うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
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ホープの前座だった世界タイトルマッチ

2009年12月30日 | ボクシング
◆WBA世界S・ウェルター級暫定タイトルマッチ12回戦(2009年12月29日 @大阪府立体育館)

石田順裕(王者・金沢) 12回判定 オネイ・バルデス(挑戦者同級15位・コロンビア)
※石田が暫定王座の初防衛に成功

〔写真は共同通信〕


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今年最後に国内で開催された世界戦。試合はダウンを奪った石田順裕(のぶひろ)が判定で圧勝でした。ただ、今回の初防衛戦を戦った石田は、通常の世界戦とは異なる経緯で世界王座を獲得しました。まず、石田は今年8月30日に、マルコ・アベンダーニョ(ベネズエラ)を判定で勝利して世界王座を獲得しました。しかし、石田が獲得したのは正規王座ではなく暫定王座です。

ちなみに、石田が暫定王座を獲得した時点の正規王者はダニエル・サントス(プエルトリコ)でした。ただ、サントスは怪我や病気や兵役ではないにもかかわらず、1年以上も試合を行ってませんでした。怪我や病気や兵役で正規王者が防衛戦を実施できない場合は暫定王座を設ける事が可能です。ただし、こういった正当な理由が無い場合、指名挑戦者との期限(WBAの場合は9ヶ月以内)以内に防衛戦を実施しないと、本来なら王座を剥奪されます。

しかし、WBAはサントスの王座を剥奪するどころか、暫定王座の決定戦まで実施させます。つまり、正規王者と暫定王者が並立することを意味します。しかも、その暫定王座決定戦に出場した石田の当時の世界ランキングは4位でアベンダーニョが5位。世界ランキングの上位同士ならともかく、中位のランカー同士(実際はかさ上げしてます)なのでこれでは正当性が疑われます。

更に言うと、両者は昨年9月にノンタイトルで対戦し、ダウンを奪われた石田がアベンダーニョを際どい判定(2-1)で辛勝。実際にリングで戦った石田には罪はありません。しかし、試合を組んだ関係者と統括団体は、無意味に暫定王座を乱発させて世界王座の権威を自ら貶めたので重大な責任があります。こういう、規律とモラルが皆無な行為こそが、世間のボクシング離れを加速させているのです。

また、今回の石田の初防衛戦はメインイベントではありません。なんと前座試合でした。世界戦(しかも防衛戦)が前座なのは極めて異例です。なお、この日の興行のメインを飾ったのは、ミニマム&Lフライ級の世界2階級制覇王者の井岡弘樹を叔父に持つ、井岡一翔でした。WBC世界ライトフライ級10位の国重隆(大阪帝拳)とのノンタイトル戦がメインカードでした。石田は井岡の高校の先輩に当たります。しかも、井岡はこの日が僅かデビュー3戦目でした(結果は井岡の判定勝利)。

更に付け加えると、この世界戦は地上波での放送はありませんでした(CS放送があったみたいです)。たしかに、石田は暫定王座を獲った経緯に問題はありますけど、いくらなんでもこういった冷遇は本当に気の毒です。暫定とはいえ、世界王者としてのプライドは相当傷つけられたと思いますね。


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ちなみに、今回と同様に、日本で開催された世界戦で前座に追いやられたケースは過去にあります。それは、今から17年前の1992年6月23日に両国国技館で行われたWBC世界フライ級タイトルマッチのムアンチャイ・キティカセムvs勇利アルバチャコフ(当時はユーリ海老原)戦です。旧ソ連からの輸入ボクサー、勇利は初の世界挑戦だったが、ロシア人の勇利の集客力に協栄ジムは疑問を持ってました。その不安を解消する為にこの世界戦を前座にします。そして、この日のメインイベントとしたのがハリウッド俳優のミッキー・ロークの試合でした。

会場の両国国技館には、いつもの観客とは違う若い女性やカップルがミッキー・ローク目当てに多数来場してました。また、一般のファンだけでなく、大勢の芸能人も来てました。ちなみにこの中には、のちに参議院議員となって行政刷新会議の事業仕分け作業で「世界一を目指す理由は何か。2位ではだめなのですか?」の発言で有名になったあの女性(当時はタレント)も、ミッキー・ローク目当てに会場に駆けつけてました。

