デイリー句会入賞発表

選者 高橋正子
水煙発行所

2005年12月最優秀

2005-12-21 15:41:36 | 2005年
※1日~4日不明

【最優秀/12月5日】
★散り切って木立の冬の始まりぬ/ふるたけいじ(信之添削)
いつから冬木立となるのか、それを言った句を知らないが、冬木立となるのは、葉が散り切ってからと見た。葉を落としてしまい、すっきりと立つ木々姿は、冬に真向かう姿といえる。(正子評)

【最優秀/12月6日】
★手袋の中や十指の和みける/山中啓輔
寒さが厳しくなると、手袋がほしい。凍るように冷た指は、手袋の中では、一本一本が温まって自由に動く。十指が互いに和みあっている。手袋に温まった手指のほどよい温さに、生きていることを静かに実感できた句だ。(正子評)

【最優秀/12月7日】
★ひそひそと大樹の声よ落葉する/祝恵子
大樹が葉を落とすとき、静かで、ひそやかで、大樹の風格を感じさせて落葉する。ひそひそと葉を落とす老大樹に、その話を聴こうではないか。(正子評)

【最優秀/12月8日】
★石塔に新雪まるく明けにけり/志賀たいじ
一夜明けると、石塔に新雪が積んでいる。「まるく」やわらかに積んでいる。これから長い雪の季節を迎える北海道でも、新雪は、ふんわりと石塔を丸く包むほど。新雪には、はじめの雪として、人間の若々しさのようなものを感じる。「明けにけり」はすがすがしい。(正子評)

※9日~11日不明

【最優秀/12月12日】
★張られいる鉄鎖にありし霜の花/多田有花(正子添削)
駐車場などでもよい。鉄の鎖が張られていて、それに霜が全く壊れ、崩れるところなく、びっしりと付いている。厳しい寒さが緊張感をもって詠まれて快いほどである。(正子評)

【最優秀/12月13日】
★朝の鐘撞く境内の雪明り/黒谷光子
朝の鐘を撞くために境内に出ると、一夜のうちに積もった雪で、一面の雪明り。人ひとりいない世界だが、清浄で静かに明るい世界にいるうれしさは、人間が自然につつまれている実感に裏打ちされて生まれるものなのだろう。(正子評)

【最優秀/12月14日】
★月上げて田毎田毎の冬ざるる/河野一志(信之添削)
空を見上げれば、きれいな月があがっている。目を田に移せば、秋の豊穣な田の気配は消えて、どの田も荒れてさびさびとしている。「寂び」の美しさを詠んだ句。(正子評)

【最優秀/12月15日】
★雪重く載せて客車の動き出す/長岡芳樹
雪がひどく降った日、客車は屋根に重く積もった雪を載せたまま、雪国に生活する人々や、旅人たちを乗せて、力いっぱい走り出そうとしている。雪を走る客車の頼もしさが、雪国の生活を助けているのである。作者は秋田在住。(正子評)

【最優秀/12月16日-18日】
★ものの音みな鋭角に霜の朝/多田有花
厳しい寒さが押しよせた霜の朝。霜を踏む音、車の走る音、風の音など、反射して鋭く響く音となる。音が「鋭い」という単純な表現ではなく、さらに吟味して「鋭角に」としたところに、句が成立した状況を明らかにしてくれている。(正子評)

【最優秀/12月19日】
★黒々と乗り込む人が雪の駅/長岡芳樹(信之添削)
白く深く積む雪の駅で外套や防寒着に身をつつんだ人々が、黙って塊のように、列車に乗り込んでいる。「黒々と」には、雪国でなければ感じ取れない真実味がある。雪国の厳しさにもいい抒情がある。(正子評)

【最優秀/12月20日】
★白樺の鬱々として小雪舞う/小西 宏
日本にいて白樺をイメージすると、ロマンティックな風景が目に浮かぶが、この句では、白樺が鬱々としている。冬の陰鬱な空をもつ北ドイツか、北欧か、ロシアか、といったような国が想像できる。鬱々とした白樺に白い小雪が舞い、寂しさと孤独が強まるような風景だ。(正子評)

