デイリー句会入賞発表

選者 高橋正子
水煙発行所

入賞発表/6月22日(日)~6月30日(月)

2008-06-29 16:48:31 | 入賞発表
■6月22日(日)~6月30日(月)
□高橋正子選

【最優秀】
★合歓の花気づけば風の現わるる/上島祥子
合歓の花が咲いている。静かに咲いていると眺めていると、いつしか揺れている。風が現れたのだ。風が「生まれる」でも、「吹く」でもなく、「現れる」が妙。(高橋正子)

【特選/5句】
★祭笛遠のくほどに甦る/竹内小代美
祭の賑わいに笛の音が混じっている。祭のかたまりが遠のくと、笛の節回しや音色が、耳にはっきりと蘇ってくる。祭の余韻にあるさびしさ。(高橋正子)

★向日葵の数本は比叡山を向く/祝 恵子
向日葵は、太陽を向く花と思われるが、中には、それを外れて数本は、青々とした比叡山のほうを向くのもある。己に従うのだろう。また、向日葵の黄、比叡山の青とのコントラストが明快。(高橋正子)

★えんどうのさみどり籠に朝な摘む/丸山美知子
朝な朝な、えんどうを籠に摘むたのしみ。えんどうのさみどりも目を楽しませてくれる。丁寧な生活が偲ばれる。(高橋正子)

★若竹に節あることのすがすがし/多田有花(正子添削)
竹に節がなかったら、どうだろう。若竹の粉を吹いたような節が、けじめをつけて、きっぱりとした様子が、目にもすがすがしさを呼び起こす。(高橋正子)

★出羽なれば薊はまして色の濃く/藤田荘二
奥深い出羽山中。そこに出会う薊さえも、世俗の空気に染まらず、色濃く咲いている。その感慨は一入。(高橋正子)

【入選Ⅰ/15句】
★山百合の茎のあわれに残りけり/小口泰與
美しい時を過ぎぽろぽろと花の崩れたあとの百合の茎の姿が緑の棒のように立ち残っている。また次の年にもここに美しくさいてくれることでしょう。時の移りを感じる好きな句です。(甲斐ひさこ)

★李熟る雨のなかにも紅を差し/桑本栄太郎(正子添削)
雨の降る中にも丹精した李が熟れ始め赤みをさしてきた豊かな里の光景を思います。果肉の赤い、少し酸味のある李は大好きです。(大山正子)

★樫の木の白く花咲く森を行く/河野啓一
白きでなく白くと表現したところに、臨場感を見ます。私も歩いてみたい光景です。(竹内小代美)

★シャツ白く背(せな)に膨らむ五月晴/小西 宏
梅雨晴れの気持ち良さが白いシャツの膨らみでうまく表現されています。(奥田 稔)

★沢蟹も我もまた今梅雨の中/古田敬二
梅雨の真っ只中にいる作者と小さな生き物沢蟹。梅雨のこの時季をとても軽快に詠まれていると思います。(藤田裕子)

★水清き谷にはみ出る合歓の花/宮本和美
わたしも今日、合歓の花を見かけました。川の近くにある合歓です。清らかな谷に枝を広げている枝に咲く合歓の花のピンク色がやさしいです。(池田多津子)

★大西日ふかぶかと射すぶなの森/大山正子
ぶなの森の奥まで西日が差し込み輝くぶなの森がきれいです。(丸山美知子)

★臥して見る日の高きこと夏至の窓/矢野文彦
同じものを見ても、視点の位置を変えるだけで少し違う新しい世界が見えることがあります。臥して見るからこその夏至の日の高さ、その実感が新鮮な感動とともに伝わってきます。(多田有花)

★潮の香の濃き日は合歓の花揺れる/池田多津子
潮風に揺れる合歓の花の動きがゆらゆらと目に浮かびます。色取りの美しい、好きな句です。(甲斐ひさこ)

★立葵の影をたしかに立ちにけり/大西 博
色の鮮やかな立葵を、強い日差しにできるくっきりした影でとらえられました。「影をたしかに」の断定が「立ちにけり」を生かしていると思います。とても印象鮮明な句です。(藤田荘二)

★噴水の天辺のさき空青き/川名ますみ
噴水の勢いが「天辺のさき」に、そしてそこに夏の青い空。白い噴水と空の青の対比に、水の清々しさといきもののような力強さを感じました。(藤田荘二)

★降り立てば梔子匂う湖の駅/小河原宏子
さわやかで手入れの行き届いた、地域に大事にされている駅舎を思い浮かべます。梔子に印象付けられた旅は鮮明でしょう。(藤田荘二)

★ほどく荷の越後の香り粽なり/大給圭江子
わくわくしながら荷を解く感じが伝わります。思い出がいろいろある方からの、思い出がつまった粽なのでしょう。それを「香り」「粽なり」というだけで想像させる強さがあると思いました。(藤田荘二)

★虎の尾に蝶のとまりて揺れにけり/奥田 稔
山野に白い花穂を弓なりに垂れる虎の尾草。蝶がとまり、そのしなやかな揺れようが、ことさら優しく印象付けられました。(藤田洋子)

★闇深き草に点りし蛍かな/甲斐ひさこ
闇の深さに、蛍の点滅がより明るく見えてくるようです。草に点る蛍の明りに、夏の夜の静かな美観を感じます。 (藤田洋子)

【入選Ⅱ/15句】
★子を叱る声聞く夕べ薊咲く/飯島治朗
日が長くなり隣人の声を耳にする時間も長くなったようで、それとなく子を叱る声も耳にします。微笑ましい情景で、暮れなずむ夕景に夏薊の濃紅が美しく、温かみを感じる句です。(柳原美知子)

★癒えし傷しゃぼんに包みシャワー浴ぶ/臼井愛代
退院おめでとうございます。入院中はシャワーや入浴はできなかったことと思います。ようやく手術の傷が癒え、初めて浴びるシャワーの心地よさが伝わってきます。お大事になさってください。(多田有花)

★椎大樹余さず花穂覆いけり/渋谷洋介
大景を真正面から捉え下五の切れがより効果を上げています。(篠木 睦)

★回廊を曲がるたびごと沙羅の花/黒谷光子
お寺のお庭に植えられている沙羅の花でしょうか。夏椿の花を日本では沙羅の花とみなしているようです。釈迦入滅時の沙羅双樹とは異なるそうですが、可憐な白い花が咲き、お寺の梅雨時を美しく彩ります。(多田有花)

★夏桔梗風に揺れるよたおやかに/堀佐夜子
桔梗は秋の七草ですが、六月ごろから咲き始めます。青紫色の星型の花は涼しげで夏の景色にもふさわしいですね。梅雨の合間の風にふかれてやさしく揺れている桔梗の姿をさりげなく詠まれています。(多田有花)

★母の乳吸う子の横に扇風機/高橋秀之
母乳を吸うのは、子どもにとってなかなか力のいる仕事です。吸わせる母にとってもそうでしょう。汗をいっぱいかきながら乳にむしゃぶりついている子どもの健やかな姿が見えます。子どもの体温が高く、母も汗びっしょり、扇風機が優しげです。(多田有花)

