デイリー句会入賞発表

選者 高橋正子
水煙発行所

入賞発表/5月11日(日)~5月17日(土)

2008-05-18 00:09:03 | Weblog
■5月11日(日)~5月17日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★空っぽの缶を蹴る音初夏の雲/藤田荘二
子どものころ、缶けりという遊びをした。「空っぽ」は、大人の見方。空き缶を蹴るカーンという響きが、初夏の明るさを感じさせてくれる。(高橋正子)

【特選/5句】
★土佐路ゆく茅花流しに吹かれつつ/柳原美知子
「茅花流し」は、茅の花が穂になり、その絮が吹かれるようになる頃吹く風のこと。夏の季語。やさしく、詩情のある季語である。その風に吹かれて外光豊かな土佐路の、青い山や川そして海を見つつ行く旅の、安らかな楽しさが思える。(高橋正子)

★幾百の海鳥岬に五月来る/志賀たいじ(正子添削)
元の句は、「岬の五月」となっていたので、リアルさを重んじて添削した。岬に幾百もの海鳥の姿を見ると、まさに五月が来た印象を持った。沖へ開かれる爽やかな心。(高橋正子)

★夕暮れの青き植田に日の名残/大山 凉
「日の名残」にこの句の深さが読める。植田のさみどりと水面にある日の名残の風景に、爽やかな初夏の中にもある、じんと心の底に温もりをくれる寂しさがある。(高橋正子)

★青嵐命もらいて野を行けば/おおにしひろし
風の強い日に新緑の中をウォーキングされた時の景と思いますが、小一時間も歩けば吐く意気まで緑色になるように感じ、自分も自然の中に生きる一員であると実感しますね。緑に染まる情景が良く窺えて素敵な句です。(かつらたろう)

★行き交へる舞妓の髪や風青し/まえかわをとじ
京都ならではの風景ですね。初夏の京都の町を行く舞妓さん、その髪に吹く風は若葉も揺らしていきます。 (多田有花)

【入選Ⅰ/15句】
★背に負いし達治の詩集若葉旅/おくだみのる
三好達治の詩集を「背に負い」、旅にあるのだ。作者の思いが伝わってくる。若葉の季節に達治の詩がいい。現代詩と俳句を両立させた詩人に広島福山の木下夕爾と松山高校俳句会出身の西垣脩がいて、三好達治もその一人だ。東大仏文科在学中に辰野隆教授に絶賛された俳句「柿熟るる夜は夜もすがら水車」がある。句集に『柿の花』があり、『俳句鑑賞』を筑摩書房から出した。(高橋信之)

★逆上がり出来た笑顔や大欅/大給圭泉
子どもの「笑顔」と「大欅」は、楽しい取り合わせだ。広々として明るい風景だ。切れ字の「や」による取り合わせの多用は好まないがこの句は別だ。「大欅」は、季語ではないが、この句には若葉の頃の季感がある。(高橋信之)

★千貫の神輿の声や日本橋/小西 宏
「千貫」が効いた。「神輿」や「日本橋」に籠められた日本の歴史・文化を思えば、なおのことであるが、この句を軽く読んでも「千貫」が効いた。(高橋信之)

★晴れて来て土手の夏草絶えず揺る/甲斐ひさこ
上五の「晴れて来て」に作者の力量を見た。句を大きくしたのだ。時間的にも、空間的にも大きくしたのだ。(高橋信之)

★駆けて来し園児ら噴水囲みけり/黒谷光子(信之添削)
季節のいい風景だ。「噴水の園児ら」をテーマとし、初夏の風景を捉えたのだ。園児らの「駆けて来し」動作と噴水を「囲みけり」という動作が読み手にも見えてくる。(高橋信之)

★葉桜の影に児を追い母も入る/あみもとひろこ
青々と茂る葉桜の影へと走る幼子と若き母の笑い声が聞こえ、青葉風が吹きわたります。生命力に満ち溢れ、ほのぼのとした親子の情景です。(柳原美知子)

