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上海万博 中国の未来図を描け

2010年04月30日 | 社説
上海万博 中国の未来図を描け

 中国上海市で上海国際博覧会(上海万博)が5月1日開幕する。10月31日まで6カ月間に7000万人の入場者を想定している。40年前の大阪万博は約6500万人だった。それを若干上回る規模になりそうだ。

 中国政府にとって上海万博は、2008年の北京五輪、09年の建国60周年記念式典に続く3年目の国家行事である。

 前世紀の末、中国の高度成長が軌道に乗った。当時、政府のシンクタンクに集まった社会学者たちは08年からの数年間、中国社会のさまざまな指標、例えば貧富の格差、失業者、高齢化の進行などが一斉に危険水域に入ると予想した。高度成長経済が胸突き八丁に入る。それを乗り切るためのモデルにしたのが、日本の東京五輪と大阪万博だった。

 北京五輪を契機に都市建設ラッシュが始まった。そのおかげで、途中でリーマン・ショックに巻き込まれても、次の上海万博を名目に公共事業を前倒しして国内の景気を維持することができた。

 そもそも、1980年代にトウ小平氏が提起した「翻両番(ファンリャンファン)」(所得倍々増)という成長政策は、1960年に池田勇人首相が提唱した所得倍増論を採用したものである。その4年後の東京五輪は、敗戦で打ちのめされた日本人が、やっと高度成長で自信を回復したことを自ら確認するイベントだった。北京五輪でも中国人はテレビ画面を見つめるうちに、世界の大国としての地位を築いた自信を深めたことだろう。

 「人類の進歩と調和」がテーマの大阪万博の年には、「モーレツからビューティフルへ」が流行語になった。成長至上主義からの転機だった。今年、日本を抜いて世界第2位の国内総生産(GDP)大国となるだろう中国では、政府は「調和ある社会の建設」をスローガンにしている。

 中国は、日本の高度成長の道筋を、早回しの映画のような勢いでたどっている。なぜいま万博が中国で開かれるのか。その必然性を日本人は理解できる。「流血GDP」という言葉さえ生んだGDP至上主義でひた走ってきた中国人は、万博を機に中国という国の姿、形を、世界の国々のなかに置いて客観的に見るだろう。失ったもの、失ってはならないものに気づくだろう。それだけの自信と余裕が、いまの中国人には生まれたはずだ。国内だけではない。国際社会からも責任大国としての度量が求められている。

 その結果は、中国共産党の一党独裁体制にとって好ましくないかもしれない。だが社会主義というより開発独裁というほうがふさわしい今の体制はもう壁に直面している。上海万博で大きな未来図を描くときだ。

2010年4月30日 毎日新聞 社説


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