★曲線の畦に沿いたる植田かな/國武光雄
山間の棚田でしょうか。平野部では耕地整理が進んで広々とした矩形の田がおなじみですが、山間部では等高線に沿った畦を守らざるをえません。その線にそって植えられている苗、自然の示すままに今も営まれている農の様子が見えてきます。(多田有花)

★鮎を焼く川の匂いのたちこめる/小川和子
川魚の香魚といわれる鮎。川の匂いに満たされて、美味な鮎をいただく季節の喜びを感じます。(藤田洋子)

★蓮葉の風ひるがえし蕾抱く/柳原美知子
風の中にあって、青々とした蓮の葉が清々しいかぎりです。開花前の愛らしい蕾も見えてくるようです。 (藤田洋子)

★庭いじり終えし縁端新茶の香/吉川豊子
庭の手入れを終えて縁側の端に労をやすめる。どなたが入れてくれた茶であろうか、新茶の香りが喉の奥まで広がり、涼やかな初夏の空気がしみわたる。(小西 宏)

★百幹の涼しき古道母の里/篠木 睦
延々と巨木の続く古道には年をかさねた重みがあり、深閑とした涼しさがあります。母上を慕いつつ、その坂を辿られたのでありましょう。(小西  宏)

★新じゃがの土の匂いをまず洗う/網本紘子
収穫されたばかりのじゃが芋を洗う。まずはそれを育み実らせた土に感謝しつつ、清らかな肌を洗い出さなければならない。そこにはまた新たに、青臭い新じゃが芋の匂いを嗅ぐことになる予兆をも感じさせる。(小西 宏)

★組まれたる茅の輪の竹の青き口/尾 弦
組み上げられて並んでいる竹が若々しい。青き口に夏の竹の勢いが感じられました。(高橋秀之)

★仔馬跳ね夏の旅人(たびと)を喜ばす/志賀泰次
北海道の牧場での一こまなのでしょう。元気な仔馬の動作が新鮮で、旅も楽しくなります。(高橋秀之)

★裏表赤ひと色の紫蘇洗う/藤田裕子
赤ひと色の表現に紫蘇の瑞々しさが溢れています。その紫蘇の香りに包まれている作者が感じられます。(高橋秀之)

●注意事項/水煙のルール●

2008-06-28 15:45:13 | ご案内
無法の本法(真のルールはルールを作らないこと)
溪仙は、「仙の芸術」について次のように記している。
「仙和尚は型の反対に自在がある。森羅万象が日々に新に又日に新に生れ出て来る。ここが和尚の道力である。画である。書である。詩である。歌である。俳句である。活発に地に躍動してゐる。従って、これと云う塊が無いから、自も他もない。」また、自らの芸術観について、「美術家は単なる技巧家であってはならない。深い深い宇宙観とか世界観とかができてこそ芸術観となる。」といっている。仙とか、溪仙とかの芸術は、その宗教的経験から出て来た宇宙観や世界観を離れては、存在し得ないのであろう。「無法の本法」といった「自在」の境地でもある。こういった境地の作家から生まれた俳句が生き生きとして新鮮なのである。(高橋信之俳論抄 2000/4/16)

与えられた現実の容認
子規の写生は、芭蕉の考えとそれほど違っているとは思われない。<草花の一枝を枕元に置いて、それを正直に写生して居ると造化の秘密が段々分って来るやうな気がする。>(病淋六尺/子規)と、<松の事は松に習ヘ、竹の事は竹に習ヘ>(三冊子/芭蕉)とは、本質的には、同じであり、また、時宗の祖として知られている捨聖一遍上人が、次のように語っているのと同しであろう。<華の事は華にとヘ、紫雲の事は紫雲にとヘ、一遍はしらず>(一遍上人語録)
子規のリアリズムの本質を探っていけば、それは、結局日本人の古くからある思惟方法と、全く同じものであると気づく。つまり、『比較思想論』というユニークで綿密な業績をなしとげだ中村元氏が言っている「与えられた現実の容認」ということなのである。ただ、何を、「与えられた現実」と認識するか、によって、大きな差異が生じる。(高橋信之俳論抄 2000/4/9)

去るものは追わず、来るものは拒まず
あるがままに任す、ということであるが、日本の思想本来のもので、「無法の本法」といったことでもある。水煙に気楽に入会していただけるし、水煙の行き方に合わなければ、水煙をいつでも退会していただける、ということである。

伝統文化、あるいは、伝承文化
俳句は、伝統文化、パソコン操作は、伝承文化、と思っていただきたい。そのルールは、先ずは、主宰や先輩の見よう見まねから始める。マニュアル、ルールから始めるものではない。

組織評価の場
水煙は、勉強の場であるので、評価を気にする必要は無いが、水煙のサイト(インターネット俳句センター)がどのような評価を得ているか、知っておくべきであろう。知的無知であってはならないのである。
ユネスコのサイトに早くから日本では、唯一の詩(現代詩・短歌・俳句など)のサイトとして紹介された。グーグルの検索では、約500万の俳句関連サイトの中で常に10位以内にランクされている。

組織の意思決定とその伝達
水煙のサイト(インターネット俳句センター)の意思決定は、代表の高橋信之が行い、その伝達は、<トップダウン>により、<ボトムアップ>によるものではない。組織がIT(ネット、パソコンなど)に深く関わっている場合は、<トップダウン>にならざるを得ないし、組織のトップのリーダーシップが問われる。

伝言・連絡の方法手段
水煙の代表あるいは主宰への伝言・連絡は、原則として、メールを使わないこと。水煙の各種ブログの<コメント>に書くか、または電話を使ってください。パソコン・ネットは、伝承の世界で、先輩のすることを注意して見て、その真似をして学んでください。水煙以外の遣り方を持ち込まないでください。水煙は、<トップダウン>であって、<ボトムアップ>ではない。

俳句勉強の場
水煙のネット句会は、「俳句勉強の場」である。俳句大会や俳句コンテストなどの「俳句評価の場」とは違う。そこを間違ってはならない。「俳句評価の場」は、「より客観的な評価」を求め、マスコミなどの社会での評価が問題になる。一方、「俳句勉強の場」は、「より主観的な勉強」を求め、勉強の主体である本人が問題となる。水煙という俳句の座で、「評価」に目が向けば、「水煙」のマスコミなどの社会での評判が気になり、「勉強」に目が向けば、「水煙」の仲間一人一人の俳句が気になる。水煙という俳句の座は、「俳句評価の場」ではなく、「俳句勉強の場」であって、座のそれぞれが自分の俳句を育て、お互いがお互いの俳句を育てる。水煙という俳句の座では、俳句の評価を気にしなくてもよい。俳句を楽しみながら俳句を育てるのである。

投句について
デイリー句会の投句は、嘱目句、あるいは、今日の句に限ってください。水煙は、嘱目句を推奨していますので、嘱目の勉強を心掛けてください。嘱目の意味は、広辞苑では、「①目をつけてよく見ること。注目。②俳諧で、兼題・席題でなく即興的に目にふれたものを吟じること。嘱目吟。」となっています。嘱目句、あるいは、今日作った句以外の俳句は、選者宛のメールで送ってください。

