■6月22日(日)~6月30日(月)
□高橋正子選
【最優秀】
★合歓の花気づけば風の現わるる/上島祥子
合歓の花が咲いている。静かに咲いていると眺めていると、いつしか揺れている。風が現れたのだ。風が「生まれる」でも、「吹く」でもなく、「現れる」が妙。(高橋正子)
【特選/5句】
★祭笛遠のくほどに甦る/竹内小代美
祭の賑わいに笛の音が混じっている。祭のかたまりが遠のくと、笛の節回しや音色が、耳にはっきりと蘇ってくる。祭の余韻にあるさびしさ。(高橋正子)
★向日葵の数本は比叡山を向く/祝 恵子
向日葵は、太陽を向く花と思われるが、中には、それを外れて数本は、青々とした比叡山のほうを向くのもある。己に従うのだろう。また、向日葵の黄、比叡山の青とのコントラストが明快。(高橋正子)
★えんどうのさみどり籠に朝な摘む/丸山美知子
朝な朝な、えんどうを籠に摘むたのしみ。えんどうのさみどりも目を楽しませてくれる。丁寧な生活が偲ばれる。(高橋正子)
★若竹に節あることのすがすがし/多田有花(正子添削)
竹に節がなかったら、どうだろう。若竹の粉を吹いたような節が、けじめをつけて、きっぱりとした様子が、目にもすがすがしさを呼び起こす。(高橋正子)
★出羽なれば薊はまして色の濃く/藤田荘二
奥深い出羽山中。そこに出会う薊さえも、世俗の空気に染まらず、色濃く咲いている。その感慨は一入。(高橋正子)
【入選Ⅰ/15句】
★山百合の茎のあわれに残りけり/小口泰與
美しい時を過ぎぽろぽろと花の崩れたあとの百合の茎の姿が緑の棒のように立ち残っている。また次の年にもここに美しくさいてくれることでしょう。時の移りを感じる好きな句です。(甲斐ひさこ)
★李熟る雨のなかにも紅を差し/桑本栄太郎(正子添削)
雨の降る中にも丹精した李が熟れ始め赤みをさしてきた豊かな里の光景を思います。果肉の赤い、少し酸味のある李は大好きです。(大山正子)
★樫の木の白く花咲く森を行く/河野啓一
白きでなく白くと表現したところに、臨場感を見ます。私も歩いてみたい光景です。(竹内小代美)
★シャツ白く背(せな)に膨らむ五月晴/小西 宏
梅雨晴れの気持ち良さが白いシャツの膨らみでうまく表現されています。(奥田 稔)
★沢蟹も我もまた今梅雨の中/古田敬二
梅雨の真っ只中にいる作者と小さな生き物沢蟹。梅雨のこの時季をとても軽快に詠まれていると思います。(藤田裕子)
★水清き谷にはみ出る合歓の花/宮本和美
わたしも今日、合歓の花を見かけました。川の近くにある合歓です。清らかな谷に枝を広げている枝に咲く合歓の花のピンク色がやさしいです。(池田多津子)
★大西日ふかぶかと射すぶなの森/大山正子
ぶなの森の奥まで西日が差し込み輝くぶなの森がきれいです。(丸山美知子)
★臥して見る日の高きこと夏至の窓/矢野文彦
同じものを見ても、視点の位置を変えるだけで少し違う新しい世界が見えることがあります。臥して見るからこその夏至の日の高さ、その実感が新鮮な感動とともに伝わってきます。(多田有花)
★潮の香の濃き日は合歓の花揺れる/池田多津子
潮風に揺れる合歓の花の動きがゆらゆらと目に浮かびます。色取りの美しい、好きな句です。(甲斐ひさこ)
★立葵の影をたしかに立ちにけり/大西 博
色の鮮やかな立葵を、強い日差しにできるくっきりした影でとらえられました。「影をたしかに」の断定が「立ちにけり」を生かしていると思います。とても印象鮮明な句です。(藤田荘二)
★噴水の天辺のさき空青き/川名ますみ
噴水の勢いが「天辺のさき」に、そしてそこに夏の青い空。白い噴水と空の青の対比に、水の清々しさといきもののような力強さを感じました。(藤田荘二)
★降り立てば梔子匂う湖の駅/小河原宏子
さわやかで手入れの行き届いた、地域に大事にされている駅舎を思い浮かべます。梔子に印象付けられた旅は鮮明でしょう。(藤田荘二)
★ほどく荷の越後の香り粽なり/大給圭江子
