それでも永山則夫が好きだ(スピンオフ)

「ねっとわあく死刑廃止」や、無期懲役囚で「とらえなおし」で知られる飯田博久さんや、小松川事件の李珍宇のことを書いたり色々

『沈黙の声』第38号(その3)(91年9月1日発行)「死刑廃止運動と死刑囚」

2017-01-30 18:20:21 | 会報『沈黙の声』(その3)

(その2)から続く

 

三、’89年のたたかい

'89年末の『沈黙の声』第35号は、「流れが変わった!」と、見出しをかかげた。しかし当時、表面的にはまだ、そう言いうる状況の変化はなかった。むしろ「'89年」という年は、死刑廃止運動にとって大変な年であった。 

'89年の前半、相次ぐ幼女の失踪事件がマスコミによって大きくクローズアップされた。'88年8月の事件は、この年2月、被害者宅に『幼女の遺骨』と思わせる骨片の入ったダンボール箱が届けられ、事件の「凶悪さ」を印象づけた。 (この骨片は、東京歯科大学鈴木教授の鑑定により「別人のもの」と判断されたが、直後鈴木教授は、「別人とする根拠がなくなった」と不可解な撤回をおこなった。同時に「今田勇子」名の声明文が届き、「骨 片」は明確な鑑定なしに「本人のもの」と され、事件は「殺人事件」と断定された。) 

更に、6月6日東京都江東区で失踪した幼女の遺体とされた手足を切断された胴体が、11日に埼玉県下の宮沢湖霊園で「発見」。埼玉県下で続けて発生した三件の失踪ないし殺人事件(疑いなく本人の遺体だと思われるのは一件のみ)とあわせて「四件の連続殺人」との心証が与えられ、8月、別件逮捕拘留中の「M君」が、それらを次々と「自供」したとして、未曾有の大キャンペーンが行なわれたのである。 (四件のうち二件は類似点があり、同一犯 人によると思われるが、いずれもM君によ るとするには矛盾がありすぎる。検察側冒頭陳述自体に矛盾がある。幼児への誘拐、 殺人事件はまだ続いているのに、M君を「 犯人」として社会的に血祭りにあげること で、何かが解決したかのような錯覚を生じ ている現状はどうであろうか。

【事件】にたいする多くの疑問点については、「M君裁判を考える会」編のパンフ  『M君は真犯人か?』を参照。三百円。) 

 

この「凶悪事件キャンペーン」と同時期の6月、法務省と総理府は『死刑にかんする世論調査』を行なっていたが、それは

①凶悪事件は増えていると思うか

②死刑をなくすと悪質な犯罪が増えると思うか

③どんな場合でも死刑を廃止しようという意見に賛成か

という「悪質」な誘導尋問によって行なわれ、死刑賛成66.5%という「数字」をはじき出していた。

この結果は国連で死刑廃止条約が審議される12月に公表された。 

朝日新聞の連載漫画『フジ三太郎』(サトウサンペイ)は、4月6日、一。凶悪事件キャンペーン」に迎合して死刑廃止運動をけなす漫画を掲載、法相後藤正夫(当時)は、8月、本件逮捕前のM君を「死刑くらいではおさまらない」と公言した。官民一体となった、「凶悪事件を理由とする死刑存続」キャンペーンが展開されたのである。 (この'89年9月に、『沈黙の声』第34号は、『今こそ死刑廃止の声を』と訴えている。―われわれは、悲惨な事件を「他人事」とせず、死者を〈生〉かしたいからこそ、加害者を抹殺することですべてを精算する死刑に反対するのだ。・・・死刑廃止運動が、ほんとうに、生き生きとした軽やかなものとなるのは、実はそのような、人間の共生の実践と、確信によってであって、死者に向きあうという運動の〈重さ〉を回避することによってではないのではなかろうか。(第34号1頁))

同時に、前天皇の病状悪化以来止まっていた「死刑確定ラッシュ」が再び開始され、秋以降五件の死刑事件で最高裁弁論ないし判決が相次いだ。

'89年後半は、死刑廃止運動からの、これらへの反撃がなされた。「幼女連続殺人事件」を考える集会がさまざまな部分によって取り組まれ、11月23日の麦の会東京定例会主催の集会は、「M君裁判を考える会」発足の起点となった。最高裁の相次ぐ死刑事件審理、判決に対しては、麦の会、死刑廃止の会を中心に、連続行動がとりくまれた。他方、前年からのマスコミによる天皇報道、「幼女連統殺人事件」報道への批判、内部からの反省がおこり、各社が犯罪報道での「呼び捨て」を廃止した。アムネスティは米国から被害者家族を招いて各地でこの年二度目の死刑廃止キャンペーンを行ない、運動の巾を大きく広げた。  

『流れが、かわった!』というのは、9月の死刑廃止運動全国合宿(神戸)の成功から、12月国連の死刑廃止条約採択までの期間の、運動のこれらの動きのなかに、たしかな手応えをつかんだからだった。ち年以来、抗し続けてきた「死刑強化」の強力な流れが、わずかに「よどみ」始めたな、という感触だった。

(その4)へ続く 

 

 

 



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