★野沢菜の花の明りや千曲川/小口泰與
野沢菜が黄色い菜の花を咲かせる信濃、千曲川の美しく輝く、おおらかな流れとともに、信濃ののどやかな情景を思います。冬にはおいしい野沢菜を食べることが出来るのでしょうね。(大山 凉)

★娘を送る始発電車や夏燕/篠木 睦
始発電車で帰られるお子様を送られたのですね。夏燕は今年の子燕でしょうか、親燕と一緒に飛んでいるのをよく見かけます。朝が薄明るくなる頃から、もう飛びまわっています。そんな早朝の見送りの御気持ちも、燕のように爽やかだったのかもしれません。句を拝見してからの推量ですが・・。 (おおにし ひろし)

★一服の新茶に朝の職員室/池田多津子
どう言う句意だろうと考える事もなく一読で自分も新茶で朝のひと時を過ごしたいと思いました。(堀佐夜子)

★スープにも粥にも紫蘇の香の蒼し/かわな ますみ
日本人の体力の源泉である粥と郷愁を覚える紫蘇、加えて舌と目からの季節感が溢れ、とても好きな句です。さぞ美味しく頂かれた事でしょう。(まえかわをとじ)

★空澄みて若葉耀く朝嬉し/河野啓一
気分よく迎えれた朝、しかも、若葉が輝いている。今日も一日頑張らうという気持ちの満ち溢れた佳き句と存じます。下五の「朝嬉し」に詠者の思いのこもった作品。共感を覚えます。(宮本和美)

★影踏みに子ら駆け回る若葉晴/飯島治蝶
日差しが強くなり、晴れるとくっきりと影が出ます。若葉が繁る広場で子どもたちが影踏みに歓声を上げています。もう一度そうやって遊んでみたいなという気持ちを呼び起こしていただきました。(多田有花)
  
★柿若葉朝日を透いてさみどりに/丸山草子
柿のつやつやとした若葉には独特の美しさがあります。畑や庭の一画に植えられ、人間の生活の最も身近にある若葉かもしれません。「さみどり」に若葉の美への感嘆が感じられます。(多田有花)

★闘病のきざし好転目に若葉/宮本和美
病んでいらっしゃるのは作者自身か、あるいはご家族か、闘病というのは、心身ともに消耗するものです。ようやく病に好転のきざしが見えたとき、その安堵の思いとともにみずみずしい若葉が目に飛び込んできた、その感動を詠われています。(多田有花)

★茎立の果てのすっくと風にあり/臼井愛代
茎立って、その花も終わり近づいているが、しかし、風の中にもすっくと立っている。ひとりすっくと立つ「果て」姿に共感する。(高橋正子)

【入選Ⅱ/17句】
★音の無き矢車まわる五月空/吉川豊子
よく晴れた空に鯉幟の竿が立てられています。鯉幟はまだあがっていないのかもしれません。風はやさしく、音もなく矢車をまわしています。矢車を見上げられる作者の穏やかな心境がうかがわれます。(多田有花)

★若竹や今朝も伸びたり節の白/かつらたろう
若竹の”力”を強く感じます、{節の白}で充分に表現がされていて、好きな一句です。(吉川豊子)

★平らかに枝伸ばしたり若楓/多田有花
楓の枝は「平らかに」ですね。御句からのびのびと枝を広げ、陽に耀く若楓を想像いたします。(黒谷光子)

★穂波立つ風の軽さや麦の秋/吉田 晃
最近はあまり麦畑を見かけなくなりましたが、子供の頃は田舎でもよく作っておりました。秋の稲の穂と違い、麦の穂はまっすぐ伸びていて風も軽やかですね。平明な詠みの中にも、爽やかな調べがとても素敵で、麦秋の喜びまで感じます。(かつらたろう)

★葉を透かし朝日眩き若楓/小河原宏子
一日の始まりに、目覚めるばかりに美しい若楓です。その鮮やかな緑を通す日の光も爽やかな季節そのものの明るさです。(藤田洋子)

