隊の指導不足とピストルを渡して自殺を強要したり、食料が不足していた南方では捕虜の生き胆を食うと体が火照ってくると将兵に人肉食を強要したと伝わる。
東京裁判では死刑は免れないとしてバンコクに逃亡して、戦後に帰国して国会議員になっている。
 
寺内駆逐艦長の「大和が沈んだから引き返せとは、なんのために多くの将兵を死なせたのだ!」との憤懣やるかたない怒りは、航空特攻もふくめた特攻で戦死した将兵の代弁であって、「戦争を知らない世代」は、こういった太平洋戦争のリアリティこそ映画にして後世につたえるべきではないのか?
 
雪風が激戦を生き抜けたのは「勇将の元に弱卒はいず」の例えの通り、勇猛果敢な寺内駆逐艦長の元で一丸となった乗員たちの獅子奮迅の努力が、当時の言葉で「鬼人これを避く」の奇跡を呼んだのが本当だと思う。
半藤利一氏は、雪風の「奇跡の幸運艦」といった讃辞に難色を示し、「本来の水雷戦で活躍する場もなく、休養もさせずに護衛や輸送などで使い捨てにされた駆逐艦の悲劇の象徴」と雪風を捉えていて、わたしもその説に納得している。
 
雪風にかぎらず帝国海軍の駆逐艦は、艦隊決戦の際に攻撃の魁となり、快速を活かして戦艦に肉薄して93式酸素魚雷をぶち込むためにつくられ、乗員はそのための訓練に血道をあげてきた。
ところが航空戦が主体となった太平洋戦争では、海軍が想定していた艦隊決戦は数えるほどで、駆逐艦は機動部隊や輸送船の護衛ばかりさせられていた。
闘う相手は戦艦ではなく、航空機や潜水艦。
しかしそれらに必須となったレーダー兵装は、米軍と比べると極端に性能が劣り、不利な状況での護衛任務でもあったのだ。
予告編のように人命救助をするために太平洋を駆け回っていた正義の味方?ではないことにご注意を。
映画を観る時の参考まで。
 
 
 


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