【最優秀/12月21日】
★山麓のゆるき起伏に麦をまく/おおにしひろし
「ゆるき起伏」にのどかな山村風景がしのべる。今は色のない畑に麦をまいているが、やがて芽がでると、麦の芽は美しくすじをなし、さらに育つと、あおあおとしたさわやかな麦となる。そんな先のことまで思わせてくれる句。(正子評)

【最優秀/12月22日】
★子らの声道に弾むよ雪降れば/堀佐夜子
雪が降ると、子どもたちは大喜び。道に出てきて、声を弾ませて、元気いっぱいに遊んでいる。いつもと違う雪の世界に、子どもは命を弾ませている。(正子評)

【最優秀/12月23日】
★列車来る前に飛び舞う風花は/除門喜柊
駅のホームで列車を待っているのは、寒いせいもあって、長く感じる。。列車がまだ来ないかと線路のはるか向こうの方を見たりしていると、架線や線路ばかりが目立つ空間に風花は、いっそう飛び舞うのである。(正子評)

【最優秀/12月24日】
★いっそうに岩荒々し渓涸るる/大給圭泉
渓流の水が涸れてくると、岩が水から現れるところが多くなる。水がゆたかなときに見た渓流の岩と違って、ごつごつと、岩肌も荒々しく、乾いてきている。涸れの、すざましいところである。(正子評)

【最優秀/12月25日】
★柚子の香の朝の窓から青空へ/渋谷洋介
柚子の香は、ある場所を満たすほど、よく香る。柚子湯などすると、浴室は柚子の匂いに満たされる。朝、換気のために窓をあけ、柚子の香を青空へ逃がしてやる、といった状景が浮かぶ。夕べのいい柚子湯の余韻も残って、朝の青空と柚子の香りがすがすがしい。(正子評)

【最優秀/12月26日-28日】
★一湾に藍の潮すじ注連飾る/篠木睦
作者は、湾を詠んで、佳句を残しているが、この句もいい。焦点が絞られていて、風景に拡がりがある。(高橋信之)

【最優秀/12月29日-31日】
★麦の芽の黒き土割り青々と/大山 凉
くろぐろとした土に麦の芽があおあおとして、そのコントラストが美しい。ただそれだけでなく、寒さのなか、土を割り芽をだすものの勢いに、心が広く、伸びやかになるような気がする。(高橋正子)

2005年11月最優秀

2005-11-21 15:37:38 | 2005年
【最優秀/11月1日】
★銀漢や溶岩遅々と海に落つ/池田加代子
壮大な光景だ。流れ出る溶岩と銀漢とがあって、地球草創の素晴らしいイメージが湧く。(正子評)

【最優秀/11月2日】
★冬青空影踏みごつこ楽しからむ/小川美和
暦の上では、まだ冬となっていないが、冬を思わせる日もある。青く晴れた日、影もくっきりとできるので、少女のころのように影踏みごっこをしてみたら、どんなに楽しいだろうか、という思い。(正子評)

【最優秀/11月3日】
★新聞に明るさ目立つ文化の日/安丸てつじ
明るいニュースの少ない昨今だが、文化の日に、ゆっくりと朝刊を広げてみると、明るい話題が目立つ。晴れやかな叙勲者の氏名もあれば、文化について語る記事もある。文化は平和であれば、その意義が発揮される。(正子評)

※4日~6日不明

【最優秀/11月7日】
★霧濃くて朝日まったき紅に/多田有花
濃い霧の中で、朝日はまんまるの紅。まったき紅の美しさ、そして厳かさに驚嘆せずにはおれない。端的に無駄なく捉えた目がいい。(正子評)

【最優秀/11月8日】
★子ら窓に白き富士見る今朝の冬/飯島治蝶(正子添削)
すっかり寒くなった朝、窓に雪を冠った富士山が見えた。子供たちは富士山の姿を見て、たしかに冬が来たことを知ったのである。教室の窓からはればれと望める富士山の姿を、子どもたちは、大人になっても、懐かしいふるさとの山のように思うのだろう。(正子評)