わくわくしながら荷を解く感じが伝わります。思い出がいろいろある方からの、思い出がつまった粽なのでしょう。それを「香り」「粽なり」というだけで想像させる強さがあると思いました。(藤田荘二)
★虎の尾に蝶のとまりて揺れにけり/奥田 稔
山野に白い花穂を弓なりに垂れる虎の尾草。蝶がとまり、そのしなやかな揺れようが、ことさら優しく印象付けられました。(藤田洋子)
★闇深き草に点りし蛍かな/甲斐ひさこ
闇の深さに、蛍の点滅がより明るく見えてくるようです。草に点る蛍の明りに、夏の夜の静かな美観を感じます。 (藤田洋子)
【入選Ⅱ/15句】
★子を叱る声聞く夕べ薊咲く/飯島治朗
日が長くなり隣人の声を耳にする時間も長くなったようで、それとなく子を叱る声も耳にします。微笑ましい情景で、暮れなずむ夕景に夏薊の濃紅が美しく、温かみを感じる句です。(柳原美知子)
★癒えし傷しゃぼんに包みシャワー浴ぶ/臼井愛代
退院おめでとうございます。入院中はシャワーや入浴はできなかったことと思います。ようやく手術の傷が癒え、初めて浴びるシャワーの心地よさが伝わってきます。お大事になさってください。(多田有花)
★椎大樹余さず花穂覆いけり/渋谷洋介
大景を真正面から捉え下五の切れがより効果を上げています。(篠木 睦)
★回廊を曲がるたびごと沙羅の花/黒谷光子
お寺のお庭に植えられている沙羅の花でしょうか。夏椿の花を日本では沙羅の花とみなしているようです。釈迦入滅時の沙羅双樹とは異なるそうですが、可憐な白い花が咲き、お寺の梅雨時を美しく彩ります。(多田有花)
★夏桔梗風に揺れるよたおやかに/堀佐夜子
桔梗は秋の七草ですが、六月ごろから咲き始めます。青紫色の星型の花は涼しげで夏の景色にもふさわしいですね。梅雨の合間の風にふかれてやさしく揺れている桔梗の姿をさりげなく詠まれています。(多田有花)
★母の乳吸う子の横に扇風機/高橋秀之
母乳を吸うのは、子どもにとってなかなか力のいる仕事です。吸わせる母にとってもそうでしょう。汗をいっぱいかきながら乳にむしゃぶりついている子どもの健やかな姿が見えます。子どもの体温が高く、母も汗びっしょり、扇風機が優しげです。(多田有花)
★曲線の畦に沿いたる植田かな/國武光雄
山間の棚田でしょうか。平野部では耕地整理が進んで広々とした矩形の田がおなじみですが、山間部では等高線に沿った畦を守らざるをえません。その線にそって植えられている苗、自然の示すままに今も営まれている農の様子が見えてきます。(多田有花)
★鮎を焼く川の匂いのたちこめる/小川和子
川魚の香魚といわれる鮎。川の匂いに満たされて、美味な鮎をいただく季節の喜びを感じます。(藤田洋子)
★蓮葉の風ひるがえし蕾抱く/柳原美知子
風の中にあって、青々とした蓮の葉が清々しいかぎりです。開花前の愛らしい蕾も見えてくるようです。 (藤田洋子)
★庭いじり終えし縁端新茶の香/吉川豊子
庭の手入れを終えて縁側の端に労をやすめる。どなたが入れてくれた茶であろうか、新茶の香りが喉の奥まで広がり、涼やかな初夏の空気がしみわたる。(小西 宏)
★百幹の涼しき古道母の里/篠木 睦
延々と巨木の続く古道には年をかさねた重みがあり、深閑とした涼しさがあります。母上を慕いつつ、その坂を辿られたのでありましょう。(小西 宏)
★新じゃがの土の匂いをまず洗う/網本紘子
収穫されたばかりのじゃが芋を洗う。まずはそれを育み実らせた土に感謝しつつ、清らかな肌を洗い出さなければならない。そこにはまた新たに、青臭い新じゃが芋の匂いを嗅ぐことになる予兆をも感じさせる。(小西 宏)
★組まれたる茅の輪の竹の青き口/尾 弦
組み上げられて並んでいる竹が若々しい。青き口に夏の竹の勢いが感じられました。(高橋秀之)
★仔馬跳ね夏の旅人(たびと)を喜ばす/志賀泰次
北海道の牧場での一こまなのでしょう。元気な仔馬の動作が新鮮で、旅も楽しくなります。(高橋秀之)
★裏表赤ひと色の紫蘇洗う/藤田裕子
赤ひと色の表現に紫蘇の瑞々しさが溢れています。その紫蘇の香りに包まれている作者が感じられます。(高橋秀之)
