デイリー句会入賞発表

選者 高橋正子
水煙発行所

入賞発表/7月20日(日)~7月31日(木)

2008-08-01 00:08:45 | 入賞発表
■7月20日(日)~7月31日(木)
□高橋正子選

【最優秀】
★初蝉の朝一瞬を鳴き出せり/藤田裕子
蝉が鳴き出すのも、ある朝の一瞬のことである。その一瞬よりはじまる、蝉の鳴く夏。「一瞬」の切り込みがいい。(高橋正子)

【特選/5句】
★大寺の階白し炎暑来る/藤田荘二
大寺へ続く階段が、白く灼けている。そこにまさに炎暑を見た。大寺の構えが炎暑を際立たせている。(高橋正子)

★種零し零し向日葵刈り取らる/宮本和美
向日葵の咲き終わりは、数え切れないほどの種ができる。刈り取ると、その種がぼろぼろと零れるが、それにかまってはおれないほど。充実であり、終わりの姿である。(高橋正子)

★前篭も後ろも夏菊あふれさせ/黒谷光子
前籠にも後ろの荷台にも夏菊をあふれるほど乗せている。清々しい夏菊があふれる景色に、一度に涼が訪れる。(高橋正子)

★あかあかと大暑の夕陽海に落つ/柳原美知子
一日を燃やした大暑の太陽は沈む時が来て、名残を惜しむかのように、あかあかと静かに燃えて海に落ちる。大暑のなかの美しい光景だ。(高橋正子)

★田が暮れて彼方にともる灯の涼し/多田有花(正子添削)
原句は、「田も」となっていたが、添削した。俳句は「今」を切り取り、「今」をここに止めるもの。田がくろぐろと暮れると、彼方にともる灯が涼しく感じられる。「田が」とすることで、イメージがはっきりする。(高橋正子)

【入選Ⅰ/15句】
★黍の穂の揃い青空遠くなり/渋谷洋介
黍の穂が揃い、収穫にはまだ間があるにしても、重い実に頭を垂れる頃となったのでしょう。激しい夏の光に充ちた青空も、少しずつ遠く、深く広がるようになった気がします。(小西宏)

★潮騒に傾き咲ける浜万年青/池田多津子
潮騒を間近に聞く浜辺いっぱいに、浜木綿が並び咲いていることでしょう。茎と葉とのバランスの関係でしょうか、あるいは風のせいでしょうか、いくぶん傾き加減に咲くもののあることを、広やかな心で捉えておられます。(小西宏)

★かき氷崩す向うにひかる海/志賀泰次
あるいは海水浴の合間に、葦簀に囲われた椅子に座ってかき氷を食べているのかもしれません。少しずつ崩れていく氷に集中する目に、大きく光る海が映り込んできます。(小西宏)

★蓮咲く真上の空の遠きこと/竹内小代美
背高の蓮の群れに花が開き、葉から顔を覗かせるようにして咲く花のすぐ上には、遠く青い空がどこまでも続いています。清らかな花の色と、青い空の広がりとに、心が安らぎます。(小西宏)

★夕焼けて富士黒々と立ちあがる/尾 弦
夕焼けを背にしてなだらかな冨士の影がくっきりと映し出される。「黒々と立ちあがる」とはなんと雄雄しく、また清らかな表現でしょうか。(小西宏)

★一穴とおのれ残して蝉果てる/古田敬二
成虫として地上に生まれ、数日の生活を終え果てた蝉。蝉の一生の無常観は漂うものの、この世に生きた証しをしっかりと残し、一夏を生きた蝉の、大きな存在感を感じます。(藤田洋子)

★篝火の闇に紛れし鵜の哀れ/河野啓一
鵜船に灯す篝火の情緒豊かな鵜飼ですが、やや哀れさを誘う鵜の光景でもあります。闇に紛れる鵜の姿が、いっそう感傷的な風光として感じられます。(藤田洋子)

★蝉しぐれふと立ち止まる木陰かな/吉川豊子
沛然と驟雨が至ったように蝉声の降り注ぐ大きな木なのでしょう。蝉しぐれと木陰の出会いが、夏の強い日差しの中にもふと感じられる、嬉しい涼やかさです。(藤田洋子)

★羅臼湖の青光らせていととんぼ/丸山美知子
北海道、知床の美しく豊かに育まれた自然を思います。湖面の青も爽やかに、繊細ないととんぼが軽やかで眩しいかぎりです。(藤田洋子)

★飛び来ては風に留まる初とんぼ/桑本栄太郎
初々しいとんぼの姿に、吹く風も清々しく涼しげに感じます。目に映る初めてのとんぼに、明るい季節の喜びがあふれます。(藤田洋子)

★青田へと水路きらきら急き清し/甲斐ひさこ
夏の日のもとを勢いよく流れる水は、澱んだ川の水とは違う生きている水です。水も自分の役割を知っている、そんな実感が伝わってきます。(藤田荘二)

★打水の済みて家々灯の点る/大山正子
とても懐かしいほっとする光景です。昼から夕、外から内、付合いから団欒、打水という行為の意味まで考えさせられました。「灯の点る」が時間の穏やかな変化を言い表していると思いました。(藤田荘二)

