【衝撃事件の核心】捜査情報漏洩、きっかけは残念会
2018年10月15日 9時31分
産経新聞
風俗店に関する捜査情報を漏洩(ろうえい)する見返りに飲食接待を受けたとして大阪府警の警察官と、接待したとして府警OBで行政書士事務所の職員だった男が逮捕された汚職事件。
捜査の対象となっている風俗店や本格捜査の着手時期といった重要な捜査情報を漏らした警察官2人は、懲戒免職処分となった。10月に大阪地裁で開かれた3人の公判で判明した籠絡の手口は、OBの男が昇任試験に落ちた後輩らを「残念会」名目の飲み会に誘って大阪・北新地のキャバクラで「接待」するというものだった。
昇任試験の「残念会」
今回の事件で贈賄などの罪に問われたのは、元府警巡査長で、風俗店の許認可申請を代行する行政書士事務所の職員だった阿田(あだ)裕俊被告(33)。加重収賄などの罪に問われたのは、府警曽根崎署生活安全課の元巡査長、篠原渉被告(35)と、府警生活安全特捜隊の元巡査長、小野勇気被告(34)の2人だ。
起訴状などによると、阿田被告は平成29年9月~今年1月、篠原被告と小野被告に捜査対象の店名や時期を漏らすようそそのかし、大阪市内のキャバクラなどで計約41万6千円相当の接待をしたとされる。
検察側の冒頭陳述や被告人質問などによると、3人が顔をそろえたのは29年9月15日。昇任試験に落ちた2人のための「残念会」という名目で阿田被告が主催した飲み会だった。
この席で、阿田被告が「何をやってるの」「どこをやっているの」などと捜査に関する質問を繰り返し、篠原被告が具体的な地名などを挙げて答えるというやりとりがあった。
会話を聞いていた小野被告は、「(阿田被告が)風俗店側と癒着しているのでは」との疑念を抱いたが、それは一瞬のこと。「尊敬する先輩だから大丈夫だろう」と受け止めた。
2軒目は阿田被告の誘いで大阪・北新地のキャバクラへ。この日の支払いは全て阿田被告が持った。
捜査情報を漏洩
「残念会」では、捜査情報を漏らすことはなかった小野被告。ところが、キャバクラ接待から2カ月半後の12月1日、酒席の場で、阿田被告から「いい加減分かってるやろ。当直の時に、捜査書類を見てくれ」と迫られた。阿田被告にこれまでの飲食接待を公にされたら「警察官人生は終わる」との思いが頭をよぎった。
12月15日の当直勤務の際にも、阿田被告から「見たのか」と電話で催促され、「逃げられない」と観念。捜査対象となっている店の名前や強制捜査の時期を伝えた。さらに、今年1月にも、逮捕予定者の氏名などを教えたという。
検察側の被告人質問に、小野被告は「(情報漏洩を)してはいけないと分かっていたが、警察官としての地位や家族の生活のことを考えると、逃げられなかった」と振り返り、「はっきり断ればよかった」と後悔を口にした。
篠原被告も29年9月から12月にかけて、阿田被告に捜査情報を漏らした。
「仕事ができ、後輩の面倒見がよかった」阿田被告を信用していたといい、「利用されているとは思わなかった」と語った。
「気を許したのかも」
自身を慕っていた後輩らをそそのかし、捜査情報を得ていた阿田被告。現職の時は押しが強く、後輩の面倒見のよいタイプだったとされる。だが、知人女性とのトラブルが原因で減給の懲戒処分を受け、27年に府警を退職した。
翌年、風俗店の許認可申請を代行していた行政書士事務所に再就職。元警察官としての捜査経験があり「業者と対等に話せる」という強みを生かして、申請書類の作成や提出といった業務をこなしながら、個人的に無料案内所の経営者の顧問も務めていた。
行政書士から、顧客に関する警察の捜査状況について情報を集めるよう依頼され、現職の警察官を接待して捜査情報を入手しようと決意したという。
被告人質問では、「後輩におごって贈賄になるとは思っていなかった。そこまで事が大きくなるとは」と語った阿田被告。2人が捜査情報を漏らした理由を尋ねられると「もともと知っている仲で、僕がいろいろな情報を持っていて、『何でも知っている』と思って気を許したのかもしれない」と答えた。
判決言い渡しは11月
検察側は論告で、小野、篠原両被告が漏らした捜査情報は「捜査対象の風俗店名や関係者の氏名で、捜査対象者が証拠を隠滅したり逃亡を企てたりするのに役立つ情報」と指摘。情報は阿田被告を通じて捜査対象者に伝わり、強制捜査に踏み切る前に無料案内所が廃止届を出す「弊害もあった」などとして小野被告に懲役2年6月、追徴金約18万円を求刑した。
篠原被告については「高級キャバクラなどでの接待を期待する自堕落な動機によって、警察への信頼を失墜させた」などとして、懲役2年6月、追徴金約23万円を求刑した。
贈賄側の阿田被告に対しては「警察の上下関係の厳しさを悪用した」と述べた上で、「行政書士や顧客の依頼に応え、自身の実績を上げようとした犯行」と指弾。懲役2年を求刑した。