【最優秀/11月9日】
★切り分けて白菜明かりの厨かな/今村七栄(正子添削)
白菜の玉を切り分けると、中の淡いきみどりが現れて、ぱっと明るさが広がる。厨に溢れる白菜は、「白菜明かり」と表現されて、厨を明るく、いっそう清潔にしてくれる。(正子評)

【最優秀/11月10日】
★風吹けば風に従う吾亦紅/松本豊香
野にある吾亦紅だろう。草に風が吹くと、風の通りにしなやかになびく。風の力に従いながらも、かれんで自由さがある。(正子評)

※11日~13日不明

【最優秀/11月14日】
★雪吊や新縄の空引締る/篠木 睦
雪の季節に備え、雪吊をする。放射状に張られた縄が空の青に映えて、造形の美しさを見せてくれる。新縄であるので、藁綱の匂いもかぐわしく、雪吊の縄で空引き締められるようなのだ。(正子評)

※15日不明

【最優秀/11月16日】
★冬雲の幾層煙突真直ぐに/今村七栄
厚く幾層にも重なる冬の雲に、真っ直ぐな煙突が立っている。水平な雲と垂直な煙突の絵画的構成、やわらかな雲と固い煙突という相反するものの出会いが実感をもって、詠まれている。(正子評)

【最優秀/11月19日-20日】
★海までの雲の連なり冬始/多田有花
冬らしい景色。海まで雲が連なって、寒々としているが、「海まで」の言葉に、広さを思い起こす。海まで連なる雲に冬の始めの寒さの感覚がいい。(正子評)

【最優秀/11月21日】
★雲天の零せし雪の野をつつむ/志賀たいじ
雲が空を覆っていると思うと、いつのまにか雪がはらはらと降り出して、それもいつの間にか野を包むようにうっすらと積んだ。本格的な冬が始まる前の雪の降る様子に、冬を迎える作者の気持ちが重なっている。(正子評)

【最優秀/11月22日】
★水仙の葉のみ青々揃いけり/臼井虹玉
花をつける前の水仙は、丈が揃って、あおあおとして、いつ花が咲いてもいい姿になっている。花をつけた水仙もよいが、あおあおとした葉ばかりの水仙も見所がある。「青々揃いけり」で句が生き、そこに作者の感動がある。(正子評)

【最優秀/11月23日】
★風除や海見て暮らす能登の村/門石雅彌
冬、風の強いところでは、風除をして家屋敷を守る。風除に囲まれた家からは海が見える。さびしい能登の村からは、さまざま変化する冬の海が望める。時化や雪の海も、晴れた日の海も、大漁の海も。能登の暮らしに海がかかわっているのも、日本の風景。(正子評)

【最優秀/11月24日】
★さりげないくらしの中の水仙花/大山 凉
「さりげないくらし」は、大仰に構えたところもなく、落ち着いていて、何事もなく、それでいて、日々どこか楽しく、小さな喜びを持ちながら過ごせるくらしのことだろう。水仙もさりげなく生けられて、きれいな日常生活がしのばれる。(正子評)

【最優秀/11月25-27日】
★枇杷の花香る森への往き帰り/ふるたけいじ
森への往き帰りには、必ず通るところにある枇杷の花。ふるさとにあるような枇杷の花の匂いは、文人好みの気高い匂いだ。(正子評)

※28日不明

【最優秀/11月29日】
★初霜や生みたて卵手のひらに/小口泰與
初霜の降りる冷たく寒い朝。生み落とされたばかりの卵がてのひらにほのかな温みを残してくれる。命あるもののほのかな温みが実感できる。うっすらと降りた初霜と生みたての卵のイメージがきよらかだ。わざとらしい技巧がないので好感が持てる句だ。(正子評)

【最優秀/11月30日】
★葉の太りほどの力の大根引/池田多津子
葉の太りは、葉の茂り。葉の茂っている力は土の中にある大根の力にも相当する。大根を土から抜くには、葉の太り具合と同じだけの力がいるというのだ。普段から感じていることだろうが、今日の実感として句になった。(正子評)