前座だった勇利が挑んだ世界戦は、倒し倒されの好ファイトとなります。8回に勇利の右カウンターがムアンチャイの顎に直撃させ、王者は顔からキャンバスに沈みます。ムアンチャイがテンカウントを聞かされたと同時に、勇利は旧ソ連出身者初のプロの世界王者の栄光を掴みます。ボクシングを初めて観た女性ファンたちも、さすがにこの激闘には興奮し、声を上げて大歓声を贈ってました。ちなみに、あの女性タレントはこの試合を観て勇利のファンになり、同年10月に後楽園ホールで行われた陳潤彦(韓国)との初防衛戦には応援に駆けつけてます(いかにも俄かファンのように感じましたけどネ(笑))。

興奮が覚めやらずに行われた、メインイベントのミッキー・ロークvsダリル・ミラー戦。映画「ナインハーフ」の路線を地で行くかのように、ミッキー・ロークは豹柄のスケスケのシースルーのセクシー(?)なトランクスを履いたロークがリングに登場。会場は場違いな雰囲気で包まれます。対戦相手のダリル・ミラーは戦績どころか年齢も胡散臭く、公称ではミッキー・ロークと同じ38歳でしたが、一説には50歳とも言われてました(笑)。

そして、6回戦なのにメインイベントで行われた試合は、ある意味伝説的な試合でした。初回、ミッキー・ロークが左ジャブからダリル・ミラーの顔を上から下へなでるような右のパンチを出してミラーをダウンさせます。もがくミラーは立上がろうとするがこのまま蹲って1回2分8秒でKO負け。ハリウッドスターがワンパンチの圧勝劇でした。ミッキー・ロークが手首のスナップを利かせて(?)放った“猫パンチ”は、和泉元彌の“元彌チョップ”に匹敵するくらい、違った意味で衝撃的でした(爆)。

ちなみに、この日の勇利のファイトマネーは約200万円らしいです。一方、ミッキーロークは2分あまりのお遊びの試合でファイトマネーを1億3000万円もせしめました。母国よりもずっと温かい声援を送っていた日本のファンからも、さすがに失笑を買いました。



ミッキー・ロークの猫パンチが炸裂!!



話を元に戻しますと、WBAから1位の指名挑戦者ユーリ・フォアマン(ベラルーシ生まれ、イスラエル出身)との対戦を義務付けられたサントスは、11月14日にフォアマンに判定で敗れて王座が移動。これは石田にとっては“暫定”の2文字を取り外すチャンスでもあります。サントスのプロモーターのドン・キングなので、交渉が難しいと思われてました。一方、フォアマンを抱えるプロモーターはトップランク社の総帥のボブ・アラムなので、どちらかというとアラムの方がスムーズに交渉が進むのではと思われています。しかも、フォアマンはアラムに気に入られています。フォアマンが王座を奪った試合は、マニー・パッキャオvsミゲール・コット戦の前座なのも、それを物語ってます。

フォアマンのスケジュールによりますが、石田は上手くすればボクシングの本場・米国の地で統一戦を行える可能性もあります。しかも、パッキャオが現在計画中のフロイド・メイウェザー戦の前座としてです。同じ前座でも、今回の初防衛戦とは雲泥の差です。負けないスタイルのフォアマンを攻略するのは至難の業ですが、もし勝てば“暫定”の余計な2文字を取り外すだけでなく、富と名声を一挙に手に入れられるので、低い地位に甘んじている現状を打開できる大きなチャンスでもあります。ただ、パッキャオがドーピング問題でメイウェザー陣営を名誉毀損で訴える構えを見せているらしいので、一体どうなることやら・・・。



☆旧ソ連出身選手として初の世界王者となった勇利アルバチャコフ(1992年の年間最高試合)



☆勇利の素晴らしい激闘を見事に掻き消した、史上最低のメインイベント

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