(きのうの続き)。
長崎より逃れて、宛て所もなければ、
野に伏し山に隠れて歩くほどに、疫病みして、山のふもとに転び居たり。
狼の吠える声も恐ろしげなれば、
たまらずして助けを呼べど、道を行き来する人「こわし」とて、足留める人も無き。
ようように熱も醒めかかれども、
しばらく物も食わねば足腰も立たずして、道に這い出で、人の通るを待つ。
夜に入りて、ここ通る人あり、
月明かりに大蔵がうめくを声を聞きてあやしみ、「何者ぞ」と問いただす。
「我は旅人なり、病えてここに数日ありしが、
やや熱も醒めれど、物も食わねば足も立たず、
なにとぞ、物を食わせてたべ」と云う。
持ちたる灯火差し出だして見たれば、
青き鬼の如き顔にて、病み衰え、
おどろ髪ふり乱し、ただただ、「もの食わせよ」と乞う。
「まず、人には違いなし」と見定めて後、
心に思うことあれば、
「こやつ助けるべし」とて、
腰に下げた竹行李より、握り飯を取り出し与う。
(竹行李→たけこうり→竹で編んだ箱端の物入れ、弁当箱)
ただ おし頂き
「うぅ」と云いつつ貪(むさぼ)り喰らう。
喰い尽くしてさて云う。
「誠に御恩かたじけなし。
これより後、いつに有りても、この御恩にむくい申さん」と云う。
旅人わらいて、
「おのれはおもしろきヤツなり、
そのごとく落ちぶれ果てた身で、今さら何ごとができようや。
残された道はひとつぞ、盗みして世を渡れ、
これよりは我が手下に付きて稼げ。」と云う。
長崎より逃れて、宛て所もなければ、
野に伏し山に隠れて歩くほどに、疫病みして、山のふもとに転び居たり。
狼の吠える声も恐ろしげなれば、
たまらずして助けを呼べど、道を行き来する人「こわし」とて、足留める人も無き。
ようように熱も醒めかかれども、
しばらく物も食わねば足腰も立たずして、道に這い出で、人の通るを待つ。
夜に入りて、ここ通る人あり、
月明かりに大蔵がうめくを声を聞きてあやしみ、「何者ぞ」と問いただす。
「我は旅人なり、病えてここに数日ありしが、
やや熱も醒めれど、物も食わねば足も立たず、
なにとぞ、物を食わせてたべ」と云う。
持ちたる灯火差し出だして見たれば、
青き鬼の如き顔にて、病み衰え、
おどろ髪ふり乱し、ただただ、「もの食わせよ」と乞う。
「まず、人には違いなし」と見定めて後、
心に思うことあれば、
「こやつ助けるべし」とて、
腰に下げた竹行李より、握り飯を取り出し与う。
(竹行李→たけこうり→竹で編んだ箱端の物入れ、弁当箱)
ただ おし頂き
「うぅ」と云いつつ貪(むさぼ)り喰らう。
喰い尽くしてさて云う。
「誠に御恩かたじけなし。
これより後、いつに有りても、この御恩にむくい申さん」と云う。
旅人わらいて、
「おのれはおもしろきヤツなり、
そのごとく落ちぶれ果てた身で、今さら何ごとができようや。
残された道はひとつぞ、盗みして世を渡れ、
これよりは我が手下に付きて稼げ。」と云う。