2005年10月最優秀

2005-10-21 15:32:52 | 2005年
【最優秀/10月1日】
★秋の菜を洗いてあまる岩清水/竹内よよぎ
秋菜を畑から抜いてきて、それほど多くない菜なのだろう、ふんだんな岩清水に浮かして洗う。「あまる」に、清水のきよらかさ、手に触れるうれしさがよく詠まれている。(正子評)

【最優秀/10月2日】
★稲架解かれ海の青さの広がりぬ/池田多津子
稲架が解かれると、それまで隠れていた海が見えるようになった。広々とした刈田の一線の上に広がる海の青さが、はればれとしている。(正子評)

【最優秀/10月3日】
★未だ稲刈らぬ郡へ電車入る/碇英一
電車で旅をすると、未だに稲刈の済んでいない郡に入った。ここに来て、再び稔田を目にできた郷郡の風景が懐かしくさえ思える。(正子評)

【最優秀/10月4日】
★秋の海一湾の灯の弓なりに/篠木 睦
「灯の弓なりに」が新しい。秋の湾を巡って人家の灯が灯っているのであろう。ゆるやかな曲線を描き連なる弓なりの灯が、抒情ゆたかに詠まれた。(正子評)

【最優秀/10月4日】
★秋の海一湾の灯の弓なりに/篠木 睦
「灯の弓なりに」が新しい。秋の湾を巡って人家の灯が灯っているのであろう。ゆるやかな曲線を描き連なる弓なりの灯が、抒情ゆたかに詠まれた。(正子評)

【最優秀/10月5日】
★湧水を汲む列に沿い曼珠沙華/瀧口文夫(信之添削)
おいしい湧き水が出るというので、その水を汲む列に並んだ。その列に沿って曼珠沙華が咲いている。湧き水と曼珠沙華は、対比されているようだが、その源では繋がっている。(正子評)

【最優秀/10月6日】
★秋燕のいつか消えいて広き空/瀧口文夫
「秋燕」として今ここに目に見えているのではない。たくさんいた秋燕は、いつきえてしまったのだろうと、ふと思う気持ち。いなくなった空が広く、秋のさびしさが感じられる。愁思の句。(正子評)

【最優秀/10月7日】
★山栗に母の手紙の添えられし/臼井虹玉(正子添削)
ふるさとの山で取れた栗であろう。母の白い手紙が添えられていて、その一言に心が温かくなる。栗も母の手紙も深まる秋をなつかしく、あたたかい気持ちにさせてくれるもの。(正子評)

【最優秀/10月8日】
★走る者に青き壁なす砂糖黍/山中啓輔
砂糖黍畑を走りぬけているのだろう。両側に青々とした砂糖黍が壁をなしている。「青」の中を走り抜けるという感覚的快感がある。(正子評)

【最優秀/10月9日】
★湾内を揺るがす浜の運動会/池田多津子
学校の運動会は、小さな町なら町民こぞっての行事ともなる。海辺の町の運動会は、湾内をどよめかせるほどの熱気である。(正子評)

【最優秀/10月10日】
★明るくてコスモス一輪ありて足る/飯島治蝶
コスモスは明るい。それだけでなくにこやかな印象もある。だからコスモスが一輪あれば、あたりは明るくなごやかになるので、それで足りるのである。(正子評)

【最優秀/10月11日】
★朝雲とますほの薄映す水/今村七栄
「ますほ」は、「真赭」。朝の雲と解けたばかりの赤い色の薄が水に映っている光景。今日がはじまったばかりの空の雲、赤いろの薄の穂、それを映す水が、曇りない目で詠まれている。(正子評)

【最優秀/10月12日】
★青蜜柑空より青き藍の葉に/渋谷洋介(正子添削)
蜜柑は今木に青い。その青い蜜柑が、空の色よりも濃い藍色の葉に埋もれて生っている。蜜柑の葉は空に触れるだけに、「空より青き」が効いた。写生が深くなっている。(正子評)

【最優秀/10月13日】
★木犀の樹下金色に日を返す/池田加代子
作者の視線は、「木犀の樹下」に絞られた。「金色に日を返す」ところであって、木犀の金と太陽の金が一つになった。 (信之評)