本名でお書き込みください。匿名はご遠慮ください。
□「ネット上の議論、主張からは原則として匿名を排すべきです。匿名は身の上相談とか、ゲームとしての論争とかに限定する。/西垣通・東大教授/朝日新聞1月4日より」匿名は、俳号とは違って、自分の存在を知られたくない、という点を認識すべきでしょう。俳人や詩人は、社会的に自分の存在をはっきりしたものにしなければならないのです。(高橋信之 2000/1/9)

私たちの俳句/高橋信之(水煙代表)
□私たちの俳句は、「明るくて深い」ところのある現代語の俳句を求め、日常の作句生活では、「細く長く」をモットーとして、自らの生活体験から生まれる俳句を大切にします。俳句の座としての、私たちの「俳句雑誌水煙」は、1983年10月1日に高橋信之が創刊し、インターネット俳句センターは、「俳句雑誌水煙」のホームページとして、1996年11月27日に開設しました。「水煙」という「俳句の仲間」は、個々の俳句にとっての不可欠な「俳句の座」であって、感性の共同体といったものです。少人数ながらも家族的な暖かさのある仲間達です。大きくなることを望まずに、内面の充実した少数の仲間達です。私たちの歩みは、マスメディアに紹介された以下のページ http://www.suien.net/index2.htm をお読みください。

入賞発表/6月15日(日)~6月21日(土)

2008-06-22 03:43:37 | Weblog
■6月15日(日)~6月21日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★青々と杉てっぺんを指し涼し/黒谷光子
すっきりとして、涼しさが直に伝わってくる。青々とした鉾杉の指すものは、「てっぺん」。ほかのものが無く、それが良い。(高橋正子)

【特選/5句】
★新緑の向こうに寄せる波の音/高橋秀之
新緑と波の音の取り合わせが、きれいだ。明るさと静かな快い音に満たされる。(高橋正子)

★立葵透かせて遠き青峯みる/大西 博
真っすぐに立った立葵とそのひらひらとした花びら。可憐な花の間から、遠い青峯を望む夏ならではのすがすがしさ。遠近のある色彩さわやかな俳句。(高橋正子)

★紫陽花に空の明るみ始発待つ/甲斐ひさこ(正子添削)
始発ですから朝五時前後でしょう。その電車を待つ間の紫陽花の空が明るみ初めています。朝暁けの紫陽花の色の変化に作者は目を凝らしている様子がよく伝わります。(大西 博)

★浜木綿の咲けば海風雲を生み/河野啓一
「海風雲を生み」のフレーズが季語にぴったり,自然の移り変わりが楽しく映り、梅雨時の浜辺が眩しいほど伝わってきます。(前川音次)

★降り足りてあつけらかんと梅雨の月/宮本和美
水害をふくめペーソスと皮肉があつけらかんと月に表現され、感心しました。(奥田 稔)

【入選Ⅰ/16句】
★紫陽花の限りなく雨を置きにけり/竹内小代美
梅雨の雨を「限りなく雨を置き」と詩的に詠んだ。作者の主体的な思いに無理がない。「紫陽花」であれば、「限りなく雨を置き」が効いた。季語の「紫陽花」も一句の中にあって、詩的だ。(高橋信之)

★酢を振れば鮓飯透けて香を放つ/柳原美知子
生活の中に詩がある。いい感覚だ。鮓(すし)は夏の季語。(高橋信之)

★頂は雲湧くところ夏の山/篠木 睦
夏を描いて開放的だ。「頂」、「雲」、「山」、どれもが当に「夏来たれり」の大きな風景だ。(高橋信之)

★大き葉にまだ守られて青葡萄/網本紘子
まだ熟していない固くて青い葡萄。葡萄畑や葡萄棚などで、葡萄の様子を見ると今年の若葉はまだ小さい。つけた青葡萄の実は、大きな葉に守られ、育まれて来ているんだということがよく分かります。共感した一句です。(飯島治朗)

★むらさきの雨の明るさ花菖蒲/大給圭江子
うっとうしい梅雨ですが、花菖蒲に降る雨もしっとりと花の色を濃くしいいなと思います。その情感が句によく滲み出ていて好きな句です。(大西 博)

★熟れて落つ杏に土のバネ軽く/藤田荘二
杏の実が熟れて地上に落ちる様子がまるでボールが跳ねるように詠まれている素敵な句と思い選びました。(小河原宏子)

★活けてより紫陽花大輪青深む/藤田裕子
紫陽花は色の変化が楽しめる花です。大輪の紫陽花を大きな壺に活けられたのでしょう。しばらくして花を見るとさらにその青さが深みを増している、花を育て花を活け花を愛でるその喜びが感じられ、明るい気持ちになります。(多田有花)

★駄菓子屋の台に背伸びの夏帽子/尾崎 弦
いよいよ夏、子供達が特に元気いっぱいになる季節です。現代ほど飽食の時代になっても、やはり自分で選んで自分でお金を払う「買い食い」は、大人は嫌がるかも知れませんが、子供にとっては大変魅力のある社会勉強ですね。もちろん夏帽子をかぶった手には、虫取りの手網もしっかり握っています。(桑本栄太郎)

★万緑の中に水路の音澄めり/小川和子
満目ことごとく緑の中にあって、流れる水路がとても爽やかな風景です。そしてその澄んだ水音が、いかにも明るくみずみずしい季節を感じさせてくれます。(藤田洋子)

★野仏に青々揺れる額の花/小河原宏子
野仏を優しく慰めてくれるような、額の花の清らな青さと揺れようです。野仏へ向けられる、慈愛の眼差しがあればこその光景なのでしょう。(藤田洋子)

★向日葵のたくさん咲ける我が狭庭/堀佐夜子
早やも庭に開いた、たくさんの向日葵の花。梅雨どきにこそ、身近に咲いた向日葵の彩りに励まされ、心明るく、日々を過ごせそうです。(藤田洋子)

★はまなすの蕾膨らむオホーツク/大山正子
オホーツクの海を背に開花前のはまなすの群落 、雄大な自然美です。夏の到来の北海道に、心膨らむような明るさを感じます。(藤田洋子)

★山際へ広ぐ植田の青青と/飯島治朗
植えられたばかりの、みずみずしい稲苗。その植田がずっと遠く、山の際まで広がっているという。田園の風景を大きく捉えた清涼感のある句です。(小西宏)

★葉叢から陽光まぶし梅をもぐ/古田敬二
早春を代表する花である梅は、梅雨の時期に実梅の収穫期を迎えます。日差しがもっとも強いころであり、青々と茂った葉の中に手を差し伸べて丸い梅をもいでいく、収穫の楽しさ喜びがあふれています。(多田有花)

★空に鳥地に蝶が舞い夏至暮るる/矢野文彦
空に鳥が舞い、地には蝶が舞う。地球は、そういった小さな、健気な生きものを自由に舞わせて夏至という日が暮れる。(高橋正子)

