今週の秀句/7月1日~10日
○高橋正子選評
【金賞】
★皮脱ぎし竹青々と透き通る/黒谷光子
皮を脱いだばかりの竹幹の青々とした美しさを、素直に表現している。薄い光を入れた竹林は、今青い色に透き通っている。竹が一番美しいときである。
【銀賞/2句】
★折れそうなほど真っすぐに青すすき/志賀たいじ
まっすぐに茎を伸ばした青いすすきだが、あまりにすくすく伸びて、折れるのではないかと思うほどの丈。成長期の少年のような印象で、青いということは、ういういしく、折れやすいということでもある。しかし、この句は、そんな理屈ではなく、抒情があって、清々しく伸びた青すすきへの賛歌である。
★笹の葉の乾きやすさよ星祭/石井孝子
七夕の笹は、はじめは短冊や網をつけられて、笹のみどりが美しいが、しばらくすると、みどりの葉が乾いて白っぽくなる。七夕笹のもっとも美しいところではなく、すこし凋落の見え始めた様を詠んで、共感を呼ぶ。下五を「星祭」という夢のある語で終えて、句全体では星祭の美しいうらさびしさを詠んだ。
【銅賞/4句】
★鮮明な色に梅酢の上がり来る/古田けいじ
梅干作りの成功、不成功は、きれいな梅酢があがってくるかどうかにかかっている。鮮明な色の梅酢であって、それを見る作者の目の輝きが見えるようだ。
★とんぼうの水平飛行定まらず/岩本康子
とんぼうはその習性で水平に飛ぶ。水平であるので、方向が定まってもよさそうであるが、つつっと行っては、高さを変えたり、また向きをかえたり。まっすぐでありながら定まらないのが楽しい。
★梅を干す夕暮れ時の母と妻/高橋秀之
母と妻が仲良く、保存食として梅干作りに精を出しているのもなごやかで、いい光景だ。夕方に梅を干して夜露に当てて、ふっくらとした梅干に仕上げようというのだ。夜露にあてるには、晴天でなければならない。星が輝いている夜でなければならない。そんなことを思うとこの句は、世界が大きく広がって、懐が深い句だ。
★峯雲の白く重なり青い空/河野一志
一読して、清涼感に満たされる句。雲の峰が青い空につぎつぎ重なって、きっぱりとした夏が涼しい。
今週の秀句/7月11日~17日
○高橋正子選評
【金賞】
★空蝉の軽きが朝の風つかむ/おおにしひろし
空蝉は、蝉が脱け出た格好のまま、脚が葉や木をつかんでいる。見た目には、脚はやっと引っかかっているだけのようだが、しかりと掴んでいるのだ。さながら朝の風を掴んでいるようなのだ。
【銀賞/2句】
★桶の水溢れるほどの夏野菜/日野正人
桶にゆったりとした楽しい生活が感じ取れる。畑で採れた夏野菜の茄子やトマト、胡瓜といったものを水を汲んだ桶に入れると、桶の水が溢れそうになった。夏野菜はたっぷりの水に色を鮮やかに、桶の水は涼しそうに溢れんばかりである。
★朝顔や空の青さに揃いけり/大山 凉
朝の空の青さに向かって揃って咲いた朝顔に、涼しさをもらう。青色の朝顔が咲きそろって、朝のなによりの楽しみとなる。
【銅賞/3句】
★今宵から好きな一字の夏暖簾/大石和堂
夏をしのぎやすくするために、いろいろな工夫がある。暖簾も夏向きに変えて、大胆に染め抜かれた一字が涼しそう。それも好きな一字をなれば、暖簾をくぐる楽しみも湧く。
★干し梅の香りの中へ帰り来る/門石雅彌
我が家に帰り着くと、梅を干している匂いがする。干し梅の匂いは、陽を含んでふっくらと甘いやさしい匂いだ。
★籐寝椅子手足余れる幼き日/多田有花
幼き日の思い出がセピア色のなかから蘇る。籐の寝椅子は大人に合うように作られている。そこに体いっぱいで寝てみても手も足も寝椅子の中に小さく納まってしまう。幼いころが自然に思い出されるのも夏だからだろう。
今週の秀句/7月18日~24日
○高橋正子選評
【金賞】
★峡どこも水の音して土用の入り/篠木 睦
じりじりと灼ける土用の暑さは、なかなか耐え難いものであるが、峡では、土用の入りといっても、あちこちに水の音がして耳に涼しさが呼び起こされる。峡のくらしが偲べる。
【銀賞/2句】
★妻の手にトルコ桔梗の青涼し/安丸てつじ
トルコ桔梗は、西洋の花でハイカラな感じ。青いトルコ桔梗が似合う妻をさりげなく詠んだ。
★ひまわりや馳せくる風も浅間より/小口泰與
浅間から吹く風は、「馳せくる」風で、浅間の雄雄しさを物語っている。明るくたくましいひまわりに浅間が座る景色がすばらしい。
【銅賞/3句】
★天道虫登り詰めれば空がある/野田ゆたか