※14日~16日は不明

【最優秀/10月17日】
★満月のたった一つの明るさに/池田多津子
満月の照らす明かりに、この世は広く照らされる。満月のあかるさに、それが、たった一つの明かりであることを忘れていた。それを思い出させてくれた。(正子評)

【最優秀/10月18日】
★秋深し硝子戸越しの山の色/小口泰與
「硝子戸越し」にの表現に、秋が深み、そぞろ寒くなったことが窺える。朝などは、もう硝子戸を閉め切っておかなければならないほど。その硝子越しに見える山の色は秋深む晩秋の色。それがいい。(正子評)

【最優秀/10月19日】
★星近く寺の甍の露しとど/大給圭泉
寺の大屋根は、星空に聳えて、露をしとどに置いている感じだ。星の夜の冷気に身が引き締まるほど。「星近く」に、作者のいい感覚がある。(正子評)

【最優秀/10月20日】
★黄落や眠る子を乗せ乳母車/能作靖雄(正子添削)
黄落の季節の心地よさを一身にして、乳母車で眠る子。すやすやと眠りながら、母親に押されてゆく乳母車。母も嬰も黄落の季節がまどやかに、感じられる。(正子評)

※21日~24日不明

【最優秀/10月25日】
★酢に浸し芋茎ほんのり紅色に/甲斐ひさこ
「芋茎」は、「ずいき」と読み、いもがらともいう。里芋の茎で、干したものもあるが、生を酢の物や酢漬け、汁の実にして食べたりする。惣菜の食材として用途は広い。酢にあたると、ほんのり紅色を帯び、いい色になる。無理のない素直さに好感がもてる。(正子評)

【最優秀/10月26日】
★山空も頭上もまさお鴨渡る/甲斐ひさこ
遠い山の上の空も、自分の頭上の空も、まさお。そのまさおな空を鴨が渡っている。着眼の視点がはっきりとしてまさおな空のように雑念がなく、すっきりとして「鴨渡る」を見届けている。(正子評)

※27日~31日不明

2005年6月最優秀

2005-06-21 15:16:52 | 2005年
●今週の秀句/6月1日~10日
○高橋正子選

【金賞】
★この道を折れては滝に直進す/ 野田ゆたか
もとの句は「右折」とあるが、象徴的に、「折れて」と添削した。今歩いているこの道を折れ、まっすぐ行くと滝に当たる。滝までは迷わずに行ける。滝の涼しさ、滝の勇壮さ、などへの期待感がさわやかだ。(正子評)

【銀賞/2句】
★椎若葉雨に重なる雨の音/大給圭泉
「椎(しい)」は、その音の柔らかさ、大人しさにも魅力を感じる樹である。その椎が若葉して雨を受けている。その雨に濡れた若葉にまた雨が降る。雨に雨が重なり降って雨の音となる。「雨に重なる」「雨の音」の「雨」の繰り返しにリズムが生まれ、雨の音が実際に聞こえるようだ。(正子評)

★水音をはなして澄めり岩清水/志賀たいじ
「水音をはなして」に、はっと気づかされるものがある。それまで音を立てて流れていた清水は、音を立てなくなると、静かな水となり、澄みきっている。(正子評)

【銅賞/3句】
★山のダム茂りと水は恣意のまま/小口泰與
山のダムの周りは茂るだけ茂り、水も存分に溜まっている。ダムに意思があるかのように、それを「恣意」といった。十分な雨を得て、奔放に茂れるのは、自然が自然であることをゆるされる山であるから。(正子評)

★菖蒲田の連なる先の白い雲/渋谷洋介
満目の菖蒲の花弁の翻る菖蒲田の向こうに白い雲が浮いて、湿りがちな日々の空にもすがすがしさがある。(正子評)

★選り終えて夜の灯りに青山椒/黒谷光子
山椒の実は、秋には色づくが、青い実の時も魚料理や山椒煮などに楽しむ。青い山椒の実はつぶらな緑がかわいらしいが、びりりと辛い。選り集めた青山椒の実は、灯の下に出されると、青が透き通るようにきれいだ。身辺の生活を詠んで手堅い句。(正子評)

