デイリー句会入賞発表

選者 高橋正子
水煙発行所

2006年1月最優秀

2006-01-21 13:58:03 | Weblog
■高橋正子選

【最優秀/1月1日-3日】
★潮満ちる海の大きく年の朝/池田多津子
潮の満ちてくる海を眺めて、洋々とした気持ちになれた新年の朝である。新しい年が未来へとたしかに広がる実感がある。(高橋正子)

【最優秀/1月4日】
★少年の書初め希望と紙いっぱい/黒谷光子
素直なのびのびとした俳句で、内容ともよくマッチしている。希望にみちた少年の明るさがよく出ている。(高橋正子)

【最優秀/1月5日】
★小寒や夜の明けきらぬ闇深し/渋谷洋介
寒に入って明け方目を覚ますと、まだ暗い。暗いというより夜のままの闇である。闇の深さのなかで夜明けを待つのも人の営み。(高橋正子)

【最優秀/1月6日】
★潮騒に色を深めり黄水仙/篠木睦
水仙は、冬の季語で、地中海沿岸原産だが、黄水仙は、春の季語で、南ヨーロッパ原産。黄水仙も水仙の一種なので、ともに水と親しい。この句では、「潮騒」と「黄水仙」との取り合わせがよく、「色を深めり」は、作者の主情だが、無理がない。(信之評)

【最優秀/1月7日】
★千枚の棚田の雪を積み上げる/おおにし ひろし
「雪を積み上げる」は、目的のはっきりした行為だが、この句には、主語が無い。その良さを読み取って欲しい。「雪」を降らすのは、大自然なのだが、「千枚の棚田」を作り上げたのは、人間の行為だ。「雪を積み上げる」のは、大自然と人間とが一つになった行為であって、美しく、見事である。(信之評)

【最優秀/1月8日】
★金釦ひとつを付けて縫始/臼井虹玉
「金釦」は、息子さんのであろう。どこか楽しげである。作者は、首都圏の中心近くに住み、パソコン教室の講師をなさっているが、良妻賢母型の主婦である。日本のこれからの新しい主婦像を見た。(信之評)

【最優秀/1月9日】
★基礎を打つ庭に広がる冬の草/松本豊香
家を建てる基礎工事をする庭に、冬草がさまざまある。冬草は、青々とした草、枯れた草、また枯れかけた草を指す総称で、「広がる」があるので、土地一面に生えているいろんな草の様子が想像できる。家が建つのを楽しみにしているのは、多分作者なのだろう。(正子評)

【最優秀/1月10日】
★雪渓を来し水音の尖り落つ/おおにしひろし
雪渓を流れてきた水は、細くなり、冷たく鋭く音となって落ちている。「尖り落つ」がその状景を的確に表現している。水の流れを自然に見て無理のなく、無駄なく表現された。(正子評)

【最優秀/1月11日】
★福笹を担げる人とすれちがう/黒谷光子
福笹を担いだ人とすれ違い、縁起のよい、めでたい気持ちになった。十日戎で求めた福笹だろう、大きいので担いでいる。担ぐほどの福をつけているのだ。この句には技術は何もない。この句のよさは、だれでもが見ていながら、その風景を表現として切り出さずにいたのを、内面より切り出し、あきらかに見える風景としたところにある。われわれは雑多でごちゃまぜの光景を目に映しているが、この俳句はそれをすっきりと明確にさせたところにある。(正子評)

【最優秀/1月12日】
★目の移る方へと移り冬の鳥/篠木睦(正子評)
目を移すと、そちらのほうへ鳥も移り飛んでゆく。見てくれといわんばかり。子どものしぐさを見るような温かさがある。(正子評)

【最優秀/1月13日】
★青空に向くゴンドラや初樹氷/篠木睦
ゴンドラに連れられてゆくと樹氷の世界。ゴンドラの向かうところは青い空。窓には、初めての樹氷が花を咲かせている。その感激がそのまま句になった。(正子評)

【最優秀/1月14日】
★富士を背に家路に向かう霜日和/大給圭泉
霜が降る日は風もなく晴れているので霜日和となる。くっきりと見える富士を背にして、その姿を思いつつ家路を辿る気持ちのよさ。富士山を生活圏に持つ人の思い。(正子評)

【最優秀/1月15日】
★雪降って降っては山が遠ざかる/志賀たいじ
雪が降り、山は白くなる。また雪が降り、山はいっそう白くなる。雪が降りづづくと、山は曇り空に溶けるように、遠ざかる。雪が降り続くとき、人の思いは遠く、はるかになるのだろう。(正子評)

【最優秀/1月16日】
★枯野には空と小鳥と静けさと/祝恵子
枯野は静かである。しかし耳をすますと、小鳥の鳴き声が聞こえ、顔をあげると、ひろびろとした空がある。枯野は空に接し、小鳥を遊ばせ、自若としている。(正子評)

