【AFP=時事】旧ソ連の歴史で最も暗い時代とされる「レニングラード(Leningrad)包囲戦」を題材にしたコメディー映画が、ロシアの世論を二分している――「冒涜(ぼうとく)的」か、それとも現代ロシア的に解釈した必見の作品なのか?
問題となっている映画『Prazdnik(休暇)』は、ナチス・ドイツ(Nazi)に包囲されたレニングラード(現サンクトペテルブルク、St. Petersburg)で、共産党とのコネのおかげでぜいたくな暮らしを送っているボスクレセンスキー(Voskresensky)一家を描いている。
1日のパンの配給量は1人当たりわずか125グラムで、約80万人が飢え死にした時代だ。だが、ボスクレセンスキー家は、山積みにされたチキンとシャンパンで1942年の新年を祝っている。物語は、子どもたちが予期せぬ客を家に連れてきたところから喜劇に変わる。ボスクレセンスキー一家は、なぜ、自分たちの食卓にはごちそうが並んでいるのか説明に四苦八苦する。
アレクセイ・クラソフスキー(Alexei Krasovsky)監督はAFPの取材に、この作品はレニングラード包囲戦を軽視しているわけではなく、現代のロシアにもこのような不平等と不正が横行していることに警鐘を鳴らすため制作したと、説明した。
クラソフスキー監督は、政治家から批判を受けたため、文化省への配給許可申請を断念し、オンラインで公開することにした。
「この主題を選んだのは現代も、包囲されて生きているようなものだからだ。私たちはそれを見て見ぬふりをしているだけだ」と監督は語る。「生活水準がどんなに下がっているか、オンラインでシェアしたものや平和的な抗議活動に参加しただけで逮捕される。だが、私たちは目をそらす」
昨年10月にレニングラード包囲戦を舞台とするコメディーが公開予定だということが報じられると、議論が沸き起こった。
与党「統一ロシア(United Russia)党」のセルゲイ・ボヤルスキー(Sergei Boyarsky)議員は、作品の発想は「冒涜的」だとし、なんとしても阻止すると発言した。また、同じく統一ロシア党に所属するアンドレイ・トゥルチャク(Andrey Turchak)氏は、文化省に対しこの作品の上映を止めるよう訴えた。
文化省は繊細な話題を取り上げている映画をブラックリストに入れている。例えば、英コメディー映画『スターリンの葬送狂騒曲(The Death of Stalin)』は昨年、攻撃的な「過激派」の映画だとして上映禁止となった。
昨年12月、米グーグル(Google)が運営する動画投稿サイト、ユーチューブ(YouTube)は、クラソフスキー監督のアカウントから『休暇』を説明なく削除したが、数時間後には復活した。この件に関しグーグルにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
2016年に公開されたクラソフスキー監督の前作『The Collector(借金取り)』は、全国公開され、いくつかの賞も受賞した。
民間資金を集めて低予算で制作された『休暇』は、1月3日にインターネット上で公開されたが、これまでに100万人以上が視聴している。
第2次世界大戦中約2000万人の死者をだしたレニングラード包囲戦(1941~44年)は、ロシアでは今なお極めて微妙な問題だ。この戦いは、当局によってまるで聖域のように祭り上げられている。
包囲を生き延びた人々はAFPの取材に、この作品がレニングラード包囲戦を扱っていることに恐ろしさを感じたと語る。88歳のリディア・イリンスカヤ(Lidia Ilyinskaya)さんは、「包囲戦についてのコメディーなんて、想像もできない」と話した。
包囲戦に関する研究を行っているサンクトペテルブルクの欧州大学(Saint Petersburg European University)ニキータ・ロマジン(Nikita Lomagin)氏(歴史学)は、この作品には「いくつか歴史上の矛盾」が含まれていると指摘する。
「レニングラード包囲戦の時代、食料配給にヒエラルキーがあったのは確かだ」とロマジン氏。「だが、この題材には問題の複雑さを考慮した適正な分析が必要であり、このように安易に扱ってはいけない」
だが、クラソフスキー監督は、これは時代劇ではないと主張する。「これは、過酷な時代に、他の人たちよりも良い暮らしをしていた人たちの物語だ」
「ロシアにはそのような人がいたし、今もいる。残念ながら今後も存在し続けるだろう。それを変えたくて、この映画を撮った」【翻訳編集】 AFPBB News