うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
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男子ハンマー投げの室伏広治が悲願の世界選手権初優勝!!

2011年08月31日 | 陸上
陸上の世界選手権は29日、当地で男子ハンマー投げ決勝を行い、日本の室伏広治が81メートル24で優勝した。
室伏は過去2大会で銀、銅メダルを獲得していたが、世界選手権での金メダルは初めて。五輪では2004年のアテネ大会で金メダルに輝いている。

〔ロイター 2011年8月30日の記事より 写真も〕

今大会の男子ハンマー投げの詳細の記録(wikiより)


                           *  *  *  *  *


韓国の大邸で開催されている第13回世界陸上選手権。大会3日目の8月29日は、男子ハンマー投げの決勝が当地の夜に行われました。結果はご存知の通り、室伏広治が81m24㎝の記録を出して、世界選手権で悲願の初優勝を飾りました。予選を首位通過した室伏は、決勝では1回目から最終の6回目まで一度も首位の座を明け渡すことなく、終始試合を優勢に展開。最終の6回目こそ、2位のクリスチャン・パルシュ(ハンガリー)に6㎝に差まで詰め寄られますが、室伏は決勝の6投全てが今季シーズンベスト(78m10cm)を上回る投擲だったので、文字通りの完勝でした。しかも、そのうち4投が80m越えだったから、見事としか言いようがないです。観客席でいつも冷静に息子を見つめる“アジアの鉄人”と称された父・重信氏が、5投目で再び81m24㎝を出して珍しくガッツポーズをしていたのが印象的でした。

近年の室伏は、長年の勤続疲労で体調が決して万全ではなく、練習量を落とすだけでなく、試合数も絞って戦わざるを得ない状態でした。一昨年は世界選手権ベルリン大会、昨年は広州アジア大会の両大会は欠場を余儀なくされました。伝えられた話によると、室伏は練習方法を大幅に見直し、量より質に拘ったそうです。回転運動のハンマー投げは、競技の特性上、どうしても体の半分ばかりに負荷が掛かります。室伏の場合だと反時計回りなので、右半身に筋力が偏ってバランスが崩れてしまい、持病の腰痛や股関節痛の要因だと言われてます。肉体を矯正する為に、紐を使って体幹を鍛える「赤ちゃんトレーニング」という、斬新というより、かなり地味なトレーニングを繰り返して、体を鍛え直したそうです。自分と素直に向き合って、弛まぬ努力と進取の精神が、再び彼を世界の頂点に立たせたのでしょう。

今大会を制した室伏は、五輪と世界選手権の同一種目で金メダルを獲得するという、日本陸上界初の快挙を達成しました(なお、両大会の制覇は世界では史上5人目です)。ちなみに、女子マラソンの野口みずきは、五輪では2004年アテネ五輪で優勝してますが、世界選手権では2003年パリ大会で準優勝です。しかも、36歳325日での金メダル獲得は世界選手権の最年長記録を樹立するおまけつきでした。それにしても、室伏は日本選手団を救ってくれたと思います。なにせ、土曜日に行われた女子マラソンが完敗を喫したので、今大会の日本勢は1995年イェーテボリ大会以来16年ぶりにメダルゼロとなる危機があったからです。室伏の大活躍のおかげで、男子やり投げの村上幸史にも大いに刺激を与えることになるでしょう。

そして何より、室伏が優勝して本当に嬉しいのは、クリーンな選手が勝ったことです。投擲種目の中では小柄な部類に入る室伏は、父とともに長年の努力と研究で技術を磨き上げて、正々堂々と世界に挑んできました。しかし、この種目の選手の中には、不正手段(つまり禁止薬物の使用)に頼る輩が残念ながらおります。過去に2度、室伏は不埒者の犠牲となりました。2004年アテネ五輪では、アドリアン・アヌシュ(ハンガリー)のドーピング違反による失格で、競技終了時点で2位だった室伏は繰上げで金メダルを獲得するも、後味の悪い結末でした。更に2008年北京五輪では、2位ワディム・デフヤトフスキーと3位イワン・チホン(ともにベラルーシ)の2人が、禁止薬物の使用を理由にメダルが一旦剥奪されながらも、五輪から2年後の昨年6月にスポーツ仲裁裁判所(CAS)が検査不備を理由に2人の処分を取り消し、当初繰上げされた室伏の銅メダルが取り消しにされて、最終的に5位にされたことがあります。それだけに、競技場で金メダルを授与されるのは、本当に感慨一入でしょう。

室伏は今回の優勝でロンドン五輪代表の内定が決まりました。父は38歳で日本記録を更新し、40歳でアジア大会5連覇の偉業を成し遂げました。37歳で4度目の五輪を迎える息子には、再び五輪で栄冠を勝ち取ることを心から期待したいです。


▼アテネ五輪で繰り上げで金メダルを獲得が決まった時の記者会見で、室伏は金メダルの裏に刻まれている古代ギリシャの詩の訳文を自筆で書いた紙を記者団に配りました。それがこちらです。

真実の母 オリンピアよ
あなたの子どもたちが競技で
勝利を勝ち得たとき
永遠の栄誉を与えよ
それを証明できるのは
真実の母 オリンピア


(古代詩人 ピンダロス)



☆男子ハンマー投げ決勝のダイジェスト(2011年8月29日 @韓国・大邸/大邸スタジアム)

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2 コメント

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まさしく快挙ですね (こーじ)
2011-09-01 23:56:38
 始まる前は近年のコンディションなども考慮して入賞できればいいかなぐらいでしたけど、
予選を一発通過したのでメダル争いに加われるか?という予想でしたから嬉しい誤算です。

 やはり薬なしで80mスローの連発は難しいのでしょうね。

 それを考えると室伏の技術力の高さが分かりますし、その技術力を生かすためのコンディション作りへの気遣いがしのばれますね。

 清水宏保が自分の肉体と会話するといわれてましたけど、室伏もそれができるのでしょうね。

 自分の肉体と会話しながらコンディションを維持できる選手が1人でも多く出て欲しいものですよ。

‘ケガをするぐらい練習しないとダメ’などと
恥ずかしげもなく言う輩ばかりの日本‘実業団’野球界の連中に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいですよ。
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2011-09-02 22:09:23
こんばんは、こーじさん

陸上の世界記録(&アジア記録)は1980年代に出された記録が今でも現存します。
その大半が旧共産圏の選手や中国の選手ばかりです。
要するに、どう考えても薬物に頼って作ったと考えるのが妥当です。

中でも、投擲種目は薬物使用している選手が多いと言われてます。
投擲種目の存在意義が問われているからこそ、室伏のようなクリーンな選手が勝つことに大きな意味と価値があります。
室伏は小柄な体格でありながらも、日頃の節制と弛まぬ努力と飽くなき探究心で、長年に渡って世界のトップクラスを維持してきた本物のアスリートなので、今回の完勝劇は本当に嬉しいですね。

今回の優勝で来年のロンドン五輪の代表が内定して調整しやすくなったので、是非とも今回の再現を期待したいですね。
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