天道虫が葉先まで登り詰めた。その先は、広々とした空がある。天道虫に自分を重ねてみたいような句である。
★句集など書架に加わり夜の秋/黒谷光子
昼間の暑さも、夜には涼しさを感じるようなときもある。それが夜の秋。書架に新しい句集などが加わって、涼しい夜は、折々に、書を読む楽しみが増えた。好きな書を読む楽しみは、なににも代えがたいものがある。
★茗荷汁清しき香りを木の椀に/大山凉
茗荷の清々しい香りは、暑い日は、いい清涼剤になる。茗荷汁を注ぐのが木の椀なので、持って軽く、置けば木の音がコトリとする。茗荷の香りだけでなく、そんなことも暑い日を快適に過ごすのに、いい役を買っている。句に露けさが感じられる。
今週の秀句/7月25日~31日
○高橋正子選評
【金賞】
★青芒岬に風力発電所/門石雅彌
岬は、四方からの風が吹きぬけるところ。青芒ばかりが靡く岬には、風力発電所の風車が力強く回っている。青芒を吹く原初の風と、現代の風力発電の風車が、なぜか、ぴったりと息があっている。(正子評)
【銀賞/2句】
★桔梗の真白きこころ活けにけり/おおにしひろし
桔梗には、最近では、うすい桃色もあるが、紫と白が主。紫の桔梗に対して白である。何も無いこころ。この白さがいい。(正子評)
★故郷の山に青栗はや太る/古田けいじ
「はや太る」に、作者のおどろきがある。故郷を離れていれば、
故郷の野山の繁茂には、目を瞠るものある。青栗もその一つ。懐かしさとすこしの侘しさが入り混じる心境。(正子評)
【銅賞/3句】
★暮れてなお力ゆるめず土用波/栗原秀規
昼間の炎熱が収まり、日が暮れても土用波は、力を緩めることをしない。土用の力強さは、太陽だけでなく波の動きにも見ることができる。
★七夕の近づく夜の澄む気配/野田ゆたか
七夕は、星合いの祭り。天の川やその他の星々が美しく見えることを期待する。そんな気持ちが夜の澄む気配を敏感に感じ取ることができる。
★夏暖簾押せばさらりと押し返す/池田多津子
「暖簾に腕押し」とは、押しても頼りないものの例えだが、この句は、そうではない。暖簾を潜ろうと思って押すと、軽く押し返す手ごたえを感じる。その「押し返す」やわらかな手ごたえは、なにとも例えようがないが、たしかにある、やわらかな心が捉えた手ごたえである。
○高橋正子選評
【金賞】
★皮脱ぎし竹青々と透き通る/黒谷光子
皮を脱いだばかりの竹幹の青々とした美しさを、素直に表現している。薄い光を入れた竹林は、今青い色に透き通っている。竹が一番美しいときである。
【銀賞/2句】
★折れそうなほど真っすぐに青すすき/志賀たいじ
まっすぐに茎を伸ばした青いすすきだが、あまりにすくすく伸びて、折れるのではないかと思うほどの丈。成長期の少年のような印象で、青いということは、ういういしく、折れやすいということでもある。しかし、この句は、そんな理屈ではなく、抒情があって、清々しく伸びた青すすきへの賛歌である。
★笹の葉の乾きやすさよ星祭/石井孝子
七夕の笹は、はじめは短冊や網をつけられて、笹のみどりが美しいが、しばらくすると、みどりの葉が乾いて白っぽくなる。七夕笹のもっとも美しいところではなく、すこし凋落の見え始めた様を詠んで、共感を呼ぶ。下五を「星祭」という夢のある語で終えて、句全体では星祭の美しいうらさびしさを詠んだ。
【銅賞/4句】
★鮮明な色に梅酢の上がり来る/古田けいじ
梅干作りの成功、不成功は、きれいな梅酢があがってくるかどうかにかかっている。鮮明な色の梅酢であって、それを見る作者の目の輝きが見えるようだ。
★とんぼうの水平飛行定まらず/岩本康子
とんぼうはその習性で水平に飛ぶ。水平であるので、方向が定まってもよさそうであるが、つつっと行っては、高さを変えたり、また向きをかえたり。まっすぐでありながら定まらないのが楽しい。
★梅を干す夕暮れ時の母と妻/高橋秀之
母と妻が仲良く、保存食として梅干作りに精を出しているのもなごやかで、いい光景だ。夕方に梅を干して夜露に当てて、ふっくらとした梅干に仕上げようというのだ。夜露にあてるには、晴天でなければならない。星が輝いている夜でなければならない。そんなことを思うとこの句は、世界が大きく広がって、懐が深い句だ。
★峯雲の白く重なり青い空/河野一志
一読して、清涼感に満たされる句。雲の峰が青い空につぎつぎ重なって、きっぱりとした夏が涼しい。
今週の秀句/7月11日~17日
○高橋正子選評
【金賞】
★空蝉の軽きが朝の風つかむ/おおにしひろし
