読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

今野敏「果断(隠蔽捜査2)」

2008-04-05 12:40:39 | 本の感想
 最近いろいろな本を読んで思うこともあったけど、一晩たつとみんな忘れてしまっている。やっぱりささいなことでもすぐに書き留めていた方がいいのだろうか。

 今野敏「果断」(新潮社)は「隠蔽捜査」の続きだ。前作の主人公、竜崎伸也が家族の不祥事による左遷人事で大森署の署長になっている。あいかわらすの変人ぶりで、公園落成式の祝賀パーティーも、地域PTAとの懇親会も「20人以上が出席する立食パーティー」ではないからと断ってしまう。「国家公務員倫理規程」によって、接待や金品の授受はもちろん、20人以上が出席する立食パーティー以外は出席を禁止されているからだ。そんなのを杓子定規に守ってる人いるのか?署長室のドアは開けたままにしておくし、立て籠もり事件が発生すれば現場に出て行く。本庁に縄張りを侵害されてふてくされた署員に対して 「ここはノウハウのある本庁のSIT(捜査一課特殊班)に任せる」と明言してその指揮下に入れる。ケチな縄張り意識よりも事件解決のために最善の方法を優先するのだ。
 そのような竜崎に対してまったく対照的な管理職も出てくる。緊急配備の犯人をこの管内で取り逃がし、本庁の捜査官が捕まえたということに腹を立てた方面本部の管理官が「面子を潰された」と怒鳴りこんでくる。竜崎は「誰が捕まえたって同じでしょう」「ここに怒鳴り込んでくる暇があったら、実行犯の残りの一人を発見することに努めたほうがいいのではありませんか」と正論を言う。原理原則を大事にするのだ。しかしその管理官は激怒、「全員を講堂に集めろ」と言う。「たるみきった大森署員全員に活を入れてやる」などと言うのだ。ああ、眼に浮かぶようだ。

 講堂に署員全員を集めて説教なんかしても成果が出るはずがない。むしろ仕事が中断して混乱を来たすし、現場の警察官は「こんなバカに怒鳴られる筋合いはない」とやる気をなくしてしまうに違いない。こんな中間管理職の官僚主義や過剰な精神主義のせいで組織がダメになってしまうのだと竜崎はがっくりしてこの管理官を、「幼なじみ」の伊丹刑事部長(キャリア)に追っ払ってもらう。このあたりの描写がなんだか「この紋どころが目に入らぬか!」という水戸黄門のノリで、ある種の優越感を読者に持たせるのがこの本の好評の原因かなあと思う。なんせ東大法学部出のキャリア官僚(階級は警視長)ですよ。あの管理官みたいに失敗の原因を分析したり反省して後につなげるのではなく「おまえが全部悪い」と部下に責任をなすりつけて感情的に怒鳴り散らし、それを「教育」と勘違いしているバカな中間管理職はそこいら中にいるんできっと身につまされる人も多いと思う。自分の仕事の本質を忘れて組織内でいかにうまくやっていくかということだけを考えているような人が組織をダメにするのだ。そして部下たちもこういう理不尽なことを強いられて反抗もできなければ事なかれ主義に陥ってしまうのは当然だ。きっと警察の隠蔽体質というのもそういうところからきているに違いない。
 
「犯罪は日々変化している。外国人の犯罪も増えているし、犯罪が若年化し、これまで日本では考えられなかったような犯罪に出っくわすこともある。テロの脅威も増していくだろう。警察がこれまでと同じでいいはずがない。犯罪が変わるのなら、警察も変わらなければならない。手強い犯罪に対する一番の武器は合理性だと、私は信じている。」
 
 「そうだ。原理原則を大切にすることだ。上の者の顔色をうかがうことが大切なんじゃない」

偉い!こういう人に官僚として出世してもらいたいと思うが、きっと実際には何かあったときにはスケープゴートにされて隅に追いやられてしまうんだろうなあ。

 実際、立て籠もり現場にSATが突入、犯人が死亡したときに弾切れであったことがマスコミに漏れて竜崎は窮地に立たされる。「丸腰」の人間を射殺したということで人権上問題だと非難されたのだ。
 竜崎はそのようなマスコミに対しても厳しい。言論の自由なんてただのお題目で、実際には他社を抜いて特ダネをものにして売ることしか考えてない。要するにただの商業主義だと思っている。しかし、なにか問題が起きたときに世間は「生贄」を必要とし、それを扇動するのがマスコミだ。それに対して警察の組織内では責任のなすりあいをする。
 捜査や取り締まりはきれい事では済まない。違法すれすれの捜査をしなければならないこともあれば、警察官同士、見てみぬふりをすることもある。
 ぎりぎりのところで仕事をしているからだ。そして、警察はマスコミとの接点が多いのでボロが出やすい。
 それを書き立てることが、権力に対抗することだと勘違いしているのだ。本来ならば、政治家や政治をチェックするべきなのだが、政治部の記者などは、いかに与党の議員や閣僚と親しく口をきけるかということに感心している。政局を書くことが仕事であり、つまりは政治の楽屋話ばかり探しているのだ。
 本当の権力には媚びへつらい、地道に働く公務員のあら探しをやる。それが今の新聞だ。

ほうほう、かなり頭にきていらっしゃるようです。私なんかいつも思うのは事件や事故があったとき、トップが責任とって辞めて、「はい禊が済んだ」みたいなのはなんなんだろうってことだ。問題の解決には全然なっていない。第一、本当にそのトップに責任があったのかどうか定かではない。そうやって問題の本質が明らかにならないままに組織だけが温存されて、むしろ有能で良心的な人材がはじき出されるのじゃないかって思うのだ。この小説では結局事件がひっくりかえってうまく終結した(しかも真相を突き止めたのは前作でも出てきた不良はみだし刑事)けど、実際にはこんなにうまくいくことって滅多とないよなあと思う。まあそりゃ娯楽小説ですからね。

 こういう竜崎みたいなタイプのヒーローってわりと珍しいかな。いやいやこれは「踊る大捜査線」に出てくる室井管理官のタイプだ。あのドラマの魅力の一つに、まるでロボットみたいな冷たくて知性的な警察官僚が、青島刑事の毒気、もとい情熱に当てられてだんだん人間的な感情を表すようになってくるってとこじゃないかな。こういうのって、こういうのって、なんか最近の言葉にあったような・・・・そうだ、確か「ツンデレ」というのだ。
 で、思い出したのはこれ。VOICE 「KY総理」のキャラ分析(1)/斎藤 環(精神科医)。最近のYAHOO!ってサービスいいのねー。
 福田首相は「ツンデレ執事」キャラなのか~。それでわかった。「たかじん」で福田さんと太田(述正)さんの写真が並んでからかわれていたのは、冷笑的な口癖が似てるからだ。ひねくれ者と言われてたけど。
 斎藤環氏は福田さんは「かなり萌キャラ」だと言っている。私もわりと根拠なく好感をもっていて、このあいだテレビで取り上げられたバレンタインとホワイトデーの記者とのやり取りなんか無条件に笑った。ホワイトデーを知らなくっても一向にかまいません。
 それで、私が思うに、太田さんはこのキャラ立ちを大いに利用すべきだと思う。いつもダークスーツに地味なネクタイをして沈着冷静でていねいな言葉遣い、ごく稀にのみ感情をあらわにしてキュートな振る舞いをすればきっとテレビ受けして女性ファンも増えるのではなかろうか。もっともそれで太田さんの意見が理解されて同調者が増えるかどうかはわからないけども。