漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

 はんかい・12

2009年03月16日 | Weblog
 (きのうの続き)。

長崎より逃れて、宛て所もなければ、
野に伏し山に隠れて歩くほどに、疫病みして、山のふもとに転び居たり。

狼の吠える声も恐ろしげなれば、
たまらずして助けを呼べど、道を行き来する人「こわし」とて、足留める人も無き。

ようように熱も醒めかかれども、
しばらく物も食わねば足腰も立たずして、道に這い出で、人の通るを待つ。

夜に入りて、ここ通る人あり、
月明かりに大蔵がうめくを声を聞きてあやしみ、「何者ぞ」と問いただす。

「我は旅人なり、病えてここに数日ありしが、
 やや熱も醒めれど、物も食わねば足も立たず、
 なにとぞ、物を食わせてたべ」と云う。

持ちたる灯火差し出だして見たれば、
青き鬼の如き顔にて、病み衰え、
おどろ髪ふり乱し、ただただ、「もの食わせよ」と乞う。

「まず、人には違いなし」と見定めて後、
心に思うことあれば、
「こやつ助けるべし」とて、
腰に下げた竹行李より、握り飯を取り出し与う。


 (竹行李→たけこうり→竹で編んだ箱端の物入れ、弁当箱)

ただ おし頂き
「うぅ」と云いつつ貪(むさぼ)り喰らう。

喰い尽くしてさて云う。

「誠に御恩かたじけなし。
 これより後、いつに有りても、この御恩にむくい申さん」と云う。

旅人わらいて、

「おのれはおもしろきヤツなり、
 そのごとく落ちぶれ果てた身で、今さら何ごとができようや。

 残された道はひとつぞ、盗みして世を渡れ、
 これよりは我が手下に付きて稼げ。」と云う。




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