うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

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金メダルが空位となったシドニー五輪陸上女子100m

2009年12月12日 | 陸上
国際オリンピック委員会(IOC)は9日、スイスのローザンヌで理事会を開き、ドーピング違反で失格したマリオン・ジョーンズ元選手(米国)からはく奪した2000年シドニー五輪陸上女子100メートルの金メダルを、2位だったエカテリニ・サヌ(ギリシャ)に繰り上げて授与しないことを決めた。
 サヌも04年アテネ五輪直前にドーピング違反で摘発されるなど疑惑が深い。3位選手は繰り上がり、銀メダリストが2人の異例の事態となるが、アダムス広報部長は「(サヌには)金メダルの栄誉を受ける資格がないと判断した」と説明した。ただ競技成績そのものは、管理する国際陸連によってサヌが1位に修正されるという。
 ジョーンズ元選手は200メートルの1位、走り幅跳びの3位も抹消されており、100メートルの金メダル以外は下位の選手がそれぞれ繰り上がる。100メートルで4位だったマーリーン・オッティ(当時ジャマイカ)は、五輪時に40歳の銅メダリストとなった。

〔共同通信 2009年12月10日の記事より〕

※写真の真ん中がマリオン・ジョーンズ、右がエカテリニ・サヌ


シドニー五輪の陸上の詳細の記録(wikiより)


                           *  *  *  *  *


スポーツの大会で、成績が確定した後に薬物使用などで失格処分を喰らった場合、通常は下の順位の選手が繰り上がるので、順位が変動します。例えば、陸上の男子ハンマー投げの室伏広治の場合、2004年アテネ五輪と2008年北京五輪の両大会とも、競技終了後に上位選手の薬物使用が発覚して失格処分を下された為、自身の順位が繰り上がりました。アテネ五輪では、当初1位だったアドリアン・アヌシュ(ハンガリー)がドーピング違反で失格となり、室伏のメダルの色が銀から金へと変わりました。北京五輪では、2位のワディム・デフヤトフスと3位のイワン・チホン(いずれもベラルーシ)の2人が、五輪終了4ヶ月後の2008年12月11日になってドーピング違反が発覚。結局、2人とも失格した為、当初5位だった室伏は3位に繰り上がり、銅メダルを獲得しました。

注)室伏の北京五輪の成績は、当初は2位ワディム・デフヤトフスキーと3位イワン・チホン(ともにベラルーシ)の2人が、禁止薬物の使用を理由に一旦はメダルが剥奪されたので、3位へと繰り上がりました。しかし、五輪から約2年後の2010年6月10日、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が検査不備を理由に2人への処分撤回を決定。逆に、当初繰上げされた室伏の銅メダルが取り消しにされて、最終的に元の5位に戻されました。

しかし、今回の2000年シドニー五輪の陸上女子100mのケースはいささか事情が異なります。このレースはマリオン・ジョーンズ(米国)が10秒75を叩き出し、圧倒的な強さを見せつけて優勝します。ところが、それから7年たった2007年10月、ジョーンズはシドニー五輪の前から薬物使用をしていたことを家族や友人に宛てた手紙で告白し、同時に引退表明。そして、ジョーンズは2000年9月以降の記録は全て抹消され、シドニー五輪で獲得した5個のメダル(100m・200m・4×400mリレーの金メダル3個、走り幅跳び・4×100mリレーの銅メダル2個)も米国五輪委員会に全て返還。ちなみに、銅メダルの4×100リレーは、ジョーンズの他に、クリスティ・ゲインズとトーリ・エドワーズの2人がのちに薬物違反が発覚してます。その後、ジョーンズは米国連邦政府のドーピングに関する聞き取り調査において偽証したことを問われて逮捕され、禁固6ヶ月の実刑判決を受けて服役となります。

