北東ロシアの基層 ~ウラジーミルの角~ その1

奥野さんの洞窟修道院ロシア歴史紀行アルバムカシモフ汗国の首都カシモフが、
かつてフィン系諸族の一つ、メシショーラの分布域にできた街ゴロデツ・メシショールスキーで
あったことを知り、意外な取り合わせに驚きました。

そんなこともあってしばらく北東ロシアの基層としてのフィン系諸族を追いかけているところです。

さて、北東ロシアと言えばずっと疑問だったのがタイトルにもある「ウラジーミルの角」です。
そういう用語があるわけでなく勝手に私がそう呼んでいるだけですが何を言っているかというと、これ
北東ロシアの雄、ウラジーミル=スーズダリ公国の形がベロ=オーゼロとウスチュグを角のように
北方へと伸ばしたものになっていることをそのように言ってます。
図は13世紀前半の状態ですね。

なんでそんなことが疑問だったのか。
ロシア北東部からウラル・西シベリア北部にかけての一帯は基本的にはノヴゴロド公国の
勢力下にあったわけですが、その交易ルートということでは私はずっとヴォログダからスホナ川を
下ってウスチュグを経由し、ヴィチェグダ川を遡ってペチョラ川に至るルートが主要交易ルートで
あり、ノヴゴロドもこれを使って北東部に進出していたものと単純に考えていました。

このルートをノヴゴロドが押さえていたところに、南からウラジーミル=スーズダリが進出をして
重要な拠点(ベロ=オーゼロとウスチュグ)を押さえてしまった。そのために交易ルートは
二つの勢力の間で分断されてしまった、というような過程を思い描いていたもので
「ウラジーミル=スーズダリがノヴゴロドの北東交易路をどのように寸断していったか」
すなわちウラジーミルの角がどう生えたのかが私のテーマの一つになっていたわけです。

ですが、ちろちろと調べてみる限りではフセヴォロドが11世紀にロストフ、スーズダリ、
ベロ=オーゼロを治めていて、キエフルーシの解体以前から既に一体であったことを
うかがわせます。

角は最初から生えていた。
それではどうしてノヴゴロドは北東部の広大な勢力圏を築けたのか?


異なる勢力下にあってもベロ=オーゼロを通過していたのか?関税は課されるけれど通れた、
という可能性も十分ありますが、やはり別の交易路がメインルートだったと考えるのが自然です。

一方でウラジーミル=スーズダリ勢力はなぜ最初からベロ=オーゼロを組み込んでいたのか、
なぜもう一本控えめな角=ウスチュグへの進出だけでそれ以上北東部へ進出
できなかったのか。
これらの疑問に応えるにはウラジーミル=スーズダリの地域構造を調べる必要がありそうです。
そしてそれは即ち後のモスクワ公国の発展の足跡を理解する上でも重要になる気がしています。
なにより、このウラジーミル=スーズダリの旧領域を苗床にして初期のモスクワ公国は成長したのですから。


さて、この領域の地域構造を探るために時計をスラブ系集団の進出前にまで巻き戻すと
以下の図の赤い領域、即ちフィン=ウゴル系集団のメリャの分布域が浮かんできます。

この領域はロシアの研究者レオンツェフ氏によるものですが、ごらんのようにロストフ、
ヤロスラヴリ、スーズダリ、ウラジーミルといった後の時代の中核地域に重なっています。

このメリャの分布域に最初にやってきたのはスウェーデン系の集団です。
最も早い時期に彼らが住み着くようになったのがロストフから南西、
ネロ湖に流れ込むサラ側沿いに位置するサルスコエ=ゴロディシシェでした。
既に8世紀頃には存在していたメリャの集落(もともとはメリャの中心的な集落であった
とも言われています)が9世紀初頭に交易の拠点として発展を遂げたものです。

その後9世紀後半にはヤロスラブリ周辺に3つの街(ティメリョヴォ、ペトロフスコエ、
ミハイロフスコエ)が作られます。特にティメリョヴォは930年代以降新たなスウェーデン系集団の
入植を受けて発展し、その面積は10haにも及ぶものになります(その1000基にものぼる墓蹟の
調査の結果、フィン=ウゴル系、スカンディナヴィア系、スラブ系が共存していたことが
明らかにされています)。

さらになんといってもメリャの分布域内で最も多くのスカンディナヴィア系住人が
集中していたのがプレシシェーエヴォ湖周辺(ペレスラヴリ=ザレスキー周辺)と
ネルリ川がクリャジマ川に合流する下流地域、即ちウラジーミルやスーズダリ地域です。

もっとも、同様にプレシシェーエヴォ湖周辺からウラジーミルにかけての一帯はメリャの遺跡の
密集地帯でもあるのでそれをなぞる様に入植してきたと考えられます。
この地域には8000基にも及ぶ墓蹟が見つかっています。

(今日はここまで。続きはその2で・・・(^^;;)
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