プーチンの思うつぼ? 北方領土「最終決着」の落とし穴
ニューズウィーク日本版 10月21日(金)10時30分配信
ロシアのプーチン大統領の12月来日を前に、北方領土問題の落としどころについて論議がにぎやかだ。やれ歯舞、色丹の2つだけでいい、やれ国後、択捉は共同開発ができれば十分等々、「捕らぬたぬき」そのものだ。
日本を取り巻く大国間の力関係、そして日ロの国内情勢をよく見るならば、領土問題を今すぐ最終解決できないことは、誰でも分かる。だからと言って島を放り出したり、ロシアと敵対したりしてはいけない。大事なのは、領土問題を「時効」に持ち込ませないこと、そして対ロ関係で日本のためになるものは活用することを肝に銘じつつ、前向きに付き合っていくことだ。
「おそロシア」とか言って食わず嫌いの日本人が多いロシアは、日本のすぐ隣のヨーロッパだ。成田から飛行機で2時間強のウラジオストクは日に日に整備され、生活も落ち着いている。
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日ロ両国にとって関係増進はプラスとなる。ロシアは人口わずか600万強の極東部の経済を強化し、東北部だけでも人口1億以上を抱える中国に席巻されるのを防ぐことができる。日本も対ロ関係を良くしておけば、ロシアが中国と束になってかかってくるのを防げる。
日本はよく、「腹に一物持ったままでは本当の友人にはなれない」という人間関係の原則を国と国の関係にも適用する。ロシアと友好関係を結ぶためには「小さな島のことなど忘れろ」とまで言う人がいる。しかし、国と国の関係は人間関係とは違う。「腹に一物持ったまま手を握る」のは、古今東西当たり前のこと。中央アジアなどでは、友好国同士、今でも国境の画定交渉を延々と続けている。
日本が北方領土返還要求を捨てずとも、ロシアは日本との友好関係を対中カードとして使えるし、中国より払いのいい日本に石油やガスを輸出したがっている。日本が国後、択捉を諦めたところで、ロシアはいつも日本の肩を持つわけでもない。
「対米自主路線」の矛盾
「日本は戦後、歯舞、色丹の返還だけでソ連と平和条約を結ぼうとした。だが日ソ友好を警戒したアメリカが日本に国後、択捉も要求させた。冷戦後の今、アメリカの圧力はもはやない」という議論がある。これは対米自主路線に見えてそうではない。自国領の返還を要求するのに、アメリカの意思を忖度するなど、対米依存の骨頂だ。
国後、択捉は19世紀半ばに日ロが国交を樹立した際に日本領と認められた。それ以来、1945年のソ連軍占領や47年の日本人住民の強制追放まで一貫して日本の実効支配の下にあった。日本はアメリカに言われたからではなく、自分のものだから返還要求をしているのだ。自国の領土を安易に譲る国家は世界で相手にされない。日本の場合、尖閣諸島、竹島だけでなく、沖縄にさえ手を伸ばしてくる国が出てくるだろう。
領土問題は、常に「交渉を進めている」状態に維持しておく必要がある。でないと、相手の実効支配を黙認した格好になり、法的に不利になる。ロシア本土でインフラなどを両国が50対50の負担で建設したりして、ロシアをいつも引き付けておくことも必要だ。
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共同開発するにしても、ロシアの実効支配を認めるべきではない。起こり得る刑事・民事上の係争をロシアの官憲がロシア法で裁くのをのんではいけないし、開発に当たっては日本人旧島民の地権も考えねばならない。
「最初に歯舞、色丹返還。次に国後、択捉の返還交渉」という2段階論は非現実的だ。ロシアは歯舞、色丹返還で最終決着だ、と主張するだろう。プーチン政権は、日本が考えるほど世界で孤立もしておらず、経済が崩壊間際でもないので、手ごわい。
安倍政権は民進党内の足並みが乱れている今、「領土問題での成果」がなくても総選挙を打てる。12月のプーチン訪日で重要なのは、領土問題の最終的解決を焦ることなく、「日ロ関係と領土問題解決を前向きに進めていく枠組み」をしっかり、じっくり合意することだろう。
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