【未読の方はお読みにならないように】
ひと言で言えば、「経験していないこと」への、非-在へのノスタルジーにとり憑かれた男の物語とまとめることができるだろうか。同じ文章自体が幾度も反復され、同じイメージが二重に重ね合わされ、同じ行為が反復される。そして全体としては散文詩のような趣もある。
主な舞台は19世紀末の、南仏にあるとされる架空の町ラヴィルデューと「世界の果て」にある日本という架空の国。主人公エルヴェ・ジョンクールは「自分の人生に<立ち会う>ことに満足し、<それを生きる>野心はすべからく自分にはそぐわないと考える」青年だったが、町を養蚕で興したバルダミューによって「やるべき仕事」を発見させられる。この場合、「やるべき仕事」とは蚕の卵の買い付けのため、遠く海を越えて旅をすることだが、一方で青年はこの仕事を通じて、はじめて自らの意志で事を成そうとする。つまり人生を生きようとする。だが、それは何とも奇妙な情熱に駆られた人生でもあるだろう。
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