★流鏑馬の馬を鎮める清水かな/村井紀久子
流鏑馬で走り抜けた馬は、その後、清水を飲んで、息を鎮める。清水の清らかさと、何事もなかったような馬の静かな姿の相関して捉えられている。(高橋正子)

【入選Ⅱ/17句】
★平らかに雨を受け止め額紫陽花/池田多津子
その地に咲いている額紫陽花の雨を受けとめている風景が「ありのまま」ということを感じさせてくれますね。好きな句です。(丸山美知子)

★海鳥の吹かれ流れて夏の暮れ/志賀泰次
海鳥が風に吹かれ流れにまかせて遊んでいる夏の夕暮れの様子が目に見えてきます。(小河原宏子)

★青鷺のしんと立ちたる用水路/多田有花
水のほとりに片脚で音もなく立っている青鷺。ちょっと田舎に行くとよく見かける風情ですが、「しんと立ちたる」というさりげなく、それでいてぴったりの表現に共感しました。たいへん勉強になりました。(河野啓一)

★ふくらみし夏日まぶしくビルに落ち/奥田 稔
梅雨の最中にこそ感じられた夏日のまぶしさなのでしょう。辺りの空もおのずと色付いて、明るく美しい街の夏の落日です。 (藤田洋子)

★鳥海の滴り落つる飛沫かな/丸山美知子
鳥海山は秋田県と山形県の県境にある標高2,236メートルの活火山です。出羽富士とも呼ばれ、東北地方を代表する名山です。今の時期であれば多くの高山植物が咲き始めているでしょう。その山からの流れの清冽さを思います。(多田有花)

★昼顔の垣根に纏う狭庭かな/渋谷洋介
ご自宅で昼顔を栽培していらっしゃるのでしょう。淡いピンクのろうと形の花が昼間の庭を彩ります。それを眺めることも梅雨の時期の楽しみのひとつでしょう。(多田有花)

★ベランダに朝顔の苗つる太く/小西 宏
朝顔は初夏に種を撒きます。ベランダで、あるいは日よけも兼ねて朝顔を育てていらっしゃるのでしょうか。真夏の朝に開く花を思いながら、育っていく朝顔にむけておられる優しいまなざしが感じられます。(多田有花)

★むつごろう跳ねる干潟や梅雨晴間/國武光雄
日本では有明海と八代海に棲むムツゴロウ。胸びれではったりジャンプしたりして移動します。なんとなく、ユーモラスですね。食材としてもやわらかくおいしいとか。一度食べてみたいものです。(多田有花)

★玉葱の白く網透き軒の下/桑本栄太郎
収穫した玉葱を風干する風景がまだ見られるのでしょうか。つるされた網を透して、真っ白な玉葱が軒下に並んでいるのでしょう。(小西宏)

★友と会う湖畔の宿や黴におう/前川音次
古くからのお友達と宿を共にし、旧交を温められたのでしょう。「湖畔の宿」や「黴におう」といった措辞に、しずやかな懐旧の念が広がり伝わってきます。
(小西宏)

★往来に負けじと飛び交う親ツバメ/上島祥子
人も車も激しく行き交う街中、その空を縦横に、「負けじと」交錯する親ツバメの姿に、夏の大きなエネルギーの兆しを感じます。(小西宏)

★浴衣裁つ母の鋏の音軽し/上島祥子
喜びがある。「浴衣裁つ」季節は、子への喜びであり、孫への喜びである。(高橋信之)

★ふくらみし夏日まぶしくビルに落ち/奥田 稔
夏の日がビルに落ちる都会の風景。それが無機質にならず、「ふくらみし夏日」と捉えられて、せつなさも感じられる抒情が加わった。(高橋正子)

★ランドセルしょう車椅子枇杷は黄に/川名ますみ
車椅子に乗った子がランドセルをしょっていることに、心を動かされる。見れば枇杷は黄色に色づき、季節はやさしく子を見守るようだ。(高橋正子)

★朝顔苗子との約束鉢へ取る/祝 恵子
朝顔の苗が育ったら、分けてちょうだいという子のとの約束。植え替えにちょうどいいころになったので、鉢に分け取った。ささやかな行為の楽しさ。たくさんの朝顔が咲いて夏の朝を彩ってくれることだろう。(高橋正子)

★郭公や浅間に向かい深呼吸/小口泰與
郭公の声を聞き、夏がきたことを確かに知る。緑の深まる浅間に向って、深く息を吸う。しんとした夏の朝の空気が流れる気分はいいものだ。(高橋正子)

★どの家も窓開け放つ梅雨晴れ間/吉川豊子
束の間かもしれない梅雨の晴れ間。それを待っていたように、どの家も窓を開け放って、風を通す。きらきらと耀く太陽、通り抜ける風。梅雨の晴れ間の開放的な気分が気持ちよく伝わる。(高橋正子)

入賞発表/6月8日(日)~6月14日(土)

2008-06-15 00:12:03 | Weblog
■6月8日(日)~6月14日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★咲きのぼる空の青さよ立葵/大山 正子
「咲きのぼる」が上五にあるが、初め、その主語は示されない。咲きのぼる場所が続いて示され、それが青い空であると解る。そこまでで、読者は、青空をバックに下から咲いてゆく花を想像する。それが立葵であることに納得するわけである。、(高橋正子)

【特選/5句】
★色足らぬ梅雨夕焼けや湖の道/前川音次
厚い雲に覆われた梅雨時の夕焼け。湖の見える道を辿りつつ何かもの足らぬ思いの詠者に共感を覚えます。やはり夕焼けはぎんぎんぎらぎらと真っ赤なのが良いですね。(河野啓一)

★棹突きて蛍の川へすべり出す/渋谷洋介
蛍狩とか蛍舟とかの季語もありますが、「蛍の川」と一語で言ってのけた辺りがとても良いとおもいます。(前川音次)

★夏蒲団ふしぎな夢を見て目覚む/多田有花
不思議な句、楽しい句、夢が広がります。色んな夢を想像させます。(前川音次)

★青笹の粽一皿届けらる/丸山美知子
ご近所から届けられたのだろう。皿にのった青笹の粽に思わず爽やかな笑みがこぼれる。日常生活をリフレッシュしてくれるのも、こういったことからと思える。(高橋正子)

★河鹿鳴くせせらぎの水汲み帰る/河野啓一
河鹿は、清流で鳴く。河鹿の声にますます清らかに思えるせせらぎ。そんなせせらぎがある嬉しさ。その水を汲む楽しさが伝わる。(高橋正子)

【入選Ⅰ/15句】
★梅雨の海遠き処にまず一灯/竹内小代美
海の広がりを感じる句です。遠くに灯った灯は漁火なのか、それとも灯台か、
あるいは内海であれば対岸の人家か、さまざまなことが想像できます。(多田有花)

★山影を映す植田のうすみどり/桑本栄太郎
「植田のうすみどり」、山影を映して、のどかな田園風景を想像します。絵画をみるようで、好きな句です。(吉川豊子)

