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医者を本気にさせる患者と「その家族」 医者も人間、あなたは適当に

2015-01-29 17:22:51 | 珍事件・事故・その他・コラム
医者を本気にさせる患者と「その家族」 医者も人間、あなたは適当にあしらわれていませんか 

2015年1月29日 6時0分

現代ビジネス

他の人よりいい治療をしてほしい-そう思っても、思っているだけでは「普通の患者」。手抜きをされている可能性だってある。医者に全力を尽くしてもらうには、患者や家族にも「技」が必要なのだ。
■「お任せします」はダメ

「適当にあしらう患者」「普通に診る患者」「本気を出す患者」-多くの医者は、心の中で患者を3つに分類しているという。

これまで、がん患者2000人以上の相談に乗ってきた友愛記念病院の平岩正樹医師はこう話す。

「表向き『すべての患者さんに全力を尽くす』と医者は言いますが、それはウソです。全患者に全力を注いだら身が持ちません。もちろん患者や家族にはわからないように接しますが、実際のところ、医者は患者を分けているのです」

患者や家族にとって、主治医は一人。一方、医者にとって患者は数多くいる「客」の一人にすぎない。その患者たちを平等に扱うことなど不可能だ。医療の現場には、知られざる「患者格差」が生じている。自分が患者やその家族の立場になったとき、どうすればいいのだろうか。

「食事など生活改善の指導をしているのに守っていない患者は、検査の数値を見ればすぐにわかります。それなのに『減塩しました』なんて言われると、舌打ちしたくなりますね」

都内の大学病院に勤務する糖尿病専門医はこう話す。医者は口にこそ出さないが、患者のウソなど一瞬で見破っている。そんな患者に全力を尽くそうと思う医者はいない。

「決めつける患者や家族」というのも手抜きをされる条件の一つである。

「よくあるのは、『頭が痛いからCTを撮ってほしい』などと、検査方法を指定してくる人です。どの検査が必要か判断するのはプロである医者の仕事ですから、内心イラっとします」(神奈川県の総合病院・脳神経外科医)

検査だけでなく、治療法まで決めつけてくる患者や家族は、なおさら敬遠される。都立広尾病院外科部長の安野正道医師はこう話す。

「最近はインターネットで病気の情報を仕入れる人が多いですが、信頼に足らないものもある。自分の病気に対する不安の気持ちは理解できますが、医者の話を聞き入れず、自分で調べた情報にしつこくこだわる方には、ひと肌脱ごうという思いは薄れてしまいますね」

一口に医者と言っても、中にはヤブ医者だっているので、医者に対する不信感を抱く気持ちもわかる。だが、聞く耳を持たない患者を説得するのは医者にとっては面倒なだけ。そんな患者は「適当にあしらう患者」の枠に入れられてしまう。

かといって、自らの病気や治療法について知ろうとせず、医者にすべて丸投げするのも良くない。

「病気について理解しようとしない患者や家族から、『お任せします』と言われると医者はやりにくいんです。何かあったときに文句を言われるのではないかと恐れてしまう。医者任せにする人ほど、治療が進んでから『こんなはずじゃなかった』と責任を追及してくる可能性が高いからです」

『医者に手抜きされて死なないための患者力』の著者で、医療ジャーナリストの増田美加氏はこう指摘する。「すべてお任せします」という言葉は、医者にとっては「治療がうまくいかなかったら訴えるぞ」という警告に聞こえてしまうのだ。

この場合、医者は適当にあしらうことはないが、学会で定められた標準的な治療をするしかなくなる。万が一、何かが起こった場合でも「標準治療をやった結果です」と説明できるからだ。つまり、「お任せします」と言った時点で、医者は本気を出さなくなる。
■「医者の話を録音」はアリか

標準治療がいいと言っても、人間の身体は千差万別。前出の平岩医師は、「手間暇をかけて患者一人ひとりに合った細かなフォローをすれば、確実に治療効果は上がります」と断言する。医者が全力を尽くして時間と労力をかけてこそ、その人に合った「最高の医療」は実現する。

では、自分や家族が患者になったとき、医者を本気にさせて最高の治療を受けるにはどんな方法があるか。まずは、東京都に住む坪井達昭さん(仮名・62歳)の例を見てみよう。

坪井さんは、昨年人間ドックで心臓に異常が見つかった。ドックを受けたクリニックで紹介状を書いてもらい、大学病院を受診。現在の症状などをまとめて書いたものを医師に渡し、そのうえで精密検査を受けた。

「その結果、ペースメーカーを入れる手術を受けたほうがいいと言われた。専門的な知識がなくて不安だったので、レコーダーを持参して先生の説明を録音させてもらいました。その後、自分なりに勉強して、次の診察のとき、訊きたいことをメモに書いて持っていきました」

