漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

能勢電・鼓ヶ滝

2009年07月02日 | Weblog
大阪から見て、北西にある「能勢妙見宮」は山の頂にある。

その能勢(のせ)の妙見さんへ参ろうとすると、
阪急電車の宝塚線に乗り、川西能勢口で能勢電鉄に乗り換えるわけだが、

その能勢電の途中に「鼓滝(つづみがたき)」と云う駅がある。

今でも山あいの駅と云う風情だが、
昔は、今よりもっと草深い所だったようで、
その近くにある滝が、地名、駅名の元となっている。

その鼓ヶ滝で、西行(さいぎょう)が歌を詠んだと云う落語がある。

平安末期の歌人として名高い、アノ「西行法師」です。
  
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山路をたどり、鼓ヶ滝まで来た西行、

「噂には聞いてたが、なるほど、ええ景色や」
と云うので一首、

短冊にサラサラ、

「伝え聞く  鼓ヶ滝に来てみれば 沢べに咲きし たんぽぽの花」

「我ながら良く出来たわい」悦に入っていると、
向こうからみすぼらしい風体をした
年寄り夫婦と娘らしき三人連れがやって来て、その歌をのぞきこむ。

その老人が、感心するかと思いきや、

「鼓と云うのやから、
 『伝え聞く』より、『音に聞く』とした方がええのやないか」、とダメだし、

云われてみれば、西行も成る程と思い、そこを直すと、

今度はお婆さんが、
「私も直したげましょ」、

「『来てみればや』なしに、鼓の縁語で『うち(打ち)見れば』とした方が揃うのやないか」、

これも云われてみれば尤もで、「ははあ、なるほどな」、

さらに娘が「私も直したげまひょ」

さすがに西行、
「わしの歌、無いようになってしまうがな」、

「『沢べ』を鼓の縁語で『川(皮)べ』とした方がええのと違いますか」

云われてみればこれも尤も、

すべて云われたとおりに直して、

「音に聞く  鼓ヶ滝をうち見れば 川べに咲きし たんぽぽの花」

なかなかよろし、

「見事にできた」、と西行、

「ありがたい」と思うて、
ひょっと見ると、
三人の姿が、かき消すように無くなっている。

これは歌の神が、
自分の慢心を戒められたのであろうと気がつき、あとを伏し拝む、

やがて、山を降りて行くと・・・」

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と、
噺(はなし)は続くのですが、この歌、西行の作品集には無い。

なにしろ、
「たんぽぽ」と云う言葉が、
文献に初めて現れるのは、室町時代だそうですから、
平安時代の人、西行が「たんぽぽ」などと、詠むはずはないのです。

それなのに何故たんぽぽとしたのか、
と云う話が、桂米朝師の著作に出ていて、

「この歌が西行の歌でないのはもちろんですが、
 タンポポが使われているのは、
 鼓の音をタッポン、タタポポ、
 タンポポと表現するところからきているわけです。」と解説されてます。

落語の解説としてはこれで完璧なのですが、
「タンポポの話」、結構面白いので、明日ももう少し。




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