□高橋正子選
【最優秀】
★合歓の花気づけば風の現わるる/上島祥子
合歓の花が咲いている。静かに咲いていると眺めていると、いつしか揺れている。風が現れたのだ。風が「生まれる」でも、「吹く」でもなく、「現れる」が妙。(高橋正子)
【特選/5句】
★祭笛遠のくほどに甦る/竹内小代美
祭の賑わいに笛の音が混じっている。祭のかたまりが遠のくと、笛の節回しや音色が、耳にはっきりと蘇ってくる。祭の余韻にあるさびしさ。(高橋正子)
★向日葵の数本は比叡山を向く/祝 恵子
向日葵は、太陽を向く花と思われるが、中には、それを外れて数本は、青々とした比叡山のほうを向くのもある。己に従うのだろう。また、向日葵の黄、比叡山の青とのコントラストが明快。(高橋正子)
★えんどうのさみどり籠に朝な摘む/丸山美知子
朝な朝な、えんどうを籠に摘むたのしみ。えんどうのさみどりも目を楽しませてくれる。丁寧な生活が偲ばれる。(高橋正子)
★若竹に節あることのすがすがし/多田有花(正子添削)
竹に節がなかったら、どうだろう。若竹の粉を吹いたような節が、けじめをつけて、きっぱりとした様子が、目にもすがすがしさを呼び起こす。(高橋正子)
★出羽なれば薊はまして色の濃く/藤田荘二
奥深い出羽山中。そこに出会う薊さえも、世俗の空気に染まらず、色濃く咲いている。その感慨は一入。(高橋正子)
【入選Ⅰ/15句】
★山百合の茎のあわれに残りけり/小口泰與
美しい時を過ぎぽろぽろと花の崩れたあとの百合の茎の姿が緑の棒のように立ち残っている。また次の年にもここに美しくさいてくれることでしょう。時の移りを感じる好きな句です。(甲斐ひさこ)
★李熟る雨のなかにも紅を差し/桑本栄太郎(正子添削)
雨の降る中にも丹精した李が熟れ始め赤みをさしてきた豊かな里の光景を思います。果肉の赤い、少し酸味のある李は大好きです。(大山正子)
★樫の木の白く花咲く森を行く/河野啓一
白きでなく白くと表現したところに、臨場感を見ます。私も歩いてみたい光景です。(竹内小代美)
★シャツ白く背(せな)に膨らむ五月晴/小西 宏
梅雨晴れの気持ち良さが白いシャツの膨らみでうまく表現されています。(奥田 稔)
★沢蟹も我もまた今梅雨の中/古田敬二
梅雨の真っ只中にいる作者と小さな生き物沢蟹。梅雨のこの時季をとても軽快に詠まれていると思います。(藤田裕子)
★水清き谷にはみ出る合歓の花/宮本和美
わたしも今日、合歓の花を見かけました。川の近くにある合歓です。清らかな谷に枝を広げている枝に咲く合歓の花のピンク色がやさしいです。(池田多津子)
★大西日ふかぶかと射すぶなの森/大山正子
ぶなの森の奥まで西日が差し込み輝くぶなの森がきれいです。(丸山美知子)
★臥して見る日の高きこと夏至の窓/矢野文彦
同じものを見ても、視点の位置を変えるだけで少し違う新しい世界が見えることがあります。臥して見るからこその夏至の日の高さ、その実感が新鮮な感動とともに伝わってきます。(多田有花)
★潮の香の濃き日は合歓の花揺れる/池田多津子
潮風に揺れる合歓の花の動きがゆらゆらと目に浮かびます。色取りの美しい、好きな句です。(甲斐ひさこ)
★立葵の影をたしかに立ちにけり/大西 博
色の鮮やかな立葵を、強い日差しにできるくっきりした影でとらえられました。「影をたしかに」の断定が「立ちにけり」を生かしていると思います。とても印象鮮明な句です。(藤田荘二)
★噴水の天辺のさき空青き/川名ますみ
噴水の勢いが「天辺のさき」に、そしてそこに夏の青い空。白い噴水と空の青の対比に、水の清々しさといきもののような力強さを感じました。(藤田荘二)
★降り立てば梔子匂う湖の駅/小河原宏子
さわやかで手入れの行き届いた、地域に大事にされている駅舎を思い浮かべます。梔子に印象付けられた旅は鮮明でしょう。(藤田荘二)
★ほどく荷の越後の香り粽なり/大給圭江子
