【時事(爺)放論】岳道茶房

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4/30編集手帳

2010年04月30日 | コラム
4/30編集手帳

 折り箱に稲荷ずしと巻きずしを詰めたものを「助六ずし」という。歌舞伎の『助六』に登場する遊女「揚巻」にちなんだ名と伝えられる。「揚げ」(油揚げ)と「巻き」(のり巻き)である。

 この演目が人々にどれほど親しまれてきたかがよく分かる。演じ分けのむずかしい揚巻を「女形の卒業論文」と評したのは劇評家の戸板康二さんだが、江戸歌舞伎の華・助六と卒論・揚巻、この二人ほど節目の舞台に似つかわしい役柄はないだろう。

 建て替えのために今月限りで取り壊される歌舞伎座が、団十郎の助六、玉三郎の揚巻でさよなら公演の幕を閉じた。きょうは閉場式という。

 助六や揚巻がいなくても人は生きていけるし、おかるや勘平がいなくても日々の暮らしに困りはしないが、彼らがいるおかげで世の中はほんの少し潤い、ほんの少し楽しい。伝統芸能とは、使いこむほどに使い心地の良くなる“心の加湿器”だろう。

 さよなら公演の盛況で歌舞伎ファンの裾野(すその)が広がったと聞く。鼻の穴へ屋形船ェ蹴込(けこ)むぞ――覚えたての助六の啖呵(たんか)を口ずさんでニヤリとしている若い人が、どこかにいるかも知れない。


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