むすんで ひらいて

すべてが帰着するのは、ホッとするところ
ありのままを見て、気分よくいるために

照らしたもの

2013年12月17日 | こころ
同じ駅の反対側に住んでいた友人と、夜のドライブをしながら、とりとめない想いを語り合っていた時代がある。 彼女の運転に任せて、スキスキの都内を廻ったり、気付けば、湘南の海や箱根の富士屋ホテル、新潟の雪の降りしきるゲレンデにたどり着いていて、引き返すと明け方だった。

彼女のご主人は内科医で、その頃、当直が多かった。 生まれてすぐ家を出たお父さんとは、以来30年以上会ったことがなく、お母さんは物心つく前に亡くなっていた。  

すっかりご主人の家族に溶け込んで幸せそうだった彼女は、ある時、車でやってきて、「今、ひろちゃんと離婚することにしてきた」と、泣きじゃくった。 泣きながら、エンプティランプのついている車で、ちゃんとガソリンスタンド目指して走った。 二年前に出会って、これから、どうしても一緒になりたい人がいた。

でも、その人には子どもがあって、数か月後に、君のことは愛してると言いながら、元の家庭に戻っていった。 このどうしょうもない出来事と、心のどこかで気になったまま、ずっと封印してきたつれない父への想いは、どこかでつながっていた気がすると、彼女は勇気をふり絞り、北海道で獣医をしているお父さんに会いに行った。

それからしばらく経った夜、桜のトンネルの下に車を止め、歩道のベンチに歩きながら、彼には新しい家族がいて、もう会うことはないと、低い声でつぶやいた。 まだ夜気は冷たくて、温かい缶コーヒーを手のひらで包み込み、街灯に浮かぶ桜を見上げる横顔は、白くはかなく、それでも凛として見えた。 

立川に一人暮らしを始めた彼女の部屋で、二頭の犬と猫とわたしたちは、よく会うようになった。 ドライブの代わりに一緒にごはんを作り、わたしははじめて、玉子焼きの、ふわふわの焼き方をおしえてもらった。 「足元にサーチライトを当てて、また好きになれる人を探すしかないよ」と、彼女はびっくりするほどたくさん泣いて、その後必ず笑って、しんしんと生きた。

あの時すでに、目を覆いたくなるくらい眩しい光で自分を照らし、怖くて確かめられずにいた、本当は愛してほしかった人を見届けて、痛切な喪失の中、あなたは何かを見つけていたのかもしれないね。

翌年、今のご主人と行き合って、彼は体調をくずしたあなたを新居に休ませ、一緒に住み始めたらぶつかって、やっぱり別れるなんてきいてるうちに子どもができて、そしたらめきめき仲良くなって、二年後にはもう一人女の子が生まれた。 

愛に迷って、暗闇を照らして、あなたはそうしてひたすらに、本当のあなたになっていったのね。 


玉川上水。十二月上旬。


その一週間後。 葉っぱがずい分、落ちました。


武蔵野、銀杏の絨毯。


しっとり紅葉に包まれた名古屋城。




                           かうんせりんぐ かふぇ さやん     http://さやん.com/



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