きのうの続き。
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瀬名殿申されるに、
「国に帰りたき時には、行きたまえ。
心許した者に背(そむ)かれるなら、我が不徳、
我が一命に知行を添え、
勝頼公へ差し上げ申すまでの事にてそうろう。
少しも苦しからざるに、行きたくば行きたまえ」と仰せければ、
喜平治も申す、
「瀬名殿のお情を忘れ申して落ち行くならば、
我が身の恥はさておき、
三河徳川家の恥となる事にて候(そうろう)」と申す。
ただ、心の内には、
「前の如くに、
縄懸けられたるままならば、
如何にしてでも縄を抜け、逃げる思案もする処なれども、
瀬名殿に情かけられ、
縄を解かれ申しては、無闇に逃ぐる事もならず。
これでは却って、瀬名殿に、
縄の上にも縄をかけられたる心地にてそうろう」と、思いける処へ
「屋形(勝頼)よりの御意に候えば、
預けおいた生け捕りに縄をかけて渡したまえ」とて参りければ、
喜平治、心の内に思いけるは、
「さて、うれしや、
この程は、瀬名殿より空縛りと云う物に逢いつるが、
これにて命永らえけるぞ」と思いける処に、
瀬名殿仰せけるは、
「この間、逃げる気配もなく過ごされたに、
『渡し候え』との仰せ、
当惑すれども、是非には及ばず」と仰せられて渡し給えば、
喜平治もその名を得たる者なれば、
おどろく気色もなく、一礼して行きける。
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上記の「名を得たる」は、
武者として知られていること、武勇の誉れが高いこと。
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瀬名殿申されるに、
「国に帰りたき時には、行きたまえ。
心許した者に背(そむ)かれるなら、我が不徳、
我が一命に知行を添え、
勝頼公へ差し上げ申すまでの事にてそうろう。
少しも苦しからざるに、行きたくば行きたまえ」と仰せければ、
喜平治も申す、
「瀬名殿のお情を忘れ申して落ち行くならば、
我が身の恥はさておき、
三河徳川家の恥となる事にて候(そうろう)」と申す。
ただ、心の内には、
「前の如くに、
縄懸けられたるままならば、
如何にしてでも縄を抜け、逃げる思案もする処なれども、
瀬名殿に情かけられ、
縄を解かれ申しては、無闇に逃ぐる事もならず。
これでは却って、瀬名殿に、
縄の上にも縄をかけられたる心地にてそうろう」と、思いける処へ
「屋形(勝頼)よりの御意に候えば、
預けおいた生け捕りに縄をかけて渡したまえ」とて参りければ、
喜平治、心の内に思いけるは、
「さて、うれしや、
この程は、瀬名殿より空縛りと云う物に逢いつるが、
これにて命永らえけるぞ」と思いける処に、
瀬名殿仰せけるは、
「この間、逃げる気配もなく過ごされたに、
『渡し候え』との仰せ、
当惑すれども、是非には及ばず」と仰せられて渡し給えば、
喜平治もその名を得たる者なれば、
おどろく気色もなく、一礼して行きける。
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上記の「名を得たる」は、
武者として知られていること、武勇の誉れが高いこと。