漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

○ 能説房の事

2009年08月25日 | ものがたり
きのうの続き。

先日、紹介した「江戸元禄の酒」の説明書きには、

「現代の造りと比較して、
 仕込水は半分程しか使用せず、濃厚で琥珀色になるのが特徴です。」ともある。

濃厚な上、
アルコール度数もやや高めなこともあって、
小売店で「水で薄め調整し売る」と云うことが行われたようです。

当時の事とて、法律の規制はないから、
そこで、きのうの落語のような笑い話が、案外、現実にあったのでしょう。

酒を薄める話と云えば
少し時代が遡るが、「沙石集」にこんな話がある。

尚、沙石集は、
鎌倉時代の坊さんが書いた物でなので、ここでの酒は濁(にご)り酒。

又、以下の文中、
「嵯峨(さが)」は地名、京都の嵯峨。

「徳人(とくにん)」は、金持ち、資産家。

「布施(ふせ)」は、坊さんなどに喜捨する金品、
ここでは、仏事の際、坊さんに謝礼として渡すおカネや品物。
  
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「能説房の事」

嵯峨に能説房と云う説教師あり、
随分と弁舌の立つ僧なりけり。

隣りに酒造家にて徳人の尼公(にこう)ありけり、

能説房、きわめての愛酒家にて、
布施に受けたる物を持ち行きて酒を買い、ひたすらに飲みけり。

ある時はツケで飲み、後に布施いできたれば返しけり。

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「尼公(にこう)」は、
普通、尼となった貴婦人を敬って云う言葉だが、
ここでは、資産家の夫の死後、尼となった女性のことかと思う。

尼と云っても、頭を剃りあげている分けでなく、
長い髪を肩辺りで切って短くしたぐらいか、

今なら普通の長さだが、
当時はそれでも髪を下ろした事になったようですから。

従って、ここでの「尼公」は、
近所にある大家の、
「尼姿となった後家さん」ぐらいのつもりで読めばよいかと思う。

さて、酒好きの坊さんと、資産家の後家さんの話、続きはまたあした。




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