(きのうの続き)。
奥の方に唐人の宿りて遊ぶところへ乱れ入りて、 (唐人→とうじん→交易目的の中国人)
屏風を蹴倒し、
唐人の前に、片膝高くかかげ、どうとばかりに座り込みたり。
唐人、驚き恐れ、
「はんかい乱れ入りたり、
はんかい来たる、ゆるしたまえ、我は何も知らず」とて、わびる。
(はんかい→古代中国の有名な豪傑の名)
この家の主、
この大切な客人に間違いあってはならじ、とて、
揉み手して機嫌をとりつつ、
「お尋ねらしき女なら、
確かにここに来たようなれど、また、何処へやら逃げ行きたりし。
ここは静まりたまえ、
心当たりもあれば、手前どもの若い者にさがさせまいらん。
それまでは酒でも呑みたまえ。」とて、
通人の喜ぶ珍味にてはあらねど、
海の物、山の物、手を尽くし料りたる馳走ささげて、もてなせば
大蔵もこれに心ゆるし、思うままに呑み喰らう。
「唐人の云いし、はんかいと云う名よし」とて、
「今より我は、はんかいと名乗らん」とてよろこび酔う。
そのうちに夜も明け放れたれば、
召し捕りのいかめしき役人、手下四・五人も連れ来たりて、
「親、兄を殺せし伯耆(ほうき)の国の大罪人、大蔵出せ、
引っ捕えてくれん」 とて、外より声あり。
大蔵、これを聞きて、今はいかにすべきにもあらねばとて、
覚悟を据えて躍り出で、
「我は親を殺せし悪逆にあらず」とて、わびるふりして、
前の男が持ちたる六尺棒を奪い取り、
だれかれの見定めなく、
打ち散らすほどに、
役人も辟易すれば、捕え得ずして逃がしたり。
(辟易→へきえき→たじろぐ事、うんざりする事)
奥の方に唐人の宿りて遊ぶところへ乱れ入りて、 (唐人→とうじん→交易目的の中国人)
屏風を蹴倒し、
唐人の前に、片膝高くかかげ、どうとばかりに座り込みたり。
唐人、驚き恐れ、
「はんかい乱れ入りたり、
はんかい来たる、ゆるしたまえ、我は何も知らず」とて、わびる。
(はんかい→古代中国の有名な豪傑の名)
この家の主、
この大切な客人に間違いあってはならじ、とて、
揉み手して機嫌をとりつつ、
「お尋ねらしき女なら、
確かにここに来たようなれど、また、何処へやら逃げ行きたりし。
ここは静まりたまえ、
心当たりもあれば、手前どもの若い者にさがさせまいらん。
それまでは酒でも呑みたまえ。」とて、
通人の喜ぶ珍味にてはあらねど、
海の物、山の物、手を尽くし料りたる馳走ささげて、もてなせば
大蔵もこれに心ゆるし、思うままに呑み喰らう。
「唐人の云いし、はんかいと云う名よし」とて、
「今より我は、はんかいと名乗らん」とてよろこび酔う。
そのうちに夜も明け放れたれば、
召し捕りのいかめしき役人、手下四・五人も連れ来たりて、
「親、兄を殺せし伯耆(ほうき)の国の大罪人、大蔵出せ、
引っ捕えてくれん」 とて、外より声あり。
大蔵、これを聞きて、今はいかにすべきにもあらねばとて、
覚悟を据えて躍り出で、
「我は親を殺せし悪逆にあらず」とて、わびるふりして、
前の男が持ちたる六尺棒を奪い取り、
だれかれの見定めなく、
打ち散らすほどに、
役人も辟易すれば、捕え得ずして逃がしたり。
(辟易→へきえき→たじろぐ事、うんざりする事)