空蝉は、蝉が脱け出た格好のまま、脚が葉や木をつかんでいる。見た目には、脚はやっと引っかかっているだけのようだが、しかりと掴んでいるのだ。さながら朝の風を掴んでいるようなのだ。
【銀賞/2句】
★桶の水溢れるほどの夏野菜/日野正人
桶にゆったりとした楽しい生活が感じ取れる。畑で採れた夏野菜の茄子やトマト、胡瓜といったものを水を汲んだ桶に入れると、桶の水が溢れそうになった。夏野菜はたっぷりの水に色を鮮やかに、桶の水は涼しそうに溢れんばかりである。
★朝顔や空の青さに揃いけり/大山 凉
朝の空の青さに向かって揃って咲いた朝顔に、涼しさをもらう。青色の朝顔が咲きそろって、朝のなによりの楽しみとなる。
【銅賞/3句】
★今宵から好きな一字の夏暖簾/大石和堂
夏をしのぎやすくするために、いろいろな工夫がある。暖簾も夏向きに変えて、大胆に染め抜かれた一字が涼しそう。それも好きな一字をなれば、暖簾をくぐる楽しみも湧く。
★干し梅の香りの中へ帰り来る/門石雅彌
我が家に帰り着くと、梅を干している匂いがする。干し梅の匂いは、陽を含んでふっくらと甘いやさしい匂いだ。
★籐寝椅子手足余れる幼き日/多田有花
幼き日の思い出がセピア色のなかから蘇る。籐の寝椅子は大人に合うように作られている。そこに体いっぱいで寝てみても手も足も寝椅子の中に小さく納まってしまう。幼いころが自然に思い出されるのも夏だからだろう。
今週の秀句/7月18日~24日
○高橋正子選評
【金賞】
★峡どこも水の音して土用の入り/篠木 睦
じりじりと灼ける土用の暑さは、なかなか耐え難いものであるが、峡では、土用の入りといっても、あちこちに水の音がして耳に涼しさが呼び起こされる。峡のくらしが偲べる。
【銀賞/2句】
★妻の手にトルコ桔梗の青涼し/安丸てつじ
トルコ桔梗は、西洋の花でハイカラな感じ。青いトルコ桔梗が似合う妻をさりげなく詠んだ。
★ひまわりや馳せくる風も浅間より/小口泰與
浅間から吹く風は、「馳せくる」風で、浅間の雄雄しさを物語っている。明るくたくましいひまわりに浅間が座る景色がすばらしい。
【銅賞/3句】
★天道虫登り詰めれば空がある/野田ゆたか
天道虫が葉先まで登り詰めた。その先は、広々とした空がある。天道虫に自分を重ねてみたいような句である。
★句集など書架に加わり夜の秋/黒谷光子
昼間の暑さも、夜には涼しさを感じるようなときもある。それが夜の秋。書架に新しい句集などが加わって、涼しい夜は、折々に、書を読む楽しみが増えた。好きな書を読む楽しみは、なににも代えがたいものがある。
★茗荷汁清しき香りを木の椀に/大山凉
茗荷の清々しい香りは、暑い日は、いい清涼剤になる。茗荷汁を注ぐのが木の椀なので、持って軽く、置けば木の音がコトリとする。茗荷の香りだけでなく、そんなことも暑い日を快適に過ごすのに、いい役を買っている。句に露けさが感じられる。
今週の秀句/7月25日~31日
○高橋正子選評
【金賞】
★青芒岬に風力発電所/門石雅彌
岬は、四方からの風が吹きぬけるところ。青芒ばかりが靡く岬には、風力発電所の風車が力強く回っている。青芒を吹く原初の風と、現代の風力発電の風車が、なぜか、ぴったりと息があっている。(正子評)
【銀賞/2句】
★桔梗の真白きこころ活けにけり/おおにしひろし
桔梗には、最近では、うすい桃色もあるが、紫と白が主。紫の桔梗に対して白である。何も無いこころ。この白さがいい。(正子評)
★故郷の山に青栗はや太る/古田けいじ
「はや太る」に、作者のおどろきがある。故郷を離れていれば、
故郷の野山の繁茂には、目を瞠るものある。青栗もその一つ。懐かしさとすこしの侘しさが入り混じる心境。(正子評)
【銅賞/3句】
★暮れてなお力ゆるめず土用波/栗原秀規
昼間の炎熱が収まり、日が暮れても土用波は、力を緩めることをしない。土用の力強さは、太陽だけでなく波の動きにも見ることができる。
★七夕の近づく夜の澄む気配/野田ゆたか
七夕は、星合いの祭り。天の川やその他の星々が美しく見えることを期待する。そんな気持ちが夜の澄む気配を敏感に感じ取ることができる。
★夏暖簾押せばさらりと押し返す/池田多津子
「暖簾に腕押し」とは、押しても頼りないものの例えだが、この句は、そうではない。暖簾を潜ろうと思って押すと、軽く押し返す手ごたえを感じる。その「押し返す」やわらかな手ごたえは、なにとも例えようがないが、たしかにある、やわらかな心が捉えた手ごたえである。