漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

異聞・かぐや姫 ⑨

2009年08月02日 | Weblog
きのうの続き。

酒場で酔っ払いの話す、
遥か彼方、震旦(しんたん)と云う国の、
人では行く事の及ばぬ、「崑崙山(こんろんさん)」と云う山には、
「西王母」と云う仙女が居て、
その仙女は、「なんでも不老不死の妙薬を持つそうな」と云う噂話。

聞いていた人々が、
「そんな薬があったらネェ、直ぐにも金持ちになれる」

あはは、と笑うと、
笑われてムキになったか、赤い顔をなお赤くして云う、

「それがナ、間違い無いンやて、
 なにせ、行き倒れになっている爺さんを助け、
 塩と水で介抱したら生き返って、
 その爺さんが仙人やって、助けた礼にと言うて教えてくれたんやから、」

もう廻りはインチキ話と見極めたようで、
一人が、
「でもよ、仙人が行き倒れになるなんざ、オカシイんじゃ無ェのかい」と云えば、

他の男も云う。

「そうだよォ、仙人ならカスミを食ってりゃ、
 それで生きていけるハズだァな、
 行き倒れるはずが無ぇ、」

また周囲がドッと笑った。

「イヤイヤ、その仙人の云わはるにはナ、
 何や、雲に乗ってその辺りを飛んでいたらしいワ、
 そしたら、
 ちょうど、その辺りの川で、年ごろの娘がナ、
 着物の裾をからげて足を上げながら洗濯物を踏んでたのを見えてナ、

 それで邪心が起きて、術が切れたらしいンや、

 そやから、それさえ無かったら落ちるはずないネ、て、そう云う取った」

周りでもう一度笑い掛けたのを抑えるように
商人風の男は、一層声を張り上げた。

「そやかて、それが証拠にやナ、
 その爺さん、杖を振上げよったら、
 サーッと雲が降りて来て、そのまま雲に乗って行ってしまいよったんやから」。

またドッと笑い声が起こった酒場を尻目に、スサノオは店を飛び出し思った。

「そいつはきっと久米の仙人だ、
 あいつなら知ってる。

 あの爺さんは大した術者だが、女を見ると邪心が湧いて、折角の術が切れるんだ。

 昔から、それで何度も失敗しながら、いまだに悪いクセは治らないと見える」。




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