漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

異聞・かぐや姫 ⑫

2009年08月05日 | Weblog
きのうの続き。

隣のスサノオは、
旅の疲れと安心とで、子供のように寝込んでしまっている。

今なら、大丈夫、

そう決心をつけると、
カグヤは、そっと寝床を抜け出し、二服の薬を手に台所へ立つ。

これで、あの天上界へ戻れるのだ、
高鳴る胸を押え、薬を水で流し込むとそのまま外へ出る。

空はよく晴れて、星と三日月が出ている。

スサノオが目を覚ましてはことだ、
少し家から離れよう、

カグヤが歩き出し、
川のほとりまで出ると、一杯の蛍が飛んでいる。

音のない世界に、
黄色い灯りの蛍の群れは、幻想のようだ、

カグヤがそう思って、
蛍に見惚れた時、なんだか胸が苦しくなってきた。

上から何かが覆いかぶさってきたような感覚があって、
そのあと、ふっと体が軽くなった。

「アッ」と、小さく声を上げるのと、
体がふわふわと浮き上がるのは同じだったように思う。

スーッと蛍が下になり、
そのまな、遠くの山の稜線までが目の下に落ちて行く。

「これで、天上界へ戻れるのだ」、
カグヤがそのことを確信したころは、もう目の先の月が大きくなっていた。




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