判決はいずれも11月16日に言い渡される。
2018年10月15日 9時31分
産経新聞
風俗店に関する捜査情報を漏洩(ろうえい)する見返りに飲食接待を受けたとして大阪府警の警察官と、接待したとして府警OBで行政書士事務所の職員だった男が逮捕された汚職事件。
捜査の対象となっている風俗店や本格捜査の着手時期といった重要な捜査情報を漏らした警察官2人は、懲戒免職処分となった。10月に大阪地裁で開かれた3人の公判で判明した籠絡の手口は、OBの男が昇任試験に落ちた後輩らを「残念会」名目の飲み会に誘って大阪・北新地のキャバクラで「接待」するというものだった。
昇任試験の「残念会」
今回の事件で贈賄などの罪に問われたのは、元府警巡査長で、風俗店の許認可申請を代行する行政書士事務所の職員だった阿田(あだ)裕俊被告(33)。加重収賄などの罪に問われたのは、府警曽根崎署生活安全課の元巡査長、篠原渉被告(35)と、府警生活安全特捜隊の元巡査長、小野勇気被告(34)の2人だ。
起訴状などによると、阿田被告は平成29年9月~今年1月、篠原被告と小野被告に捜査対象の店名や時期を漏らすようそそのかし、大阪市内のキャバクラなどで計約41万6千円相当の接待をしたとされる。
検察側の冒頭陳述や被告人質問などによると、3人が顔をそろえたのは29年9月15日。昇任試験に落ちた2人のための「残念会」という名目で阿田被告が主催した飲み会だった。
この席で、阿田被告が「何をやってるの」「どこをやっているの」などと捜査に関する質問を繰り返し、篠原被告が具体的な地名などを挙げて答えるというやりとりがあった。
会話を聞いていた小野被告は、「(阿田被告が)風俗店側と癒着しているのでは」との疑念を抱いたが、それは一瞬のこと。「尊敬する先輩だから大丈夫だろう」と受け止めた。
2軒目は阿田被告の誘いで大阪・北新地のキャバクラへ。この日の支払いは全て阿田被告が持った。
捜査情報を漏洩
「残念会」では、捜査情報を漏らすことはなかった小野被告。ところが、キャバクラ接待から2カ月半後の12月1日、酒席の場で、阿田被告から「いい加減分かってるやろ。当直の時に、捜査書類を見てくれ」と迫られた。阿田被告にこれまでの飲食接待を公にされたら「警察官人生は終わる」との思いが頭をよぎった。
12月15日の当直勤務の際にも、阿田被告から「見たのか」と電話で催促され、「逃げられない」と観念。捜査対象となっている店の名前や強制捜査の時期を伝えた。さらに、今年1月にも、逮捕予定者の氏名などを教えたという。
検察側の被告人質問に、小野被告は「(情報漏洩を)してはいけないと分かっていたが、警察官としての地位や家族の生活のことを考えると、逃げられなかった」と振り返り、「はっきり断ればよかった」と後悔を口にした。
篠原被告も29年9月から12月にかけて、阿田被告に捜査情報を漏らした。
「仕事ができ、後輩の面倒見がよかった」阿田被告を信用していたといい、「利用されているとは思わなかった」と語った。
「気を許したのかも」
自身を慕っていた後輩らをそそのかし、捜査情報を得ていた阿田被告。現職の時は押しが強く、後輩の面倒見のよいタイプだったとされる。だが、知人女性とのトラブルが原因で減給の懲戒処分を受け、27年に府警を退職した。
翌年、風俗店の許認可申請を代行していた行政書士事務所に再就職。元警察官としての捜査経験があり「業者と対等に話せる」という強みを生かして、申請書類の作成や提出といった業務をこなしながら、個人的に無料案内所の経営者の顧問も務めていた。
行政書士から、顧客に関する警察の捜査状況について情報を集めるよう依頼され、現職の警察官を接待して捜査情報を入手しようと決意したという。
被告人質問では、「後輩におごって贈賄になるとは思っていなかった。そこまで事が大きくなるとは」と語った阿田被告。2人が捜査情報を漏らした理由を尋ねられると「もともと知っている仲で、僕がいろいろな情報を持っていて、『何でも知っている』と思って気を許したのかもしれない」と答えた。
判決言い渡しは11月
検察側は論告で、小野、篠原両被告が漏らした捜査情報は「捜査対象の風俗店名や関係者の氏名で、捜査対象者が証拠を隠滅したり逃亡を企てたりするのに役立つ情報」と指摘。情報は阿田被告を通じて捜査対象者に伝わり、強制捜査に踏み切る前に無料案内所が廃止届を出す「弊害もあった」などとして小野被告に懲役2年6月、追徴金約18万円を求刑した。
篠原被告については「高級キャバクラなどでの接待を期待する自堕落な動機によって、警察への信頼を失墜させた」などとして、懲役2年6月、追徴金約23万円を求刑した。
贈賄側の阿田被告に対しては「警察の上下関係の厳しさを悪用した」と述べた上で、「行政書士や顧客の依頼に応え、自身の実績を上げようとした犯行」と指弾。懲役2年を求刑した。
判決はいずれも11月16日に言い渡される。