★黒南風といふも明るき吉備平野/宮本和美
使い慣れない"黒南風"という言葉に魅力を感じる私です。梅雨時期に見せる風だそうですが、梅雨のない北国では文字と解説の文章からのイメ-ジしかありません。黒南風が吹いても吉備平野の広がりに明るさを感じ取った処に豊な田園風景を想像します。(志賀泰次)

★朝顔の双葉へ児ら水たっぷりと/飯島治朗
自分の、或いは子や孫の小学生のころの思いにいっぺんに引き戻されてしまいます。どこにでもありそうな景ですが今朝のこの句は何処か新鮮に感じる。(前川音次)

★活けてより紫陽花大輪青深む/藤田裕子
活けてからも色を変える紫陽花。大輪の青が日ごとに深まるのを見るのはうれしいですね。部屋の印象も違ってくるようです。(池田多津子)

★熊除けの鈴と歩めり岩清水/小口泰與
熊除けの鈴が必要なほど深い山中の岩清水。さぞ清冽なことでしょう。鈴の澄んだ音色が、いっそう涼しさを深めます。(川名 ますみ)

★羊歯青し飛沫絶えざる滝の下/川名ますみ
良く見かけます、滝の飛沫が絶え間なくあたり青く水々しく光ってる。涼しそうな、ひんやりとした空気を感じます。(大給圭江子)

★早苗田の陽を燦々と散りばめり/大給圭江子
苗が整然と植えられた田、田水が夏の日差しに輝いています。大都会の中心部以外ならまだどこでも水田の風景は身近に見られることでしょう。この時期の風光を詠われたさわやかな句です。(多田有花)

★荒梅雨に張らる地縄の弛みなし/尾崎 弦
間もなくそこに新しい家が建てられます。更地に張られた地縄、地縄を張ると、改めてその土地の様子が建築関係者の方にははっきり見えるそうです。とても大事な建築工程のひとつなのですね。激しい雨の中ぴんとはられた地縄にいろいろなものが見えてきます。(多田有花)

★風の来て若葉を白く吉田山/古田敬二
若葉のみずみずしい初夏の季節、折から一陣の風が来て葉裏を返す。「吉田山」には、よき日々の、高邁な理想を想起させるところがあります。(小西宏)

★梅雨晴れ間鳥飛び交いて影落とす/井上治代
飛び交う鳥たちも、梅雨の晴れ間を喜び、楽しんでいるようです。明るい晴天の
日差しがあればこその、鳥の動きとその影です。(藤田洋子)

★境内に咲けばみな供花濃紫陽花/黒谷光子
境内に咲く濃紫陽花が一際鮮やかな美しさです。供花となる一花一花の紫陽花に、心静まるような浄らかな空気を感じます。(藤田洋子)

★山影を映す植田のうすみどり/桑本栄太郎
田水に映る山影も美しく、田植えが終わったばかりの植田の「うすみどり」も清々しく、心澄み渡るような状景です。(藤田洋子)

★枇杷熟れて色の揃いし今朝の晴/柳原美知子
朝空に、熟れた枇杷の実の一つ一つが見えてくるようです。梅雨どきに、枇杷の実りの揃う彩りが、嬉しく明るい朝の晴です。(藤田洋子)

★しぶき上げ三連水車田水張る/國武光雄
水しぶき上る三連水車ならではの勢いに、清涼感あふれる日本の美しい水田の風景を感じます。(藤田洋子)

【入選Ⅱ/15句】
★明易のアマリリス咲き目覚めけり/大西 博
明け易くなり、眠気のさめやらぬ身を、アマリリスの鮮やかな大輪の赤は、覚醒させてくれそうです。白々と明け始めた庭の美しさも目に浮かびます。(柳原美知子)

★朝もぎの露おく茄子の色の冴え/篠木睦
朝早く切り取った茄子には露がかかっていて、色も紺色というか、茄子の瑞々しい色で輝いていたことでしょう。朝採りの茄子を上手く表現した素敵な句と思いました。(小河原宏子)

★クローバー足元にしてバーベキュー/吉川豊子
バーベキューを楽しそうになさっている足元にクローバーが咲いてる爽やかな光景が伝わります、美味しそうですね。(大給圭江子)

★梅雨深し校舎抜ける風は青/池田多津子
本格的な梅雨の時期、校舎を吹き抜ける風は新緑の匂いを残す青葉風である。簡潔に景を詠まれていて下五の"風は青"と言い切った潔さが梅雨を払拭した心地よいものに感じさせている好きな一句です。(志賀泰次)

★即売の野菜にしばし夏の蝶/奥田 稔
取りたて野菜の売り場の光景でしょうか。「しばし野菜に蝶」新鮮さがわかりますね。(祝恵子)

★郭公の鳴けば豆蒔く頃合と/志賀泰次
農作業の目安は地域によってもさまざまだと思います。豆を蒔くのに待っていた郭公の声が聞こえました。広々とした畑に郭公の澄んだ声が響きます。(池田多津子)

★陽だまりのめだかの学校ビオトープ/高橋秀之
学校にビオトープが作られているのですね。その中ではめだかたちが群れをなして泳いでいるのでしょう。日だまりのほっとする空間です。(池田多津子)

★梅雨晴れの水色スカート女学生/小河原宏子
梅雨の時期は少しの晴れ間もうれしいものです。女学生の溌剌とした姿がうれしく、水色のスカートも軽やかで涼しさを感じます。(池田多津子)

★リビングに藺草の匂い衣更/小西 宏
リビングルームに藺草の敷物が敷かれました。その新鮮な香りが夏本番の到来を知らせてくれます。服装も半袖で夏の装いになるように、家具調度も衣替えですね。(多田有花)

★待画面一面溢るる菖蒲かな/堀佐夜子
デスクトップの待機画面をハナショウブにされたのでしょう。画面いっぱい濃淡さまざまな花々が咲きそろっています。パソコンの上でも季節感を大事にしたいと思われている作者の姿勢がよくわかります。(多田有花)

★一面のクローバー青し梅雨夕焼/甲斐ひさこ
広々とした場所一面にクローバーが茂っているというのは、開放感に満ちています。梅雨の晴間、夕焼けがその上空を覆っています。夕暮れが遅いこの時期、壮大な光景です。(多田有花)

★静けさや若葉の奥の能楽堂/上島祥子
能楽堂からは地謡の声が漏れ聞こえてきたりして、必ずしも音がないというわけではありません。しかし、しっとりとした若葉の庭の佇まいには、濃厚な「静けさ」が漂っているように思えます。(小西宏)

★山門をくぐる紫陽花寺は雨/矢野文彦
奥深い古刹の山門をくぐる。それだけで、えに言われぬ、きっぱりとした思いに満たされます。その門をくぐれば、紫陽花の庭がしっとりと雨に濡れているのでした。(小西宏)

★並び居るわらべ地蔵は木下闇/祝恵子
ふだん何気なく通り過ぎるわらべ地蔵のすがたも、いつの間にか深い木陰に見るようになりました。わらべ地蔵はその暗みの中に、静かにこちらを向いて並び立っています。(小西宏)