●今週の秀句/6月11日~19日
○高橋正子選評

【金賞】
★あめんぼのかろき命を円心に/尾 弦
水に軽く浮いているあめんぼう。軽い命は、命が軽いということではなく、命ある身の軽さのこと。その命を円心において水輪がひろがっているのが、あめんぼうの世界である。

【銀賞/2句】
★梅雨空を映して湾のざわめける/池田多津子
入梅したばかりの梅雨空の不安定な様子が湾のざわめきとしてとらえられたリアルで厚みのある句。

★山郷の身の透くほどに青葉風/大給圭泉
山郷にきて、溢れるみどりに目を瞠りながら立つと、存分に吹いてくる青葉の風に、身が透けてしまいそうなほどだ。青葉の風の透明感に、この世も緑に染まりそうだ。

【銅賞/3句】
★絵うちわに祭りの風の秘めらるる/藤田裕子
絵うちわは祭りのうちわ。祭り用の絵が描かれたうちわを見ていると、うちわのなかに涼しい風が秘められているような思いになった。祭りを思い描いてたのしむのもまた、別の祭りのたのしみ。

★門出でてパラソルの影濃くなりし/岩本康子
玄関から門までのアプローチには、庭の木々もあってか、パラソルの影がそれほどはっきり映っていない。だが、いざ門を出ると外は日盛り。日盛りの中のパラソルの影は濃くなっている。 パラソルの影に夏の日差しの具合をとらえて、本質的な句。

★青紫蘇の自生の勢い確かなる/やまなか みゆき
青紫蘇が自然に任せて生い茂っている。青々とした青紫蘇の香気が伝わって来る感じだ。「確かなる」は、自生のものの確かな生命力が読み取れる。

●今週の秀句/6月20日~30日
○高橋正子選評

【金賞】
★滝落ちて真白や天の陽を返し/大山 凉
滝がどうっと落ちると、真っ白に輝く。ちょうど太陽が前に来て滝に反射し、滝は、強靭な白い色を見せている。

【銀賞/2句】
★のうぜん花風も斜めの坂の街/黒谷光子
「風も斜め」には、まさにその通りだと、気づかされる。のうぜんの花が明るく咲いている坂の街。坂を辿りのぼると、坂上から風が吹いてくる。それを「風も斜め」と言った。坂を上る汗も心地よく乾いてくれそうな風の吹く坂の街である。

★己が影すらりと庭に朝涼し/野田ゆたか
朝の影は、長い。すらりと伸びた自分の影に、朝の涼しさをいっそう感じることになる。さらりとして涼しげな句である。

【銅賞/3句】
★窓開くままに白夜の涼しかり/小西 宏
窓を開けたままに過ごす白夜。「涼しかり」は、白夜の全てを想像させてくれるような言葉だ。

★外の声近く聞きおり青簾/甲斐ひさこ
簾を掛けたばかり。窓を閉めていたころと違い、簾を掛け、窓をあけていると、外の声が意外のもはっきり、近くに聞こえる。こんなところにも季節が変わることによって感じられる事がある。青簾が新鮮。

★汽車を待つ日傘ひとつの田舎駅/石井孝子
木陰のない田舎の道を歩いてきだのだろう。ちょっとした用事の外出だろう、汽車を待つのだけれど、手に持っているものは日傘一つ。日傘を詠んで、詠み方が新しい。

2005年5月最優秀

2005-05-21 15:13:21 | 2005年
●今週の秀句/5月1日~10日
○高橋正子選

【金賞】
★火の山も青に染まりぬ若葉かな/小口泰與
若葉の季節になると、火の山も若葉に山が青々としてくる。絵筆で青をしみこませたように、すっかり初夏の山となった。様を変える火の山へ親しさがいい観察をもたらした。(正子評)

【銀賞】
★切れ目なき空にまっすぐ花菖蒲/大山涼
「切れ目なき空」は面白い見方だ。一色の空に、菖蒲の花が真っ直ぐに立っている。菖蒲の凛々しさ、潔さが読み取れる句だ。(正子評)

【銅賞/2句】
★絮タンポポ我が吹き旅の長くあれ/池田加代子(正子添削)
タンポポの絮に、息を吹きかけてふっと飛ばす。飛ばしたその絮の旅の長いことを願う。大空を飛んでゆくタンポポの種のはるかな旅を思う気持ちが超俗だ。(正子評)

