漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

○池田喜平治の事 ⑤

2010年03月09日 | Weblog
きのうの続き。
   
  ~~~~~~~~~~~~

瀬名殿申されるに、

「国に帰りたき時には、行きたまえ。
 心許した者に背(そむ)かれるなら、我が不徳、

 我が一命に知行を添え、
 勝頼公へ差し上げ申すまでの事にてそうろう。

 少しも苦しからざるに、行きたくば行きたまえ」と仰せければ、

喜平治も申す、

「瀬名殿のお情を忘れ申して落ち行くならば、
 我が身の恥はさておき、
 三河徳川家の恥となる事にて候(そうろう)」と申す。

ただ、心の内には、

「前の如くに、
 縄懸けられたるままならば、
 如何にしてでも縄を抜け、逃げる思案もする処なれども、

 瀬名殿に情かけられ、
 縄を解かれ申しては、無闇に逃ぐる事もならず。

 これでは却って、瀬名殿に、
 縄の上にも縄をかけられたる心地にてそうろう」と、思いける処へ

「屋形(勝頼)よりの御意に候えば、
 預けおいた生け捕りに縄をかけて渡したまえ」とて参りければ、

喜平治、心の内に思いけるは、

「さて、うれしや、
 この程は、瀬名殿より空縛りと云う物に逢いつるが、
 これにて命永らえけるぞ」と思いける処に、

瀬名殿仰せけるは、

「この間、逃げる気配もなく過ごされたに、
 『渡し候え』との仰せ、
 当惑すれども、是非には及ばず」と仰せられて渡し給えば、

喜平治もその名を得たる者なれば、
おどろく気色もなく、一礼して行きける。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~

上記の「名を得たる」は、
 武者として知られていること、武勇の誉れが高いこと。






コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。