【最優秀/1月17日】
★朝まだき鳥の声聞く冬障子/堀佐夜子
障子だけでも冬の季語だが、冬障子もよい。冬の朝は寒いので、障子を締め切っていると、ぴんと張った白い障子を通して小鳥の声が聞こえる。障子に小鳥の声がはじけるようで、冬の朝のたのしさがすがすがしく詠まれた。(正子評)

【最優秀/1月18日】
★雪溶けてまず真っ直ぐに黒き畦/黒谷光子
田を区切っている畦は、ほかよりも高く、まず一番に雪が溶けて現れる。「まず真っ直ぐに」と「黒き畦」の強さがこの句をしっかりさせている。(正子評)

【最優秀/1月19日】
★ひとつ坂上りつめれば寒椿/中村光声
イメージに無駄がなく、寒椿の印象が鮮明。坂も風景として効果的に働いている。寒椿は坂を上りつめたところにあり、上りつめほっと一息入れるその吐息のような紅い寒椿に、目を奪われた作者である。(正子評)

【最優秀/1月20日】
★マフラーをなびかせ幼滑り去り/河野一志
湖に氷の張るような地方の子どもたちは、どの子もスケートやスキーが達者。目の前を、マフラーをなびかせて、あっという間に滑り去る子どもたちをほほえましく見守る作者。それにしても、昔と変わらず子どもたちは、無邪気で元気に外で遊ぶ。(正子評)

【最優秀/1月21日】
★ずんずんと雪舞う空気弾ませて/小川美和
首都圏も久しぶりの雪。「ずんずんと」「空気弾ませて」には、作者の雪に弾んだ気持ちが、出ている。雪が落ちては舞い上がりながら降る様子を、空気弾ませて」と捉えたのは新しい。(正子評)

【最優秀/1月22日】
★さりげなく雪降り見せてふと消して/碇 英一
雪を降らす天に意思があるかのような雪の降り方である。雪を降らせたかと思うと、気づけば止んでいる。「ふと消して」は、神のしわざと思える。(正子評)

【最優秀/1月23日】
★ものの芽の出ると思しき土の色/堀佐夜子
言われてみるとそうだと気づく。球根の芽が出そうなところの土の色は、どことなく、芽の出る気配が見える。土に芽の出る色を見たのは、敏くもある、作者のたしかな目である。 (正子評)

【最優秀/1月24日】
★寒林の奥に伐る音こだまして/志賀たいじ
「寒林の奥」にも人が入って木を「伐る」。しずまりかえった寒林に返る「こだま」がもの言わぬ自然の声のようだ。(正子評)

【最優秀/1月25日】
★村境はっきりさせて雪が降る/篠木睦
たとえば、車で走っていると、人家の途切れたところからは、雪の降り方が全く違う様子になっているのに出会うことがある。こんなにも違うかと思うほど、はっきりしている。そこが、村境なのであろう。雪の村境のさびしさがしんと心に迫る。(正子評)

【最優秀/1月26日】
★年輪のきりきり締まる寒の内/碇 英一
木は、暖いとよく太り、寒い時期にはあまり太らないことで、年輪ができることは承知のこと。寒中のあまりの寒さに、きりきりと螺子を巻くように、太るべき木の年輪が太らないで、締められているという見方。年輪の緻密な木ほど良木。寒の内の木を捉えて面白い。(正子評)

【最優秀/1月27日】
★雑木山寒風どこかに出入口/大給圭泉
風は、どこから吹いてきて、どこへ行くんだろうと、子どもなら思う。雑木山に入ると、頭上を風が吹き抜けていく。この山のどこかに風の出入口がありそうな感じだ。童話のような楽しさがある。(正子評)

【最優秀/1月28日】
★笑顔らし母も抱っこの子もマスク/かわなますみ
読みながら、読者もにっこりする光景。風邪で気分が優れないはずなのに、にこにこした顔をマスクの下に想像できる母親に抱かれた子は幸せ。マスクをしておとなしくしている子も素直。柔和な母と子の姿に、心が和む。(正子評)

【最優秀/1月29日】
★青天の銀杏冬芽に光あり/黒谷光子
青空に聳える銀杏の冬芽が、きらきらと光って見える。銀杏の木も高く、青い天も高い。高いものにもっとも光りが注ぐ。寒さに澄んだ光りがいい。(正子評)

【最優秀/1月30日】
★寒禽の大きが太き枝を得し/臼井虹玉(信之添削)
寒禽の中の大きいものが、太い枝に止まる。大意はないが、なかなかしたたかな鳥である。太い枝に止まり余裕さえある。言葉のリズムもごつごつと骨太でしっかりしている。(正子評)

【最優秀/1月31日】
★田を埋めて平らかになる雪の原/長岡芳樹
「田を埋めて平らかになる」に、新鮮な驚きがある。田畦の高さが消えるほどの雪。そして一面の雪の原の平らかな様子に、軽やかさがある。これくらいの雪の量の、ほどよさが実感できる。(正子評)