★靴音を運ぶ風あり若葉風/堀佐夜子
青葉の梢を吹き通る風とともに、軽やかな靴音が聞こえてくるようです。新鮮で瑞々しい季節感を作者ならではの感覚で明るく捉えられていると思います。(藤田洋子)

★エコ袋サラサラ鳴らす若葉風/井上治代
日常生活の一齣が清々しく詠われていて、とても爽やかになります。「若葉風」の季語がとても合っていると思います。(藤田裕子)

★夕暮れてヨシキリ啼くよほしいまま/古田けいじ
渡って来たヨシキリが得た心地よい場所なのでしょう。「ほしいまま」に、ヨシキリのいきいきと生息する様子が窺えます。(臼井愛代)

★花みかん海へ香零る空真青/藤田裕子
花みかんが零す豊かな香りに、溢れんばかりに咲くあまたの白い花も見えるようです。その上に広がる真っ青な空とあいまって、爽やかな初夏の情景となっています。(臼井愛代)

★鳥のいて代掻くあとを付きまわる/祝 恵子
代掻きの人を追うように付いてまわる鳥がいて、田んぼに活発な動きが生まれした。これからお米が育まれる場所が整うよろこびを感じます。(臼井愛代)

★若葉風駅の待合吹き抜ける/高橋秀之
爽やかに待ち時間を過ごせそうで、若葉風に安らぎを感じます。(甲斐ひさこ)

★芍薬の落花直前巨大なり/竹内よよぎ
言われてみれば、芍薬の落花に注目したことがありませんでした。どんな落花の模様かは別として、落花前は命の最後を示すように、かがやくのでしょう。そんな一瞬を切り取ったような緊張感を感じました。(藤田荘二)

★夏蝶の消えては現る木立かな/上島笑子
夏に入り、木立の枝葉が青々と生気をみなぎらせる中、軽やかに飛び交う夏蝶の動きが鮮明に見えてきます。明るく心地よい季節の到来を感じます。 (藤田洋子)

★水ひかる植田の苗のかそけしや/小川美和
田植え直後の稲は見た目、心もとなく、色淡く、「幽けく」がぴったりの様子です。それも、日月とともに地に根を下ろしやがて、強靭な稲へと育ちます。現在を見詰め、未来に託する気持ちがよく表現された深い句です。(おおにしひろし)

★紺碧の五月の空へいざ発たん/渋谷洋介
紺碧の五月の空が明るく広やかで美しいかぎりです。出立の日の清々しく晴れやかな心情が伝わります。(藤田洋子)

★つやつやとさくらんぼある雨の中/岩本康子
萌葱色の芽、うっすら黄や紅に染まる花、ほのかな色を見慣れた晩春、今年も雨が続きました。よく見ると、芽は青葉、花は朱い実に、それぞれ色を濃くしているよう。樹々の彩りが鮮やかに変化する瞬間をつややかな「さくらんぼ」に見る、美しい場をご一緒させて頂きました。(かわな ますみ)

★筑後川雲に溶けゆく揚雲雀/國武光雄
空に向かって垂直に舞い上がる雲雀を、「雲に溶けゆく」と表現されたところに、作者の実感、感動があります。滔々と流れる筑後川の豊かさもあり、大きく気持ちの良い情景を思いました。(臼井愛代)

■互選高点句
□集計/臼井愛代

【最高点/5点】
★神前の箒目揃い牡丹咲く/大山 凉
(宏子・晃・たろう・治蝶・泰與選)