坪井さんが知りたかったのは以下の3点だ。仕事は何日くらい休むことになるか、術後はこれまでと変わらない生活を送れるか、他に治療法の選択肢はないのか。その質問をぶつけると、医師は丁寧に答えてくれた。結果、最初に提案された手術を受け、予定より早く退院し、仕事に復帰。いまは、心臓の手術を受けたとは思えないほど元気に過ごしている。

坪井さんは「本気を出す患者」の枠に入ったようだ。彼の行動には、医者が力を尽くそうと思うポイントが四つ含まれている。

まず一つ目は、最初に受診したクリニックで紹介状を書いてもらったことだ。よく言われることだが、どんなメリットがあるのか。

「患者を紹介されるのは、要は自分が評価されて指名されているということですから、期待を裏切ってはいけないと気合が入ります。知らない医師からの紹介でも、良い結果が出ればまた患者を送ってもらえるチャンスだし、何か不手際があれば自分の評価が下がることになりますから」(都内大学病院・心臓外科医)

直接病院へ行っても診察はしてもらえるが、紹介状があるのとないのとでは、医者が感じるプレッシャーは大きく違うのである。

二つ目のポイントは、症状などをまとめたレポートを用意したこと。これは、患者本人が意思表示できなければ、家族が作るのも有効だ。東京慈恵会医科大学附属病院ペインクリニック診療部長・北原雅樹医師は、次のように話す。

「症状の経過や、何をどうしてほしいのかということをA4で1枚程度に書いてきてくれると非常にありがたいですね。外来では多くの人を診るので、医者は、限られた時間の中で効率よく患者さんのことを知りたいのです」

「患者とその家族には、プレゼン力が重要」と北原医師は言う。仕事でも、短時間で要点を押さえて話をする人は、周囲の評価も高いはず。それと同じだ。自分だけはゆっくり話を聞いてもらいたいと粘るのは逆効果。患者や同席する家族は、医者と貴重な時間をシェアしている、という意識を持ったほうがいい。

三つ目は、医師の説明をレコーダーで録音したこと。医者に嫌がられそうな行為だが、患者の真剣さが伝わって好印象だという。

「自分の腕に自信がある医者なら、録音は嫌がりません。説明したのに、覚えていなくて同じことを訊かれるよりずっといい。『きちんと理解するために録っておきたい』と言われれば、こちらも気持ちが引き締まります。熱心な人とそうでない人では、医者の対応はまったく違ってくるでしょうね」(前出・平岩医師)

そして四つ目のポイントは、質問メモを用意しておいたことだ。これは、前述した「プレゼン力」と同じ。このとき医者の本気度を上げるためには、いくつかコツがあるという。前出の増田氏がアドバイスする。

「質問は優先順にA4サイズ程度の紙1枚に書き、メモを医者に見せながら話をしてください。そうすることで、『この患者(あるいは家族)は今日これを聞きたいのだな』とわかるので医者は安心するんです。そして、質問の数は多くて5つまで。診療時間内に5つ以上のことを丁寧に答えるのは難しいです」
■家族が泣いても時間のムダ

最高の治療をしてほしいと望んでも、そう思っているだけでは意味がない。

「医者は頼まれもしないことはやりません。標準治療以上のことをして何かあったら、責任を取らなくてはいけませんから。希望するなら患者やその家族が熱意をもって伝えるべきです」

そう話す前出の平岩医師は、ある患者に出会ったとき「この人のためにはどんな努力も惜しまずにやろう」と決意したという。進行子宮がんを患った大阪在住の60代の女性だった。

「その方は大阪で治療をしていたのですが、そこで『もう治療法がない』と言われ、娘さんと小さなお孫さんと一緒に私のいる病院(茨城県)へ来たんです。大阪での仕事だけはなんとか続けたくて、そのためなら何でもやるとおっしゃった。子供を抱いた娘さんからも『どうか母を助けてください』と頭を下げられました。

私は、彼女のために治療計画を立てました。そのときの病状に合わせて数週間続けて治療し、落ち着いたら大阪に帰るという方法です。1年以上続く見込みだったので、こちらで入院する間、娘さんはホテルを借り、お孫さんが通う幼稚園まで病院の近くで探して、患者さんを支えていました。その姿を見ていたら、何としても願いを叶えてあげたいとの思いが日に日に強くなっていきました」

大阪の病院で「治療法がない」と宣告されてから3年。彼女は希望どおり、亡くなる間際まで仕事を続け、家族に見守られながら穏やかに息を引き取った。「治療をしていなければ数ヵ月の命だった」と平岩医師は振り返る。

医者を本気にさせるには、患者だけではなく家族の行動も重要となる。医者と面会する際は、家族はできる限り同席したほうがいい。医者も家族の顔や様子がわかれば、「患者だけでなく家族のためにも頑張らなければ」と思うからだ。