★馬鈴薯の花に朝風とおり過ぐ/小川和子
ジャガイモ畑は広々とした景観を想起させます。その花の列を涼やかな朝風が吹き通り、彼方へと去っていきます。彼方にはまた、遠大ななにものかを見る思いです。(小西宏)

入賞発表/6月1日(日)~6月7日(土)

2008-06-07 23:51:35 | Weblog
■6月1日(日)~6月7日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★水色の増える教室六月に/池田多津子
六月になると、教室には水色が増える。教室に貼られた絵には、海や魚、あじさい、水色の洋服を着た子などが描かれているのだろう。教卓の花も涼しそうだし、さっと見回しても水色が増えて、梅雨の季節も涼しそうで明るい教室になった。(高橋正子)

【特選/5句】
★麦刈られ火の見櫓の高きかな/國武光雄
晴れた日の里山で一刈りごとに香ばしい麦の香りが立ちこめる麦刈りがいっせいに行なわれ、広々とした麦畑の彼方に、今まで、余り関心がなかった火の見櫓が堂々と立っている姿に感激した作者を見ることが出来ます。(小口泰與)

★飛び散りて上る噴水星の夜/竹内小代美
素敵な星空の下噴水が高く上り飛び散ってる水に星の明るさが見えてて綺麗な様子も想像します。(大給圭江子)

★板の間も畳も今朝の素足に触れ/多田有花
素足に触れるひんやりとした感触の心地の良いこと、夏の到来ですね。(大山正子)

★渓水の匂う山蕗届けられ/黒谷光子
届けられた山蕗に渓流のささやきが伝わるような瑞々しさを感じます。(志賀泰次)

★星涼し父の土産の匂袋/川名ますみ
星の涼しさに、ほのかに匂う匂袋。優美で涼やかな世界が広がるが、匂袋が父の土産と言うことで、温かみのある現実の世界が持ち込まれた。それが、この句を支えているのがよい。(高橋正子)

【入選Ⅰ/15句】
★青葉風かくれんぼの声運びおり/大給圭江子
爽やかな季感を感じさせる句でその情景がよく出ています。(篠木 睦)

★夏蝶に逃げられし児の一途/大西 博
逃がしてしまった蝶を必死に追う子どもの真剣な顔が目に浮かびます。健康的で愛らしい姿ですね。(大山正子)

★仏事終え山を離れる梅雨の雲/藤田洋子
仏事を無事終えられ、ふっと安堵なさった気持のあらわれが深みのある素敵な詠みになった一句と思いました。(志賀泰次)

★墨を磨る欅青葉の風入れて/柳原美知子
外は明るい五月の晴天。ゆっくりと墨を磨るのも書に向かわれるひとつのプロセスです。穏かな風が茂った欅の葉を揺らしていきます。美しい時間です。(多田有花)

★青葉闇通り抜ければ空真青/堀佐夜子
ほの暗い木々の下を通り抜けて出会う、空の明るい青がまっさらに感じられる。陰から明へ移り変わりる眩しさが新鮮です。自分もまた同じ世界にいるようです。(網本紘子)

★僧の列すたすた来る京薄暑/甲斐ひさこ
私も数回見かけた事がありますが、大きな笠を頭に載せ、若い托鉢僧が5~6人一列に並んで移動する様は、あっけないほど「すたすた」との感じがあります。この時季の京都近辺ならではの風物ですね。(桑本栄太郎)

★入梅や墨痕太き古代文字/尾崎 弦
「入梅」にも「古代文字」にも黎明の響きがあり、「墨痕太き」の韻律が奥深いイメージを喚起してくれます。(小西宏)

★最北の平野に動き田の植わる/志賀泰次
広々とした北海道の地に人や車両の動きを見る。それはようやく始まった最北の平野の田植えだったのだ。人と季節と自然の姿をおおらかに伝えてくれる句です。(小西宏)

★自転車の弾む母子の夏帽子/大山正子
明るい初夏の、軽やかな親子連れの自転車姿が、いきいきと描かれていて素敵です。(小西宏)

★次郎吉の墓つきとめぬ木下闇/奥田 稔
権力に立ち向かう義賊を待ち望む庶民の思いから生まれた次郎吉の墓を、ほの暗い茂みの下に突き止めたという。その思いは、なにとはなしに、清涼感と安らぎを伝えてくれます。(小西宏)

★梔子の花に明るき西の空/小西 宏
香気ある梔子の浮き立つばかりの白さ を感じます。その際やかな純白に広がる西方の空が、一際明るく梅雨の最中の嬉しさです。(藤田洋子)

★樹々涼し森の中ゆく往き帰り/小川和子
下五の「往き帰り」がいい表現だ。「森の中」を詠んで、そのどこもがいつも、「樹々涼し」なのだ。(高橋信之)

★筆太の字を染め上げて夏暖簾/宮本和美(信之添削)
夏の元気を「筆太の字」にいただく嬉しさ。暖簾が涼しく揺れている。(高橋信之)

★田植終え透き通る風吹き抜ける/小河原宏子
田植が終ったあとの安堵感のある田の風景。植えられたばかりの苗は、水に浮いているようだが、これからしっかりと根付く。風も透き通るとは実感。(高橋正子)

★土の香や子ら一同に甘藷植う/飯島治朗
子どもたちが一同に揃って、甘藷の苗を植えつける。おぼつかない手つきながら作物を植える喜び、土に触れる楽しさがある。(高橋正子)

【入選Ⅱ/18句】
★紫陽花やジグザグに行く裏小路/上島祥子
6月はどこへ行っても紫陽花のオンパレード。「ジグザグに行く」が裏小路の様子を的確に表している。(古田敬二)

★からり咲く南瓜の花や野の真昼/網本紘子
南瓜の花、オレンジ色がかった黄色い花だったな?美しい花だったな?とそんな記憶があります。間違っていたらごめんなさい。「からり咲く南瓜の花」沢山の収穫が期待できそう、、楽しみです。下語が効果的で好きな句です。(吉川豊子)

★窓明かり青田をすべる終電車/丸山美知子
静かな夜の田園風景がすっと浮かびました。心地よい句と思いました。(竹内小代美)

★梅雨入りや生命あるものみな色に/桑本栄太郎
梅雨の頃には、しばしば「鬱蒼」という言葉が浮かびます。鬱陶しい気分を思いがちですが、命の盛んな様を云うのですね。草木の茂りを初め「生命あるもの」が、こぞって色を深めるために、梅雨時は仄暗いほど彩りが濃いのだと、御句にお教え頂きました。(川名ますみ)

★さよならの声聞く公園夕涼み/高橋秀之
何かほっとする一日の終わりを感じ、幸せな満ち足りた気持ちになりました。子供たちがお家に帰ったのでしょうね。(丸山美知子)

★夏めきて鈴鹿稜線真青なり/篠木睦
鈴鹿の山々の稜線の青葉が滴る美しい情景を思います。(大山正子)

