【馬鹿の太郎作・その④】
「ワアワアと騒ぎながら子供たちが追いつきました。
「ぜぇぜぇ」と息を切らせながらお婆さんもやって来ました。
そのうちに村人たちも集まりだし、
太郎作の家の前は人だかりで一杯になりました。
ふうふう言ってた太郎作も、
おおぜいの村人たちに囲まれて、どうしたらいいのか分かりません。
あれ、でも、侍はまだ来てません。
あ、来ました、来ました、
ぴょこたん、ぴょこたんと、ビッコをひきひきやって来ました。
カンカンに怒って、びしょぬれのまま刀を抜きました。
「わしを川に落としたヤツはだれだ!、
馬をビックリさせて足の骨を折ったヤツはだれだ!」
怒った侍が刀を振り上げたまま、
荷車の前へ回りましたが、だれもいません。
騒ぎにおどろいて家から出て来たおっ嬶あをつかまえ、侍が何か怒鳴っています。
「アー、まずいことになったぞ」太郎作は、ほんとうに困ってしまいました。
でもその時気がつきました、
「そうだナマズに頼めばいいんだ」、
さっそく太郎作は赤いナマズを呼びます。
「ナマズよナマズ、真っ赤なナマズ」。
するとまた、どこやらから返事がします。
「どーれ、なんだ、また太郎作か、今度は何の用だ」
「もう荷車を元に戻して欲しいんだ」
「戻すって、荷車をまた動かして山へ戻すのか」
「いいや、そうじゃなくて、
荷車が動き出す前に戻して欲しいんだ」
「何だ、そんなことか、お安い御用」
赤いナマズの声ががそう云うと、柴をいっぱい積んだ荷車がぱっと消えました。
侍も子供たちもお婆さんの姿も消えました。
騒ぎが消えてしまったので、
集まって来た村人たちも何がなんだか分からないまま帰って行きます。
気が付くと、太郎作は山の中に居ます、
目の前には、柴をいっぱいに積んだ荷車があります。
「やれやれ」、
太郎作は大きな溜め息をつくと、
今度は「ヨイショ、ヨイショ」と荷車をひき始めました。
山道を下っていくと、川のそばでお婆さんが洗濯をしています。
道では子供たちが竹馬で遊んでいます。
太郎作は、お婆さんの後をそろそろと通り過ぎ、
子供たちには「危ないぞ」と声を掛けながらゆっくりと通り過ぎます。
橋の向うから、威張った侍が馬に乗ってやって来ました、
太郎作は荷車を端に寄せ、侍が馬に乗ったまま通れるように道をあけます。
やっと家に着き、柴を下ろしていると、おっ父うが帰って来ました。
おっ嬶あがニコニコしながらおっ父うに言いました。
「きょうの太郎作は偉かったぞ、
水も汲んだし、柴も山のようにしたんだぞ」
それを聞いておっ父うもニコニコしながら、
みやげに買ってきた大きなあめ玉を出して太郎作にくれました。
それから、おっ父うもおっ嬶あも、
そして太郎作も、みんなニコニコしながら晩ご飯を食べました。
そしてこのはなしは、これでオシマイです。
え、それからの太郎作はどうしたって、?
もう赤いナマズへの願いごとは三回使ってしまって、
効かなくなったので、
それからの太郎作は、
マジメによく働くようになって、家族みんなで幸せに暮らしました。
え、なんだつまんないって、?
そうだよ、世の中はつまんないぐらいがちょうどいいんだよ。