ジョーンズの失格により、200mと走り幅跳びは順位を1つずつ繰り上げて成績が確定(リレーの成績は12月18日にスポーツ仲裁裁判所(CAS)にて決定)。しかし、100mで大きな問題が発生します。というのも、ジョーンズに次いで2位に入ったエカテリニ・サヌ(ギリシャ)にも薬物疑惑があったからです。しかも、サヌは地元開催の2004年のアテネ五輪では、疑惑の渦中にあったサヌの練習パートナーのコンスタンティノス・ケンテリス(ギリシャ)とともに、五輪開幕直前に国際オリンピック委員会(IOC)の検査を逃れる為にバイクで“事故”を起こします。結局、検査を回避した2人は五輪出場を辞退。その後、事故は自作自演だと分かり、2人のコーチだった人物も禁止薬物の所持が発覚。サヌは4年後の北京五輪の代表に選出されるものの、IOCは「信用失墜」を理由に参加を認めなかった経緯があります。

しかし、サヌ自身は検査逃れを何度もやってますが、薬物検査自体には失格したことがありません。なので、ジョーンズの失格による、繰上げの金メダル獲得の権利を有してました。だが、今回IOCはサヌにメダルを授与すると倫理上問題がある為、サヌを1位に繰り上げず、3位以下の選手を繰り上げる異例の措置を取りました。その為、優勝者が空位となり、サヌとタイナ・ローレンス(ジャマイカ)の2人が2位となる前代未聞の事態となりました。なお、この結果、「ブロンズコレクター」の有難くないあだ名を持つマリーン・オッティ(2002年にジャマイカからスロベニアに転籍)の順位も、当初の4位から3位に繰り上がり、またしても銅メダルが転がり込んできました(苦笑)。

シドニー五輪の陸上は、ジョーンズが出場した5種目以外にも、昨年8月にアントニオ・ペティグルー(米国)が薬物使用を証言して、男子4×400mリレーで米国チームが獲得した金メダルが剥奪されました(なお、繰上げ措置は行われず、優勝チームは空位のまま)。その為、リレーメンバーだったマイケル・ジョンソンのメダルも剥奪されました。結局、この大会の男女全46種目中6種目が、大会終了してから数年経って薬物事件でメダル剥奪される異常事態が起きた事になります。今回の出来事は決して笑い話ではなく、陸上界のみならずスポーツ界全体が、いかに薬物が蔓延している事を物語っている出来事でもあります。

余談ですが、服役していたジョーンズは9月に出所しました。元々、ジョーンズは学生時代にバスケットの優秀な選手だったこともあり、近々米女子プロバスケットボール(WNBA)を目指すとのこと。果たして全てを失ったジョーンズの今後は一体どうなるのやら・・・


〔追記〕
①12月14日、国際陸連(IAAF)はシドニー五輪女子100mの公式記録を正式に修正。マリオン・ジョーンズ(米国)は失格と記載し、エカテリニ・サヌ(ギリシャ)を2位から1位とするなど、2位以下の選手の順位を繰り上げました。ただし、国際オリンピック委員会(IOC)はサヌの繰上げを認めておらず、金メダルは空位のままなので、IAAFの公式記録には「IOCの決定でサヌには金メダルを与えられないが、銀メダルを保持する」との注釈を記録に付記しました。
今回のIAAFの決定はIOCの決定に反する判断なので、今後サヌ陣営がこれを根拠に金メダル授与を求めて、IOCに対して法的措置を取る可能性があるとの事です。

②ジョーンズが出場したリレーに関しては、当初は女子4×100mリレーと女子4×400mリレーの2種目とも、2007年12月にドーピング違反により全てのメダルが剥奪され、2008年4月には米国女子リレーチームも全員失格となりました。だが、その後2010年7月16日に、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が「当時の規定では失格に出来ない」と裁定し、米国女子チームが出場したリレー2種目の成績は全て有効に。2種目とも、ジョーンズ以外の出場メンバー3人のメダル剥奪は撤回されました。

③2012年7月21日、国際オリンピック委員会(IOC)は、男子4×400mで優勝した米国チームのメンバーだったアントニオ・ペティグルーの薬物違反で失格となったことを理由に、当初2位だったナイジェリアに金メダルを与えることを発表(ちなみに、ペティグルーは2010年8月10日に睡眠薬の過剰摂取によって自殺)。同じく3位だったジャマイカが銀メダル、4位だったバハマが銅メダルに繰り上がりました。




☆勝者無き最速女王決定戦(2000年9月23日 @シドニー/スタジアム・オーストラリア)

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