★過ぎさりし昭和かたりつ豆ご飯/吉川豊子
平成も20年になり、長かった昭和もすでに遠くなりました。あまりにもいろいろなことがあった昭和という時代、それも遠くなれば懐かしく、あのころに思いをはせて話が弾みます。「豆ご飯」が昭和にぴったりです。(多田有花)

★髪切るや鏡のおくの五月闇/前川音次
髪を切ってもらっている間は、自然と自分の姿、および背景としばらく向き合うことになります。その鏡の中に広がる闇は自分の背後に広がるものです。ふとした日常の中に垣間見る別次元を思わせます。(多田有花)

★今年竹揺れて耀く梅雨晴れ間/河野啓一
生長した若竹がすがすがしい青さをみせて空へ立ち上がっています。そのすっきりとした姿が梅雨晴間にうれしく、新鮮な思いで見つめておられる作者がいます。(多田有花)

★五月雨や稽古に励み賑やかに/松本千恵子
何のお稽古なんでしょう? 子どもたちか、あるいは大人? 外は雨ですが、部屋の中は明るい活気に満ちています。その対比がいいですね。(多田有花)

★ぶらんこを空まで漕げよ夏の陽に/志賀泰次
梅雨季とはいえ、晴天の陽差しは眩しいほどの輝きです。夏の陽差しのもと、広がる空へ「ぶらんこを 漕げよ」の呼びかけに共感しつつ、心明るく広やかな気持ちにさせていただきました。(藤田洋子)

★衿元へ初夏の風入れ遊歩道/渋谷洋介
日常生活を詠んで、気負ったところがない。「初夏の風」が快い。(高橋信之)

★純白の紫陽花多し疎水道/古田敬二
疎水に沿う道に、偶然であろうけれど、純白の紫陽花が多い。哲学の道などを思い浮かべるが、そうそうとした感じが残る。(高橋正子)

★風にのる重さありけり梅雨の蝶/矢野文彦
晴れた日などは、蝶は、ひらひらと飛んで重さを感じさせないが、梅雨の蝶となれば、梅雨を含んだような羽の重さを感じる。その重さも、「風にのる重さ」なのでまことに梅雨の蝶らしい。(高橋正子)

★葉丈こえ菖蒲の蕾伸びあがる/祝 恵子
緑色の艶やかな葉の中から 高い花茎を立てる菖蒲。「伸びあがる」蕾に、これから優美な花を開こうとする勢いを感じ、とても清々しく目に映ります。(藤田洋子)

★白樺の梢揺れおり夏の霧/小口泰與
高山や高原に発生する夏の霧。立ち込める夏霧の山中に、白樺の揺れも美しく、しっとりと心落ち着く静かな状景を感じます。 (藤田洋子)

★山里に植田広がり空深し/井上治代
山里にも田が植えられて、あの田この田とつながって広がりをもつ。水面を渡る風にそよぐ早苗目にすずしい。山里の植田の静かさに対して、空はと言えば深い。静かさと深さが体に沁みるようだ。(高橋正子)

★夏料理すっきり盛られ宴に入る/藤田裕子
これから宴が始まろうとして並んだ夏料理。夏料理は目にすっきりと、涼しそうなのがいい。たのしい宴への期待感があわせて感じられる句。(高橋正子)

■2008年6月伝言板■

2008-06-01 16:48:54 | 伝言板

新聞を読んで
臼井愛代さんに「新聞を読んで」を書いていただきましたので、ブログのコメントに感想などをお書きいただければ、幸いです。(信之)

第17回インターネット俳句コンテスト 作品募集中!
水煙300号投句(6月19日~7月6日) NEW!

水煙8月号校正中!
水煙300号記念俳句大会のご案内
デイリー句会投句箱
インターネット俳句センター/毎日更新!

●今日の俳句/6/30(月)
冷奴四角四面の父思う/大山正子
どのようなお父上だったか想像したくなる句です。一見かなり厳格だったけど理解してくれれば優しかった方、あるいはいろいろな応用力が豊かだった方、素朴であっても味のあった方‥「冷奴四角四面」といいながら父を思う方自身の素敵な人格を思わずにはいられません。そのような方を育てられたお父上に脱帽します。言葉のリズムも歯切れよく、わかりやすいです。(藤田荘二)

■<今日の俳句>の過去一覧は、下記アドレスをクリックし、ご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/npo_suien03/

■伝言は、下記の<コメント>にお書きください。

入賞発表/5月25日(日)~5月31日(土)

2008-06-01 00:04:10 | Weblog
■5月25日(日)~5月31日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★虹立ちてアイリスすっくと揃い咲く/丸山美知子
虹とアイリスの取り合わせが、欧米の抒情詩のようであって、新鮮である。虹の色を一つもらったようなアイリスの花の色。すっくと立つ姿が毅然として、それらが触れ合うことなく己を保ちながら揃い咲く様がすっきりとしている。(高橋正子)

【特選/5句】
★新緑の水突っ走る伊予の山/大西 博
新緑の中を走る水の勢い。伊予の豊かな植生が多量の水をはぐくんでいる結果でもあろう。風土を詠って、潔い。(高橋正子)

★茅葺きの山門入れば栃の花/渋谷洋介
茅葺の山門にも風情があるが、さらに印象的なのは、大樹であろう、大きな葉に咲く栃の白い花である。梅雨前のこの季節の情緒がよく表されている。(高橋正子)

★子らの声朝はや響く柿若葉/小河原宏子
日が昇るのが早くなった。まだ朝早いというのに、子どもたの元気な声が響いている。柿若葉はてらてらと耀き、天気もよく、なにもが元気に満ちるときである。(高橋正子)、

★帰り路はいつしか晴れて風青し/甲斐ひさこ
家を出られる時は雨が降っていたのでしょう。用事を済ませて戻られるころには雨もやみ、青空が広がってきました。今頃の季節の雨上がりは気持ちがいいですね。(多田有花)

★葉桜や風吹き抜けて吹き抜けて/矢野文彦
「吹き抜けて」を重ねて使ったところ感心しました。葉桜を揺らしながら爽やかな風が吹き抜けていく感じが読み手にはっきり伝わってきます。(小河原宏子)

【入選Ⅰ/15句】
★手向けられし百合水切りし又挿しぬ/柳原美知子
手向けられた百合の花が永持ちし永く香りたつように水切りをして水揚げを良くしてあげた。詠み手のあらゆる面での優しさがそのまま伝わってきます。好きな句。(前川音次)

★若竹の力みなぎるふとき節/吉川豊子
通勤のバスの中から若竹の姿を毎日眺めていますが、節ごとに白い粉を噴き青く真っ直ぐ伸びた姿は、全く力みなぎる若さそのものです。(桑本栄太郎)

★しゃぼん玉歪みのとれて風にのる/志賀泰次
ご近所の子供達が遊んでいるところを見ておられたのでしょうか。吹き出しはじめと玉になって飛んでいく様が判り、一緒に喜んでる詠者が見えてきます。(祝 恵子)