わくわくしながら荷を解く感じが伝わります。思い出がいろいろある方からの、思い出がつまった粽なのでしょう。それを「香り」「粽なり」というだけで想像させる強さがあると思いました。(藤田荘二)
★虎の尾に蝶のとまりて揺れにけり/奥田 稔
山野に白い花穂を弓なりに垂れる虎の尾草。蝶がとまり、そのしなやかな揺れようが、ことさら優しく印象付けられました。(藤田洋子)
★闇深き草に点りし蛍かな/甲斐ひさこ
闇の深さに、蛍の点滅がより明るく見えてくるようです。草に点る蛍の明りに、夏の夜の静かな美観を感じます。 (藤田洋子)
【入選Ⅱ/15句】
★子を叱る声聞く夕べ薊咲く/飯島治朗
日が長くなり隣人の声を耳にする時間も長くなったようで、それとなく子を叱る声も耳にします。微笑ましい情景で、暮れなずむ夕景に夏薊の濃紅が美しく、温かみを感じる句です。(柳原美知子)
★癒えし傷しゃぼんに包みシャワー浴ぶ/臼井愛代
退院おめでとうございます。入院中はシャワーや入浴はできなかったことと思います。ようやく手術の傷が癒え、初めて浴びるシャワーの心地よさが伝わってきます。お大事になさってください。(多田有花)
★椎大樹余さず花穂覆いけり/渋谷洋介
大景を真正面から捉え下五の切れがより効果を上げています。(篠木 睦)
★回廊を曲がるたびごと沙羅の花/黒谷光子
お寺のお庭に植えられている沙羅の花でしょうか。夏椿の花を日本では沙羅の花とみなしているようです。釈迦入滅時の沙羅双樹とは異なるそうですが、可憐な白い花が咲き、お寺の梅雨時を美しく彩ります。(多田有花)
★夏桔梗風に揺れるよたおやかに/堀佐夜子
桔梗は秋の七草ですが、六月ごろから咲き始めます。青紫色の星型の花は涼しげで夏の景色にもふさわしいですね。梅雨の合間の風にふかれてやさしく揺れている桔梗の姿をさりげなく詠まれています。(多田有花)
★母の乳吸う子の横に扇風機/高橋秀之
母乳を吸うのは、子どもにとってなかなか力のいる仕事です。吸わせる母にとってもそうでしょう。汗をいっぱいかきながら乳にむしゃぶりついている子どもの健やかな姿が見えます。子どもの体温が高く、母も汗びっしょり、扇風機が優しげです。(多田有花)
★曲線の畦に沿いたる植田かな/國武光雄
山間の棚田でしょうか。平野部では耕地整理が進んで広々とした矩形の田がおなじみですが、山間部では等高線に沿った畦を守らざるをえません。その線にそって植えられている苗、自然の示すままに今も営まれている農の様子が見えてきます。(多田有花)
★鮎を焼く川の匂いのたちこめる/小川和子
川魚の香魚といわれる鮎。川の匂いに満たされて、美味な鮎をいただく季節の喜びを感じます。(藤田洋子)
★蓮葉の風ひるがえし蕾抱く/柳原美知子
風の中にあって、青々とした蓮の葉が清々しいかぎりです。開花前の愛らしい蕾も見えてくるようです。 (藤田洋子)
★庭いじり終えし縁端新茶の香/吉川豊子
庭の手入れを終えて縁側の端に労をやすめる。どなたが入れてくれた茶であろうか、新茶の香りが喉の奥まで広がり、涼やかな初夏の空気がしみわたる。(小西 宏)
★百幹の涼しき古道母の里/篠木 睦
延々と巨木の続く古道には年をかさねた重みがあり、深閑とした涼しさがあります。母上を慕いつつ、その坂を辿られたのでありましょう。(小西 宏)
★新じゃがの土の匂いをまず洗う/網本紘子
収穫されたばかりのじゃが芋を洗う。まずはそれを育み実らせた土に感謝しつつ、清らかな肌を洗い出さなければならない。そこにはまた新たに、青臭い新じゃが芋の匂いを嗅ぐことになる予兆をも感じさせる。(小西 宏)
★組まれたる茅の輪の竹の青き口/尾 弦
組み上げられて並んでいる竹が若々しい。青き口に夏の竹の勢いが感じられました。(高橋秀之)
★仔馬跳ね夏の旅人(たびと)を喜ばす/志賀泰次
北海道の牧場での一こまなのでしょう。元気な仔馬の動作が新鮮で、旅も楽しくなります。(高橋秀之)
★裏表赤ひと色の紫蘇洗う/藤田裕子
赤ひと色の表現に紫蘇の瑞々しさが溢れています。その紫蘇の香りに包まれている作者が感じられます。(高橋秀之)