漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

はんかい・11

2009年03月15日 | Weblog
 (きのうの続き)。

奥の方に唐人の宿りて遊ぶところへ乱れ入りて、
  (唐人→とうじん→交易目的の中国人)

屏風を蹴倒し、
唐人の前に、片膝高くかかげ、どうとばかりに座り込みたり。

唐人、驚き恐れ、
「はんかい乱れ入りたり、 
はんかい来たる、ゆるしたまえ、我は何も知らず」とて、わびる。


 (はんかい→古代中国の有名な豪傑の名) 

この家の主、
この大切な客人に間違いあってはならじ、とて、
揉み手して機嫌をとりつつ、

「お尋ねらしき女なら、
 確かにここに来たようなれど、また、何処へやら逃げ行きたりし。

 ここは静まりたまえ、

 心当たりもあれば、手前どもの若い者にさがさせまいらん。
 それまでは酒でも呑みたまえ。」とて、

通人の喜ぶ珍味にてはあらねど、
海の物、山の物、手を尽くし料りたる馳走ささげて、もてなせば
大蔵もこれに心ゆるし、思うままに呑み喰らう。

「唐人の云いし、はんかいと云う名よし」とて、
「今より我は、はんかいと名乗らん」とてよろこび酔う。

そのうちに夜も明け放れたれば、
召し捕りのいかめしき役人、手下四・五人も連れ来たりて、
「親、兄を殺せし伯耆(ほうき)の国の大罪人、大蔵出せ、
引っ捕えてくれん」 とて、外より声あり。

大蔵、これを聞きて、今はいかにすべきにもあらねばとて、
覚悟を据えて躍り出で、
「我は親を殺せし悪逆にあらず」とて、わびるふりして、
前の男が持ちたる六尺棒を奪い取り、
だれかれの見定めなく、
打ち散らすほどに、
役人も辟易すれば、捕え得ずして逃がしたり。 


(辟易→へきえき→たじろぐ事、うんざりする事)




コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。