★空きベンチ座りましょうよバラの香と/祝 恵子
バラの花を前にお友だちとでしょうか、座ってゆっくりながめましょうと。何か不思議な位、私も月曜日のことですが、このように友とベンチに座りました。さわやかさと、やさしさを感じる好きな句です。(小川和子)

★春雨や遠野の谷戸の古水車/奥田 稔
春雨、遠野、谷戸、古水車と、美しい連想を誘う日本語四語が音符のように句の中に散りばめられて、独特のリズムと心地よさが感じられました。いろいろな御句に良き人生と旅を読ませていただいて有難うございます。(竹内小代美)

★梅雨に入る雨の匂いの新しき/池田多津子
昨日、四国管区梅雨宣言が発表されました。そういえば、梅雨の雨だという実感に句の細やかさを感じました。(大西 博)

★代田澄む雲と夕陽と山の影/桑本栄太郎
この時期、さまざまのものを映して静まっている代田は風景を一変させます。広々とした水田地帯ではにわかに大きな湖ができたような雰囲気になります。棚田はまた異なる趣があります。その情景を見事にとらえられています。(多田有花)

★白百合の活けられるより香の立ちぬ/藤田洋子
厳密に言えば、白百合は、活けられる前からも匂っているわけであるが、活けられると、本来の清楚な姿となって、香りがいっそう感じられるというのだ。(高橋正子)

★朝日射す御堂へ今日は豆御飯/黒谷光子
毎朝の仏飯に、今日は季節の香りいっぱいの豆御飯をお供えした。御堂には、すがすがしい朝日が差して、まことに気持のよいことである。(高橋正子)

★蒲公英の絮半球となり夕日/小西 宏
蒲公英がまん丸い絮となって、一日を過ごすうちに、風に吹かれて、半分はどこかへ飛んでいった。残りの半球を夕日がやさしく包んでいる。今日の終わり野の光景である。(高橋正子)

★万緑や半身で生きて七年に/河野啓一
半身で生きては、ご病気で半身不随になられたということであろうが、それも七年になる。万緑の健やかさに励まされることであろう。(高橋正子)

★薔薇の園香りもろとも撮りにけり/國武光雄
薔薇園の数え切れない薔薇の花。香りが漂い、写真に撮れば、その香りごと写真に収められる気がする。芳しい薔薇の写真となって出来上がることだろう。(高橋正子)

★夏めくや藻の立ち上がる湖の底に/宮本和美
水辺が慕わしいころになってきました。水底に揺れている藻、そこでいっしょに揺れている日の光と波、明るく気持ちのいい湖の情景と、穏かに水を見つめられている作者の姿が浮かびます。(多田有花)

★時鳥鳴く追分の夜明けかな/大山正子
百人一首にある「ほととぎす鳴きつる方をながむれば」の歌を思い起こしました。追分は、中山道の追分宿でしょうか。この朝、月は残っていたのでしょうか? 夏の朝のさわやかさが匂うようです。(多田有花)

★紫陽花や葉脈しかと張りをもち/藤田裕子
紫陽花の花ではなく、葉に目を向けた句。あの大きな毬のような花を浮かばせ、支えているかに見えるのが、しっかりとした葉である。葉脈がしかりと通り、大きな葉に力がある。(高橋正子)

【入選Ⅱ/15句】
★おのが場所おのが風受け青葉揺る/多田有花
それぞれの場所でそれぞれの風を受けて揺れる青葉が清々しいです。青葉の葉擦れの音、揺れる木漏れ日まで想像し、心地よくなります。(池田多津子)

★緑陰の乳母車子ら駆け寄り来し/古田敬二(信之添削)
ここしばらく暑い日が続いております。乳母車の親子連れも木陰で一休みしたいところでしょう。若葉の季節の親子連れの姿を上手く表現していると思います。(小河原宏子)

★五月闇海から半里遠汽笛/吉田 晃
五月闇を縫って半里向こうの海から汽笛が聞こえる。一日の生活が終わり明日へ繋がるひと時の風景。どっしり感が好き。(古田敬二)

★ミニトマト口いっぱいに陽の恵み/高橋秀之
トマトは自家栽培されてあるのでしょう。収穫の素直な喜びが伝わってくる気持ちのい い句です。他の2句も生き生きとしたいい句だと感じました。(國武光雄)

★豆腐屋のラツパの音色や夏の夕/飯島冶朗
ラツパの音色をひさしく聞いていないので懐かしく思うとともに夏の雰囲気を感じました。(奥田 稔)

★五月晴今日の一日の始まりに/堀佐夜子
梅雨に入り、五月晴が待たれる昨今、今朝は五月晴で、さあ、今日は頑張って仕事を始めようという気持ちの表れた句。共感を覚えます。(宮本和美)

★植田今水に馴染みてみどり濃く/小川和子
植えられた直後の早苗は水面にやっと顔を出しているおぼつかない姿です。それも数日たてば、はやしっかりと根をはり、背を伸ばしています。その苗の姿を的確にとらえられています。(多田有花)

★この埃この匂ひして麦の秋/前川音次
麦刈をされた経験をお持ちの方なればこその句と思います。嗅覚は五感のうちでも 最も原始的なもので、本能に訴え、記憶を呼び覚ます効果を強くもっています。匂いの記憶を生かされた佳句です。(多田有花)

★庭のばら雨滴をふくみ父の手に/川名ますみ
自宅のお庭に薔薇を作っていらっしゃるとは素敵ですね。薔薇は姿も香りも高貴で凛としたものを感じる花です。華麗な女性のイメージもあり、お父様のがっしりとした手との対比が見事。(多田有花)

★十薬を束ね明るさ活けにけり/竹内小代美
十薬の花が束ねられて活けられる。はっきりした白い花苞と中の小花が明るさを感じさせます。活けた場所がぱっと明るくなるようです。(池田多津子)

★えごの花明るさそのまま抱き落つ/網本紘子
小さな白い花をいっぱいにつけるえごの木です。落ちてもなおその明るさと香りを残しています。えごの花を見つめる作者の優しい眼差しを感じます。(池田多津子)

★山風に鮎の匂いの風の来る/篠木 睦
鮎釣りのシーズン到来ですね。初夏を待ちかねている人も多いのでしょう。そんなわくわくする思いを強く感じます。山からの風もすっかり夏の風です。(池田多津子)

★山清水そば屋の暖簾縹(はなだ)いろ/小口泰與
暑い日が増えてくると涼しさを求めるようになります。清らかに流れる山清水とそば屋の暖簾の縹色(うすい藍色)に涼しさを感じ、ほっとします。(池田多津子)

★長距離バス郷愁誘う初夏の風/大給圭江子
「長距離バス」の旅にあれば、日常とは違った思いだ。「郷愁誘う」こともある。「初夏の風」に吹かれていれば、過去の風景が蘇ってきて、現実となる。(高橋信之)

★梅雨前の一と日の青空仰ぎたり/岩本康子
梅雨に入ると、青空がめったに望めなくなる。入梅前のまぶしい青空を仰ぐのも人情というものだろう。(高橋正子)

※入賞発表は本名ですので、不都合な方は、ご連絡ください。入賞発表から削除します。