★黒潮を望む岬や朝の凪/篠木 睦
夏の朝の風の止む瞬間、しかし沖からは黒潮の浪が押し寄せる。黒潮の流れに突き出た岬から太平洋に臨む大きな景色が目にうかびます。(藤田荘二)

★日焼の子集う空き地の紙芝居/國武光雄
肉声で語られる紙芝居はテレビやゲームとは違う独特の魅力を持っています。木陰で始まる紙芝居を楽しみに子どもたちが集まってきました。期待にわくわくしている子どもたちの姿が目に浮かぶようです。(多田有花)

★朝日差す木より蝉声溢れ出す/藤田洋子
朝日がじりじりと照りつける。すると蝉がと木から溢れるようにわんわんと鳴く。瀬戸内では、朝から照りつける太陽と蝉声に、熱闘野球ほどの暑さを知らされる。(高橋正子)

【入選Ⅱ/17句】
★青萱の道弓なりに曲がりけり/大西博
夏の暑さの中でも青萱の緑の葉が風にそよぎ涼しげで、その道はずっと続いて弓なりに曲がっている。スケールの大きい光景が目に浮かびました。 (井上治代)

★布袋草朝戸をくれば槽に花/祝恵子
清々しいけれど、しかし一日しか咲かない花を朝見つけた喜び、朝と布袋草が響きあってさわやかさを感じました。(藤田荘二)

★夕暮れの空に映えたる合歓の花/大給圭江子
合歓の花は昼の青い空だけでなく、夏の夕暮れの暑さ一入の風の無い空にも映えること、あらためて認識しました。花の色も夕暮れの空と響きあっているようです。(藤田荘二)

★音だけの花火ふたりの夕餉かな/小西 宏
遠くの空には色とりどりの花火が上がっているけれど、ふたりだけの夕餉にはその花火の音だけが聞こえてきて、静かで幸せな夜が更けていきます。 (井上治代)

★降りたちて初蝉仰ぐ妙法寺/川名ますみ
初蝉の鳴き声にひかれて寺に入り上を仰ぐと、今が自分の我が世とばかりに蝉が鳴いている。作者には、自分の命を精一杯生きている蝉の姿が愛おしく思えたのではないでしょうか。また、妙法寺という固有名詞がこの句にぴったり合っていると思いました。 (井上治代)

★水打ちてそこここ人の暮らしあり/前川音次
暑い夏を少しでも涼しく過ごそうと打ち水をします。あの家でもこの家でも、簾をしたり、風鈴をつるしたり、冷奴を食べたりして涼をとるための工夫をして生きています。人情味のある句だと思いました。 (井上治代)

★清流やおとりの鮎の泳がされ/奥田 稔
さらさらと流れている清らかな川に鮎が泳いでいる。鮎はおとりのために泳がされているとは知らず無心である。無心であることの美しさが心に響いてきました。 (井上治代)

★一山の雨をあやぶみ百合咲けり/小口泰與
やっと花開いたうつくしい百合の花に、山の雨の気配が迫ります。「あやぶみ」に、雨を受ける百合の花を気の毒に思う作者の気持ちを感じます。(臼井愛代)

★黄カンナの茜に燃えて暮れなずむ/堀佐夜子
暮れそうで暮れない夕暮れの、カンナの燃えるような茜色は、暑かった夏の一日を、さらに鮮やかに印象付けるかのようです。(臼井愛代)

★星空へ花火の煙溶けて行く/高橋秀之
花火の煙が星空に溶けていくという余韻のある情景が、花火の後に感じる一抹のさびしさを思い起こさせ、共感させられます。(臼井愛代)

★くみおきて水に木の香や冷奴/小河原宏子
汲み置かれた場所の木の香りの移った水から上げられた冷奴が、夏の食卓に涼味を添えてさわやかです。(臼井愛代)

★西空は水色朝の月涼し/井上治代
まだ月が残る夏の早朝の空の色を水色と詠まれ、その色のイメージからも、静かでひんやりとした空気が伝わってきます。(臼井愛代)

★ひんやりと日陰の風吹く長廊下/飯島治朗
学校の校舎でしょうか。意外に風通しがよく涼しいのです。夏休みで子どもたちの姿はなく、ひっそりとした校舎の中を風が抜けていきます。窓の外では蝉の声がさかんです。(多田有花)

★雨上がりひときわ高し蝉の声/上島祥子
夕立がいってしまったあと、さっそく蝉が鳴き始めました。一雨受けて涼しくなった大気に再び夏の活気が戻ります。蝉にとっては一刻もおしい夏の一日なのかもしれません。(多田有花)

★潮風に吹かれて望む夏岬/小川和子
岬の夏です。涼しげです。水平線が見え、寄せてくる波が見え、沖にたちあがる入道雲も見えます。景色の広がりが句から伝わってきます。(多田有花)

★炎天というも風の通る道/岩本康子
炎天に出る。暑さは極まっているが、風が吹き過ぎてゆく。炎暑のなかの風の心地よさは、暑に耐える人間に救いである。(高橋正子)

★外出日いま炎天下の人である/矢野文彦
外出日と決めた日程を、暑いからといって崩すわけにはいかない。炎天へ潔く出て、今は炎天下の人となった。「である」で止めた言い方に、強さがある。(高橋正子)