★海原の果ては立夏の空と結ぶ/吉田 晃
海原の最果ては、立夏の空と結びあい一つになっている。立夏の霞んだような海の果てと空とが溶け合い光に溢れる夏が来るのだ。「結ぶ」に作者の思いがある。(正子評)

●今週の秀句/5月11日~15日
○高橋正子選

【金賞】
★新しき風鳴りはじむ樟若葉/かわなますみ
「樟若葉」をしっかり捉えた。季節を捉えたのである。「新しき風」は、作者の発見。新しき「若葉」なれば、「新しき風」が鳴る。(信之評)

【銀賞/2句】
★煽られて揺れ伝え合い麦稔る/瀧口文夫
熟れ麦の畑に風が吹き、麦の穂を煽り、穂の揺れがつぎつぎに伝わってゆくようすを、丁寧に美しく描写した。(正子評)

★草の海五月の風をわれに見す/ 臼井虹玉
「われに見す」に、大きな感動がある。「草の海」は、草原でよいだろう。草原を渡る風の波打ちに、「五月の風」を形と動きに捉えて、心が大きい。(正子評)

【銅賞/3句】
★風生る清しき朝の新茶かな/安丸てつじ
上五に置いた「風生る」が句を引き締めていて、「清しき朝の新茶」が作者の実感として伝わってくる。(信之評)

★ゴム草履畦に揃えて田を植える/今井伊佐夫
いい写生句だ。生活の体験が確かに伝わってきて、リアルな写生句である。(信之評)

★夏雲の影落つところ山青む/長岡芳樹
大きな風景をまとめて作意が無い。「夏雲の影落つところ」となれば、新緑の「山青む」である。(信之評)

●今週の秀句/5月16日~22日
○高橋正子選

【金賞】
★新緑にまみれて軽き旅鞄/野田ゆたか
小さい旅なのであろう。新緑の中を提げて歩く旅鞄の軽さが、旅を楽しむ心の軽さとなっている。どこを歩いても新緑が美しい。鞄に新緑が映るほどである。だから「新緑にまみれ」である。(正子評)

【銀賞】
★青空と静けさとあり麦畑/多田有花
麦畑の上に広がる青空と、麦畑の静けさが作る静謐なまでの景色が、無理なく詠まれている。静けさは、こうしたところにもあるのだ。(正子評)

【銅賞/3句】
★せせらぎの飽くまで澄める木下闇/安丸てつじ
木下闇をくぐって流れるせせらぎが、「飽くまで澄んでいる」ことへの強い驚き。木下闇の暗さをくぐればこそ、せせらぎの澄み具合がよくわかる。飽くまでも澄んだ水がやわらかで、句にいい味わいがある。(正子評)

★晴れ晴れと空の広さに麦熟れる/今村七栄
「晴れ晴れと」は、空が晴れている様子と、麦が明るく熟れ散る様子を形容して、麦秋をうまく捉えている。(正子評)

★朴の葉の香り豊かに包む寿司/今井伊佐夫
朴葉ずしは、岐阜地方の代表的なすし。朴の葉が青々としている初夏に作られる。ごぼう、にんじん、鮭などを具にいれ、その家自慢のすしが出来上がる。朴の葉の香りがかすかにすしに移ったころが食べごろという。(正子評)

●今週の秀句/5月23日~31日
○高橋正子選

【金賞】
★路地抜ける風やすがしき祭あと/尾 弦
「風やすがしき祭あと」に、この句の高まりがあり、リズムよく、祭あとの、すがすがしさ、清らかさが詠まれている。祭によって清々しくなった町筋に、これから本当の夏がやってくる。(正子評)

【銀賞/2句】
★やっと咲いた鉄線ふたつ朝空に/堀佐夜子
「やっと咲いた」「ふたつ」という言葉に、朝空にやさしく咲く鉄線の花に対する思いやりがよく出ている。楽しみにしていた鉄線の花が朝空に向かってさわやかである。口語の平易な表現に正直な気持ちがあって、読後涼やかな気持ちになれる。(正子評)