とくに脳卒中などで本人が意思表示できない病状の場合は、家族のふるまいが病気の予後を左右するといっても過言ではない。前出の脳神経外科医は、こう打ち明ける。

「脳卒中など突然発症した病気の場合、ご家族も動揺されて当たり前ですが、号泣されても、なだめるのに時間がかかって何も情報が得られなければ、正直なところ面倒です。逆に、大変な状態でも気丈にふるまわれるご家族には、真剣に対応しようと思います」

この医師は、1年前、脳梗塞を発症して意識を失った夫に付き添ってきた50代の女性が強く印象に残っているという。

「奥さんは動揺で声が震えていましたが、倒れる前の状況や病状と時間の経過をメモに書き出しながら、必死に説明してくれました。

数日後、状況が落ち着いてから『10分でいいのでお時間をいただけませんか』と言われ、旦那さんの病歴や生活習慣、仕事の内容などを細かに記したノートを渡されました。『主人は仕事だけは続けたいと言うと思います。なんとかパソコンが使えるようにしてあげたい。そのためにできるリハビリを教えてください』と。頭の下がる思いでした」

忙しい医者の状況を考慮しながらも、治療を全力で支えたいという思いを伝える。その姿勢に、医者とリハビリ担当スタッフは真剣にならざるを得なかった。

家族の場合とくに、「自分がでしゃばっても忙しい医者に迷惑がかかるのでは」と遠慮してしまいがちだが、その必要はまったくない。

「医者と患者、その家族は対等な関係です。『患者の状態を改善する』という同じゴールを目指す仲間だと考えてほしいですね。医者は患者の病状を良くするのが仕事なのですから、患者の情報はできるだけほしい。患者の趣味や家族構成、性格なども、治療に有益な情報になることもありますから」(前出・北原医師)

ただし、地位や知識をひけらかすと逆効果になる。

「よく『自分の親戚は医者だ』などと威圧してくる患者や家族がいます。その場合、何か手落ちがあれば突っ込まれるので慎重にならざるを得ませんが、型通りの対応しかできず、効果があるとは言えません。『だったらその医者に診てもらえよ』と思いますし、こっちも気分は悪くなります」(都内の大学病院・消化器内科医)
■医者がグッとくる一言

ちなみに、医者にカネを包むのは意味があるのか。現在は謝礼を受け取らないと公表している病院がほとんどだが、都内の某私立病院の外科医は内情を明かす。

「謝礼の有無で治療の質が変わることはありえません。でも勤務医は仕事の厳しさの割に給料が低い。受け取ってはいけないことになっていても、誰にも知られずに渡されれば、受け取る医者も少なくない。カネを受け取れば、当然、対応も丁寧になるでしょうね……」

重い病気の場合、元の健康な身体を取り戻せないケースも多い。そんな場合でも、患者や家族のふるまいが医者の対応を変える。前出の平岩医師が語る。

「希望する何かを得るために何かを失う覚悟がある。そんな患者や家族に医者は心を奪われます。

甲状腺の未分化がんという非常に進行が早く悪性度の高いがんを患った男性もそんな一人でした。大阪に住んでいたのですが、自分がいかに厳しい状況なのかもわかっていて、私のところへ来たとき、『がんの思い通りにはなりたくない。治療のために、すべてを整理してきました』とおっしゃった。仕事もすべて片づけて辞め、家族も茨城に移住する決意だ、と。『先生、一緒に闘ってください』。そう言われて、断れる医者がいるでしょうか。

でも、患者の希望を実現するには、医者だって自分の時間や体力を削って力を尽くさねばいけない。お互い腹を括らねば実現できないのです」

毎日が真剣勝負。現在も治療を続けているという。

医者を本気にさせる人には、共通点がある。それは、医者を一人の人間として見ているということだ。東京ベイ・浦安市川医療センターのハートセンター長、渡辺弘之医師はこう話す。

「医者という肩書はあっても、所詮は人間。人間的に魅力のある患者さんには会うのが楽しみになりますし、本気で力になりたいと思います。すると、杓子定規ではない付き合いができ、信頼関係から治療がうまくいくことも多いのです」

医者は病気を治す職業、と割り切って接していないだろうか。

「そう思われていると、医者もさみしい。自分のことを一人の人間として見てくれる患者は好きになるんです。本来は医者が患者の体調を気づかうべきなのに『先生、最近お疲れのようですが大丈夫?』なんて言われたり、感謝の言葉をかけられたら、ぐっときてしまいますね。命がけの闘いをするのですから、医者と患者の関係を超えてもっと仲良くなる努力をするべき。そうすれば、道は開けるんです」(前出・平岩医師)

病気を治すプロである医者を本気にさせるには、患者も家族も、治してもらうプロにならなければいけない。紹介してきたような「コツ」とちょっとした心がけがあれば、あなたにもできるはずだ。

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