神前の庭がきれいに掃き清められているところに美しい牡丹が咲いている、そんな庭の前に立つと心まで清められそうな清々しい句と思います。(小河原宏子)
地が清められると空気が澄み、落ち着いたたたずまいになります。そこに咲く牡丹は気高く感じられ、作者はしばらく見入っていたのでしょう。(吉田 晃)
いずこの神社の境内でしょうか?すっかり掃き清められた社の庭に咲く牡丹の、上品な花の姿が目に浮かぶようです。牡丹の花は、日本的な環境に良く映えるようですね。「箒目揃い」の語句に、とても爽やかな情景を思い浮かべました。(かつらたろう)
箒の目が整然とそろった神聖な神前の庭。その庭に咲く牡丹。厳かな中に、華麗さのある一句です。(飯島治蝶)
芳香のある径十数センチほどの大輪の花が咲き、花の姿の豊麗なことは花王の名にそむかない牡丹。神前の綺麗に掃きあがった境内に見事に咲いている牡丹を素敵に詠っていると思います。(小口泰與)

【次点/4点/2句】(作者名五十音順)
★白目高孵化して小さき目の泳ぐ/小河原宏子
(宏・たろう・和美・けいじ選)

★逆上がり出来た笑顔や大欅/大給圭泉
(けいじ・凉・光子・秀之選)

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35 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お礼 (臼井愛代)
2008-05-18 10:32:20
正子先生、「茎立」を入選Ⅰにお選びいただきまして、ありがとうございました。また、うれしいコメントをお添えいただきましたことをお礼申し上げます。
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お礼 (志賀たいじ)
2008-05-18 10:42:17
正子先生、「五月来る」の句に適切な添削ご指導を賜り、特選にお選び戴き有難うございます。ご指導の一字の重みを噛み締めています、励みになります。厚くお礼申し上げます。
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お礼 (宮本和美)
2008-05-18 10:53:03
正子先生
「若葉」の句を入選Ⅰにお選び頂き、有難う御座いました。励みになります。今後とも、宜しくお願い申し上げます。
多田有花様
「若葉」の句に心あたたまるコメントを頂戴し、感謝致致します。
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お礼 (大給圭泉)
2008-05-18 12:08:11
信之先生 「大欅」 の句に嬉しい句評をいただきまして有難うございます。勉強になりました。
何とも微笑ましい様子で見てても嬉しくなりました。

黒谷光子様、大山凉様、古田けいじ様、高橋秀之様
同句をお選びいただき共感してくださり嬉しいコメントを有難うございました。
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お礼 (堀佐夜子)
2008-05-18 13:26:05
正子先生、若葉風を入選Ⅱにお取り下さいまして有難う存じます。同句へ藤田洋子様嬉しいコメントを添えて下さいまして有難うございました。
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お礼 (黒谷光子)
2008-05-18 16:00:32
正子先生、「噴水」の句を入選1にお選びいただきまして有難うございました。
信之先生、同句を添削いただきコメントをお添えいただきましたこと、たいへん嬉しくお礼申し上げます。
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お礼 (柳原美知子)
2008-05-18 16:53:24
正子先生「土佐路ゆく茅花流しに吹かれつつ」に特選
をいただき、すばらしいコメントを添えていただき、
お礼申し上げます。「茅花流し」という季語には、以前から心惹かれていましたが、まさにその風に出会え
又その句を評価していただき、本当にうれしく思います。
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お礼ー高橋信之先生 (おくだみのる)
2008-05-18 17:45:37
高橋先生
若葉旅の句を入選、懇篤なコメントを頂き有難うございます。北のさいはての地のひとり旅で、句もいくつかできました。
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お礼 (まえかわをとじ)
2008-05-18 17:57:51

「お礼」
正子先生
「風青し」の句を「特選」にお選び頂き、有難う御座いました。大変励みになります。今後とも、宜しくお願い申し上げます。

有花様
同上句に大変ご懇篤なコメントをお寄せ戴き有り難うございます。大変励みになります厚く御礼申し上げます。
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お礼 (河野啓一)
2008-05-18 19:13:21
正子先生
「空澄見て若葉」の句を入選1にお選びいただき有り難う御座います。たいへん励みになりました。今後ともご指導宜敷くお願い致します。

宮本和美さま
同句にご懇篤なコメントを頂戴し、有り難う御座いました。厚くお礼申し上げます。
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