★風鈴や夕日染み入る浅間山/小口泰與
軒端の風鈴の音色を聞きながら、夕日の染み入る浅間山を眺めている。夕日の浅間が、風鈴の音色とともに心に染み入る。(正子評)

【銅賞/3句】
★植え終えて水澄み始める植田かな/ふるたけいじ
田に苗が植え終えられたそのときから、田は静かになって、植えるためにかき混ぜた田水も落ち着いて澄み始める。田植えまでの準備には、明るく高揚した気分があるが、田植えが終わると、稲は確実に成長への時を過ごし始める。その区切りの時を逃すことなく、捉えられている。(正子評)

★柿の実に似て方状の柿の花/小西 宏
柿の花について、私もいつも思っていることを、すっぱりと言ってもらった。柿の花は、柿の実のミニチュアのように、四角であるのが、かわいくて面白い。(正子評)

★日出る時の静寂若葉満ち/河野一志
日が出るときの静けさに自然の神々しさを感じる。目には、若葉があふれ満ちる季節。その中にあって、精神のレベルが高い。(正子評)

2005年4月最優秀

2005-04-21 15:09:30 | 2005年
●今週の秀句/4月11日~17日
○高橋正子選

【金賞】
★巨き樹の大き囀り降らしけり/山中啓輔
大きな樹は、たくさんの小鳥を止まらせて、その小鳥たちは思い思いに鳴いて、一かたまりの囀りとなって降ってくる。樹と鳥の共生が童話風。(正子評)

【銀賞/2句】
★雪失せて麦の青のみ映えにけり/志賀たいじ
雪が消えると、急に麦の青が目だってくる。眩しいほどの麦の青に、雪が消え、待ちに待った春が来た喜びが感じられる。(正子評)

★湾内を汽笛の引けり花の雨/臼井虹玉
雨に煙る湾内を汽笛が長く引いて鳴る。それだけでも港の雰囲気がよく出ているが、雨は、花の雨なので、抒情ゆたかな句になった。(正子評)

【銅賞/2句】
★青空の光とじこめ新茶摘む/おおにしひろし
青空の光を受けて輝いている茶畑に新茶を摘むときは、光を新芽に残したまま摘み取ることになる。摘まれた新芽も籠のなかで輝いている。さわやかな茶摘の季節が詠まれた。(正子評)

★烈風にかすむ榛名や桜咲く/小口泰與
春といえどもいつもそよ風とは限らない。桜の咲く季節、榛名山は烈風でかすむこともある。榛名颪(あるいは赤城颪か)の局地風の吹くところだけに烈風に現実感がある。(正子評)

●今週の秀句/4月18日~30日
○高橋正子選

【金賞】
★山桜捧ぐ神楽を我も見ぬ/池田加代子
山里の神楽であろうか。山桜を捧げる神楽というのも美しい。能に近い雰囲気であるが、その神楽を「我も見ぬ」と締めくくり、神楽に観客として参加した感激をうまく表現して、いい句だ。もとの句「見ゆ」は、「見える」の意味なので添削した。(正子評)

【銀賞】
★蒲公英の数本は吾が影へあり/祝 恵子
なんとやさしい句だろう。自分の座っている影のなかに蒲公英の数本が入っている。日向にある蒲公英に比べて、自分の影の中の蒲公英は日陰っている。この明暗の差にある違いに作者の思いがある。(正子評)

【銅賞/2句】
★桜蘂降りくるまでを葉に添えり/臼井虹玉
桜蘂の細いあか色が、桜の葉の緑を伝って、つつっと降ってくる。その様子の丁寧な観察があって一句の色合いが美しい。(正子評)

★山匂う早蕨の束届きおり/大給圭泉
早蕨は、芽を出したばかりの蕨。まだ萌え出たばかりのしなやかな蕨が届けられた。蕨狩りにいった人のお土産だろうが、その濃緑の早蕨には、山の匂いがある。早蕨と言えば、すぐに、「石走るたるみの上のさわらびのもえいづる春になりにけるかも」の歌を思い出すから、この歌と重ねて味わうことのできる句だ。(正子評)