中2虐待自殺 また見逃されたSOS…担任に虐待告白も「様子見」
産経新聞 10月30日(木)7時55分配信
学校では明るく人気者だった中学2年の男子生徒は、継父による度重なる暴力と暴言に追い詰められ、自ら命を絶った。学校側は虐待の事実を把握していたが、児童相談所に通告するなどの適切な対策を怠り、最悪の結果を招いた。SOSはまたも見逃された。
▼「息が臭い」マスク強要
7月29日午後、東京都西東京市の都営アパートの一室。長男の由衣翔君が村山彰容疑者のいる部屋の入り口に立てかけられたふすまを2度、動かした。「ふすまを動かすな」。村山容疑者は注意したが、返事をしなかったことに激高。胸のあたりを足で蹴り上げた。
さらに由衣翔君の襟首をつかんで無理やり立たせ、拳で顔面を複数回、殴りつけた。両目は腫れ上がり、唇から出血。そしてこう吐き捨てた。「24時間以内に首でもつって死んでくれ」
翌30日早朝、母親(39)が部屋をのぞくと、由衣翔君は放心状態でベッドに腰掛けていた。母親の問いかけに「大丈夫」と短く答えたが、約3時間後、母親が室内で首をつった状態の由衣翔君を発見した。
村山容疑者は119番通報しようとする母親を「捕まる準備をするから待て」と止め、約50分後に自分で通報。この間に救命措置などはしていなかった。
一家は母親と次男を含む4人暮らしで、平成24年3月に母親が村山容疑者と結婚し、同居を開始した。母親は「同居当初から暴行が始まった」と説明。25年4月に中学校に進学して以降、しつけと称した虐待が激しくなったという。
司法解剖の結果、由衣翔君の全身には数十カ所のあざがあった。また「息が臭いから食事の時以外はマスクをしろ」と強要。由衣翔君は肉体と精神の両面で追い詰められていった。
▼児相通告せず「様子見」
それでも由衣翔君はSOSを発していた。昨年11月と今年4月、担任教諭が由衣翔君の顔のあざに気付き、「父親から殴られた」と打ち明けられた。児童虐待防止法では、教職員が虐待を受けたと思われる児童を発見した場合、児相などへの通告を義務づけている。だが会議で出された結論は「様子見」だった。
6月13日には、虐待の発覚を恐れた村山容疑者が「精神的な問題で学校を休ませる」と学校側に連絡。さらに同月末には自力で歩けなくなるほど強く足を蹴り、休学期間はさらに延びた。学校側は再三にわたり家庭訪問を要求したが、村山容疑者は「長男は祖母宅にいる」と拒否した。
テニス部に所属し、明るく、よく冗談を言うムードメーカーで人気者だったという由衣翔君。校長は「明るい様子に報告の判断が鈍った。適切な対応をしていれば事件は防げていたかもしれない」と唇をかむ。
児童虐待問題に詳しい花園大の津崎哲郎特任教授(児童福祉論)は「学校での様子が明るくても、実際には無理をしていたり、学校だけが唯一の救いの場で明るく振る舞っていたりするケースもある」と指摘。「表面的な行動からは家庭の実態は読めず、虐待の可能性が少しでもあればすぐに児相に報告するなど学校側は緊張感を持って子供に接すべきだ」と話した。